第2話
夢を見た。
君の夢だった。
君はいつものようにぼんやりとした顔をしていて、どこか遠いところをずっと眺めていた。
大きめの白いシャツとズボンを着ていて、足元は麦のサンダルだった。
優しい風が君の髪を揺らしている。
私はそんな君の後ろ姿をずっと見ていた。(まるであのころのように)
それから少しして、ふと君が私のほうに振り向いて、私を見つけて、私の顔をじっと見つめた。
私はどきっとした。
君に見つかってしまったと思った。
隠れなくちゃって思ったのだけど、そこは大地の果てまで、ずっと続いている緑の草原だったから、どこにも隠れるところはなかった。
だから私は、あきらめて、にっこりと笑ってみた。
すると、そんな私の顔を見て、君はくすっと小さく笑った。
そんな君の美しい顔を見て、私は、また君のことが大好きになった。
だけど、私は君のところまで歩いて行こうとは思わなかった。
君もずっと同じところに立っているだけで、私のいるところにまで歩いてきてはくれなかった。
私と君の間には、ずっと距離があった。
縮まることのない距離があった。
私はそのことをとても悲しいなって思った。
君が口を動かしてなにかを私に言った。
でも君の声は私の耳には聞こえなかった。
私は君の声を忘れてしまったのかもしれない。
私は君が私になんて言ったのか知りたかった。
それは『とても大切なこと』なんだって思った。
でも私には君が私になんて言ったのか、私になにを私に伝えたかったのか、唇の動きを見ても、それがわからなかった。
だけど私は声を出して、君に今、なんて言ったの? もう一度、大きな声で言って! と言うことができなかった。
勇気のない臆病な私はいつものようにただ、にっこりと笑っているだけだった。
嘘の笑顔で。
なにも言わないままで。
君と触れ合うことを、怖いと思った子供のままで、……。
目を覚ますと、私は泣いていた。
泣くことなんて、本当に久しぶりのことだったから、すごくびっくりした。
それから、本当に久しぶりに君のことを思い出して、あのころの君と出会ったことに、またびっくりした。
そして私は、私はきっと君にもう一度会うために、この美しくて深い森までやってきたんだなって、思った。
私はずっと君から逃げていたのだとわかった。




