2.1巻の制作
1巻発売時に、すでに6巻分までのプロットが完成していた。
創刊レーベルに、何の経験もない新人。とりあえず5巻を目標に、手探りで制作がスタートした。
書籍化されると決まってから、『魔術師の杖』を読んでいる友人に、さりげなく聞いてみた。
「絵で見たい場面ってどこ?」
「うーん。いっぱいありすぎて選べないよ」
それは本当にその通りで、スタートのドアに浮かぶ金文字から、ライガに乗って飛び立つシーン、ドラゴンたちの飛翔、天空舞台に降り立つシーンや王都見物のシーン……挙げればキリがなかった。
……けれど。
「挿絵3枚、表紙絵1枚となる場面を、本文から選んで下さい」
しかも登場人物紹介はつかないという。よろづ先生のキャラクターデザインはどんどん出来上がって、ネリアは可愛いし、ライアスはカッコよくて、レオポルドは険しい表情でも美麗。
読者さんたちはキャラクターたちに絵がつくのを楽しみにされている。みんな見せたい。
「表紙は魔導列車をバックに飛ぶネリアでいかがでしょう」
すんなり通った。
挿絵①はレオポルドとライアス、挿絵②はオドゥとユーリと決めて、それぞれが揃っている場面を決めた。
挿絵③はクライマックスの竜王神事にして、他の場面はあきらめた。
物語を読まないイラストレーターさんもいるというけれど、よろづ先生はそんなことなかった。キャラクターデザインはほぼすんなりOKをだした。
やり直しをお願いしたのは2点だけ。
ユーリの髪形を「短髪でもう少しやんちゃっぽくして下さい」とお願いしたのと、「レオポルドの杖はもっとシンプルに」というものだった。
最初にデザインされた杖は、ゲームキャラが持つような、装飾が多いキラキラしたものだった。イメージをうまく伝えきれず、杖だけを3回描き直してもらった。
それなのに肝心の杖は小説の表紙にも挿絵にも出てこない。もちろん描いて頂くつもりはあるのだけれど、それらのデザインがようやく日の目を見たのは、コミカライズが決まり、デザイン資料として漫画家さんにお渡しした時だった。
本当にコミカライズが決まってよかった。
そして表紙が出来上がってきた。パソコンのモニターの前で小躍りしたのを覚えている。
「持てる力をすべて出し切りました」
よろづ先生がそう言い切った表紙は、無名の新人をいきなりAmazonベスト100入りに連れて行った。
瞬間最大風速は凄かった。一気にネリアを押し上げた。Amazonではラノベランキング12~3位ぐらいまで行ったと思う。
1日だけだったけどカテゴリー1位も取り、『ベストセラー』の王冠もついた。なろうのブックマークも一気に2千増えた。
その一方でさまざまなレビューをもらい、なかには「イラストレーターを変えろ」という意見まであった。
「探してもらうの大変だったのに……」と青くなったけれど、よろづ先生は「気にしない」と言って下さった。どんなに頑張っても、100%の人を満足させることはできないと知る。こんなに綺麗な表紙でも、気に入らない人はいるのだ。
それからは本を手に取った人が喜びを感じられるように……本を作るときにそういうことを意識するようになった。
実はこの1巻、ガチガチに保険をかけてのスタートだった。
登場人物紹介もなく、目次をめくればすぐに本文が始まる。
キャラクター文芸と呼ばれるラノベは、美麗なイラストが売りなことが多い。そんなラノベらしからぬそっけなさ。
それでもとても嬉しかった。ラフ絵のひとつひとつが嬉しい驚きで、ネリアというキャラクターに色がついて歩きだしていく。
それをハラハラと見守りつつも、希望にあふれたスタートだったと思う。
1巻のナンバリングは、5巻を出した時にようやく入った。
タイトルもスッキリして、よろづ先生が描きこんだ背景が綺麗に見えるようになった。
1巻は売れたけれど、そのぶん叩かれた。
歯を食いしばって次の巻を準備しても、「がっかり」「もういいや」というコメントが並ぶ。
Amazonの深淵、商業出版の厳しさを知る。発売直後のランキングなんて怖くて見られなかった。
家族に見てもらい、だいじょうぶそうか確認してから、ようやく目を通す……そんな感じ。
4巻の珊瑚礁や5巻の舞踏会……絶対にその表紙を見てやる、それが心の支えだった。









