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第一章 絶望の夜(1)

*  *  *


生きる気力を失った魔女の運命が、

静かに、けれど確かに動き出す――。


全てを終わらせたはずの夜、彼女は“死神”と出会った。


*  *  *

 季節が、秋から冬へと移ろい始めた頃のことだった。


 夜中、ルーナはふと目を覚ました。外は激しい嵐で、風が屋根を吹き飛ばしそうな勢いだった。木枠の古びた窓にカーテンはなく、雷光が何度も室内を白く照らした。大粒の雨は容赦なく窓ガラスを叩き、吹き荒れる風は窓どころか家全体を揺さぶっていた。


 身体を起こす力もないまま、ルーナは天井の方に意識を向けた。


 ――何か……いる。


 本来なら、魔力で結界を張れたはずだった。だがこのところはひどく疲れ切っていて、結界まで気が回らなかった。もし結界を張れていれば、感じているこの“何か”の侵入は防げた。けれど、今のルーナには、気力というものが残っていなかった。


「……だ、れ……」

 養い親が亡くなって以来、まともに食事を摂れていない。特に今日は山を歩いて越え帰ってきたばかりだから、疲れは限界だった。

 

 山道を歩き帰宅してすぐ布団へ倒れ込んだ。体は泥で汚れ、足も痛む。風呂にも入らず着替えもしていない。けれど、それはこのところの日常だった。


 着替えをする服は一枚も無い。湯を沸かす薪も、水を汲む気力もない。そもそも、浴槽だってなかった。腹もずっと空いているが、満たすだけの食糧すら家には何一つ残っていない。


 頬はこけ、髪は艶を失ってパサつき、唇は乾いてひび割れている。笑うことを忘れた顔はこわばり、手指の爪は適当に切ったままで、ガサガサと乾いていた。

 それはもう、若い娘の姿ではなかった。


 ――風呂に入らなくなったのは、面倒になったから。

 ――着替えがないのも、ちょうどよかった。


 清潔を保つことも、腹を満たすこともできない身で、ただ、“その時”が訪れるのを待っていた。


 ……痩せ細って汚い自分に何の用があるのか。


 もし侵入者が強盗なら、金がないとわかれば、命を奪われる。

 それならいっそ――早く、楽にしてほしいとすら願った。


 枕元に感じる気配が、“その時”を告げにきたのだとしたら。

 

 もう、抗うつもりはなかった。この世にしがみつく意味も、希望も、残っていない。


 もう、いいや……。


 ルーナは、そっと目を閉じた。


 枕元に立っていたのは――死神だった。


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