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■八月三日① 蟲の皇 起

  ♠♠♠科學戦隊レオタン テレビシリーズ

  ♠♠♠第三話 蟲の皇 起


 僕は、『氷結ブルー』こと、北狄(ほくてき)多聞(たもん)

 科學戦隊レオタンのサブリーダーだ。


 昨日から、科學戦隊レオタンの正隊員五人は、各自の戦闘車両(ビークル)を操作し、北のツンデレ地帯へ向けて編隊飛行を続けている。

 僕以外の四人を、改めて紹介しておこう。


 リーダー『爆炎レッド』の南蛮(なんばん)増長(ぞうちょう)

 『雷撃イエロー』の東夷(とうい)持國(じこく)

 『旋風グリーン』の西戎(せいじゅう)広目(こうもく)

 そして、『お色気ピンク』の儚内(はかない)薄荷(はっか)ちゃんだ。


 僕と、レッド、イエロー、グリーンの四人は、科學戦隊育成科の二年生だ。

 正隊員となることは、六歳の時に該当ロールを得て以降の目標だった。


 でも、ピンクちゃんは違う。

 魔法少女育成科一年生で、まさか自分が、敵対してきた科學戦隊の隊員になるなんて、思ってもみなかっただろう。

 それも、よりにもよって『お色気ピンク』隊員だ。

 本当はオトコノコで、女装を強要されているだけの自分が、『お色気』なんてものを要求される存在になるってことに、当初、強い忌避感を抱いていた。


 なのに、ピンクちゃんは、『お色気ピンク』に相応しくあろうと、懸命に取り組んでくれた。

 自ら、『前お色気ピンク』の白桃(はくとう)撓和(たわわ)先輩を捜し出し、弟子入りさえした。

 ジャングル風呂地帯の温泉旅館で、『お色気』を会得すべく、仲居としての修行を積んだ。

 その成果として、最近ではカストリ皇國の皇子三人を手玉に取ってみせるまでになっている。


 ところが、昨日の朝、ツンデレ地帯へ向けて編隊飛行のために集合してきてからの、ピンクちゃんの様子がおかしい。

 そもそも、集合時間に遅れてきたのだが、理由を聞いても答えが返って来なかった。

 悄然とした様子で俯いて、「ボク、海水パンツなんてムリ……」と呟いている。


 レッドから、出発の指示が出た。

 各自、戦闘車両(ビークル)を起動し、のお尻の位置から、何本もの長い糸を出す。

 これに空中電場を纏わせて浮揚し、バルーニング飛行を開始する。


 戦闘車両(ビークル)五台は、操縦している互いの画像を見ながら、会話を交わすことができる。

 飛行状態が安定したところで、ピンクちゃんのモニター画像を確認してみた。

 目元をアップにしてみたら、涙目になっている。


 ピンクちゃんに気遣いながら、四人で、少しづつ話しを聞き出した。

 出立前日の八月一日、ピンクちゃんは、『薄い本頒布会』のイベントに出席した。

 そこで、『男水着チャレンジ』なるものを、強要されかけた。

 人前で、男ものの『海水パンツ』に着替えろと言われた。

 だけど、ピンクちゃんは、恥ずかしくて、恥ずかしくて、どうしても、それができなかった。

 後先考えず、その会場を逃げ出してきた。


 ピンクちゃんは、男であれば当たり前にできるはずのことが、できなかった自分にショックを受けた。

 ピンクちゃんは、女装を強要されてはいても、自分はちゃんと男だと自負していたらしい。

 ところが、一昨日、自分はもはや、すくなくとも普通の『男』ではないのだと自覚させられたのだそうだ。


 「ボク、小學校のプール授業前は、他の男子と一緒に教室で着替えてた。小學校の林間学校では、他の男子と一緒にお風呂にも入った。でも、ボク、いま、科學戦隊のみんなと一緒に着替えろって言われてもできない。科學戦隊のみんなと一緒にお風呂に入るなんて、ゼッタイ、ムリ。ボク、どうしてこんなことに、なっちゃったんだろう」


 ピンクちゃんって、肉体的にも精神的にも発達不全で、不安定なところがある。

 僕ら四人は、「ピンクちゃんは、ちゃんとオトコノコだよ」と懸命に宥めた。


 一晩、戦闘車両(ビークル)を自動運転モードにして、コクピット内で仮眠をとったら、ピンクちゃんの気持ちが上向いてきたようだ。

 四人で、軽口をたたいて、場を盛り上げようとした。


 僕は、こんな話しをした。

 「ほら、一緒に何度か、冥土喫茶『比翼の天使』にいったよな。あそこ、『男』にとっちゃ、天国だよな。ピンクちゃん、あそこのバニーメイドさん大好きだったろ?」


 ピンクちゃんが、「えっ、バレてた?」と赤面する。


 「そりゃ、バレバレだよ。『男』同士なんだから、黙ってたって分かるさ」

 そう言ってやったら、ピンクちゃんは「でへへ~っ」と照れながらも喜んでいた。


 「そうだよ」と、グリーン。

 「ピンクちゃん、僕が一目惚れしてピンクちゃんにプロポーズしたとき、自分が言ったこと覚えてる? 『ボクの恋愛対象は、女性なんです。だから、ごめんなさい』って『男』らしく、キッパリ断られたんだよ。僕は、あのとき、感じ入ったよ。ピンクちゃんって、ちゃんと『男』なんだって――」


 ピンクちゃんは「でへへへへ~~~っ」と、満面の笑顔になっていた。


 ☆


 最初に話した通り、僕ら、科學戦隊レオタンの正隊員五人は、北のツンデレ地帯へ向けて編隊飛行を続けている。

 その理由を説明するため、歴史的な事柄を説明させて欲しい。


 カストリ皇國は、中央集権化、農地改革、更には、産業革命により、文明が開花し、人口が爆発的に増大した。

 その人口を支えているのは、二つの穀倉地帯だ。

 ひとつは、南のトルソー王國との國境地帯にあるトリモチ地方の、米作だ。

 そして、もうひとつが、北のウヲッカ帝國との國境地帯、チリトリ地方の麦作だ。


 チリトリ地方、そして隣接するウヲッカ帝國にまで及ぶ一帯は、かつて、永久凍土に被われ、ツンドラ地帯と呼ばれていた。

 神話の時代、そこは、氷の女帝と呼ばれる旧き邪神の支配する土地だったという。

 そこに、緑の皇がやって、氷の女王に求婚した。

 当初、氷の女帝は、緑の皇を受け入れず、冷たく接した。

 だが、緑の皇は、懲りることなく、何度も何度も、求婚し、ついに永久凍土を溶かすことに成功した。

 以降、この地は、ツンデレ地帯と呼ばれる、穀倉地帯となった。


 ところが、緑の皇の眷属でありながら、氷の女帝に横恋慕するものがいた。

 蟲の皇だ。

 蟲の皇は、氷の女帝に恋い焦がれるあまり、時折、蝗害を起こし、この地を永久凍土に戻そうと暴れるのだという。


 この物語は、旧い神話に過ぎない。

 なのに、このあたりに住む者たちには、神話と現実をきちんと区別できていないところがある。

 ウヲッカ帝國のスイレン(睡蓮)伯爵家は、氷の女王と、同一視されがちだ。

 そして、カストリ皇國の大貴族である御影(みかげ)辺境伯家は、緑の皇となる。


 そこまでは、良い。

 問題は、この図式の中で、我が北狄(ほくてき)子爵家が、蟲の皇と見做されることだ。

 ツンデレ地帯の人々は、北狄(ほくてき)子爵領こそが蝗害の発生源だと認識している。

 それどころか、まるで北狄(ほくてき)子爵家が、意図的に蝗害を起こしているかのような言い方をされる。


 とんでもないことだ。

 そもそも、北狄(ほくてき)子爵家は、御影(みかげ)辺境伯家の臣下だ。

 御影(みかげ)辺境伯家の広大な領地の一部を預かる代官でしかない。


 蝗害に一番苦しめられてきた者こそ、我が北狄(ほくてき)子爵家とその領民なのだ。

 だから、北狄(ほくてき)子爵家は、常日頃から、積極的に蟲を採取し、観察し、蝗害を防止すべく務めてきた。


 今年の三月末、とある異変が確認された。

 それは、樟脳飛蝗(ショウノウバッタ)についてのものだ。

 羽根を擦り合わせると楠木のような香を発することから樟脳(ショウノウ)の名がある。


 樟脳飛蝗(ショウノウバッタ)は、攻撃力も、繁殖力も低い。

 本来、麦作の脅威となるような、虫ではない。


 ところが、その樟脳飛蝗(ショウノウバッタ)の中から、攻撃力も、繁殖力も格段に高い蓄膿飛蝗(チクノウバッタ)が生まれつつあるというのだ。

 身体の横にある気門から、悪臭のある膿のような毒液を出すことから、蓄膿(チクノウ)の名がある。


 北狄(ほくてき)子爵領では、蓄膿飛蝗(チクノウバッタ)の発生が確認されたら、即座に、その麦畑ごと焼き払う。

 育てた麦を焼くのは、悲しいことだが、背に腹は代えられない。


 前の大規模蝗害は、十六年前のものだ。

 あのときは、蓄膿飛蝗(チクノウバッタ)の発生が抑えられなくなり、やがて官能飛蝗(カンノウバッタ)が発生するに至った。

 官能飛蝗(カンノウバッタ)は、自制なく麦を食い尽くし、狂ったように繁殖しまくる。

 発生場所の草木を食べ尽し、新たな食料を求めて移動を開始する。

 新たな地の食料を食べ尽くしながら、数を増して被害地域を広げ、移動速度を増していく。


 だからこそ、北狄(ほくてき)子爵領では、蓄膿飛蝗(チクノウバッタ)の早期発見を心がけ、焼き払うのだ。


 だが、今年の状況は、明らかに尋常ではない。

 十六年前の状況どころでは、ないのだ。


 そんなタイミングで、更に深刻な事実が発覚した。


 注目してきた樟脳飛蝗(ショウノウバッタ)だけでなく、愚弄蜉蝣(グロウカゲロウ)燈篭蟷螂(トウロウトウロウ)の様子まで、おかしいと報告があったのだ。


 この二種は、本来、生命力の弱い種であり、危険性は低いと見做されていた。


 愚弄蜉蝣(グロウカゲロウ)は、なにもかもを小馬鹿にして、何ら行動しないまま、生まれた麦畑から出ることもなく死んでいくような種だ。

 それが、あろうことか、ふらふらと、他の麦畑に彷徨い出るようになったという。


 燈篭蟷螂(トウロウトウロウ)は、燈篭の光に吸い寄せられて、そこから身動きすることなく死んでいくような種だ。

 それが、活発に動き始めて、同族や、他種と闘う気概を見せはじめているという。



 実は、こういう状況で頼りになるのは、グリーンだ。

 動植物の生態系が、グリーンの専門分野なのだ。


 僕が、実家からの連絡内容を説明したところ、グリーンの顔色が、蒼褪め(ブルーになっ)た。

 要注意(イエロー信号)どころか、非常事態(レッド信号)だという。


 そこで、科學戦隊レオタンの正隊員五人は、僕の実家である北狄(ほくてき)子爵領まで、各自の戦闘車両(ビークル)を操作し、編隊飛行してきたのだ。


 実は、科學戦隊レオタンの正隊員五人が乗り込んでいる五台の戦闘車両(ビークル)には、二種類の合体モードがある。


 先日、地底人たちとの闘いで披露したのは、戦闘用の変形合体ロボ『レオ・ターボ』モードだ。

 そしてもうひとつが、変形することなく、正五角形状に繋がる合体ラボ『ペンタゴン』モードだ。


 リーダーのレッドが「合体ラボ『ペンタゴン』ここに推参!」と宣言する。

 そして、正五角形状に繋がって、北狄(ほくてき)子爵邸の中庭に着地した。


 イエローが、「『ペンタゴン・魔動儀パラボラ』展開」と宣言する。

 すると、合体ラボ『ペンタゴン』の内側に、五角形のパラボラアンテナが広がる。


 ラボ名称の一部になっている『魔動儀』とは、僕らが発掘した古代の『神器』だ。

『御伽噺の時代』の物語『白雪姫と悪い魔女』において、白雪姫を救わんとする皇子が授かったとされている。

 魔女が悪行をなさんとするときに発せられる『魔力振』を検知する装置なのだが、大きな『魔力振』について、だいたいの発生方向を検知することしかできない。


 この『魔動儀』について、イエローを中心とする研究チームが解析、改良を重ね、『蝗害』対策用に完成させたものこそ、この『ペンタゴン・魔動儀パラボラ』なのだ。


 『この世界』の蟲は、その種ごとに固有の、微弱な魔力を発している。

 そして、『ペンタゴン・魔動儀パラボラ』は、その広範囲分布を、視覚化できるのだ。


 ただし、これを作動させるには、膨大な魔力を必要とする。

 並大抵の者では、到底、作動不可能だ。

 だが、幸いなことに、『科學戦隊レオタン』には、人並み外れた魔力を所持している隊員がいる。


 僕ら四人は、「ピンクちゃん、お願い」と声を揃える。


 ピンクちゃんが、両手を握りしめて、「う~~~~~~ん」と力んだ。

 ピンクちゃんが着用しているセーラーレオタードの巻きスカートの中から、ブワッと、ピンクの光が溢れ出す。

 巻きスカートがはためき、ピンクの光りが踊る。

 やがて、パラボラのアンテナ面全体を発光させ、更には、細かな粒子となって、宙空に拡散していった。

~~~ 薄荷(はっか)ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~

■八月三日② ツンデレの血脈 起

去る七月三〇日、鹿鳴館學園が、前期末舞踏会に沸き立っていたあの日こと。

文化部衣装魔法少女のレンゲ(蓮華)さんと、『服飾に呪われた魔法少女』の担任である(ひそむ)先生は、大陸横断鉄道に跳び乗った。

皇都トリスで大陸縦断鉄道へと乗り継いで、北のツンデレ地帯を目指す。

レンゲ(蓮華)さんの故郷、ウヲッカ帝國の南側にあるスイレン(睡蓮)伯爵領と、(ひそむ)先生の故郷、カストリ皇國の御影(みかげ)辺境伯領が、一触即発の状態だと知らされたからだよ。


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