表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/41

第四章(2)

 タオルを渡され、湯気の立ちこめる浴室の中でゆっくりと身体を拭いた。まだほんのりと熱を帯びた頬に、心地よい風が触れた気がした。


 用意された白いガウンを羽織ると、柔らかな布が肌を撫でた。その感触にさえ、少し胸が詰まる。自分の身に、こんなふうに優しいものが触れることが、あってもいいのだろうか。


 浴室を出ると、さっきとは違う骸骨の従者が待っていた。今度はふたり。その手には、櫛やオイル、小さな道具がいくつも揃えられている。


「では、髪を整えさせていただきますね。無理には引きません、安心してお任せください」

 骸骨の指先は意外にも繊細で、ゆっくりとルーナの髪を梳いていく。絡まりをほぐし、湯で緩んだ髪をやさしく乾かすたび、心の中の硬い部分までも柔らかくされていくようだった。


「香り付きのオイルを少し。髪が痛んでおられましたので、補うように……」

 ふんわりと香るのはラベンダーだろうか。フランが育てていた花と同じ香りだった。懐かしくて、少しだけ、胸が痛む。


 でも、それでも――。

 目を閉じて、その香りを受け入れる。もう、涙は出ない。ただ、遠くにいる誰かに「ありがとう」と心の中で呟いた。


 やがて髪が整えられ、肌には滑らかなクリームが丁寧に塗り込まれていく。手も、肘も、膝も。自分では見落としていた小さな傷も、すべてこの世界の誰かに見つけられて、癒されていく気がした。


「お召し物をお持ちしました」

 差し出されたのは、生成りの下着と、落ち着いた色合いのドレスだった。装飾は控えめで、布はやわらかく、動きやすそうな仕立て。肌に触れた瞬間、その清潔さと温もりに包まれる。


 それはまるで、「ようこそ」と言われているようだった。


 鏡に映った自分を、そっと見つめた。細くて、少し青白いけれど――肌はなめらかになっていた。髪も光を取り戻し、目の下のくすみも、心なしか和らいでいる気がする。


 知らない場所。知らない人たち。でも、ここには優しさがあった。街で感じていた警戒心はここにはなかった。


 ふう、とひとつ息を吐く。鏡の中の自分も、同じように息を吐いていた。


「夜は冷えます故、こちらをお使いください」

「ありがとう……」

 寒いから、と気遣われたのは初めてだった。ぺたんこの布の靴を履けば完成だった。

 

「それでは、参りましょうか」

 目が覚めてからかなりの時間が経っていた。これから会う方は怒っていないだろうか……。

 

 今、この足でどこへ向かうのかも分からない。けれど、確かに何かが始まりかけている――その予感だけは、肌の奥から伝わってきていた。



アクセス・感想・お星様などなど、ありがとうございます。

励みになっています。


最後までお付き合いください。


星影くもみ☁️



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ