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■七月三〇日② 温泉合宿大作戦 結② 撮影

先日「ポイント」を入れて下さった方、ありがとうございます。

そして、この物語を読み進めてくださっている方々に、感謝いたします。

皆様さまがいてくださることで、書き進めることができています。

毎日ちゃんと取り組んでいるのですが、物語が複雑化してきて、このところ、書き進めることのできる文書量が減ってきています。

更新間隔に影響が出ないよう、頑張っているところです。

ぜひ、「ブックマークに追加」や、「いいね」や、「ポイント」の★印で、皆様のお力添えをいただけますよう、宜しくお願いいたします。

  ♥♥♥服飾に呪われた魔法少女テレビシリーズ

  ♥♥♥第六話 温泉合宿大作戦 結②


 わたしは、予知プレコグニション極光(きょっこう)智子(ともこ)

 『カードパーシヴァー(知覚者)さいこ(PSI)』の一人よ。


 わたしの仲間たちは、前期末舞踏会が開催される鹿鳴館の各所に散っている。

 念話(テレパシー)で状況を共有し、薄荷(はっか)様が選択する未来を見守るためよ。


 司会者から、舞踏会の開催が宣言され、ファーストダンスを務める、二カップルが紹介された。

 黄金(こがね)皇子と智恵(ちえ)公女、そして、鍍金(めっき)皇子と牡丹(ぼたん)公女の二組よ。


 オーケストラビットで、指揮者が、タクトを振り上げ、ファーストダンスが始まったのと同じころ……。

 鹿鳴館の前庭に、三台目の馬車が入って来ようとしていたわ。


 ここに乗り付ける馬車は、オープンカーでなければならない習わしなのに、その馬車には屋根がある。

 窓のカーテンも閉じられているので、乗っている人物が見えない。


 事前許可を得ていない馬車であり、中の様子も視認できないため、検問所を守る騎士団から、入念なチェックを受けることとなった。

 だが、それでも追い返されることなく、馬車は前庭に入り、車寄せに停まった。


 馬車から、まず、男性が降りてきた。

 第三皇子の白金(しろがね)白銀(しろがね)様だった。

 ちょっと気に入らないことがあるだけで、剣を振り回して暴れる、お騒がせ皇子だ。

 入学して四カ月で、既に十数人を、理由もなく斬り殺しているらしいの。


 金襴(きらん)王妃の子ではあるんだけど、幼い頃から問題行動が多くて、許嫁も、支持してくれる貴族もいない。

 それでも、皇位継承権は、持っている。

 ちゃんとパートナーを連れて乗り付けてきたから、騎士団としては、鹿鳴館に馬車を通すしかなかったみたいね。


 白銀(しろがね)皇子の衣装がまた、とんでもないの。

 どぎつい、赤と緑の市松模様の布地って、あり得ないでしょ。

 あんなんでも、ちゃんとした礼服に仕立て上げられているから、文句のつけようがなかったのね、きっと。


 被っている帽子だけでも、外させたらって、思うわ。

 側頭部に突き出た、赤と緑の二本ヅノに、鈴がつけられている、道化師の帽子なの。

 これって、自分で自分のことを、カリカチュアライズしているようなものね。


 そして、腰に、儀礼剣を吊していることを、言い忘れちゃいけない。

 まさに、なんとかに刃物、ね。


 白銀(しろがね)皇子は、外に出て来ようとしない、自らのパートナーを、馬車の中から、引っ張りだそうとしている。

 馬車の中から「こんな、恥ずかしい恰好、やっぱり、ムリ。ムリだから!」と、抵抗する声が聞こえる。

 白銀(しろがね)皇子は、自分のパートナーを、抱きかかえるようにして、力尽くで衆目の前に引き出したわ。


 そのパートナーって、確かに、人前にでるような恰好じゃなかったわ。

 ひとことで言うと、ピンク色をしたシースルーのベビードールドレス。

 ミニ丈しかない、ネグリジェみたいなもの。

 フォーマルな舞踏会に、こんな破廉恥な恰好で出るなど、許されない。


 でも、わたしは、ちゃんと知っているわ。

 これって、神器の『お色気水着』を、服飾文化研究部が、夏合宿中に改造したものなの。

 あのセーラービキニのトップスに、(パーフェクト)(アーマー)(ネイキッド)2式用に開発された極薄の布地を付けて、ルースな広がりの裾を、美しく創りだしたものなの。


 そう、白銀(しろがね)皇子のパートナーって、『お色気水着』で、Gカップ女体化を果した儚内(はかない)薄荷(はっか)様なのよ。


 こんな不謹慎なベビードールドレスで、鹿鳴館の舞踏会に足を踏み入れようとすれば、ふつうなら、露出狂扱いで、逮捕、拘留されるわ。

 騎士団であろうと、皇國軍であろうと、警察機構であろうと、同じ対応をするはず。


 ただ、皇位継承権を持つ御方が、自身のパートナーとして同伴されたとなると、話しは別。

 例えるなら、選挙立候補者が、政見放送において、放送禁止用語を口にしても許されるようなものかしら。


 白銀(しろがね)皇子は、馬車の中に、もう一度手を伸ばし、一メートル半以上ある棒状のものを取り出し、パートナーの肩に、袈裟懸けにしたわ。

 『転生勇者の(つるぎ)ネコ』なの。

 これでもう、このピンクのロリ巨乳の正体が、実は薄荷(はっか)様だってことは、誰の目にも明らか。


 その有様は、ファーストダンスそっちのけで、テレビ中継もされてるわ。

 もはや、薄荷(はっか)様は、公開処刑状態で、逃げ隠れのしようもないの。


 白銀(しろがね)皇子は、薄荷(はっか)様が逃げられないよう、その片手をキツく握り、引き摺るようにして歩き出した。

 しかも、声高に、薄荷(はっか)様を詰りながら――。


 「いまさら、なにを、しり込みしているの? ホント、支離滅裂なヤツだな。昨夜は、自分の方からオレのところに逃げて来たくせに――。こんなあられもない恰好で、部屋にやってきたら、もう抱かれるつもりだって、男はみんな思うだろ」

 「そのうえ、自分から、浴室に行っておきながら、その浴室に『拒否』の力で結界を張って、一晩立て籠もった。でもって、今朝、舞踏会に遅刻するギリギリのタイミングで、浴室から出てきて、これまた、自分の方から鹿鳴館までのエスコートしろって、要求してきたよね」

 「なのに、ファーストダンス開始のアナウンスが聞こえてきたら、馬車に立て籠もるって、どういうこと? これって、あれかな? オレの皇選パートナーの地位だけ得ときながら、オレとの婚約成立とみなされる、ファーストダンスは踊りたくないってことかな?」


 薄荷(はっか)様は、黙秘して、ツンと横を向く。


 ☆


 白銀(しろがね)皇子が、薄荷(はっか)様を引き摺るようにして、ダンスホールに辿り着いたわ。

 それは、ちょうど、ファーストダンスが終わるタイミングだったの。


 黄金(こがね)皇子と智恵(ちえ)公女は、王者の風格がある、隙の無いオーソドックスなダンス。

 対する鍍金(めっき)皇子と牡丹(ぼたん)公女は、アグレッシブなダンスで、相手カップルを攻め立てていたわ。


 二カップルが、鳴り止まない満場の拍手に応えているところへ、白銀(しろがね)皇子が、ヅカヅカと踏み込んできたわ。

 そして、自分のパートナーを抱えあげ、二カップルの間に、投げ入れた。

 人ではなく、爆弾でも投げ入れるような、粗雑な扱いだったわ。


 「黄金(こがね)兄上も、鍍金めっき兄上も、四月の祝入學進學舞踏会で、オレが言ったこと覚えてるよね。二年生の大物語『令嬢の転生』にも、三年生の大物語『勇者の召喚』にも、この子は渡さないって――。一年生の大物語である『服飾の呪い』のキャラであるピンクのセーラー服に呪われたこの子は、三年生の黄金(こがね)兄上のものでも、二年生の鍍金めっき兄上のものでもなく、同じ一年生の皇族である、オレのものだって――」

 「オレ、宣言するからね。オレは、今日、この子を同伴して、馬車でここに乗り付けた。この意味分かるよね。この子は、オレの玩具(おもちゃ)で、この玩具(おもちゃ)を壊していいのはオレだけだって――」


 異母兄弟の鍍金(めっき)皇子が、「ふん」と鼻で笑い飛ばしたわ。

 「この子に、先に、ツバを付けたのは俺様だぜ。白銀(しろがね)、オマエは、子供の頃から、いつだって口だけだ。この子を自分の玩具(おもちゃ)だって言っているが、どうせ一晩一緒に居ながら、まだ持ち主として自分の名前を書き込めてもいないんだろ?」


 同腹である黄金(こがね)皇子まで、口調が冷たいの。

 「白銀(しろがね)、鹿鳴館に馬車で乗り付けることなんて、儀礼上のものでしかない。支持してくれる者たちもなく、皇選に立候補することなんて、できないぞ」


 「オレを支持してくれる者ならちゃんといる。喇叭(らっぱ)辣人(らっと)辣人(らっと)は、どこにいる? あの人、連れてきてくれた?」

 白銀(しろがね)皇子が、キョロキョロと、ダンスホールを見回したわ。

 だが、名を呼ばれた者からの、返事はない。


 「おーい、辣人(らっと)! 今日、ここで、あの御方と、密談する約束だから、来てるよな? すぐに、ここに、出てこないと、預かり物の、『黙示禄の喇叭(ラッパ)』を吹くぞ!」


 白銀(しろがね)皇子は、懐から、歪な形の喇叭(ラッパ)』を取りだしたの。

 その喇叭(ラッパ)の外見は、まるで、人間の大腿骨で造られているのではないかと思えるほどの邪悪さよ。


 天井が低くなっているところにある、バイキング形式の立食テーブルに張り付いていた生徒が、慌てて、駆け寄ってきたわ。

 「それを不用意に吹いてはなりません」

 水泳部キャプテンの喇叭(らっぱ)辣人(らっと)だわ。


 今日の辣人(らっと)は、學園の制服姿よ。

 どうやら、没個性的な辣人(らっと)の場合、競泳パンツ姿でなく、学生服を着用するだけで、一般生徒の中に紛れ込めるみたい。


 「白銀(しろがね)皇子、なんという軽はずみなことを、なさるのです。その喇叭(ラッパ)は、オレが、あの御方から『魔族四天王』であると認めていただいた証しとして、皇子にお貸ししただけ。こんなところで、軽々に吹き鳴らして良いものではないのです。今日の密談時に、お返しいただく約束だったでしょう」

 「迂闊にこんなことをされるから、我々の結託が露見してしまったではありませんか! そもそも、白銀(しろがね)皇子は、あの御方から、秋になるまで大人しくしているよう、言い含められて、おいででしょう」


 「いやだ、秋までなんて待てない。この場を逃したら、皇選立候補を表明できるのは、十二月の後期末舞踏会になってしまう。それでは、間に合わぬ!」


 「とにかく、喇叭をお返しください」

 辣人(らっと)が、白銀(しろがね)皇子の手から、素早く喇叭を掠め取ったわ。

 「密談も仕切り直しです。このフラインングは、あの御方に報告させていただきますからね」

 辣人(らっと)は、そう言い残すや、走り去っていったわ。


 複数の仲間を、此処彼処に配していたみたいよ。

 取り押さえようとしてくる騎士団のメンバーに、陽動を仕掛けて、素早い動きで、再び他の生徒たちの間に、潜り込んでしまったわ。


 白銀(しろがね)皇子は、なにもかも自分の思い通りにならないことに、地団駄踏んで、癇癪を起こしているわ。

 「オレのことバカにしやがって!」と、床に転がったままの薄荷(はっか)様を睨んだわ。


 そして、薄荷(はっか)様向かって、腰に吊した儀礼剣を抜き放ったの。

 「この場で、オマエの身体に、オレの名を刻んでやる」


 薄荷(はっか)様は、反射的に、自分の背中に吊した『転生勇者の(つるぎ)ネコ』の柄を握りしめたわ。


 「抜けるなら、抜いて見せろよ。いかなる物語的必然性があろうと、皇族に向かって抜剣したら、それだけで不敬罪だ。オマエと。オマエの家族は、全員絞首刑だな」

 薄荷(はっか)様は、あまりの理不尽さに唇を噛みしめながらも、剣を抜くのを断念したの。

 あの表情は、もうここで死んでもいいと、生を諦めた表情ね。


 「きひ、きひ、きひ」と」白銀(しろがね)皇子が嗤ったわ。

 薄荷(はっか)様の諦観した表情が、白銀(しろがね)皇子を喜ばせたみたい。

 「最初っから、そうやって、従順にしてりゃあよかったんだ。そうだ、その憎たらしい両の目玉をくり抜いてやろう。そうすりゃ、黙って、オレに手を曳かれてるしかなくなるからな」


 白銀(しろがね)皇子が、片手を伸ばして、薄荷(はっか)様のGカップの胸を、ぐいっと掴んだわ。

 そして、もう片方の手にある儀礼剣を、薄荷(はっか)様の眼窩に突き入れようと――。


 その剣先と眼球の間に、素早く、手にしていた扇を割り込ませた者がいたわ。

 牡丹(ぼたん)公女よ。


 牡丹(ぼたん)公女は、不敵に笑ったわ。

 「言っておきますけど、わたくし、鍍金(めっき)皇子と、ファーストダンスを踊ったところですの。つまり、ファーストレディ候補となったところですの。たとえ、皇子であろうとも、皇后候補に手をあげることなど許されなくてよ。」


 「このピンクの子は、わたくしのものでしてよ。このピンクの子は『令嬢の転生』のヒロインですのよ。それを虐めて良いのは、『悪役令嬢』のロールを持つ、わたくしだけですの。その汚い手を、このピンクの子の胸から離しなさいな。わたくし、その偽巨乳を揉んでみたかったのよ」

 牡丹(ぼたん)公女は、薄荷(はっか)様の胸から、白銀(しろがね)皇子の手を払いのけ、代わりに自分が、モミモミしてみせたわ。


 白銀(しろがね)皇子は、口惜しげに身を震わせながらも、一歩下がったの。

 白銀(しろがね)皇子は、乱心しているように装っていても、実のところは小心者なの。

 皇子の自分であっても、他の皇子の婚約者には触れることすら許されないって、ちゃんと分かっているの。


 牡丹(ぼたん)公女は、白銀(しろがね)皇子の腰が引けていることを見て取り、ふんと、鼻先で嗤いとばしたわ。

 その表情は、まさに『悪役令嬢』としての貫禄に満ちていたの。


 牡丹(ぼたん)公女は、その眼光を薄荷(はっか)様に向けたわ。


 薄荷(はっか)様の偽巨乳を掴んだまま、詰め寄ったわ。

 「薄荷(はっか)、どうしてですの? どうして、昨日、逃げましたの? わたくし、昨日、薄荷(はっか)にお話ししましたよね。薄荷(はっか)が第一夫人になることで、鍍金(めっき)様が皇太子となれる可能性が高まるの。それは、わたくしの望みでもあるの。鍍金(めっき)様の第一夫人の座は、あなたに差し上げますって――。わたくしは、第二夫人で構わないって――。」

 「薄荷(はっか)、こんなにステキな鍍金(めっき)様のどこに不満があるというの? 薄荷(はっか)は、あろうことか、自ら白銀(しろがね)皇子の元へ逃げ、一晩を共にした。そうなってしまっては、鍍金(めっき)様擁立のために婚約者となれるのは、わたくしだけです。だから、わたくしは、薄荷(はっか)のことを断腸の思いで諦めて、鍍金(めっき)様とファーストダンスを踊ったのです。薄荷(はっか)、ちゃんと答えて、どうして、こんなことしたの」


 薄荷(はっか)様が、沈痛な面持ちで、口を開いたわ。

 「ボク、取巻令嬢の、亡くなられた末摘(すえつも)花子(はなこ)様、それから、石榴(ざくろ)石女(いしめ)様と、通草(みちくさ)明美(アケビ)」様の御三方とお話ししました。御三方とも、牡丹(ぼたん)様を敬愛されていて、牡丹(ぼたん)様こそ、ファーストレディに相応しいとお考えです。それから、ボク、牡丹(ぼたん)様のお父上であらせられる、矍鑠(かくしゃく)元帥の、牡丹(ぼたん)様への情愛も聞き及んでいます。矍鑠(かくしゃく)元帥は、愛娘の牡丹(ぼたん)様に、ファーストレディ云々以前に、愛される正妻であって欲しいとお考えです。愛娘が側室になることなど、父親として受け入れられないのでしょう」

 「ボク、牡丹(ぼたん)様ご自身が、鍍金(めっき)皇子に相応しいファーストレディとなるべく、物心ついて以来研鑽されて来られたことだって、知っています。厳しい躾に耐え、勉学に勤しんでこられたのですよね」

 「ボクなんか、名誉女子でしかないのに、物語から勝手にヒロインに選ばれただけなんです。学も気品もない貧民で、つい最近まで、ダンスも踊れなかったんですよ。それに、小心者のボクには、牡丹(ぼたん)様を悪役令嬢に仕立てあげて、その座を簒奪するなんて、大それたまねはできません」

 「で、どうしたら、牡丹(ぼたん)様に、ボクを見捨てて、心置きなく鍍金(めっき)皇子の正妻になっていただけるか考えました。ボクに、やっと思いつけたのが、こんな方法だけだったんです。鍍金(めっき)皇子がいかにボクを望んでおられても、そのボクが、クズの第三皇子の元に走ったとなれば、対抗上、先に、婚約を確定するしかないですよね」


 薄荷(はっか)様が、鍍金(めっき)皇子に向き直る。

 「鍍金(めっき)皇子、言っておきますが、ボクは、皇子との約束を破ったりしてませんよ。ボクが皇子にお約束したのは、この舞踏会で一曲踊ることだけです。会場までのエスコートも、ファーストダンスもお約束してません。だから、今からでも、鍍金(めっき)皇子がお誘いくださるなら、この後、ダンスをお受けします」


 薄荷(はっか)様が、黄金(こがね)皇子に向き直る。

 「この機会に、黄金(こがね)皇子にもお話ししておきたいことがあります。黄金(こがね)皇子は、意図的に、生徒会会計の座を空席にして、ボクの入學を待っておられましたよね。今期生徒会会計の座は、そのまま黄金(こがね)皇子の側室の座なんだって、いくら色恋にも政治にも疎いボクだって分かります」

 「それこそ、二月の生徒会役員選挙以降、会計になりたいとの申し出られたご令嬢方が、何人もいらしていたはずです。でも、黄金(こがね)生徒会長は、昨年十二月の神逢祭において、翌年の大物語が『服飾の呪い』と決まり、そこに『服飾に呪われた魔法少女』五人が登場することまで、知っておられた。だからこそ、黄金(こがね)皇子は、皇選のライバルとなるご兄弟二人に先手を打って、ツバをつけるべく、生徒会会計の座を用意されたのですよね」

 「黄金(こがね)皇子には、いいかげんボクを諦めて、候補者の中から、生徒会会計を選んでくださるよう、お願いします」


 薄荷(はっか)様は、決まったとばかりの、ドヤ顔なの。


 それを見た鍍金(めっき)皇子は、やれやれという、呆れ顔ね。

 「薄荷(はっか)、よく見な。俺様も、黄金(こがね)兄上も、そして、白銀(しろがね)も、オマエを諦めていないぞ。正妻や、側室でなんかなくとも、オマエを手に入れるだけで充分なんだ。だってオマエは、いまや、この世界の『変革』を引き起こした偶像(アイドル)なんだからな」


 続いて、黄金(こがね)皇子が、『必殺皇子スマイル』で止めを刺したわ。

 「これは、もう、十二月に開催される後期末舞踏会へ向けての、第二ラウンド開始かな」


 得意満面だった薄荷(はっか)様の表情が、愕然としたものに変わったわ。

 薄荷(はっか)様は、浅はかにも、舞踏会という場で、これだけのことを仕出かせば、自分を攻略対象から外してもらえると、考えていたみたい。


 ☆


 結局、薄荷(はっか)様は、皇子三人と、順に踊るハメになったわ。


 それでも、こんなこと、前代未聞よ。

 鹿鳴館の舞踏会において、一人の子が、皇子三人を独占するなんて――。

 しかも、その子は、女ですらない、名誉女子。

 後宮入りしたとしても、子を成すことすらできないの。


 皇子の誰かを狙っていた高位の令嬢たちから、嫉妬の籠もった視線を向けられてたわ。

 この場で直接何かされることはないでしょうけど、この先が思いやられるわ。

 政治的にハメられたり、謀殺されたりする可能性も高いわ。

 この先、『カードパーシヴァー(知覚者)さいこ(PSI)』のメンバーが、常時交代で貼り付いて、安全確保しなきゃマズイと思う。


 ☆


 薄荷(はっか)様のダンスなんだけど……ホント、酷かった……見てられなかった。


 わたし、薄荷(はっか)様が『道衣』のセーラーレオタードでなら、魔力を身に纏わせて、それなりに踊れるようになったって、知ってるの。

 それに、偶像(アイドル)としてのダンスなら、見られなくもないレベルになってきていたの。


 薄荷(はっか)様は、とにかく、まず、カップルで、男の人とダンスするという時点で、意識下の拒否反応があるみたい。


 そして、今日の薄荷(はっか)様は、『お色気水着』を薄い布で飾っただけの衣装なの。

 あれって、下着認定で、『服飾の呪い』こそ発動しないけど、魔力は込められない。


 最大の問題は、慣れないGカップ女体化しているってこと。

 股間は軽量化しているのに、胸の前で、でっかい重しが二つ、撓んでいる。

 そのうえ、長くて重い『転生勇者の(つるぎ)ネコ』が背中で揺れている。


 薄荷(はっか)様は、魔力なしでも、どうにかリズムだけは取れるようになったハズ……。

なのに、一足ごとに、ポヨンポヨン、身体が、揺れる、揺れる。

 ターンなんてさせられたら、パートナーの支えがなきゃ、毎度すっ転んでる。


 皇子様方からすれば、ターンの度ごとに、薄荷(はっか)様の豊満な胸が、揺れて、押しつけられる。

 三人とも、マジ嬉しそうに、薄荷(はっか)様の身体をクルクル回してる。


 ダンスパートナーは、鍍金(めっき)皇子、黄金(こがね)皇子、白銀(しろがね)皇子の順番だったわ。


 問題は、最後の、白銀(しろがね)皇子ね。

 明らかに様子がオカシイの。

 いや、白銀(しろがね)皇子の様子がオカシイのは、いつものことなんだけど、いつもと違うオカシさなの。

 鼻息荒く、むやみに顔を寄せてきて、スキがあればキスしようってしてる。


 皇國の皇子様方って、幼い頃から、性指南役が付くの。

 若くして寡婦となられた貴族女性が選ばれるの。

 でね、白銀(しろがね)皇子なんだけど、性指南役となった女性二人を、斬り殺しちゃったんだって。

 以来、性指南役のなり手がなくて、皇子様方の中でお一人だけ、女性経験のないままらしいの。


 白銀(しろがね)皇子ったら、普通の女性には奥手なくせに、いまの薄荷(はっか)様には、メッチャ発情しまくってる。

 遂には、ダンスの途中で、薄荷(はっか)様の胸に振り回されてバランス崩したふりして、そのまま押し倒しちゃった。

 薄荷(はっか)様のベビードールドレスを捲って、ボトムスに手を差し込んだものだから――。


 ベビードールドレスから透けて見える薄荷(はっか)様の肉体が、瞬時に、男の子に戻っちゃった。

 だから、薄荷(はっか)様は、咄嗟に、自分の衣装を、『平服』のセパレーツセーラー服にチェンジさせた。

 どうせなら、『道衣』のセーラーレオタードにチェンジしてれば、薄荷(はっか)様の身体能力が格段に跳ね上がって、たやすく白銀(しろがね)皇子をいなせたはず。

 なのに、慌ててたから、一番布地の量が多くて安心できる『平服』を選んじゃったんだね。


 だからだろうけど、白銀(しろがね)皇子の手は、まだ『平服』のミニスカートの中だよ。


 薄荷(はっか)様が、自分のミニスカートお尻のあたりに、急いで手を差し入れる。

 その下から、(パーフェクト)(アーマー)(ネイキッド)2式が、チラリと見えた。

 皇國軍造兵廠が総力をあげて開発した、薄荷(はっか)様専用の特殊兵装だよ。


 ちゃんと見えなかったけど、そのパーフェクト(アーマー)(ネイキッド)2式のお尻には、白鼠様の絵姿があるはず。

 マンガキャラクター化され、可愛らしくデフォルメされ、『SHIRONEZU―CYAMA』と丸っこいフォントで書き添えられているの。


 薄荷(はっか)様は、白鼠様が描かれているあたりの、自分のお尻を慌てて二回叩く。

 「お尻ぺんぺん。白鼠様、助けて!」


 白鼠様の絵姿が、薄荷(はっか)様のお尻から、ポンと飛びだしてきた。

 顕現されると同時に、その御姿は、本来のリアルな白鼠に戻っていたわ。


 白鼠様は、薄荷(はっか)様を護るように、その眼前に浮いてる。

 「チューーーーーーッ!」と鳴く。

 白鼠様と薄荷(はっか)様を包み込むように、球状聖域が出現する。


 白銀(しろがね)皇子は、球状聖域の外に弾き出されたわ。


 もし、これをやったのが薄荷(はっか)様自身や、他の誰かだったら、その場で逮捕されて極刑となったわね。

 でも、これは、御社(おやしろ)神使(じんし)の一柱であらせられる白鼠様のなさったこと。

 白鼠様については、敬いこそすれ、裁くなんてとんでもない。


 白鼠様が、「チュッ、チュチュウ、チューッ!」と、白銀(しろがね)皇子ではなく、薄荷(はっか)様を叱りつけている。


 薄荷(はっか)様が、「ごめんなさい、ごめんなさい。ボクが、名誉女子としての自覚と、貞操観念が足りませんでした。ごめんなさい」と、平身低頭謝ってる。


 「チューッ、チュッ、チュッ、チュチュチューーッ!」と、白鼠様の怒りが収まらない。


 「えっ、昨夜からのボクの行動が破廉恥だって、白鹿様まで怒ってらっしゃるんですか! 御社(おやしろ)の総本山である鹿鳴館をお騒がせしたことは、幾重にも、お詫びいたします。いや、だけど、ボク、畏れ多くて、白鹿様の御前なんて――」


 「チュチュチューーーーーーーッ!チュチュッ、チュッ!」

 白鼠様が、宙に浮いたまま、薄荷(はっか)様のセーラー襟を咥え上げる。

 ポンと、白鼠様と薄荷(はっか)様の姿が、掻き消えた。


 その後、暫くして、何事も無かったかのように、舞踏会は再開、続行されたの。


 ☆


 わたし――極光(きょっこう)智子(ともこ)――としては、可能であれば、ここで薄荷(はっか)様に、御注進に及びたいことがあったの。

 自分たちが、直接接触できない立場であることが、ほんとうに口惜しい。


 薄荷(はっか)様は、あの騒動の渦中にいながら、口を一度も開かなかった方が、おひとり、いらしたことに、気づいてらっしゃるかしら……。

 本当にコワイのは、その方なのです。


 ほら、ここに『悪役令嬢もの』のゲームや、物語があるとしたら、恐いのは悪役令嬢よね。

 でも、ほら、よく考えて。

 『悪役令嬢』以上に、とんでもなく恐い方が、最後の最後に控えていらっしゃるでしょう。


 そう、『ラスボス』よ。

 大物語『令嬢の転生』のラスボスこそ、誰あろう……萵苣(ちしゃ)智恵(ちえ)様なの。

~~~ 薄荷(はっか)ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~

■八月一日① 薄い本頒布会①

『男性向け』と『女性向け』両方の『薄い本』が集まる、年一回の地下イベント、『薄い本頒布会』が開催されようとしていた。

今年の『男性向け薄い本』は、偶像(アイドル)となった『服飾に呪われた魔法少女』に人気が集中していた。

また、『薄い本頒布会』では、『男性向け』と『女性向け』のステージイベントが併催される。

今年の、『男性向け』ステージイベントの背後では、『新水泳部』が暗躍しているみたい。

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