モニュメント
広場のモニュメントが落成したというので、ぼくは、出かけた。バスを乗り継ぎ、三十分ほどで市庁舎脇の広場に着くと、すでにそこは人で埋まっていた。勇者ランドルのモニュメントは高さは二十メートルほどあった。背中にロケットパックを背負い、右手にはミサイルランチャーを握っていた。その顔は苦難を乗り越える決意を表した凛々しさを秘めていた。
「見事な立体造形だろ。さすがは造形作家ミスターシムだ。原型を造るのに一ヶ月はかかったそうだ」
人混みのなかにいた知人のゲームオタクの島田君がぼくを見つけて言った。
ゲームキャラクターを立体化したランドルのモニュメントは人気を呼び、広場は始終記念撮影をするファンが詰めかけにぎわった。
そんなとき、ひとつの話を島田君がぼくに話した。
「ランドルが完成後に支払われる予定だったミスターシムへの金の一部が、巨額の為に市議会で問題視され、市長が野党に追及され、支払いが凍結されたというのだ」
ぼくは聞き返した。
「議会も納得した話じゃなかったのか?」
「裏があるんだ。さまざまな名目で公表されている金額を上回る金がミスターシムが関係している会社に市長の独断で振り込まれている。噂ではそこからいくらか市長にキックバックがあったらしい。そこを野党は追及している」
それからしばらくすると、問題はモニュメントの話にとどまらず、市長の政治姿勢にも及んでいた。ミスターシムは、ケーブルテレビのカメラを前に記者会見で激しく市長と市議会の行為を罵った。
そしてミスターシムは、自分の方法で問題を解決する、期限をもうけ、残りの約束の金が支払われなければ、懲罰を下す、と宣言した。
そして約束の期日、メディアで知った市民が広場に集まりだした。広場に設置されている大型ビジョンにはケーブルテレビの取材に対応する市長の顔が映っていた。
そのときである。広場の勇者ランドルは動きだした。ただのモニュメントではなく、実際に可動しだしたのだ。右手のミサイルランチャーは広場に隣接した市庁舎に照準を合わせた。
ぼくは、広場の野次馬のなかの一人として島田君と共に固唾をのんで事態を注視した。どこかで遠隔操作しているミスターシムの声がランドルの頭部から聞こえた。
「さあ、金を払うのか払わないのか、この勇者ランドルはゲームキャラクターのコピーだが、武装は本物なんだ。さあ、どうする」
ランドルの両手に支えられたミサイルランチャーは鈍く輝き、指はトリガーにかけられていた。
「払う金などない」
いまや絶望的な立場におかれた拒絶する市長の顔が大型ビジョンに映った。
「あのミサイルランチャーは、ダミーじゃないのか。いくらなんでも、あり得ない」
ぼくが言うと、深刻な表情で島田君が言った。
「ミスターシムは、リアリズムを追究する造形作家だ。その意味では偏執的といってもいい。実際にランドルが可動しだして、ミサイルだけがダミーであると、断言できるか?」
そのとき、返答に屈したぼくの頭の上で、ズボッ、というランチャーを滑るミサイルの発射音が響いた…………。




