5.3巻の制作
「ライアスとミストレイの表紙が見たいです」
3巻は初めて読者さんから要望が寄せられた。販売サイトにレビューをしても、編集部への直メッセージをされる読者さんはほとんどいない。
でも実は『編集部に直』がいちばん効果が高い。サイト側から出版社への情報提供はなく、レビューをいちいちチェックしない担当者もいる。
担当者や作家にレビューを読んでもらえるかというと、「人による」としか言いようがない。
「〇〇を表紙にして」
「〇〇をもっと登場させてほしい」
「人物紹介があると、誰が誰かわかりやすい」
「コミカライズが見たい」
「キャラクターや書影のポストカードを作って!」
重ねて言うが、何か要望があるときは編集部に直!
作家が何かアイディアを出しても、なかなか取り合ってもらえないが、読者さんの要望を叶えるのは、担当者にとっても報告できる『仕事』になる。できることなら検討してもらえるかもしれない。
当然、私もよろづ先生も張り切った。
と・こ・ろ・が。
初心者あるある。本文を読んでもライアスが何を着ていたのか、まったく描写がない。全然気にしてなかった作者がここにいる!
ライアスファンから怒られるのも当然である。反省しつつ衣装や状況など、イチから相談して決めた。
話の流れからいって、ライアスを表紙にするなら3巻しかなかった。キャラクターのいろんな表情を見せたい。だから表紙、挿絵2枚とも彼を描いてもらおうと決めた。
「最初のイメージはミスリルの甲冑だったんですけど……画面映えを考えたら、濃紺の騎士服がカッコいいでしょうか」
「そうですね……騎士服でいきましょう」
実はよろづ先生の推しはライアスで、甲冑姿もりりしい姿絵を描いて下さっている。どうみても鎧に気合が入っているのがわかる。
3巻では騎士服を採用したけれど、甲冑姿もいつか描いて頂こうと、それからずっと考えていて、ようやく9巻で描いてもらう機会を作れた。
9巻の挿絵①では、ライアスがドラゴンの前で勇ましく旗を振る。本当に長編を上梓し続けるというのは大変で、自分でもよく粘ったと思う。
なろうでは最初、ライアスとネリアは別に飛んでいたけれど、ふたりそろって蒼竜ミストレイに乗っている。時間帯は夕暮れにして、1巻でネリアが王都入りする場面と、印象をダブらせる。
「あの場面を1巻の挿絵で見たかった」という、読者さんの願いにも応えようとしたのだ。
表紙となる絵に合わせて、文章を組み立て改稿作業を進める。
そんな作家は稀だろう。表紙が完成してくる頃には、本の作業はすでに校了間近となっている。校了直前での修正は難しいから、齟齬がないよう慎重に打ち合わせを重ねた。
「ドラゴンはワイバーン型?それとも四つ足に翼?」
よろづ先生からも確認。
「ワイバーン型で。錬金術師の話です。生物学的に正しい形でお願いします。ミストレイの色ですが、設定では紺に近い青と考えていました。けれど夕暮れなら浅めの色がいいですか?」
「……そうですね。明るめのミストブルーが映えると思います」
すぐによろづ先生から返答があり、ミストレイの色は浅めの青となった。
続いては物語の重要な小道具の色や形も、ひとつひとつ決めていく。私はネットで検索した、リンゴの花の写真を送る。
「ネリモラの名前や植生は、ネモフィラから来ています。造形は五弁花でリンゴいるが、芯に近い部分には赤みがあり、可憐さのなかに力強さも感じさせる、リンゴの花を選んだ。
打ち合わせをしつつ、私は丘いっぱいを覆うネリモラの花を想像した。世界を創るってそういうことだった。
できあがった表紙は暮れなずむ空に、光の加減で色あいを変えていくシャングリラの街並み……微妙なグラデーションがみごとだった。
あいまいな中間色を用いながら濁った感じにもならず、沈む太陽に照らされた、ふたりを包むように魔素の光が舞い飛ぶ。
ライアスの表情は柔らかく、ネリアは服も明るい表情も可愛らしい。そしてエクグラシア上空を吹く風は、世界の広がりを感じさせる。
それぞれが着る服の色彩表現にも注目してほしい。夜と昼では服にあたる光も、照らされて目に映る色も変化するのだ。
昼間や逆光、夕暮れ、海中、シャンデリアの光、月光、かがり火とオーロラ、花火……よろづ先生にはさまざまな光源でイラストを描いて頂いている。
よろづ先生はモニターの透過光を生かした、光の表現がみごとなだけでなく、場面を彩る光の質感まで意識した、色彩感覚のバランスが秀逸なのだ。
この表紙が描かれるのは四六版と呼ばれる、小さな四角い紙の上だということを、すっかり忘れさせてしまう。
3巻でついに公開された蒼竜ミストレイ。よろづ先生のキャラデザに大興奮した。表紙では頭だけだったけれど、6巻や9巻の挿絵でもしっかり描いて頂いている。
挿絵①はライアスとレオポルドが真剣な表情で、剣を交える迫力あるシーンにした。よろづ先生が描かれたラフでは、レオポルドは髪を結んでおらず、こちらは小説に合わせて直してもらった。
挿絵②は……どういう風に切りとるか、どのアングルでとらえるか、何を見せたいか、ふたりの髪形はどうするか……と、何度も打ち合わせた。
「ネリアの背中を見せたいです!」
それなのに、ドレスデザインができあがったらまた悩む。
「か、かわいい……ドレスもちゃんと見せたい……ううう」
どうせなら3Dプリンターでフィギュア化したい。
よろづ先生のキャラクターデザインは、ラフでもあまりにも素敵なので、1巻発売前からずーっと公開をお願いしていたけれど、それが許されたのは7巻になってから。この時はまだ認められていなかった。
悩んでいたのを汲んで下さったのか、3巻発売記念イラストで、よろづ先生は前バージョンのネリアを描いて下さる。
やっぱりかわいい。どう考えても自分ひとりだけで見るのは、すごくもったいなかった。
渋谷〇〇書店でも、「お姫様みたい」と好評である。









