■八月五日① 蟲の皇 承
■この物語を読み進めてくださっている方々に、感謝いたします。
この物語は、三つの部分に分かれています。
ただ、時間軸に従って直線的に進行するため、部立ては不要と思って書き始めました。
しかしながら、ここへきて、やはり部立てしておいた方が良いのではと、思い直し、実行しました。
次の三部構成です。
第一部 揺籃の季節
第二部 汪溢の季節
第三部 爛熟の季節
現在、第二部の後半となります。
今後も精進する所存ですので、ご愛読のほど、宜しくお願いいたします。
ぜひ、「ブックマーク」に追加や、「ポイント」の★印や、「いいね等のリアクション」で、皆様のお力添えをいただけますよう、宜しくお願いいたします。
♠♠♠科學戦隊レオタン テレビシリーズ
♠♠♠第三話 蟲の皇 承
僕は、『氷結ブルー』こと、北狄多聞。
科學戦隊レオタンのサブリーダーだ。
科學戦隊レオタンの正隊員五人は、僕の実家である北狄子爵領に来ている。
一昨日、各自の戦闘車両を操作し、ここまで、編隊飛行してきた。
そして、戦闘車両五台を、正五角形状に繋げ、北狄子爵邸の中庭に着地させた。
合体ラボ『ペンタゴン』モードと呼ばれている形態だ。
イエローが開発した、『ペンタゴン・魔動儀パラボラ』を展開する。
古代の『神器』である『魔動儀』の原理を用いた『蝗害』対策用の装置だ。
『この世界』の蟲は、その種ごとに固有の、微弱な魔力を発している。
『ペンタゴン・魔動儀パラボラ』は、その広範囲分布を、視覚化できるのだ。
これを作動するには、膨大な魔力を必要とする。
ところが、『氷結ブルー』の僕だけでなく、『爆炎レッド』、『雷撃イエロー』、『旋風グリーン』の四人は、揃って聖力使いだ。
ただ一人、『お色気ピンク』の儚内薄荷ちゃんだけが、魔力を使う。
それも、『服飾に呪われた魔法少女』の一人である『セーラー服魔法少女』としての、膨大な魔力量だ。
僕らは、『ペンタゴン・魔動儀パラボラ』へ、ピンクちゃんに注いでもらった魔力で、一昨日からずっと、観測と分析を続けている。
危惧した以上に、深刻な状況だと判明した。
パラボラ展開前に確認されていた樟脳飛蝗の蓄膿飛蝗化については、北狄子爵領を除く、ツンデレ地帯全域に及んでいた。
蝗害の発生源だとされる北狄子爵領では、蓄膿飛蝗化について、早期発見を心がけてきた。
そして、蓄膿飛蝗を発見した時点で、その麦畑を焼き払っている。
どうやら、それが功を奏して北狄子爵領が持ちこたえている間に、他領は手遅れぎみになっていた。
なぜなら、蓄膿飛蝗が密集しているいくつかの地域で、既に官能飛蝗が発生している。
この官能飛蝗こそが、蝗害を引き起こす種だ。
一度発生すると、飽食と交配・出産を繰り返し、爆発的に被害を拡大するのだ。
問題は、飛蝗だけではない。
懸念されていた通り、蜉蝣や蟷螂についても、状況がおかしい。
通常の愚弄蜉蝣は、なにもかもを小馬鹿にして、何ら行動しないまま、生まれた麦畑から出ることもなく死んでいくような種だ。
それが、ふらふらと他の麦畑にさまよい出る放浪蜉蝣と化している地域がある。
もしこれが、尾籠蜉蝣となってしまったら、猥褻行為を繰り返し、蝗害を引き起こす。
また、通常の燈篭蟷螂は、燈篭の光に吸い寄せられて、そこから身動きすることなく死んでいくような種だ。
それが、活発に動き、同族や他種と闘う気概を見せる闘魂蟷螂と化している地域がある。
もしこれが、倒錯蟷螂となってしまったら、欲望のままに交配を重ね、やはり蝗害を引き起こす。
これまで研究の及んでいなかった、新たな事象も確認できた。
蓄膿飛蝗については、もはやツンテデレ地帯全域に広がってしまっているが、放浪蜉蝣と闘魂蟷螂については、まだ、発生地域が限られている。
その発生地域が、アモーレ河沿いに限定されているのだ。
アモーレ河はツンデレ地帯の中央を、西から東へ流れる河だ。
河の北側がウヲッカ帝國で、南側がカストリ皇國となる。
ツンデレ地帯全体を支える水源でもある。
どうやら、このアモーレ河と蝗害に、何らかの因果関係があると推測できた。
☆
科學戦隊として、昨夜のうちに、警報を発した。
そして、今夕、北狄子爵邸の広間へ、ツンデレ地帯を領有する二家の代表者に参集していただいた。
カストリ皇國の御影辺境伯家と、ウヲッカ帝國のスイレン伯爵家だ。
この二家には、長年に渡る交流がある。
ツンデレ地帯に住む者は、今日では邪神とされる『氷の女帝』と『緑の皇』篤く信仰し続けている。
『氷の女帝』はスイレン伯爵家に祀られ、『緑の皇』は御影辺境伯家に祀られている。
そして、スイレン伯爵家と、御影辺境伯家の間には、各世代ごとに、互いの神にお仕えする姫を、互いの当主に嫁がせ、『かんなぎ』とする習わしがある。
現在の『かんなぎ』は、スイレン伯爵家から御影辺境伯家へ嫁いだナスタチウム様と、御影辺境伯家からスイレン伯爵家へ嫁いだ銀蓮様だ。
そして、『かんなぎ』となるべく生まれた魔力使いは、必ず『転移』能力を得る。
今夕も、『かんなぎ』であるお二人が、その転移能力により、両家の方々を、ここまで連れてきてくださった。
レッドに、冒頭の挨拶を任せた。
イエローが、『ペンタゴン・魔動儀パラボラ』について説明する。
グリーンが、そのパラボラを用いて判明した蟲たちの現状について説明する。
その後、僕が、今後取るべき対策について、話しをさせていただいた。
ツンデレ地帯は、山々に囲まれた、寒さの厳しい土地だ。
麦の収穫期も遅く、八月半ばぐらいからだ。
そして、ツンデレ地帯は、この世界の穀倉地帯だ。
その麦を失われれば、この世界に飢餓を齎す。
本来であれば、樟脳飛蝗が蓄膿飛蝗と化した時点で、麦畑ごと焼き払うべきである。
しかしながら、既に蓄膿飛蝗化がツンデレ地帯全域に及んでいる以上、もはや簡単に焼き払うことできない。
そこで、時期尚早であっても、実りの早い畑から、収穫を始めることを、まず提案した。
次に、既に官能飛蝗が発生している麦畑については、もはや手遅れと判断し、即座に畑を焼くこと。
間違っても、収穫しようとしてはならない。
そんなことをしては、被害が拡大してしまう。
だが、以上の対策だけでは、抜本的な解決には至らない。
当然のごとく、スイレン伯爵家、御影辺境伯家、更には北狄子爵家からも、何か方策はないものかと、詰め寄られた。
実は、方策が、ないでもない。
昨年から、グリーンが開発している蝗害対策がある。
ただ、検証が充分でなく、安全性の確認もできていない。
さらには、準備を整えるのに、数日を要する。
僕は、詳細を説明し、それを実行するかどうかの判断を三家の方々に一任した。
三家の方々は協議し、その方策を実施して欲しいと、決断した。
それはそれとして、スイレン伯爵家と御影辺境伯家から、ひとつの要望があった。
「三日間だけ、薄荷ちゃんを貸して欲しいの」と、銀蓮様が言う。
「蝗害を発端とする戦争の危機を回避するために、『服飾に呪われた魔法少女』としての、薄荷ちゃんの力が、必要なの」
「いや、そんなのダメだよ」とグリーンが反発した。
「蝗害対策を完成させるためにこそ、『科學戦隊お色気ピンク』としての薄荷ちゃんの魔力が必要なんだよ」
グリーンは、薄荷ちゃんを、ギュッと抱き寄せて、離そうとしない。
まるで、恋人を奪われそうになったかのような表情だ。
銀蓮様が、溜め息を吐く。
そして、明後日の方を向いて、離れた場所にいる誰かに呼びかける。
「あなたたちから、直接説得なさい」
北狄子爵邸の広間に、新たに二人の人物が転移してきた。
ひとりは、スイレンレンゲさん。
銀蓮様のご息女だ。
『服飾に呪われた魔法少女』のお一人だから、このところ僕ら『科學戦隊レオタン』とは、行動を共にする機会も多い。
レンゲさんの転移能力で、この場に来たことも分かる。
だけど、鹿鳴館學園から、ここまで一気に転移することなどできない。
だから、きっと、レンゲさんは、予めこのツンデレ地帯のどこかに、来ていたのだ。
そのことに、ちょっとだけ、驚いた。
問題は、もう一人の人物だ。
御影密先生だ。
ナスタチウム様のご子息だから、この場に来られることは、意外ではない。
だけど、密先生と、僕らの仲は最悪だ。
密先生は、大物語『科学の鉄槌』の当事者なのだ。
沢山の仲間を殺した、僕ら『科學戦隊』のことを、憎悪しておられる。
つい先日、僕は、密先生から殺されるところだった。
その密先生が、こちらを睨みながらも、口を開く。
内心の激情を押さえ込み、丁寧な口調となるよう留意しているようだ。
「レンゲに空間を繋いでもらって、ここでの話しは聞かせてもらいました。わたしも、御影辺境伯家の嫡男として、『科學戦隊』の蝗害への取り組みに感謝します。それに、『科学の鉄槌』の時とでは、『科學戦隊』のメンバーが総入れ替えになっていることも分かっています。しかしながら、それでも、なお、魔法少女のひとりとして、わたしが『科學戦隊』をゼッタイに許すことができないのもまた事実です。だから、こんな感情を抱いている、わたしが、ここに来ない方が良いのだとも、分かってもいます。だから、別の空間から、ここを見守るだけにしたかった。だけど、ここへ来ざるを得なくなりました」
密先生が、両手をググッと握り込んで、その視線を薄荷ちゃんに向けた。
「薄荷さん、わたしは、君を見ていると、もう、どうして良いか分からない。まず、君は、わたしと同じ男性の魔法少女で、最愛の教え子だ。そんな君が、『科學戦隊お色気ピンク』のロールを得てしまった。わたしには、黒のオーブの顔黒頑子や、山姥嫌姫の気持ちが良く分かる。だって、あのとき、わたしも、黒のオーブの二人と一緒に、君を襲って、詰って、リンチにかけて、殺したいという衝動に駆られかけた。そして、君が、わたしの『現代史補講』を欠席したときの、わたしの気持ちたるや……。わたしは、あの講義で君に全てを伝えて選択を迫るつもりだった。なのに、君は、欠席した。わたしは、そのことに、ホッとし、問題を先送りにした。わたしは、もはや、君が可愛いのか、君を殺したいのか、自分で自分が分からない。だけど、いま、ここに、更なる、新たな事態が発生している。この世界の危機的状況を、多くの人々の生死を、君に託さざるを得ない状況なんだ。何かの引き換えとか、許す許さないとか、そんなことは言わない。とにかく、一緒に来て欲しい」
薄荷ちゃんが、自分を抱きしめているグリーンの手を解いて進み出た。
「ボク、ちゃんと、分ってます。ボク、『セーラー服魔法少女』で『お色気ピンク』だから、両方やんなきゃいけないんです。ほら、この場に、祓衣玉枝學園長先生がいらしたら、こう言うと思うんです。『無理かどうかじゃないの。両方、やるのよ』って――」
薄荷ちゃんは、困ったように、へらりと笑った。
それは、とても、切ない笑顔だった。
人って本来は、自分の生死こそが、一番の大事だ。
だけど、薄荷ちゃんは、自分の生死が伴う出来事について、選択肢を与えられたことがない。
薄荷ちゃんは、生まれてこのかた、選択肢もないまま、全てを押しつけられてきたのだと思う。
~~~ 薄荷ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~
■八月五日② ツンデレの血脈 承
なんか、ボクの知らないうちに、とんでもないことになってたみたい。
うん、蝗害の危機は分ってたよ。
それに加えて、ボクらの、尊厳にかかわる大問題も発生していたんだ。
しかも、どっちの問題も、一人の人物が元凶だ。
許すまじ、ボク、殺っちゃうよ!