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プロローグ

*  *  *


はじめまして。


このたびは『災厄の魔女は幸せになりたくない』を選んでくださり、ありがとうございます。


この物語は、孤独と闇の中にいた魔女ルーナが、少しずつ幸せになっていくお話です。

楽しんでいただけたら嬉しく思います。


読んでくださる皆さまに、優しい時間が届きますように。

最後までよろしくお願いいたします。


*  *  *

「おはよう……アドリアン」


 ゆるやかなシーツの波から、栗色の髪が顔を覗かせた。

 ルーナは恥ずかしそうに、そして少し気怠げに目を開ける。


 朝の光は春のようにやわらかく降り注いでいたが、ルーナの目覚めは冴えない。

 昨夜、アドリアンに何度も求められ、意識を手放すまで甘やかされたせいだった。


 でも――そんな気怠さは、嫌いじゃない。


 だって、これは“幸せ”の証だから。


 「おはよう」と声をかけたのに、アドリアンからの返事はなかった。

 寝息も聞こえない。

 先に起きたのだろうと寝返りを打つと、そこにいた。


 穏やかな微笑みを浮かべ、銀の瞳がこちらを見つめていた。


「おはよう、ルーナ。身体……大丈夫?」

「ん……へいき」

 頬に添えられた手のひらに顔をすり寄せると、アドリアンの体温がじんわりと伝わってくる。

 それはとても心地よくて、胸の奥が満たされていくようだった。


 ――ずっと、こうしていたい。


「名残惜しいが、そろそろ起きようか。風呂にする? それとも朝ごはん?」

 ルーナの額にキスを落として、アドリアンはベッドを出る。

 ガウンを羽織ると、同じものをルーナにも着せ、腰の紐を軽く結んで抱き上げた。

 膝裏と背中に添えられる腕。その動作はもう習慣のように自然で、優しさが込められている。


 足が不自由なわけでもないのに、アドリアンはいつもルーナをこうして運ぶ。

 浴室へ、居間へ、食堂へ――どこへ行くにも。


 最初の頃は戸惑って抵抗していた。

 自分で歩ける、とアドリアンの腕の中で暴れたりもした。

 でも今はもう、されるままになっている。


 だって――


 こんなふうに大切にされることが、心地よくなってしまったから。


 養い親に愛されていた記憶もある。けれど、

 誰かに頼ることを、自分には許されないとずっと思っていた。

 頼っても裏切られる、そう思い込んでいた。


 でも、アドリアンはいつも言ってくれる。


「甘えていいんだよ」と。

 どう反応していいかわからず戸惑っていたルーナにも、今ではその言葉が胸にしみて、自然と頼ることができるようになってきた。


「お腹すいた……ごはんがいい。オレンジジュースも飲みたい」

 アドリアンの腕の中で、ルーナは小さくつぶやいた。


「うん。じゃあ、まずは朝ごはんにしよう。風呂はあとで、一緒にね」

「ありがと、アドリアン……だいすき」

 アドリアンの首に腕を巻きつけて、肩に顔を埋める。


「……ルーナは幸せか? 生きる気力、湧いてきた?」


「ん……まだ、ない……」


 ――幸せを感じたら魂を刈り取る。


 それがアドリアンと交わした、最初の約束だった。

 だから、この問いにはいつも同じように答える。


 本当はとっくに幸せを感じているのに。


 温かなベッド。誰にも蔑まれない毎日。美味しい食事、清潔な衣服。風も雨も届かない穏やかな場所。お金の心配もない。無意味な誹謗も暴力もない。


 そして、なにより――自分を大切にして、心から愛してくれる人が、傍にいる。


 幸せじゃないはずがない。


 けれど、決して「そう」と言えない。


 言ってしまえば、この穏やかな日々が終わってしまうから。


*  *  *


お読みくださり、誠にありがとうございました。


孤独だったルーナが少しずつ心を開き、幸せを見つけていく旅路を、

最後までご一緒いただければ幸いです。


これからも彼女の成長と変化を見守っていただけると嬉しいです。


心からの感謝を込めて。


星影くもみ☁️


*  *  *

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