8.5巻の制作
『魔術師の杖』前半の山場となる5巻。
発売時は5巻を目標にしていたこともあり、私も気合が入った。シーンとして重要なのは王立植物園と王城での舞踏会だろう。
挿絵①は植物園のシーンから、いくつかピックアップして、書籍オリジナルのシーンにした。なろうの読者さんにとっては、なじみのないシーンだけれど、ネリアの表情が怖さのなかに愛嬌もある。
表紙はかなり悩んだ。1巻が発売された時から「この場面を絵で見られるなら応援します」と、圧倒的に読者さんの支持を集めた舞踏会のシーン。
ただこれ、表紙にすると盛大なネタバレになっちゃうのである。
使いたい。けど使えない。
(うううう……)
ここでもうひとつの表紙案が浮上する。
この『表紙語り』4話ででてきた、2巻発売時にいくつか書いたSS、掲載時「飽きた」と言われたりしたものの、各キャラごとの小話はわりと評判がよかった。
その中から『レオポルドと街歩き』を選び、5巻には加筆収載することに。エクグラシアの街並みを歩くレオポルドとネリア。想像するだけで絵になりそう!
舞踏会のシーンも捨てがたいけれど、そちらは挿絵にして街歩きのシーンを表紙にしてもいいかもしれない。よろづ先生の絵なら、どちらが表紙になっても満足して頂けるだろう……そう考えた。
ただポンポンとは決めず、いちおう読者さんにアンケートを取った。
結果……やっぱり圧倒的に『舞踏会のシーン』だった。
このとき街歩きの場面は、書籍に収載されることはまだ公表していない。だからできあがった本を見れば、読者さんには納得して頂けるとは思うのだけど……。
悩みに悩み、このときは編集長が決断した。
「舞踏会のシーンにしましょう。ネリアじゃないのも意外性があって、『あれ?』と読者さんの興味を引くかもしれません」
そう……本というのは、なろうで既読の読者さんが買うとは限らない。むしろストーリーにふれるのは、書籍が初めてという方も多い。
なろうの読者さんなら、だれもが知っている舞踏会のシーン。そこへ向けていろんなエピソードが起こり、4巻からの伏線を回収しつつ、また新たな謎が飛びだしてくる。
読んだことがあってもなくても楽しめる。それを意識しながら文章を仕上げていった。
「よろづ先生、5巻の表紙はオーロラ色のドレスにクリスタルビーズと真珠をあしらい、ヘッドドレスもつけて下さい」
「……デザインはこれ、生地のイメージはこれ、ヘッドドレスのお花は布製です(ビシッ」
「スゴい!」
ネリアのドレスとレオポルドの夜会服にほどこされた装飾、魔導シャンデリアのやわらかな明かりがもたらす、光と影のディティールの表現……みごとに尽きる。
画面にはエクグラシアの国花、スピネラの赤い花びらまで華やかに舞っている。(いちおうこの場面の主役はふたりではなく、王太子である)
原作をしっかり読みこんで下さるうえに、毎回想像を超えてくるイラスト……読者さんたちは熱狂の渦に包まれた。
よろづ先生はそれだけでは終わらない。
「お祝いイラストの薔薇は3Dソフトで作って散らしました」
「ええっ⁉️」
「時間ある時に1個作っとくと楽なんです」
たしかに時間があるときは、ちょこちょこ何かをいじっておられるけれど……。努力する天才に勝てる者はいない。本当に凄い。
ここには載せられないけれど、表紙になりそこねた挿絵②にも注目してほしい。よろづ先生にはこう依頼した。
「クールで厳しいイメージの彼ですが、この場面の表情は穏やかさ柔らかさを意識してください。ネリアはどこ見ててもいいですが、彼はネリアを見ています!」
こちらが表紙でも、素晴らしい出来になったと思う。珍しくレオポルドが嬉しそうな、やわらかい表情をしている。というかどっちもカラーで見たかった。
 









