第一章 (2)
グレーのローブを頭からすっぽりと被り、左手には大きく弧を描いた鎌を、右手には分厚い台帳を携えていた。その台帳には、死期が迫った者の名が記されている。
開いたページに、いま目の前で横たわる魔女――ルーナの名があった。
死因は、「心身衰弱」。
なるほど、と死神は思う。確かに、こんな陰気で汚れた場所で日々を過ごしていれば、気力も萎える。
……だが。
魔女であれば、魔法で多少の修繕くらいできるはずだ。身の回りの清潔を保つことも、最低限の結界を張ることも、本来なら、容易いことのはずだ。
それすらしようとしない……。
死神という職業柄、人の「最期」には何度も立ち会ってきた。
衰弱し、何もできず命を落とす者など、珍しくもないはずなのに。
それでも――なぜだろう。
この魔女が、ここまで衰弱した理由が、気になって仕方なかった。
本来、感情移入などご法度だ。
けれど、この時ばかりは目を逸らすことができなかった。
台帳をそっと懐にしまい、ルーナの額に人差し指を添える。
目を閉じ、呼吸を整え、集中する。
やがて、まぶたの裏に――
彼女が歩んできた「これまで」の記憶が、映し出されはじめた。
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星影くもみ☁️