■七月三〇日② 温泉合宿大作戦 結② 撮影
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そして、この物語を読み進めてくださっている方々に、感謝いたします。
皆様さまがいてくださることで、書き進めることができています。
毎日ちゃんと取り組んでいるのですが、物語が複雑化してきて、このところ、書き進めることのできる文書量が減ってきています。
更新間隔に影響が出ないよう、頑張っているところです。
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♥♥♥服飾に呪われた魔法少女テレビシリーズ
♥♥♥第六話 温泉合宿大作戦 結②
わたしは、予知の極光智子。
『カードパーシヴァーさいこ』の一人よ。
わたしの仲間たちは、前期末舞踏会が開催される鹿鳴館の各所に散っている。
念話で状況を共有し、薄荷様が選択する未来を見守るためよ。
司会者から、舞踏会の開催が宣言され、ファーストダンスを務める、二カップルが紹介された。
黄金皇子と智恵公女、そして、鍍金皇子と牡丹公女の二組よ。
オーケストラビットで、指揮者が、タクトを振り上げ、ファーストダンスが始まったのと同じころ……。
鹿鳴館の前庭に、三台目の馬車が入って来ようとしていたわ。
ここに乗り付ける馬車は、オープンカーでなければならない習わしなのに、その馬車には屋根がある。
窓のカーテンも閉じられているので、乗っている人物が見えない。
事前許可を得ていない馬車であり、中の様子も視認できないため、検問所を守る騎士団から、入念なチェックを受けることとなった。
だが、それでも追い返されることなく、馬車は前庭に入り、車寄せに停まった。
馬車から、まず、男性が降りてきた。
第三皇子の白金白銀様だった。
ちょっと気に入らないことがあるだけで、剣を振り回して暴れる、お騒がせ皇子だ。
入学して四カ月で、既に十数人を、理由もなく斬り殺しているらしいの。
金襴王妃の子ではあるんだけど、幼い頃から問題行動が多くて、許嫁も、支持してくれる貴族もいない。
それでも、皇位継承権は、持っている。
ちゃんとパートナーを連れて乗り付けてきたから、騎士団としては、鹿鳴館に馬車を通すしかなかったみたいね。
白銀皇子の衣装がまた、とんでもないの。
どぎつい、赤と緑の市松模様の布地って、あり得ないでしょ。
あんなんでも、ちゃんとした礼服に仕立て上げられているから、文句のつけようがなかったのね、きっと。
被っている帽子だけでも、外させたらって、思うわ。
側頭部に突き出た、赤と緑の二本ヅノに、鈴がつけられている、道化師の帽子なの。
これって、自分で自分のことを、カリカチュアライズしているようなものね。
そして、腰に、儀礼剣を吊していることを、言い忘れちゃいけない。
まさに、なんとかに刃物、ね。
白銀皇子は、外に出て来ようとしない、自らのパートナーを、馬車の中から、引っ張りだそうとしている。
馬車の中から「こんな、恥ずかしい恰好、やっぱり、ムリ。ムリだから!」と、抵抗する声が聞こえる。
白銀皇子は、自分のパートナーを、抱きかかえるようにして、力尽くで衆目の前に引き出したわ。
そのパートナーって、確かに、人前にでるような恰好じゃなかったわ。
ひとことで言うと、ピンク色をしたシースルーのベビードールドレス。
ミニ丈しかない、ネグリジェみたいなもの。
フォーマルな舞踏会に、こんな破廉恥な恰好で出るなど、許されない。
でも、わたしは、ちゃんと知っているわ。
これって、神器の『お色気水着』を、服飾文化研究部が、夏合宿中に改造したものなの。
あのセーラービキニのトップスに、PAN2式用に開発された極薄の布地を付けて、ルースな広がりの裾を、美しく創りだしたものなの。
そう、白銀皇子のパートナーって、『お色気水着』で、Gカップ女体化を果した儚内薄荷様なのよ。
こんな不謹慎なベビードールドレスで、鹿鳴館の舞踏会に足を踏み入れようとすれば、ふつうなら、露出狂扱いで、逮捕、拘留されるわ。
騎士団であろうと、皇國軍であろうと、警察機構であろうと、同じ対応をするはず。
ただ、皇位継承権を持つ御方が、自身のパートナーとして同伴されたとなると、話しは別。
例えるなら、選挙立候補者が、政見放送において、放送禁止用語を口にしても許されるようなものかしら。
白銀皇子は、馬車の中に、もう一度手を伸ばし、一メートル半以上ある棒状のものを取り出し、パートナーの肩に、袈裟懸けにしたわ。
『転生勇者の剣ネコ』なの。
これでもう、このピンクのロリ巨乳の正体が、実は薄荷様だってことは、誰の目にも明らか。
その有様は、ファーストダンスそっちのけで、テレビ中継もされてるわ。
もはや、薄荷様は、公開処刑状態で、逃げ隠れのしようもないの。
白銀皇子は、薄荷様が逃げられないよう、その片手をキツく握り、引き摺るようにして歩き出した。
しかも、声高に、薄荷様を詰りながら――。
「いまさら、なにを、しり込みしているの? ホント、支離滅裂なヤツだな。昨夜は、自分の方からオレのところに逃げて来たくせに――。こんなあられもない恰好で、部屋にやってきたら、もう抱かれるつもりだって、男はみんな思うだろ」
「そのうえ、自分から、浴室に行っておきながら、その浴室に『拒否』の力で結界を張って、一晩立て籠もった。でもって、今朝、舞踏会に遅刻するギリギリのタイミングで、浴室から出てきて、これまた、自分の方から鹿鳴館までのエスコートしろって、要求してきたよね」
「なのに、ファーストダンス開始のアナウンスが聞こえてきたら、馬車に立て籠もるって、どういうこと? これって、あれかな? オレの皇選パートナーの地位だけ得ときながら、オレとの婚約成立とみなされる、ファーストダンスは踊りたくないってことかな?」
薄荷様は、黙秘して、ツンと横を向く。
☆
白銀皇子が、薄荷様を引き摺るようにして、ダンスホールに辿り着いたわ。
それは、ちょうど、ファーストダンスが終わるタイミングだったの。
黄金皇子と智恵公女は、王者の風格がある、隙の無いオーソドックスなダンス。
対する鍍金皇子と牡丹公女は、アグレッシブなダンスで、相手カップルを攻め立てていたわ。
二カップルが、鳴り止まない満場の拍手に応えているところへ、白銀皇子が、ヅカヅカと踏み込んできたわ。
そして、自分のパートナーを抱えあげ、二カップルの間に、投げ入れた。
人ではなく、爆弾でも投げ入れるような、粗雑な扱いだったわ。
「黄金兄上も、鍍金兄上も、四月の祝入學進學舞踏会で、オレが言ったこと覚えてるよね。二年生の大物語『令嬢の転生』にも、三年生の大物語『勇者の召喚』にも、この子は渡さないって――。一年生の大物語である『服飾の呪い』のキャラであるピンクのセーラー服に呪われたこの子は、三年生の黄金兄上のものでも、二年生の鍍金兄上のものでもなく、同じ一年生の皇族である、オレのものだって――」
「オレ、宣言するからね。オレは、今日、この子を同伴して、馬車でここに乗り付けた。この意味分かるよね。この子は、オレの玩具で、この玩具を壊していいのはオレだけだって――」
異母兄弟の鍍金皇子が、「ふん」と鼻で笑い飛ばしたわ。
「この子に、先に、ツバを付けたのは俺様だぜ。白銀、オマエは、子供の頃から、いつだって口だけだ。この子を自分の玩具だって言っているが、どうせ一晩一緒に居ながら、まだ持ち主として自分の名前を書き込めてもいないんだろ?」
同腹である黄金皇子まで、口調が冷たいの。
「白銀、鹿鳴館に馬車で乗り付けることなんて、儀礼上のものでしかない。支持してくれる者たちもなく、皇選に立候補することなんて、できないぞ」
「オレを支持してくれる者ならちゃんといる。喇叭辣人、辣人は、どこにいる? あの人、連れてきてくれた?」
白銀皇子が、キョロキョロと、ダンスホールを見回したわ。
だが、名を呼ばれた者からの、返事はない。
「おーい、辣人! 今日、ここで、あの御方と、密談する約束だから、来てるよな? すぐに、ここに、出てこないと、預かり物の、『黙示禄の喇叭』を吹くぞ!」
白銀皇子は、懐から、歪な形の喇叭』を取りだしたの。
その喇叭の外見は、まるで、人間の大腿骨で造られているのではないかと思えるほどの邪悪さよ。
天井が低くなっているところにある、バイキング形式の立食テーブルに張り付いていた生徒が、慌てて、駆け寄ってきたわ。
「それを不用意に吹いてはなりません」
水泳部キャプテンの喇叭辣人だわ。
今日の辣人は、學園の制服姿よ。
どうやら、没個性的な辣人の場合、競泳パンツ姿でなく、学生服を着用するだけで、一般生徒の中に紛れ込めるみたい。
「白銀皇子、なんという軽はずみなことを、なさるのです。その喇叭は、オレが、あの御方から『魔族四天王』であると認めていただいた証しとして、皇子にお貸ししただけ。こんなところで、軽々に吹き鳴らして良いものではないのです。今日の密談時に、お返しいただく約束だったでしょう」
「迂闊にこんなことをされるから、我々の結託が露見してしまったではありませんか! そもそも、白銀皇子は、あの御方から、秋になるまで大人しくしているよう、言い含められて、おいででしょう」
「いやだ、秋までなんて待てない。この場を逃したら、皇選立候補を表明できるのは、十二月の後期末舞踏会になってしまう。それでは、間に合わぬ!」
「とにかく、喇叭をお返しください」
辣人が、白銀皇子の手から、素早く喇叭を掠め取ったわ。
「密談も仕切り直しです。このフラインングは、あの御方に報告させていただきますからね」
辣人は、そう言い残すや、走り去っていったわ。
複数の仲間を、此処彼処に配していたみたいよ。
取り押さえようとしてくる騎士団のメンバーに、陽動を仕掛けて、素早い動きで、再び他の生徒たちの間に、潜り込んでしまったわ。
白銀皇子は、なにもかも自分の思い通りにならないことに、地団駄踏んで、癇癪を起こしているわ。
「オレのことバカにしやがって!」と、床に転がったままの薄荷様を睨んだわ。
そして、薄荷様向かって、腰に吊した儀礼剣を抜き放ったの。
「この場で、オマエの身体に、オレの名を刻んでやる」
薄荷様は、反射的に、自分の背中に吊した『転生勇者の剣ネコ』の柄を握りしめたわ。
「抜けるなら、抜いて見せろよ。いかなる物語的必然性があろうと、皇族に向かって抜剣したら、それだけで不敬罪だ。オマエと。オマエの家族は、全員絞首刑だな」
薄荷様は、あまりの理不尽さに唇を噛みしめながらも、剣を抜くのを断念したの。
あの表情は、もうここで死んでもいいと、生を諦めた表情ね。
「きひ、きひ、きひ」と」白銀皇子が嗤ったわ。
薄荷様の諦観した表情が、白銀皇子を喜ばせたみたい。
「最初っから、そうやって、従順にしてりゃあよかったんだ。そうだ、その憎たらしい両の目玉をくり抜いてやろう。そうすりゃ、黙って、オレに手を曳かれてるしかなくなるからな」
白銀皇子が、片手を伸ばして、薄荷様のGカップの胸を、ぐいっと掴んだわ。
そして、もう片方の手にある儀礼剣を、薄荷様の眼窩に突き入れようと――。
その剣先と眼球の間に、素早く、手にしていた扇を割り込ませた者がいたわ。
牡丹公女よ。
牡丹公女は、不敵に笑ったわ。
「言っておきますけど、わたくし、鍍金皇子と、ファーストダンスを踊ったところですの。つまり、ファーストレディ候補となったところですの。たとえ、皇子であろうとも、皇后候補に手をあげることなど許されなくてよ。」
「このピンクの子は、わたくしのものでしてよ。このピンクの子は『令嬢の転生』のヒロインですのよ。それを虐めて良いのは、『悪役令嬢』のロールを持つ、わたくしだけですの。その汚い手を、このピンクの子の胸から離しなさいな。わたくし、その偽巨乳を揉んでみたかったのよ」
牡丹公女は、薄荷様の胸から、白銀皇子の手を払いのけ、代わりに自分が、モミモミしてみせたわ。
白銀皇子は、口惜しげに身を震わせながらも、一歩下がったの。
白銀皇子は、乱心しているように装っていても、実のところは小心者なの。
皇子の自分であっても、他の皇子の婚約者には触れることすら許されないって、ちゃんと分かっているの。
牡丹公女は、白銀皇子の腰が引けていることを見て取り、ふんと、鼻先で嗤いとばしたわ。
その表情は、まさに『悪役令嬢』としての貫禄に満ちていたの。
牡丹公女は、その眼光を薄荷様に向けたわ。
薄荷様の偽巨乳を掴んだまま、詰め寄ったわ。
「薄荷、どうしてですの? どうして、昨日、逃げましたの? わたくし、昨日、薄荷にお話ししましたよね。薄荷が第一夫人になることで、鍍金様が皇太子となれる可能性が高まるの。それは、わたくしの望みでもあるの。鍍金様の第一夫人の座は、あなたに差し上げますって――。わたくしは、第二夫人で構わないって――。」
「薄荷、こんなにステキな鍍金様のどこに不満があるというの? 薄荷は、あろうことか、自ら白銀皇子の元へ逃げ、一晩を共にした。そうなってしまっては、鍍金様擁立のために婚約者となれるのは、わたくしだけです。だから、わたくしは、薄荷のことを断腸の思いで諦めて、鍍金様とファーストダンスを踊ったのです。薄荷、ちゃんと答えて、どうして、こんなことしたの」
薄荷様が、沈痛な面持ちで、口を開いたわ。
「ボク、取巻令嬢の、亡くなられた末摘花子様、それから、石榴石女様と、通草明美」様の御三方とお話ししました。御三方とも、牡丹様を敬愛されていて、牡丹様こそ、ファーストレディに相応しいとお考えです。それから、ボク、牡丹様のお父上であらせられる、矍鑠元帥の、牡丹様への情愛も聞き及んでいます。矍鑠元帥は、愛娘の牡丹様に、ファーストレディ云々以前に、愛される正妻であって欲しいとお考えです。愛娘が側室になることなど、父親として受け入れられないのでしょう」
「ボク、牡丹様ご自身が、鍍金皇子に相応しいファーストレディとなるべく、物心ついて以来研鑽されて来られたことだって、知っています。厳しい躾に耐え、勉学に勤しんでこられたのですよね」
「ボクなんか、名誉女子でしかないのに、物語から勝手にヒロインに選ばれただけなんです。学も気品もない貧民で、つい最近まで、ダンスも踊れなかったんですよ。それに、小心者のボクには、牡丹様を悪役令嬢に仕立てあげて、その座を簒奪するなんて、大それたまねはできません」
「で、どうしたら、牡丹様に、ボクを見捨てて、心置きなく鍍金皇子の正妻になっていただけるか考えました。ボクに、やっと思いつけたのが、こんな方法だけだったんです。鍍金皇子がいかにボクを望んでおられても、そのボクが、クズの第三皇子の元に走ったとなれば、対抗上、先に、婚約を確定するしかないですよね」
薄荷様が、鍍金皇子に向き直る。
「鍍金皇子、言っておきますが、ボクは、皇子との約束を破ったりしてませんよ。ボクが皇子にお約束したのは、この舞踏会で一曲踊ることだけです。会場までのエスコートも、ファーストダンスもお約束してません。だから、今からでも、鍍金皇子がお誘いくださるなら、この後、ダンスをお受けします」
薄荷様が、黄金皇子に向き直る。
「この機会に、黄金皇子にもお話ししておきたいことがあります。黄金皇子は、意図的に、生徒会会計の座を空席にして、ボクの入學を待っておられましたよね。今期生徒会会計の座は、そのまま黄金皇子の側室の座なんだって、いくら色恋にも政治にも疎いボクだって分かります」
「それこそ、二月の生徒会役員選挙以降、会計になりたいとの申し出られたご令嬢方が、何人もいらしていたはずです。でも、黄金生徒会長は、昨年十二月の神逢祭において、翌年の大物語が『服飾の呪い』と決まり、そこに『服飾に呪われた魔法少女』五人が登場することまで、知っておられた。だからこそ、黄金皇子は、皇選のライバルとなるご兄弟二人に先手を打って、ツバをつけるべく、生徒会会計の座を用意されたのですよね」
「黄金皇子には、いいかげんボクを諦めて、候補者の中から、生徒会会計を選んでくださるよう、お願いします」
薄荷様は、決まったとばかりの、ドヤ顔なの。
それを見た鍍金皇子は、やれやれという、呆れ顔ね。
「薄荷、よく見な。俺様も、黄金兄上も、そして、白銀も、オマエを諦めていないぞ。正妻や、側室でなんかなくとも、オマエを手に入れるだけで充分なんだ。だってオマエは、いまや、この世界の『変革』を引き起こした偶像なんだからな」
続いて、黄金皇子が、『必殺皇子スマイル』で止めを刺したわ。
「これは、もう、十二月に開催される後期末舞踏会へ向けての、第二ラウンド開始かな」
得意満面だった薄荷様の表情が、愕然としたものに変わったわ。
薄荷様は、浅はかにも、舞踏会という場で、これだけのことを仕出かせば、自分を攻略対象から外してもらえると、考えていたみたい。
☆
結局、薄荷様は、皇子三人と、順に踊るハメになったわ。
それでも、こんなこと、前代未聞よ。
鹿鳴館の舞踏会において、一人の子が、皇子三人を独占するなんて――。
しかも、その子は、女ですらない、名誉女子。
後宮入りしたとしても、子を成すことすらできないの。
皇子の誰かを狙っていた高位の令嬢たちから、嫉妬の籠もった視線を向けられてたわ。
この場で直接何かされることはないでしょうけど、この先が思いやられるわ。
政治的にハメられたり、謀殺されたりする可能性も高いわ。
この先、『カードパーシヴァーさいこ』のメンバーが、常時交代で貼り付いて、安全確保しなきゃマズイと思う。
☆
薄荷様のダンスなんだけど……ホント、酷かった……見てられなかった。
わたし、薄荷様が『道衣』のセーラーレオタードでなら、魔力を身に纏わせて、それなりに踊れるようになったって、知ってるの。
それに、偶像としてのダンスなら、見られなくもないレベルになってきていたの。
薄荷様は、とにかく、まず、カップルで、男の人とダンスするという時点で、意識下の拒否反応があるみたい。
そして、今日の薄荷様は、『お色気水着』を薄い布で飾っただけの衣装なの。
あれって、下着認定で、『服飾の呪い』こそ発動しないけど、魔力は込められない。
最大の問題は、慣れないGカップ女体化しているってこと。
股間は軽量化しているのに、胸の前で、でっかい重しが二つ、撓んでいる。
そのうえ、長くて重い『転生勇者の剣ネコ』が背中で揺れている。
薄荷様は、魔力なしでも、どうにかリズムだけは取れるようになったハズ……。
なのに、一足ごとに、ポヨンポヨン、身体が、揺れる、揺れる。
ターンなんてさせられたら、パートナーの支えがなきゃ、毎度すっ転んでる。
皇子様方からすれば、ターンの度ごとに、薄荷様の豊満な胸が、揺れて、押しつけられる。
三人とも、マジ嬉しそうに、薄荷様の身体をクルクル回してる。
ダンスパートナーは、鍍金皇子、黄金皇子、白銀皇子の順番だったわ。
問題は、最後の、白銀皇子ね。
明らかに様子がオカシイの。
いや、白銀皇子の様子がオカシイのは、いつものことなんだけど、いつもと違うオカシさなの。
鼻息荒く、むやみに顔を寄せてきて、スキがあればキスしようってしてる。
皇國の皇子様方って、幼い頃から、性指南役が付くの。
若くして寡婦となられた貴族女性が選ばれるの。
でね、白銀皇子なんだけど、性指南役となった女性二人を、斬り殺しちゃったんだって。
以来、性指南役のなり手がなくて、皇子様方の中でお一人だけ、女性経験のないままらしいの。
白銀皇子ったら、普通の女性には奥手なくせに、いまの薄荷様には、メッチャ発情しまくってる。
遂には、ダンスの途中で、薄荷様の胸に振り回されてバランス崩したふりして、そのまま押し倒しちゃった。
薄荷様のベビードールドレスを捲って、ボトムスに手を差し込んだものだから――。
ベビードールドレスから透けて見える薄荷様の肉体が、瞬時に、男の子に戻っちゃった。
だから、薄荷様は、咄嗟に、自分の衣装を、『平服』のセパレーツセーラー服にチェンジさせた。
どうせなら、『道衣』のセーラーレオタードにチェンジしてれば、薄荷様の身体能力が格段に跳ね上がって、たやすく白銀皇子をいなせたはず。
なのに、慌ててたから、一番布地の量が多くて安心できる『平服』を選んじゃったんだね。
だからだろうけど、白銀皇子の手は、まだ『平服』のミニスカートの中だよ。
薄荷様が、自分のミニスカートお尻のあたりに、急いで手を差し入れる。
その下から、PAN2式が、チラリと見えた。
皇國軍造兵廠が総力をあげて開発した、薄荷様専用の特殊兵装だよ。
ちゃんと見えなかったけど、そのPAN2式のお尻には、白鼠様の絵姿があるはず。
マンガキャラクター化され、可愛らしくデフォルメされ、『SHIRONEZU―CYAMA』と丸っこいフォントで書き添えられているの。
薄荷様は、白鼠様が描かれているあたりの、自分のお尻を慌てて二回叩く。
「お尻ぺんぺん。白鼠様、助けて!」
白鼠様の絵姿が、薄荷様のお尻から、ポンと飛びだしてきた。
顕現されると同時に、その御姿は、本来のリアルな白鼠に戻っていたわ。
白鼠様は、薄荷様を護るように、その眼前に浮いてる。
「チューーーーーーッ!」と鳴く。
白鼠様と薄荷様を包み込むように、球状聖域が出現する。
白銀皇子は、球状聖域の外に弾き出されたわ。
もし、これをやったのが薄荷様自身や、他の誰かだったら、その場で逮捕されて極刑となったわね。
でも、これは、御社の神使の一柱であらせられる白鼠様のなさったこと。
白鼠様については、敬いこそすれ、裁くなんてとんでもない。
白鼠様が、「チュッ、チュチュウ、チューッ!」と、白銀皇子ではなく、薄荷様を叱りつけている。
薄荷様が、「ごめんなさい、ごめんなさい。ボクが、名誉女子としての自覚と、貞操観念が足りませんでした。ごめんなさい」と、平身低頭謝ってる。
「チューッ、チュッ、チュッ、チュチュチューーッ!」と、白鼠様の怒りが収まらない。
「えっ、昨夜からのボクの行動が破廉恥だって、白鹿様まで怒ってらっしゃるんですか! 御社の総本山である鹿鳴館をお騒がせしたことは、幾重にも、お詫びいたします。いや、だけど、ボク、畏れ多くて、白鹿様の御前なんて――」
「チュチュチューーーーーーーッ!チュチュッ、チュッ!」
白鼠様が、宙に浮いたまま、薄荷様のセーラー襟を咥え上げる。
ポンと、白鼠様と薄荷様の姿が、掻き消えた。
その後、暫くして、何事も無かったかのように、舞踏会は再開、続行されたの。
☆
わたし――極光智子――としては、可能であれば、ここで薄荷様に、御注進に及びたいことがあったの。
自分たちが、直接接触できない立場であることが、ほんとうに口惜しい。
薄荷様は、あの騒動の渦中にいながら、口を一度も開かなかった方が、おひとり、いらしたことに、気づいてらっしゃるかしら……。
本当にコワイのは、その方なのです。
ほら、ここに『悪役令嬢もの』のゲームや、物語があるとしたら、恐いのは悪役令嬢よね。
でも、ほら、よく考えて。
『悪役令嬢』以上に、とんでもなく恐い方が、最後の最後に控えていらっしゃるでしょう。
そう、『ラスボス』よ。
大物語『令嬢の転生』のラスボスこそ、誰あろう……萵苣智恵様なの。
~~~ 薄荷ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~
■八月一日① 薄い本頒布会①
『男性向け』と『女性向け』両方の『薄い本』が集まる、年一回の地下イベント、『薄い本頒布会』が開催されようとしていた。
今年の『男性向け薄い本』は、偶像となった『服飾に呪われた魔法少女』に人気が集中していた。
また、『薄い本頒布会』では、『男性向け』と『女性向け』のステージイベントが併催される。
今年の、『男性向け』ステージイベントの背後では、『新水泳部』が暗躍しているみたい。