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アイ コンタクト  作者: チャウチャウ坂
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第七話

ビバ!現代人!ビバ!平和を愛す日本人よ!

鈿音は美琴に'さん'をつけて敬愛したいと本気で考えていた。非日常に放り投げ出された不安の渦が

ゆっくりと動きを止めていくような気分にさせて

くれる言葉だった。

「聞かせて頂戴、あなたの考えていることを。」

顔が心の鏡であることを鈿音を見ればよく知ることとなるだろう。

「リスクは避けたいのでぷるウォをすぐ使用できないところにしまっていただけますか?」

鈿音はためらいなくはずして美琴に自身のぷるウォを差し出す。美琴は鈿音の行動を制止するような手を向けて笑顔で首をふる。鈿音は自分の着ている

一年中着回し可能な適度な厚みのパーカーの

ポケットにぷるウォをしまった。

美琴は、一段階警戒を緩めたような朗らかな面持ちで裏路地を抜けながら迷いなく話す。

「いいですか。私たちは、1日1度戦うことを強要

されています。しかし、戦いはぷるウォの選択肢

のうちの『終了』を戦っている2人共が選択する

もしくは、5分毎の選択肢を未選択することに

よってのみ終了します。」

「もし、与えられた1ヶ月の時間中ずっと戦い続けたのなら?戦うという行為には時間制限がないの

です。ペナルティを回避して、少しの辛抱で脱出

できると考えます!」

鈿音は美琴の瞳をよく見る。発する言葉に負けないほどに力強さを感じる。

「問題は、'どのように'と'どこで'だと思います。

私達は安全や被害を考えて、一対多数ではなく、

一対一のペアを作り監視し合う方式をとろうと

思います。ここからは私の推測ですが、私は

ドライアイで定期的に点眼薬を使用しています。

しかし、ここに連れてこられたときからもう

数時間も経つのに一向に目が乾燥しないのです。

私達はその…イデアといいますか、存在自体が

ここにあって私達の正確な肉体とは違うのだと思います。」

「根拠としては、キツネが、私達が餓死や干からびてしまうことを避けると思いました。

このことを利用すればほとんどのストレスを回避

して計画を進められます。一応これからコンビニで最低限の飲料と食料を各々購入してもらいます。」

「ボードゲームも買っていいのか?」

すぐ後ろから聞こえてくる声に鈿音も美琴も

振り返る。

「ダメですよ。言ったでしょう?私達は一ヶ月間

基本は電車の中で過ごすんです。駅構内にいる間

ならまだしも……。それに互いを監視する必要が

ある状況で遊びのことを第一に考えないで下さい

まぁ、トランプとかそう言ったものであれば……」

「おいおい、言質とったからな!コンパクトな奴

なら遊んでいいってよ!」

決して幼いとは言えない雰囲気の男は、ハチを操る

男の背中を必要以上に強めに叩いて喜んでいる。

鈿音はコンビニの強烈な光を目にしていた。

(ああ、この人は急な非日常に頭をすでにやられているのだわ。精神安定剤を買ってあげなきゃ。)

「僕もこの制服のまま乗車てのはまずいだろう

から服を買いに行ってもいいかい?」

警官の制服を着た1人が鈿音に目もくれず、美琴に向かって話しかけた。

「ええ、もちろんです。本当に協力ありがとうございます。彼なんですよ、電車と駅の案を出してくれたのは。10人をそれぞれで監視し合うのに適した

広さだし、警戒すべき戦う気のある被害者との

接触も分かりやすいはずだってね。」


駅に着いて驚いたのはその表示だった

〈JR渋谷線渋谷駅渋谷行き〉

現実にはない不気味な字面だ。

(渋谷駅には絶対に帰ってこられるのよね。輪っかになっているもの。山手線のままでよくない?)

作戦通りに駅構内でルール通りに戦いを開始させ、

一番人の少ない車両に移動した。念のために乗客

の持ち物を盗み見たが、ぷるウォをもつ能力らしき

人間は周りにはいなかった。なにしろ、10人が一気に車両を移動してきたにも関わらず何の反応も

示さずにスマートフォンを眺めているのが大きな

証拠であった。

ボードゲーム君がおもむろに立ち上がって言った。

「ちょおっとよぉ〜試してみていいかい?」

すぐに車内アナウンスが流れる。

「次は〜恵比寿〜恵比寿〜でs」

そうして開いたドアを抜けようとボードゲーム君

は突進したが、透明なフィルムのようなもの包まれた。はっきりとしたボードゲーム君の型が出来たと

思えば一瞬にして元に戻る。

その反動でボードゲーム君は車内の床に思いっきり

叩きつけられた。

鈿音は無意識に笑ってしまっていた。気づけば

ボードゲーム君をふくめて、全員が笑っていた。

美琴が一番大きな声を上げて笑っていたようだった。

他の乗客はさすがにスマートフォンから目を離し、こちらをポカンとのぞいていた。中には面白い場面

を撮り逃したことを口惜しがっている者もいた。


律儀に5分毎の選択肢を『継続』と答え続けてもう

1日経とうとしていた。やはり美琴の予想通りに

この体は喉が渇かず、腹も空かず、眠くもならないようだった。睡魔に気をつける必要がないというのは大きな幸運だった。

そして運命の瞬間。鈿音達の拘束時間は 

〈1ヶ月0日23時間59分59秒〉

となっていた。10人が全員目を伏せていると、

よりにもよって美琴のぷるウォにキツネからの

メッセージが届いた。

「現在、絶賛戦い中のあなた方はぷるウォが体と

密着して外せないようになっているはずです。

それは選択肢に答えてもらう必要がある他に、

あなた方のバイタル、体の状態を知る機能も

付いているのです。だから、戦いの結果として重要な完治するまでの時間を正確に測定できるのです

だからあなた方が無傷であることは、戦っていないということは全て私の知るところなのです。」

潤む目を全く動かせずにポツリと席にいる美琴は

このまま消えて無くなるのではないかというほどに存在感がなかった。

全員が落胆する中1人立ち上がる男がいた。

「まぁそりゃ厳しいよねぇ。いやぁ駄目だったか。そっかそっか。」そんなことをブツブツと言いながら。素早く鈿音に近づくと、迷いなく銃で鈿音を

撃ち抜いた。

「アッ。」

鈿音は溶岩を自分にできた穴に流し込まれるような

熱さを感じた。携帯用の銃をもてるのはそして、

鈿音のペアになったのは…警官の男だ。

若さとは情熱に満ちるのを望まれるものだが、その振る舞いは冷徹そのものだった。

「狙ったのは腰だよ。5分じゃ死なないようにね。

フゥ〜ウ『終了』っと。じゃ皆さんお疲れー」

その声をぼんやり聞いた後に鈿音は痛みのショックで気絶した。


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