第二章(3)
フランは初めて接する赤ん坊に戸惑いながら、新しい暮らしがはじまった。
子供など煩わしいと思っていたが、自分が想像していたよりも大変なのに毎日が楽しくなった。自分を親と思い縋ってくる小さな存在へ次第に愛情を抱き始めた。
ルーナがフランと暮らし始めて二年が経った。この頃になると、何かにつけて「イヤー!」を連呼してフランを困らせた。
ご飯イヤ、お昼寝イヤ、抱っこイヤ。だがじきにそれも落ち着いてきて、5歳になった頃、ルーナが無意識に魔法を使って物を動かした。遊びとして覚えてしまう前に、ルーナには魔女であることを教え始めた。
真面目にやらない時は叱った。取り返しのつかない怪我を負う恐れがある事を覚えながら、少しずつ魔法を扱えるようになって、自分の周りにだけ結界を張れた時は二人で喜んだ。いつもは静かな森の中に、弾けるような笑顔と二人の笑い声が響いた。
小さい頃はよく熱を出した。その度にフランは寝ずに看病した。子供でも飲みやすいよう薬を工夫し、数日にわたってこれを飲ませた。着替えをさせ、怖くて眠れないと駄々を捏ねる夜は抱きしめながら添い寝もした。腕の中で眠りにつく幼子を見ながら、自身も何度か寝落ちして、気がついたら朝だった、という時は幾度もあった。
なんの片付けも終えていないのに寝てしまった罪悪感はあったが、ルーナが眠れたならそれでいいと、幼子の寝顔を見ては、納得した。
大きくなるにつれて、おてんばが増して行動範囲も広くなった。山菜やキノコを採りに森へ行っては獣に追いかけられたし、冬の山を侮って遭難しかけた時はこれでもかと叱った。
自分が作った箒で飛んだはいいものの、まだコントロールがうまくいかず、木や屋根の上でうずくまるルーナを何度も箒で迎えに行った。木の枝や屋根の上から見える夕日を眺めたりもした。
「みて、フラン!」
「きれいだね」
「……ずうっと続くといいね」
自分に寄りかかり、無邪気に言うルーナの頬は夕風で冷えていたが、太陽が沈むまで体をくっつけて眺めた後は、薬草を入れた風呂にゆっくり浸かり、ベッドでは明日何をしようか、どこへ行こうか、たくさん話をした。
毎年あるお互いの誕生日には、精一杯のご馳走を作り祝いあった。ルーナから贈られたどんぐりのネックレスはフランのお気に入りだった。
こうして二人が親子として暮らし始めて十七年が経った。うだるような蒸し暑い夏がようやく終わりの気配を見せ始めた。夕方の風が涼しく感じはじめ、森の奥には秋が来た、そんな頃。
――フランが倒れた。
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星影くもみ☁️