第二章(1)―縁繋(えんけい)―
『どうかこの子を頼みます』
そう書かれた紙片と少しばかりの着替えが、赤ん坊と共にカゴに入れられて、魔女フランの家の前に置かれた。赤ん坊は栗色のふわふわした髪を持ち、瞳は深緑色をしていた。ふくふくした手足は元気よく動いており、艶のある頬で健康的に見えた。
家の主である魔女フランは、家の周りをぐるりと見回した。少し離れた木の影に気配を感じとると少しの間そちらの方角を睨んでから、カゴを抱えあげて家の中へと戻った。
「本当に……連れてきたのかい……それほどに、か……」
フランは別に子が欲しいわけではなかった。
* * *
知り合いのいる街へ出かけた際、湖のほとりで休んでいるところを、魔女だと名乗る者に話しかけられた。魔女でなければ、森の奥の湖にいる不審なローブをまとった者に話しかけようと思わない。
だが、魔女と言うには魔力がないように感じた。健康的で前向きな魔女からは陽の気が感じられる。だがこの自称魔女からは魔女らしい気はなにも感じられなかった。
「ふん……何の用?」
自称魔女のそばには夫と思しき男性がそばに居り、赤ん坊を抱いていた。
「不躾なのは重々承知……なにも言わず、この子を買ってくれませんか」
「は? ちょっと、なに言ってるの!」
驚いた。とんでもないと憤慨した。
「あなた仮にも魔女でしょう?! 力は相当弱いみたいだけど……でも! 働き手もいるのに赤ん坊を買ってくれだなんて一体どういうつもり?! 魔女だったら薬の調合だったり街の人たちを助けたり、いくらでも家族3人は暮らしていけるでしょうが!」
叱り飛ばしたが彼らは一歩も引かなかった。
「もう無理なんです。魔力は元々弱いから、町の人の期待に応えられません……それに、夫の母親が寝たきりで、その世話もあるし、薬も買わなくちゃいけないし、夫の仕事もなかなか決まらなくて……そこに赤ん坊の世話……たとえ夫が働いても母親含めてみんなが食べるだけのご飯も用意できない……お願いします、この子を買ってください」
どうか頼みますと地面におでこを擦り付けながら言い続けた。
「あんた…魔界に親はいるんだろう?」
「……家出してきたから…魔界へは、帰れません……」
ふん、とフランは睨めつけた。
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星影くもみ☁️