■八月六日 蟲の皇 転
♠♠♠科學戦隊レオタン テレビシリーズ
♠♠♠第三話 蟲の皇 承
僕は、『氷結ブルー』こと、北狄多聞。
科學戦隊レオタンのサブリーダーだ。
昨日、科學戦隊の呼びかけにより、北狄子爵邸に、カストリ皇國の御影辺境伯家と、ウヲッカ帝國のスイレン伯爵家が参集し、話し合いが持たれた。
その結果、次の三項目が決定された。
①時期尚早であっても、蝗害の危険度が高く、かつ、実りの早い麦畑から、収穫を始める。
②既に官能飛蝗が発生している麦畑については、早急に焼き払う。
③科學戦隊において、更なる対策を準備する。
①については、御影辺境伯家とスイレン伯爵家において、進めることとなる。
③については、『お色気ピンク』に魔力供給してもらって、『雷撃イエロー』と『疾風グリーン』が研究と作業を進める。
『お色気ピンク』は、『セーラー服魔法少女』として『服飾に呪われた魔法少女』側の作戦にも参加するため、負担が大きい。
だけど、睡眠時間を削ってでも、両方やり遂げると言ってくれている。
ということで、『爆炎レッド』と、僕――『氷結ブルー』――は、②に従事する。
蟲を焼き払うには、『爆炎レッド』の力が必須だ。
僕の役目は、出身地であることの繋がりを活用しての渉外と、氷結により延焼を防ぐことだ。
カストリ皇國御影辺境伯家側の麦畑については、『かんなぎ』のナスタチウム様が、関係者に焼払いの了解を取り、更に、その畑まで転移で僕らを連れて行ってくれることになっている。
ウヲッカ帝國スイレン伯爵家側の麦畑については、『かんなぎ』の銀蓮様が、同様の役目を担ってくれる。
レッドと僕と、『かんなぎ』お二人との作業打ち合わせに、『服飾に呪われた魔法少女』の一人が、予告もなしにやってきた。
『スクール水着魔女っ子』の金平糖菓ちゃんだ。
「新『水泳部』として、協力したいんよ」と、糖菓ちゃんが口を開いた。
僕ら『科學戦隊レオタン』と『服飾に呪われた魔法少女』は、ともに皇國軍に徴兵されて以降、協力関係にあるから、糖菓ちゃんとも仲良くさせてもらってきた。
糖菓ちゃんって、元々は内気な娘だったと思う。
それが、宿敵の『河童水軍』と闘い、打ち滅ぼすに至って、しだいに芯の強さを見せ始めていた。
そして、一カ月ぶりに再会した糖菓ちゃんは、ある種の凄みを纏うまでになっている。
なんと言ったら良いのか、カワイクて、ぽよぽよした娘であることに変わりはないんだ。
歩いていたら、何もないところで、すっ転びそうな感じは、そのまんまなんだ。
なのに、対面していると、圧倒されそうなコワさがでてきた。
『服飾に呪われた魔法少女』って、全員そうだろうと言われれば、その通り。
ただ、糖菓ちゃんの場合は、外見との落差が激しいから、余計にそう感じてしまうのかもしれない。
そんな、糖菓ちゃんが、ニッコリ笑う。
「うちら、新『水泳部』は、各國の政策により一方的に『悪』のレッテルを貼られようとしている怪盗や、義賊、そして『魔族』が、蝗害の危機から『この世界』を救うことに協力したという事実が欲しいんよ」
――『魔族』って!
怪盗や義賊が、一緒くたに極悪人扱いされがちなことは、僕もオカシイと思う。
だけど、『魔族』はダメだろう。
糖菓ちゃんは、僕らの表情が変わったことに怯むことなく、話しを続ける。
「なんかね、『魔族』のことを、人間とは別の種族みたいに考えてる人って多いん。でもね、魔族だって、あくまで人間で、与えられたロールが違うだけなん。そして、人間にはね、王侯貴族だろうと平民貧民だろうと、良い人もいれば悪い人もいるん。当たり前のことなん」
糖菓ちゃんが、部屋の扉を開けて、その向こうにいる者たちへ手招きする。
「ここに、新『水泳部』員を二人連れて来てるん」
最初の一人は、角張った男顔に、刈りあげた短髪。
背が高く、肩幅もあり、僕やレッドと同じ、筋肉質の身体だ。
ただ、僕やレッドと違い、その身体は肉体労働によるものらしく、全身真っ黒に日焼けしている。
服装は、學園の制服なのだが、上着は、普通に男子生徒用の詰め襟學生服なのに……なぜだか、その下に女生徒用スカートを履いている。
『お色気ピンク』のスカート姿と違って、違和感が痛い。
本人は堂々としているが、見ているこっちが、いたたまれなくなってしまう。
「うち、新『水泳部』のキャプテンなん。で、この彼が、副キャプテンの喇叭拉太なん。怪盗義賊育成科の一年生なん」
次の一人は、前歯が出ている、貧相な鼠顔だ。
中肉中背で、黒くて襟高で踝丈の魔族風マントに身を包んでいるのは良いとして……その下から覗いている身体は、赤い競泳パンツ一丁だ。
その手に、不気味な形のものが握られている。
あれって、人間の大腿骨を加工したものではなかろうか。
「こっちの彼は、前水泳部キャプテンの喇叭辣人なん。魔王魔族育成科二年で、拉太のお兄さんなん。ほら、兄弟だから、見れば見るほどそっくりなん」
――似てねぇよ。
どっからどう見ても、他人にしか見えねぇよ。
思いっきり、ツッコミを入れてやりたかったが、何とかガマンした。
「二人はね、ここへ出発する直前、『薄い本頒布会』で、感動の再会を果したん……って、うそ、なん。うちの方が感涙して、抱き合ったらって勧めたのに、この二人ときたら、しれっと『ひさしぶり』とか『おう』とか言うだけで、会話もないん」
糖菓ちゃんは、不満そうに唇を尖らせている。
「辣人は、『魔族四天王』の一人で『黙示禄の喇叭吹き』って呼ばれてるん。ほら、手に持ってるのが、その『黙示禄の喇叭』なん。この喇叭には、世界を滅ぼす七段階の力があるん。でも、辣人ってば、力が足りなくて、その第一段階すら引き出せてないんよ」
糖菓ちゃんは、不満そうに唇を尖らせている。
『試しに、世界滅ぼしてみて欲しいんよ』とでも言いたげだ。
「でな、この喇叭な、力の及ぶ範囲は限定されるけど、魔族や魔獣を呼び寄せたり、従わせたりできるんよ。ほら、蝗害を起こす蟲って、魔獣なん。つまりな、喇叭でな、官能飛蝗を集めて、眠らせたとこを燃やせば、範囲を最小限にできるんよ」
「「それは、スゴイ」」と、『かんなぎ』のお二人が、目を輝かせた。
この提案に飛びつきたくなる、お二人のお気持ちは理解する。
お二人は、カストリ皇國の御影辺境伯家と、ウヲッカ帝國のスイレン伯爵家を代表し、『この世界』を支えているツンデレ地帯の麦作に責任を負う立場にある。
『黙示禄の喇叭吹き』の助力が得られれば、蝗害被害をかなり押さえ込むことができるであろうから、飛びつきたくもなろう。
――だけど、なぜ、レッドまで、目を輝かせている?
まさか、この提案に飛びつこうとしてないか?
僕は、「お待ちを」と、この場にいる全員を押し止めた。
「彼、『黙示禄の喇叭吹き』は、元は人間だったとは言え、魔族落ちしているのですよ。しかも、魔王直属の『魔族四天王』の一人です。魔王は、大物語『勇者の召喚』の敵役、召喚勇者様の宿敵ではないですか。それに、我々科學戦隊が戦ってきた半魚人や地底人といった魔人たちだって、魔王の配下なんです。それに、『かんなぎ』のお二人だって、『旧き神』にお仕えするお立場ですよね。安直に受け入れて良いお話しではないですよね」
僕は、辣人に、視線を向ける。
「僕は、まず、科學戦隊レオタンのサブリーダーとして、『黙示禄の喇叭吹き』自身に、その考えているとこころを、問いたい」
辣人は、自身に集まった視線に、気弱そうな笑顔で、オドオド答える。
「オレは、召喚勇者を殺したい。でも、それは、オレが『魔族四天王』だからって理由じゃない。召喚勇者が、オレの愛する人を殺し、義賊であったオレを魔族に変えたことを、恨んでいるからだ。魔王様は、自分の預かり知らぬところで魔族に変えられたオレを受け入れ、『黙示禄の喇叭』を貸与してくださった。事件のあと、魔族となったオレが何をすべきか、魔王様に問いかけた。魔王様からのお答えは、『いずれ遊んでやるから、それまで好きにしていよ』というものだった。『好きにして良いのであれば、オレは、『金平水軍』の姫様に仕えたい』と言ったら、『妾以外の主に仕えることは許さん。だがな、妾は懐が深い。其方が、誰かと仲良くしたければ好きにせい。ただし、妾がその誰かを殺せと命じたら、そのときは有無を言わせん』とのお答えだった。オレは思い悩んだあげく、『薄い本頒布会』のステージイベントで、糖菓姫様にお声かけした。糖菓姫様は、『怪盗や義賊と同様、魔族もまた、『この世界』の物語から切り捨てられようとしている存在なん。だから共に復権を果すんよ』と言ってくださった。だから、オレはここにいる」
――やはり、この話しは、魔王へと行き着くか……。
だとしたら、僕は、『かんなぎ』のお二人に問いたい。
「『かんなぎ』のお二人は、『旧き神』にお仕えする立場ですよね。魔王との拘わりを許容されるのですか?」
ナスタチウム様が言う。
「『氷の女帝』も『緑の皇』も、それから『蟲の皇』も、付け加えると『恐怖の大王』だって、『旧き神』よ。旧き者はみんな、『魔』を忌避することはない。より古い時代になればなるほど、聖と魔は不可分のものとされるわ。」
銀蓮様が、言葉を捕捉する。
「そもそも、聖力と魔力は、表裏一体のもので、どちらも神力の表現に過ぎないの。そのことは、知ってるでしょ。むしろ、『新しき神』こそが、『旧き神』を、不当に『邪神』と貶め、物語の中に葬り去ろうとしているの。」
かくして、官能飛蝗焼却作戦は、『黙示禄の喇叭吹き』の協力のもと進められることとなった。
~~~ 薄荷ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~
■八月七日 ツンデレの血脈 転
ツンデレ地帯の国境門を護る、屯田兵団。
蝗害が発生したら、先手を打って、ツンデレ地帯を制圧するつもりです。
そこへ、カストリ皇國において人気の、學園偶像グループ『カースウィチ』が慰問にやってきます。
この非常時に、こんな一団、国境を通して良いのでしょうか?
ところが、『カースウィチ』は、ウヲッカ帝國の帝室が直々に、カストリ皇國の皇室に依頼されたため、帝都公演に向かう途上なのだそうです。
なんでも、幼い帝女様方が、どうしても『カースウィチ』に逢いたいとダダをこねたのだとか。
だからって……。