表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/130

■八月一日② 薄い本頒布会②

■今回の更新につきましては、所用のため更新間隔がひらいてしまい、お待たせいたしました。

今話は、個人的に、お気に入りの回となりますので、お楽しみいただければ、幸いです。


■前々回、「ブックマークに追加」や、「いいね」や、「ポイント」の★印で、皆様のお力添えをいただけますようお願いしたところ、多くの方々から、応援いただき、ほんとうに感謝いたしております。

これを励みに、鋭意邁進して参る所存ですので、今後とも御贔屓のほど、宜しくお願いいたします。

 ――どうして、こうなった!


 可能であれば、この場から逃げ出したい。

 なのに、さっきから、膝がカクカクと笑っていて、一歩も踏み出せない。


 ☆


 どうして、こうなったのかと言うと、七月七日に、あんな約束をしてしまったからだ。


 あの頃、ボク――儚内(はかない)薄荷(はっか)――と、金平(こんぺい)糖菓(とうか)ちゃんは、喇叭(らっぱ)拉太(らった)を救おうと、力を尽していた。

 拉太(らった)は、ボクの旧友だし、糖菓(とうか)ちゃんの郎党だ。


 拉太(らった)は、死んだと偽って、學園入學を逃れていた。

 これは、兵役逃れと同等の大罪であり、見つかり次第、極刑だ。


 ボクと糖菓(とうか)ちゃんは、鹿鳴館學園の學園長や、皇國軍の参謀に、拉太(らった)の助命を、願い出た。

 並大抵のことでは、死刑相当の罪を無かったことにできないことは、ボクや糖菓(とうか)ちゃんだって、分かってる。

 分ってるから、「ボクたちにできることなら、なんでもします。だから、拉太(らった)を助けてください」って、頭を下げた。

 ……そう、「なんでもします」って約束しちゃったんだよ。


 その約束の結果が、今日――八月一日――の、『薄い本頒布会』におけるステージイベント参加だ。

 何をするのか良く分からないまま、糖菓(とうか)ちゃんは『男性向け』イベントで、ボクは『女性向け』イベントで、それぞれステージに登ることを約束させられた。

 なんか、カストリ皇國の、とってもエライ人が、そう決めたらしい。


 だけど、糖菓(とうか)ちゃんと拉太(らった)は、ズルイと思う。

 というのも、その七月七日からずっと、二人は學園内で暗躍していた。

 『男性向け』イベントの主催者たちに連絡を取り、ステージイベントの内容が、糖菓(とうか)ちゃんにとって有利なものとなるよう画策していた。


 ボクの方には、そんな余裕、なかった。

 科學戦隊の戦闘訓練に耐え、南のジャングル風呂地帯における事件に巻き込まれ、やっとのことで、七月三〇日の前期末舞踏会を乗り切った。

 それだけで、精一杯だった。


 ボクは、自分が巻き込まれているあれやこれやに、ケリをつけるつもりで、前期末舞踏会に臨んだ。

 だけど、できたことといえば、後期末舞踏会まで、状況を先送りにすることだけだった。

 それでも、皇國軍の芍薬(しゃくやく)矍鑠(かくしゃく)元帥から、直接的な怒りを買うことだけは回避できたと思う。


 七月三一日は、ずっと自室に閉じ籠もっていた。

 あれは、前日に開催された前期末舞踏会で、自分がやらかしてしまった出来事から、精神的な安定を取り戻すために、必要不可欠な時間だった。


 夕方になって、やっと、『服飾に呪われた魔法少女』仲間や、『科學戦隊レオタン』メンバーに連絡を取ろうとしたけど、誰も捉まらない。


 ボクは、困ったなと思った。

 八月一日のイベントのうち、ボクが参加することになっている『女性向け』の薄い本頒布会や、ステージイベントは、『801(やおい)』の仕切りだって聞いている。

 『服飾に呪われた魔法少女』仲間の、宝生(ほうしょう)明星(みょうじょう)様は『801(やおい)』の事務局長だし、スイレン(睡蓮)レンゲ(蓮華)さんは情報部長だ。

 二人とも、前期末舞踏会に合わせて、南のジャングル風呂地帯での夏合宿から、學園に戻ってきているはずだ。

 だから、二人に連絡を取れば、薄い本頒布会で自分が何をやらされるのかを事前に把握して、なんとか乗り切れるのではと、期待していたからだ。


 結局、ずっと學園にいたはずの糖菓(とうか)ちゃんにすら連絡がつかないまま、今日=八月一日を迎えた。


 ☆


 今朝、ボクは、約束通り、平民女子寮のエントランスで、イベント担当者を待っていた。

 イベントは、『801(やおい)』OG会のエライ人が仕切っているらしい。


 ボクのいでたちは、『平服』。

 ピンクのセパレーツセーラー服姿だ。

 「事を荒立てないよう、露出と、魔力を、極力抑えた恰好で来て欲しい」って、予め案内されていたからだ。


 そこへ、やってきたのは、玉虫色のビジネススーツに身を包んだ、三十代ぐらいの女性だ。

 ヘアピン、ネックレス、タイピン、カフス、ブレスレット、指輪、アンクレット等々、ゴテゴテと飾り付けられた宝石類が、光り輝いている。

 威丈高で、マナーにうるさそうなタイプだ。

 ボクは、相手の機嫌を損ねることがないよう、カーテシーを決めて、極力丁寧に名乗った。

 で、名乗り返された。

 この方のお名前は、なんと、男爵夫人の成上(せいじょう)満子(みつこ)様だった。

 

 うわっ、前期末舞踏会で殺害された成上(せいじょう)利子(りこ)様のお母上だよ。

 ボクは、あの事件で、容疑者扱いされた。

 言っとくけど、ボクは、事件に巻き込まれただけだ。

 恥じるようなことは、なにひとつやってない。


 それなのに、成上(せいじょう)夫人は、ボクが、愛娘の利子(りこ)様から、『令嬢の転生』物語のヒロインの座を奪ったと逆恨みしている――間違いない。


 どうして、『間違いない』と言いきれるのかというと、成上(せいじょう)夫人が、挨拶直後に、ごっついダイヤの指輪が嵌まった右手中指で、ボクの頬を殴ってきたからだ。


 「利子(りこ)はね、転生前の『あの世界』の知識で、貧乏貴族だった我が成上(せいじょう)男爵家を金満家にしてくれた大切な子でしたの。それまで偶然の産物でしかなかった幻の貴腐ワインを、人の手で造り出せるようにしてくれましたの。ご存じ? あの子の造り出した幻の貴腐ワイン『貴腐人』は、成上(せいじょう)男爵領の特産品として同重量の金槐で取引されてますの。そんな金のなる木の利子(りこ)を、我が成上(せいじょう)男爵家は、あなたのせいで失ったの」


 ボクは、敢えて一発殴られてあげた。

 ダイヤに抉られた自分の頬を、しばし成上(せいじょう)夫人に見せつける。

 そのうえで、魔力を発動し、頬傷の存在を『拒否』し、消し去った。


 「『貴腐人』のネーミングも、あの子によるものですの。おかげさまで、『貴腐人』は『801(やおい)』OGの方々から、広く愛好いただいておりますわ。ご存じ? 頒布会で取り扱われる『薄い本』は、我が皇国でこそ合法だけど、他国では違法ですのよ。あの子は、皇国の『薄い本』を他国へ密輸するビジネスを始めようとしていましたの。その矢先に殺害されましたの。あの子が殺害された事件については。他国の諜報機関の関与を指摘される方も多くてよ」


 ――なんか、とんでもないこと言いはじめたよ。


 「でもね、わたくし、悪いのは、あくまで、あなただと、『逆恨み』しておりましてよ。だって、あなた、男のくせに、うちの利子(りこ)よりカワイイんですもの。あなたを見れば、白金(しろがね)鍍金(めっき)第二皇子が、うちの利子(りこ)ではなく、あなたを選んだことに納得できてしまいますもの」


 ――うわっ、この人、自分からはっきり『逆恨み』って、

   言い切ったよ。

   自覚あるんだ。


 「だから、わたくし、あなたには四の五の言わせませんわ。わたくしが、今日の頒布会で、『鍍金×薄荷』本と、『薄荷×鍍金』本を買い占めて、国外で転売することに、同意、協力していただきますいわ」


 『鍍金×薄荷』本や『薄荷×鍍金』本って、考えただけで気色悪い。

 それも何とかしたいけど、先に確認しなきゃいけないことがある。

 「ボク、今日、何をやらされるんですか?」


 「大したことではありませんわ。ただの『サイン会』ですの。頒布会で『薄い本』を購入した人が、あなたの前に並ぶから、その本にサインして、握手するだけですの。それから、来場者とは別に、わたくしが大量に仕入れた『薄い本』にもサインしてもらいますわ。あなたがサインしただけで、『薄い本』の転売価格は、数倍になりますの。最終的には、この状況を仕組んでくださった関係者の方々へ、その純利益から上納金をお納めする約束になっておりますの」


 ボクは同意して、成上(せいじょう)夫人に、ついていくしかなかった。

 サイン会だけで、成上(せいじょう)夫人をはじめとする関係者の方々に、ご納得いただけるのなら、それで構わない。


 ☆


 向かう先は、イベント会場となる學園物資流通センターの地下倉庫だ。

 學園物資流通センターは、以前訪問したショッピングモールのお隣りだ。

 学外の一般人が、入って来れる一角にある。


 つまり、ボクにとっては、かなり危険な場所だ。

 だけど、ボクは、以前ショッピングモールに行った頃より、魔力的に、そして精神的に強くなっている。

 誰かがボクに理不尽なことをしようとしたら、断固『拒否』できると思う。


 ステージイベントが予定されている學園物資流通センターの地下三階へ向かう。

 そこは、アブナイ雰囲気の人々で溢れかえっていた。

 『女性向け』イベントのはずなのに、意外なほど男性も多い。


 人波を掻き分けて、奥のステージへと進む。


 ここまで、不躾で、無遠慮な視線を向けられたことって、これまでなかったと思う。

 ネットリと糸を引くような、イヤラシイ視線だ。

 男性だけじゃなく、女性まで、そんな目でボクを見てくる。


 ――やっぱり、コワイ……。


 女性客たちは、ボクの眼前だというのに、なんかスゴイ会話を交わしている。


 「ご覧になりまして、天性の『受け』ですわ。やはり、『鍍金×薄荷』こそ王道ですわね」

 「何おっしゃいますの。己が肉体ひとつで、貧民から成り上がってきた方なのよ。『薄荷×鍍金』にこそ真実がありましてよ」

 「前期末舞踏会のあと、皇子御三方から、ヤラれちゃったって、ホントですの」

 「逆でしてよ。皇子御三方を従えて、今朝方まで一日半、好き放題なさっていたそうよ」


 ――よく、そんな、根も葉もないこと……。


 「モノホンのエロエロピンクだ」とか、囁き交わしている、男性客たちの方が、まだ、まともだよ。

 それでも、『エロエロピンクじゃなくて、お色気ピンクです』って、怒鳴り返してやりたいけどね。


 男性客がコワイのは、すぐに暴力に走ることだ。

 実際、「オレの嫁!」とか「推し様!」とか叫びながら、数人がかりでボクを押し倒そうとしてきた。

 そうなると、ボクは自分のトラウマを押さえ込むのに必死だ。

 何とか、平静を保ちつつ、問答無用で『拒否』して、壁面まで跳ね飛ばしてやった。

 あれで、死んでようがどうしようが、知ったことじゃない。


 寄って来る人たちを押し退けて、やっと、最奥に設えられたステージに辿り着いた。

 ステージ上の横断幕には、『セーラー服魔法少女&お色気ピンク サイン会』と書かれている。


 ボクが、登壇したところで、会場内に、女性アナウンサーの声が響きわたった。

 「さあ、みなさんお待ちかねのイベント開始です。今日、この会場には、『服飾に呪われた魔法少女』のお一人『セーラー服魔法少女薄荷(はっか)ちゃん』と、『科學戦隊レオタン』のお一人『お色気ピンク薄荷(はっか)ちゃん』、このお二人に来ていただきました!」


 ――いや、いや、どっちも薄荷(はっか)って名前だから、

   ここにいるのって、ボク一人だけだよね。


 「では、ここで、いきなり、サプライズです。薄荷(はっか)ちゃんには、『サイン会』だと偽って、ここまで来ていただきました。今日、ここで繰り広げられるホントのイベントタイトルは――これです」


 アナウンサーが声を張り上げた。

 「薄荷(はっか)ちゃんの男水着チャレンジショー」

 同時に、頭上のサイン会と書かれた横断幕が剥がされ、差し替えられた。


 ステージ上に、成上(せいじょう)夫人が登ってきた。

 その手には、男子用のスクール水着、つまり『海水パンツ』が握られている。

 小學生がプールの授業で履かされる、ごく一般的な、紺色のトランクスタイプのものだ。

 どうでもいいけど、股下が、えらく短い。


 成上(せいじょう)夫人が、『海水パンツ』を掲げてみせる。

 「あなたには、今日この場で、『海水パンツ』一丁になってもらいますわ。このことについては、この國のエライ人たちから、了解をいただいておりましてよ。あなた、エライ人たちに、約束したのでしょ。『なんでもします』って」


 ボクは、その迫力に気圧されて、思わず後退る。


 「これはね、無念のうちに、あなたに殺された我が娘、利子(りこ)に成り代わっての復讐でもありますの。さあ、これを、受け取りなさい」


 ボクは、思わず、その『海水パンツ』を受け取ってしまった。

 「……こっ、この場で、履くの?」


 「そうよ、この場で、生着替えよ。せめてもの慈悲として、最初にスカートの中で履き替えてから、服を脱ぐことを許してあげますわ」


 ボクは、『海水パンツ』を両手で握りしめ、凝視する。


 どこから、どう見ても、ごく普通の、『海水パンツ』だ。

 ボクは、小學生のとき、これと同じ『海水パンツ』一丁になって、プールの授業を受けていた。

 それは、当たり前のことで、恥ずかしいことでも何でもない。


 なのに、押し寄せてくるこの恥ずかしさは、なんだろう。

 この羞恥心は、この背徳感は、何だろう。


 「おや、まさか、オンナノコみたいに、ムネを露にするのが、恥ずかしいなんて思っているのではありませんよね。あなた、ことあるごとに、自分は、オトコノコだって主張してましたよね。そもそも、オトコノコが、男水着を着るのは当たり前のことですの。『チャレンジ』でもなんでもありませんわ。さあ、オトコノコなら、堂々と着替えなさい!」


 数カ月前まで、当たり前にできていたはずのことが、今のボクには……できない。

 『海水パンツ』を握る手が、カクカクと震える。


 ――だめだ、それをやったら、

   ×××××としてオシマイだ。


 ――どう、オシマイなの?

   オトコノコとして?

   そんなことないよね。

   じゃあ、オンナノコとして?


 ――男の娘として、だよ!


 こんなこと、ここで言ったら、欲望の赴くまま、このイベント会場に集った人々から、(なじ)られ、詰め寄られ、強制お着替えどころか、メチャクチャにされちゃうに違いない。

 だけど、言わなきゃ。


 「ごめんなさい。『海水パンツ』一丁になるなんて、恥ずかしくてボクにはできません。ボク、オトコノコ失格です。どうか、これからボクのことは、名誉女子として蔑んでください」


 『なんか、へん?』と、首を傾げた。

 人でいっぱいのイベント会場内が、静まり返っている。

 な、なんなの、この居心地の悪さは……。


 続いて、微かな呟きが、伝播していく。

 「これこそ、男の娘だ……」

 「男の娘の顕現よ……」

 「尊い……」

 「崇拝すべき新たな神使(じんし)様が降臨された……」


 ――あれっ? 蔑んでってお願いしたのに、

   なんで、拝まれてるの。


 違和感を感じて、自分の身体を見おろす。

 ボクのミニスカートの中から、真っ白い光が溢れ出ていた。

 イベント会場の照明が薄暗かったこともあって、ミニスカのプリーツに沿って、四方八方に、光の筋が放たれている。

 雲の隙間から筋のように陽光が射す光芒(こうぼう)、いわゆる「天使の梯子」めいた光だ。


 これって、ボクがミニスカの下に履いている(パーフェクト)(アーマー)(ネイキッド)2式に宿ってらっしゃる白鼠様の御力が、ボクを護ってくださってるのだと思う。

 でも、なんか、みんな、白鼠様の御力を、ボクの力だと勘違いしているみたい。


 男も、女も、雷にでも撃たれたかのように、全身をわななかせて。ボクを見てる。

 ボクに向かって、祈る。

 ボクに、躙り寄る。

 ボクを、抱擁しようとして、手を伸ばしてくる。


 コワイ。

 このまま、ここにいたら、ここにいる人たちから、生きたまま、全身を引きちぎられ、喰い殺されそうな気がして、コワイ。


 ボクは、咄嗟に、自らを護るべく、衣装を、『体育服』の、ノースリーブ・セーラーワンピにチェンジした。

 チェンジと同時に、背中に、たすき掛けにされた、『転生勇者の(つるぎ)ネコ』が顕現した。


 このとき、ボクは、『転生勇者の(つるぎ)ネコ』を呼んだ覚えがない。

 なのに、勝手に顕現していた。


 更に、『転生勇者の(つるぎ)ネコ』は、勝手に起動した。

 ふわりと浮きあがり、鞘ごと半回転し、柄を下にして、手元に降りて来た。


 本当なら、『転生勇者の(つるぎ)ネコ』は、ボクが「男の娘のひみつ、見せてあげる♥」と呪文を唱えなければ、起動しない。

 なのに、勝手に、ボクの眼前に、浮かんできた。

 しかも、メチャクチャ重い(つるぎ)なのに、フワフワ浮いている。


 『転生勇者の(つるぎ)ネコ』は、柄も、鍔も、鞘も、どピンクだ。

 此処彼処に散らされた、花柄や、ハートや、星の模様が、キラキラと輝いている。


 そして、『転生勇者の(つるぎ)ネコ』は、ボクに語りかけてきた。

 「主が願うのであれば、吾輩が助けてしんぜよう」


 ボクは、懇願した。

 「お願い、ボクをこの場から逃がして」


 『転生勇者の(つるぎ)ネコ』は、鞘ごと、更に半回転して、ボクの股下に収まった。

 「承知した。魔女ならば、己が得物で、飛べ」


 『転生勇者の(つるぎ)ネコ』は、ボクの身体を、ふわりと持ち上げてきた。

 學園物資流通センターの地下三階の天井あたりまで、四メートル近く、浮かび上がった。


 ボクは、こんなときも、運動音痴で、鈍くさい。

 バランスが保てず、(つるぎ)を、両腕両脚で抱きしめたまま、ひっくり返る。


 浮遊する(つるぎ)に、ぶら下がった恰好になってしまった。

 しかも、お尻の方を、前に突き出した状態だ。

 そして、ボクのお尻は、光りを放ち続けている。


 不様だけど、このまま逃げ出すしかない。

 このまま逃げてしまえば、すべてを、うやむやにできる気がする。


 ボクは、ここぞとばかりに、恥ずかしさで高まっている魔力を、かき集めた。

 ゆっくりと飛翔して、イベント会場の出口を目指す。

 ボクが移動するのに従って、履いているミニスカが、光の帯を残していく。


 浮遊しながら見おろす。

 会場中の人たちが、ボクのミニスカから溢れ出す光に向かって、両手を合わせて、拝んでいた。


 ――イヤ、ダカラ、ナンナノ、コレ。

   ボクの股間なんか拝んで、

   みんな、どうかしている。


 途中で、手にしていた『海水パンツ』を投げ捨てた。

 『海水パンツ』の奪い合いが巻き起こり、みるみる死闘に発展している。


 イベント会場の入口へ辿り着き、宙に浮いたまま、そのドアを蹴り開ける。

 ドアから抜け出る瞬間、振り返る。

 対岸のステージ上で、成上(せいじょう)夫人が、ボクのことを睨みながら、地団駄を踏んでいるのが見えた。

~~~ 薄荷(はっか)ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~

■八月三日① 蟲の皇 起

ボク、自分が、もはや普通のオトコノコじゃなくなったみたいって、落ち込んでる。

こんな状態なのに、科學戦隊は、ツンドラ地帯へ、出動だ。

科學戦隊のみんなが、ずっと心配していた蝗害が、いよいよ本格化しそうなんだって。

そうだよ、ボク、俯いている場合じゃない。

がんばらなきゃ。

ボク、このときのために『お色気ピンク』を、引き受けたんだから……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ