■八月五日② ツンデレの血脈 承
この物語を読み進めてくださっている皆様に、感謝いたします。
殊に、「ブックマークに追加」や、「ポイント」の★印や、「いいね等のリアクション」をくださっている方々、ほんとうにありがとうございます。
皆様さまがいてくださることで、書き進めることができています。
先日も報告させていただきましたが、いよいよ、物語が複雑化し、日々の執筆速度に、更新が追いついて参りました。
不本意ながら、これまでより少しだけ更新間隔をあけさせていただくことをご容赦ください。
今後とも、どうぞ宜しくお願いいたします。
♥♥♥服飾に呪われた魔法少女テレビシリーズ
♥♥♥第七話 ツンデレの血脈 承
ボク――儚内薄荷――は、ついさっきまで、『科學戦隊レオタン』の『お色気ピンク』として、蝗害の危機から、この世界を救う活動に従事していた。
で、これから、『服飾に呪われた魔法少女』の『セーラー服魔法少女』として、戦争の危機を回避するために、世界を救う活動に従事しなきゃいけないらしい。
ボクは、スイレンレンゲさんの転移能力により、御影密先生と一緒に、瞬間移動させられた。
転移先が屋内だったので実感がないけど、ここは、国境門のカストリ皇國側だそうだ。
ツンデレ地帯の、カストリ皇國とウヲッカ帝國の国境は、アモーレ河によって分けられている。
そこに掛かった唯一の橋が、国境門となっているそうだ。
転移先の部屋に、宝生明星様と、菖蒲綾女ちゃんと、金平糖菓ちゃんが居た。
うわーっ、なんか、久々に、『服飾に呪われた魔法少女』五人が勢揃いだ。
ボクは、真っ先に、明星様に喰ってかかった。
「明星様、『薄い本頒布会』は『801』の仕切りだから、ステージイベントでお会いするって約束してくれたじゃないですか。どうして、来てくれなかったの?」
「済まない。でもね、ここに至るまで、『服飾に呪われた魔法少女』は全員、大変だったんだよ」
明星様が、溜め息を吐いた。
☆
なんでも、禁書騒動なんてものがあったらしい。
『薄い本頒布会』は、R15指定で、成人しか参加できない。
つまり、そこで頒布される本は、飲酒、運転、結婚が認められる、十五歳以上の成人しか入手できないということだ。
ただ、何でもありなんてことはない。
お約束として、熱いラブシーンを文章にする場合、身体の状態や部位が、具体的に描写されることはない。
写真、絵画、マンガの裸体は、シルエット止まりだ。
ところが、今回の『薄い本頒布会』に、このお約束を逸脱したマンガ本が、極秘裡に持ち込まれた。
そのマンガのタイトルは、『服飾に呪われた魔法少女の男水着チャレンジ』。
そのマンガ内容は……こんな感じ。
『服飾に呪われた魔法少女』五人が、夏合宿で、ジャングル風呂地帯にやってくる。
偶然、森の奥で、誰にも知られていない天然温泉を発見する。
みんなで、温泉に入りたいねと話すが、裸だと恥ずかしいし、水着など持ってきていない。
本当に、まったくもって、偶然にも、明星様が、コレクションしていた男子用の海水パンツ五枚を、観賞用に持ってきていた。
――これって、いくらなんでも、展開に無理があるよね。
ここには自分たち五人しかいないのだから、これを着て、温泉に入ろうという話しになった。
四人は、ためらいなく着替えたが、一人だけ、断固拒否した者がいる。
薄荷ちゃん――つまり、ボク――だ。
四人は、とうに海水パンツ一枚になっている。
一人だけ、ズルイ、それは許されないと、四人が、ボクを追いかけ回す。
魔力を使っての大バトルに発展し、森も温泉も破壊し尽される。
ボクは、あえなく捕まって、強制的に脱がされる。
最終シーンは、見開き二ページ。
海水パンツ一枚のオンナノコ四人が横並びになって、目を見開いている。
そして、声を揃えて、驚きの声をあげている。
「「「「え~っ、薄荷ちゃんってオトコノコだったんだ~!」」」」
――あんまりな、オチだよ!
そんなこと、物語の前提として、
この世界中のみんなが知ってることなのに、
何をいまさら――。
「ここまででもトイデモナイけど、もっと、トンデモナイことがあるんだ」と、明星様。
「最終シーンの見開き二ページを捲ると、黒ベタにされた見開き二ページがあって、そこにね、『このページは別売りです。ご覧になりたい方は、下記住所まで、金貨一枚を郵送してください』って書かれてるんだ」
――そ、その別売りページって、
いったい何が描かれてるの?
自分の血の気が引くのが、感じられた。
『薄い本頒布会』当日、明星様は、会場を徘徊している怪しい売人たちを見つけた。
そいつらを尋問し、売り捌いていた『服飾に呪われた魔法少女の男水着チャレンジ』を見つけた。
スタッフを動員して、本を売買していた者たちを拘束し、本を没収して回った。
売人を締め上げて、元締めを吐かせた。
元締めは――成上満子男爵夫人だった。
そう、前期末舞踏会で殺害された成上利子様の、お母上だよ。
ボクを逆恨みしてたから、徹底的に辱めるつもりだったみたい。
ステージイベントでボクに『男水着チャレンジ』させようとしたこととワンセットで。相乗効果を狙ってたみたい。
その夜、明星様は、『服飾に呪われた魔法少女』いちばんの武闘派である綾女ちゃんを呼んで、二人で成上邸を急襲した。
成上家は、いかにも成り上がりらしく、ゴロツキを何十人も抱えていた。
それを二人で片っ端から薙ぎ倒し、邸内にいた全員を拘束した。
成上邸には、大量の『服飾に呪われた魔法少女の男水着チャレンジ』と、その日会場で仕入れたらしい『鍍金×薄荷』本や『薄荷×鍍金』本が、山積みになっていた。
それらを、この世界の各国へ向けて輸出しようとしていたんだ。
「その『服飾に呪われた魔法少女の男水着チャレンジ』って本、自分の目で確認したいんですけど?」
ボクが、そう言ったら、明星様が首を横に振る。
「薄荷ちゃんと糖菓ちゃんには見せられないと思って全部焚書したうえで、拘束した全員を警察に突き出した」
「残された問題は、『服飾に呪われた魔法少女の男水着チャレンジ』の別売りページだ。何しろ僕ら四人が「薄荷ちゃんってオトコノコだったんだ」と叫んでるわけだから、たぶんそこには、全裸の薄荷ちゃんが描かれてるんだと思う。満子夫人を問い詰めたところ、自分もそのページは見ていないが、実在するはずだと言っている。そして、そのページは、追加購入代金の送付先に保管されているそうだ」
「その送金先だが、ツンデレ国境門にあるウヲッカ帝國の屯田兵団駐屯地だ。いま僕らがいるこの場所は、国境門のカストリ皇國側だ。カストリ皇國はここに最低限の警備兵しか置いていない。ところが国境にあるアモーレ河の橋を渡った先は、ウヲッカ帝國の屯田兵団駐屯地となっている。本来ここにはウヲッカ帝國側も最低限の兵士しか置いていなかったはずなのに、いつの間にか増強され、いまでは数千人もの兵が配置されている」
――どういうこと?
ウヲッカ帝國は、なにか企んでるの?
その兵士たちって、
まさか、裸のボクの絵を売るために
配備されているんじゃないよね。
☆
「そこから先は、ワタシから、お話ししマス」ます。
レンゲさんが、進み出た。
「ワタシと密先生は、七月三〇日、前期末舞踏会への出席を断念し、急遽、鉄道に跳び乗ったデス。それは、ワタシと先生の故郷であるツンデレ地帯で、紛争が発生しそうだとの情報を得たからデス」
「ホントは、その段階で、『服飾に呪われた魔法少女』全員に協力を仰いで、全員でツンデレ地帯に向かって欲しかったデス。デモ、みんなが、八月一日の『薄い本頒布会』が終わるまで、手一杯だってことは分かっていたデス。なので、明星様に、『状況が許されるようになったら、助けに来て欲しい』とだけ、書き置きを残して、出立したデス」
レンゲさんは、自家であるスイレン伯爵家と、密先生の御影辺境伯家の関係性を教えてくれた。
二家が管理するツンデレ地帯の麦が、この世界を支えていること、そして、過去の蝗害におけるカストリ皇國とウヲッカ帝國の対立が、先の世界大戦を引き起こしたことへと話しは及んだ。
その際、ウヲッカ帝國側に、直接的な暴力に訴えて、自國であるスイレン伯爵家の麦だけでなく、カストリ皇國に属する御影辺境伯家の麦まで掻き集めて回ろうとした人物がいた。
ヒイラギリンドウ少将だ。
無私の国粋主義者であり、愛するウヲッカ帝國の民を救うべく、その暴挙を為そうとした人物だ。
しかしながら、その際の企ては失敗し、世界大戦が引き起こされるに至った。
ウヲッカ帝國内には、リンドウ少将を支持する者が多い。
大戦時の行動について、責任を問われることもなかった。
ただし、将軍と言ってよかった戦前の立場は剥奪され、現在は、国境門を護る屯田兵団の長となっている。
屯田兵団は、アモーレ河の向こう側に、駐屯地がある。
世界大戦時、リンドウ少将による麦の強奪は、スイレン伯爵家と御影辺境伯家の連携によって阻止された。
リンドウ少将は、その経緯から、スイレン伯爵家と御影辺境伯家を憎み、敵視している。
「ワタシと密先生は、次代の両家を担う者であり、両國友好派の象徴なのデス。そのため、三月末に、ワタシが鹿鳴館學園へ留学しようとした際、ワタシと密先生は、まさに、この国境門で、襲撃されたデス。」
「現在、懸念されていた蝗害発生が、いよいよ確実なものとなったデス。リンドウ少将は、ワタシと密先生を貶め、自身がこれから行おうとしている略奪行為を正当化しようとしているデス。」
――そこまでは分かったけど、
どうしてそれが、禁書本に繋がるの?
ボクの怪訝そうな表情を見て、レンゲさんが謝ってきた。
「ゴメンナサイ。これから話すことは、あくまで、リンドウ少将の考えデスから――。ワタシたち、薄荷ちゃんのコト、ダイスキ、デスから――。」
「あのデスね、このポコペン大陸にある四つの國のうちで、薄荷ちゃんみたいなコに寛容なのは、カストリ皇國だけなのデス。殊にウヲッカ帝國は厳しくて、異性装や、同性カップルって、極刑なのデス。それどころか、そういった者を支持しているというだけで、罰せられるのデス」
――うん、分かった。
レンゲさん、気を使ってくれてアリガトウ。
ボク、ダイジョウブだから。
「それに、もはや、リンドウ少将を支持してるのは、旧い人間だけなのデス。ワタシと密先生は、ここ何日か、ウヲッカ帝國の帝室へ、働きかけていたデス。すでに、帝室からは、リンドウ少将を処分することについて了解を得ているデス」
――うん、分かった。
ボク、リンドウ少将なら、
迷い無く殺れるよ。
~~~ 薄荷ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~
■八月六日 蟲の皇 転
蝗害の危機に立ち向かおうとする、『科學戦隊』の前に、意外な協力者が現われた。
ちょっと待って!
いくら、その力がスゴイからって、ホントに、その人と、手を組んでもいいの?