第二章(4)
この日もいつものように起きて、フランと共に家のことを済ませてから薬草畑を手入れしていた時だった。日差しはあるが風も吹いている陽気だった。
目の前のフランが急に、力無くパタリと地面に突っ伏した。名を呼んでも、頬を叩いても、腕をゆすっても目を開ける事もない。やがて大きないびきをし始めた。
ただ事ではないと感じたルーナは、急いでフランの箒の柄を腹の下に差し込み、魔法で浮かせた。人ひとりほどもある重さのものを動かした事はなかったが、夢中で箒を操ってベッドまで運んだ。
力なく横たわるフランの顔の泥を拭いながら、大きないびきを繰り返すフランを観察してメモを取り、街へ急いだ。
フランがいつも薬を届けていた医師がいる。委託販売とは違い、止血剤に鎮痛剤、化膿止めなど、大きな病気にも対応できる薬を買い取ってくれる医師だった。
診察の結果、脳の方がやられているとのことだった。この状態を治す薬は無い。大きなイビキ、くったりして動かない手足。今は呼吸をしているが、急に止まるかもしれないし、じきに高熱が出るかもしれない。胃に穴があいて血を吐いたり鼻血を出すケースもあるから、窒息にも注意しないといけない、そんなような事を教えてくれて、また明日来ると言い医師は帰って行った。
途方に暮れかけたものの、すぐさま顔をあげた。泣いてる暇はなく、フランを介護する日々が始まった。
朝起きるとフランの呼吸を確認した。身体を拭いてやり、発熱していないか、ずっと同じ体勢のため床ずれができないよう皮膚の状態もよく見た。赤くなっていたらさすったり、綿を丸めて作った小さなクッションを当てがって隙間を作った。
何かを飲み込むことが難しく咽せてしまうため、水分は布を濡らして口元を濡らしてやった。脱水だけは起きないよう気をつけて、二週間ほどすると嚥下できるようになって意識が戻りはじめた。ルーナの呼びかけに目を開け、嫌だ、の時は眉をひそめた。それは叱る時のフランの仕草だった。
米をのり状になるまで煮込んだものなら摂れるようになった。少しでも栄養を摂ってもらいたくて卵を買いに走り、山菜を採りにも出かけた。
そのほかにも、フランが熱を発した時の薬や、手足をマッサージするオイル、床ずれに使う薬湯も作り続けた。フランの介護と家事に加えて薬草畑の手入れもあり、毎日はとても忙しく過ぎていった。
冬が終わるころには簡単な意志の疎通ならできるくらいには回復した。次第に、良いか悪いかくらいは頭を縦か横に動かしてくれるようになった。上半身を高くして過ごす時間は長くなっていき、起きてルーナの話を聞いてくれる時間も増えた。
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星影くもみ☁️