第二十五話
「キツネの正体について鞠雄くんは何か知ってるの?」
ショッピングモール内のイベント広場で粗末なイスに腰掛けて2人は話す。
「鞠雄は基本的に犯罪者や厳重警戒の必要な人物についての情報しか持っていない。役に立ってはいるさ。躊躇なく相手を傷つける奴らを事前に把握できるからな。情報の出所は不明だ。」
「警察の情報網にアクセスできるのかしら。でも、ぷるウォ持ちの犯罪者のみを厳選できるもの?不自然じゃない?」
「大丈夫だ。誘導しなくてもあなたに協力するよ。確かに気になる点は多いからな。」
仮装している人間の写真撮影風景を鼻で笑う鈿音。素良はぷるウォの投稿に目を通している。鈿音は映画泥棒が自撮りをしている様を見ていた。
「……自分のことを自分で撮影しないのね。そうよ!あんた自身のぷるウォにピッキング道具使ってみたらどうなるの?」
「何?俺自身の能力は、当たり前だが把握済みだぞ。」
「いや、だからこそよ。あんた自身の能力の情報は当然ロックされてないわ。ほかのぷるウォの情報と違ってね。じゃあロックされた接続の方が解除されるんじゃない?」
鈿音は自身のアカウントのアイコンをタップしてみる。〈鍵盤ミサイル〉やぷるウォ内のSNSへの投稿フォームが表示される。
素良が鈿音のぷるウォを手に取ると速やかにそのページは閉じてアイコンが中心のホーム画面に戻る。
素良がそのアイコンを手で触れても鈿音が開いたページに移行しなかった。
素良はピッキング道具を鈿音のアイコンに滑り込ませる。素良のぷるウォに鈿音の開いたページが映る。投稿フォームこそ無かったが。
「他者のぷるウォに使うと、俺のぷるウォにそのアカウントの情報が入ってくる。これだけだろう?説明は2度目だ。」
「違うわよ。私が気になるのは、あなたのぷるウォのSNS内での私のアカウントよ。スマートフォンのSNSでも知らない人のアカウントを覗けるじゃない。」
「最初に会った時、そのキッカケになったのは私のぷるウォのSNSの投稿写真だわ。振り返ればその写真と一緒に私のアイコンとニックネームが載っているはずよ。」
「この路地裏の写真のことか?」
素良は写真の左上にある'亀螺鈿音'の文字と鉄琴のアイコンの並びをタップする。スマートフォンと同じように鈿音のアカウントの紹介ページが開かれる。
過去の投稿に同じ写真か載っているだけで、他の一切の使えそうな情報は無かった。
「ピッキング道具を使ってみて。」
素良はそのページにピッキング道具を使う。
鈿音の残り拘束時間や、ぷるウォ同士の個人連絡ができるフォームが出現した。
「すごいな!これは情報収集が捗るぞ。どうして急に?高級コートパワーか?」
「いえ、あなたが前に『ロックされた情報や接続を解除できる』って言ってたから。能力を知れることが"ロックされた情報"だとすれば、今のが多分"ロックされた接続"の方なんだわ。」
「すぐにキツネに対して使用すべきだな。」
素良はキツネの脱出人数に関しての投稿から、キツネの紹介ページに飛ぶ。
鈿音の紹介ページに比べて豪華な装飾が施されており、黒い画面に金色の文字でこう書かれていた。
“大切なものは目に見えぬ なれば私の情報は見えぬ”
鈿音と素良は緊張した面持ちでその文字に向かってピッキング道具を差し込んだ。
金色の文字が緑色に変化した。
"目と目が合う それすなわちアイコンタクト"
一瞬その文字に変化して画面が暗転し、緑色の細かな数字の羅列と赤色の目玉が出てくる。よく見るとその数列は素数で出来ていた。
「何よ!全く意味不明じゃない。」
「ああ。キツネにとって大切なものなのだろうが、その理由も俺たちがどのように利用できるものなのかも不明だな。」
2人は数字で出来たキツネを見続けたが、これ以上他の動きは見られなかった。
「いいわ。他に気になるアカウントを探しましょう。」
素良は手当たり次第にアカウントをタップしてはピッキング道具を使用した。大抵が、鈿音のアカウントと同じような結果に終わった。
渋谷駅周辺の地図にいくつか星のマークがついた投稿をしているアカウントをタップした。
"鍵付きのアカウントです"
まるで開けてくださいというメッセージかのように南京錠のマークが素良のぷるウォの画面を覆う。素良は試しに指で南京錠のマークに触れてみた。パスワードの入力画面が出てくるのが分かると、すぐにピッキング道具を使う。
「これは?」
"おめでとうございます。合言葉は『鳥の調べで母がなく』です。所定の場所にて使用してください。"
「さあ?わからないわ。そもそも所定の場所自体が分からないと意味ないんじゃない?」
素良は同じアカウントの過去の投稿を確認する。何枚かの写真が投稿してあった。
「どれも食事する男の写真ね。ハムカツを食べているわ。」
「同じ定食屋らしいな。全部で8枚の写真か。」
2人はなんだか遊ばれている気分になって、そのアカウントをゆっくりと閉じる。
「正直、キツネに関してはすぐに合流して情報共有するべきだと思う。」
「ええ。」
鞠雄たちは類の能力がどのようなものかを開拓しているのだった。
楢紅は見たままを説明する。
「結局、ドットキーを押したら出てくるドット絵以外の他のキーはその文字がそのまま画面から出てくるだけなんですね。」
「こんなにもランダムで使い勝手の悪い能力ありますか?」
類は落ち込んでへたり込む。
「ギャンブルみたいだな!」
「類さんが戦っているときには他のキーも特殊なことが出来るかも知れませんし、気を落とさないでください。」
美琴はそう言いながら、類に手を差し伸べた。
「僕と戦っている状態で試してみるかい?」
鞠雄の提案に全員が反対する。
「大丈夫。キツネを倒せば拘束時間なんて関係ないから。」
ぷるウォを差し出して笑顔を作る鞠雄。鞠雄と美琴に励まされた類は、出来るだけ使えそうな記号を検証してみることにした。
この5人は他の映画館に来ていた。少し古くて懐かしの映画も再公開している。
周りには老人ばかりで5人の話し声もあまり聞こえていない様子だった。
「いいぞ!先の尖っている記号や文字は使えるぞ。」
見れば映画の日本語字幕を、めちゃくちゃな文字の羅列が重なっている。内容が不明で物語を楽しむどころではない事態だが、周りは老人ばかりで誰も気がついていない様子だった。
「!素良さんからだ。はい。はい。僕たちが向かいます。では。」
鞠雄は電話に出ていると、後ろから全く気配を感じさせずに老人が立っていた。鞠雄の電話が済んだところで、面白そうなものを見ているような陽気な声を出した。
「映画館では携帯電話はマナーモードにするもんじゃよ。」
鞠雄は思わず座席から立ち上がった。老人に向かって取り繕うような言葉が勝手に紡がれた。
「携帯電話ですか?……おかしいですね。僕は今、携帯電話を持っていないんです。調べてもらって構いませんよ。」
老人は笑いながら鞠雄が立ち上がって空いた席に腰掛けた。
「そりゃ困った。わしはボケてはおらんからの。こうやってちょっと座って考えれば答えが見つかるはずじゃ。」
そう言うと老人は迷いなく自身の腕を確認した。老人の腕にぷるウォが巻き付けられていた。
「答えが見つかったわい。うん?どうかな?」
鞠雄はおでこに手を当ててその光景を前に木偶の坊のように立ち尽くす。
「これはマナーモードに出来んからの。しょうがないかの。」
鞠雄のぷるウォがスリに合ったのだった。




