第二章(2)
金銭に余裕があるわけではなかった。
自分で作ったポーションを町で売るだけでは贅沢な暮らしは無理だ。それでも人々からありがとうと言われれば嬉しいし、何かと気にかけてくれる彼らの為に魔女としてできうる限りの協力もしてきた。
そうやって何十年と暮らしてきて蓄えが少しある程度だ。
だから、そんなに多くは出せないが、と前置きをした上で、このくらいならどうかと額を示したところ、彼らは目を輝かせた。
彼らの身なりはみすぼらしかった。男は髭を生やし、愛想が無いが、腕の中の赤ん坊をずっと見つめていた。情はあるようだ。
女のほうは魔女のローブを纏ってはいるが、よく見ればほころびが多い。食べていないというのも本当なんだろう、痩せていて、赤ん坊に飲ませる乳も出ないのではないか……。
「その話が本当かどうかは置いといて……ふぅ……あたしもお人好しだね」
フランは大きなため息の後、小声で呟きながら、母親と赤ん坊の額に手のひらを当てた。こうする事で魔力の有無などがわかる。
「ふん……確かにあんたは本当に魔女のようだね。この子は……ちゃんと魔力がある……。わかった」
夫妻の表情が明るくなった。
「ただし、明日だ。今夜、もう一度考えるんだ。とことん話し合いな。後悔のないように。それでも、やはりどうしても、の結論だったなら、日が暮れてから連れてきな。扉の前にこの子を置いて行くがいい」
金は、この子の無事を確認できたら届けさせること、フランの家の場所の説明をして別れた翌日の夕方。
言われた通りに夫妻は日が暮れてからやってきた。バタバタと足音を立てて近づいてきて、ドサッとカゴを置いた音が室内にも伝わった。
家のなかへカゴを持ち運んだ直後、箒に乗って飛び立ったのを窓から見ていたフランは、カゴから赤ん坊を抱き上げて、自分のベッドへ寝かせた。
赤ん坊を包む布を取り、まず四肢の動きを確認した。元気よく曲げ伸ばしをしていて手足の動きもよい。痛がる事もなくキャッキャと機嫌が良い様子に、思わず笑みがこぼれた。
「のんきな子だねぇ、お前は今しがた……」
言いながら全身の皮膚も確認した。多少カサついてはいたものの、血色も良く問題なく見えた。
「よし……いいだろう」
カゴに入れられていた別の布で赤ん坊を包んだ。
ベッドの下の床板を外したところに大きなカメがある。そこに手を差し入れて、金の入っている袋を一つ取り出した。フッと息を吹きかけてこれが金だとわからないよう魔法を掛けたうえで、封精にこれを届けさせた。受取人以外には見えないはずで、たとえ魔力を持つ者がこれを見つけたとしても、自分宛じゃなければ精霊にイタズラされるだけで横取りなどもできない。魔女が使う、書簡魔法のひとつで、魔力は弱くとも母親の元へ届くはずだ。
「さて、お前……ルーナというのか、良い名を付けてもらったね……」
カゴの中のルーナは、すやすやと眠っていた。
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星影くもみ☁️