第二章(5)
友人カルラの夫が営む店で、ルーナの作ったポーションの委託販売できるかも、と持ちかけられたのもこの頃だった。フランが倒れたのだと話したらカルラが提案してくれた。
作った熱冷ましやら痛み止めやらは使わないと傷んでしまう。そうなる前に必要な誰かの役に立てればいい。だからこの申し出は嬉しかった。
フランを診てくれている医師に卸す薬はルーナには作れないため、委託販売は助かった。売上金の中から手数料はもらうと言われたがそれでもありがたかった。
だが、フランの病態が治癒する状態ではない事を察した店主は態度を変えてきた。委託販売での手数料が当初の話よりもかなり引き上げられ、ルーナの手元に渡る額が減ったのだ。しかも納品数を増やすよう要求してきた。
「お前のポーションは質が悪い。とても今までの値段じゃ売れない。それでも売る努力をしているのは俺だから、その分手数料は上げさせてもらう。カルラの友だちだと思うからこそ売ってやってる、何か文句あるか」
フラン亡き後はルーナが町の魔女となる。今から言いなりにさせようという魂胆だった。
乱暴に、今回の売り上げだと手のひらに小銭を乗せられて、その少なさに愕然とするルーナに、カウンターを回って店主が近づいてきた。
「なんだ不満か? 足りないか? もっと金が欲しいなら……いい働き口を紹介できるけど」
そう言う目は、獲物を見つけた獣の目をしていた。その空気に嫌なものを感じたルーナは後退りをしたが、腰に手を回され、強く引っ張られたと思ったらあえなく密着してしまった。近づいた顔から発する臭いが鼻を掠める。
ルーナは顔をしかめて手のひらの小銭を握りしめ、店主の胸を押した。だが男の力は強くてびくともせず、首元で結わいていた紐がシュルッと解けてローブを脱がされかけた。その気味の悪い動作にルーナは総毛立った。
「い……や!!!」
胸前でローブを掻き合わせて思いきり店主を押してその腕から逃れた。
「働き口なんていりません! こっ、これで結構です、失礼します!」
舌打ちする店主を振り切って、店を出た。
店から足早に遠ざかる。振り返り、追いかけてくる姿のない事を何度も確認する。人通りの少ないところまで来て、握りっぱなしだった小銭を財布にしまって、卵だけでも買って帰ろうと振り返ったら、唯一の友人・カルラが立っていた。
今しがた彼女の夫を突き飛ばしてきたから気まずいと思った。だがカルラの顔つきは、友人に会えて嬉しい感情よりも、怒気が含まれていた。
「あんた! うちの人を誑かしてどういうつもり?!」
人通りが少ない路地に、カルラの怒鳴り声が響いた。
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星影くもみ☁️