第二章(6)幕間 ―疑念―
「……あんた、最近どこ通ってる?」
「通う……?」
暮らしに精一杯で、どこか通うところなど思い当たらない。
「町外れの家から出てくるとこ見たんだけど。うちの人が“薬草をもらいに行く”って言って、数日に一回、店を早くに閉めて出かけるから後をつけたの。そしたら、うちの人が入った家からあんたが出てきた。何度も。あんた、そこに薬届けてたの? うちの人とそこで何やってんの?」
思い当たる家は一軒あった。踊り子の家で、フランが昔から薬を届けに行っていた家だ。
フランの代わりに在庫がある限り届けて欲しいと頼まれて、何度か行った事がある。
「それは……フランが昔から届けてたから、代わりに、って……それだけで……」
「それだけ……?」
カルラの声に棘が混じる。
「あそこでうちの人と何してんのよ!!」
「ちが……ちがうよ! いつも玄関で帰ってるよ?……カルラの旦那さんに会った事なんか一度も無いよ!!」
いつも玄関を叩くと、怠そうな女性が応対してくれる。冷たい対応をされるが金払いは良いので助かっていた。
時々、奥に誰かがいるような時もあったが、ルーナは玄関先ですぐ帰るため、誰か来ているかを知る由もなかった。
いくら釈明をしても、カルラの目は冷たく、聞いてはもらえなかった。
「……ねえ、ルーナ。あんたの委託販売をはじめてからうちはおかしくなった。うちの人も、私も……でも、今ようやくわかった。あんたは、災厄を招く魔女なんだよ! フランが寝たきりになったのもあんたのせいなんじゃないの!」
人通りが少ない路地に、カルラの大きな声はよく響く。立ち話をするふたりに無関心だった人々が大きな声を聞いて集まってきた。
「災厄の魔女がいるって?」
「フランのとこの子じゃないか……」
「カルラの亭主にちょっかいかけたって?」
「フランが倒れたのもこいつのせいだってよ」
口々に勝手なことを言っているのがルーナにも聞こえてきた。そのひとつひとつが刃となって胸に突き刺さる。
信じてくれていたはずの人の口から出た、“その言葉”。
カルラはルーナを睨め付けると駆け出した。その走る足音は、終わりを告げる鐘のように、ルーナの耳に響いた。
街に味方が居なくなった。信じてもらえなかった。
「――わたしが、いると……みんな……わたしのせい……」
集まっている野次馬の間を抜けて、家へと急いだ。フランが待ってる。フランが……。
夕暮れの風は冷たかった。
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星影くもみ☁️