■七月三〇日① 温泉合宿大作戦 結① 撮影
♥♥♥服飾に呪われた魔法少女テレビシリーズ
♥♥♥第六話 温泉合宿大作戦 結①
わたしは、予知の極光智子。
『カードパーシヴァーさいこ』の一人よ。
昨年四月、わたしは、女子五百人の仲間とともに、鹿鳴館學園、魔法少女育成科に入學したわ。
五百人全員が、パーシヴァーゲームに、強制参加させられた。
それは、超能力を用いて、互いの力と命を奪い合うゲームだったの。
わたしの仲間は、一年生が終わる頃で五十人ほどに減っていたわ。
いまでは、三十数人しか残っていない。
わたしは、いちばん多くの仲間を殺し、いちばん多くの力を得たの。
そして、皇國軍の學園駐屯地にある医療センターの一室で、ベットに横たわったまま、身動きすらままならない身体となったわ。
わたしの眠りは、予知の対価なの。
わたしは、何かを予知するたびに、眠り込むようになってしまったの。
わたしは、この身を削ってまで繰り返してきた予知により、知っているの。
いかなる未来を選んでも、自分がもう永くないってことを……。
自分だけじゃないわ。
仲間達全員の未来が、閉ざされている。
生き延びるためだとはいえ、たくさんの仲間を殺した自分に未来がないことは、自業自得だって思う。
だけど、こんな思いをした自分たち、仲間全員が、この世界になんの傷跡も残せず消えていくしかないということは、許容できない。
せめて、わたしのことを覚えていてくれる仲間たちに、未来をあげたい。
未来って、選択のたびに、無限に分岐していくわ。
だから、わたしは、仲間たちが、一人でも多く生き延びることのできる未来を模索したの。
わたしは、模索していた未来のひとつが、転生勇者様、つまり、『セーラー服魔法少女』の儚内薄荷様と、結びついた日の、あの感動が忘れられない。
薄荷様は、わたしの、ヒーローであり、ヒロインであり、推しであり、偶像なの。
あのショッキングピンクに輝くセーラー服が愛おしい。
できることなら、ギュッと抱きついて、そのご尊顔を舐めまわしたい。
だけど、薄荷様に、わたしや、仲間たちが、直接接触する未来はない。
今日、七月三〇日は、薄荷様にとって、とても大切な日なの。
この日開催される前期末舞踏会において、薄荷様の未来が、幾つもの選択肢に分岐するからよ。
わたしは、この日が、薄荷様にとって大切な日であり、薄荷様の選択結果が自分たちにとっても大切なものとなることを、仲間たちに説明したわ。
だから、わたしの仲間たちは、舞踏会場となる鹿鳴館の各所に散っている。
念話で状況を共有し、薄荷様が選択する未来を見守るためよ。
☆
四月三日に開催された祝入學進學舞踏会の時点では、全生徒の半数を占める一年生平民は、富裕層でもなければ、ダンスを踊れないし、ダンスパートナーもいないわ。
二~三年生を含めれば半数以上の者が、學園の制服姿でやってきて、天井が低くなっているところにある、バイキング形式の立食テーブルに張り付いていた。
七月末に開催される前期末舞踏会では、だいぶ様相が変わってくるわ。
鹿鳴館學園では、舞踏学が必須科目だから、この四カ月間で、一年生全員がとりあえず踊れるレベルになっている。
そして、一年生の多くは、奨学金で、正装やドレスの購入済よ。
さらに、将来の約束云々は、ひとまず棚上げしてでも、眼前の舞踏会のパートナーを見繕おうと努力する。
結果、前期末舞踏会は、制服で、ぼっち参加することが、恥ずかしい状態となるの。
ちなみに、『カードパーシヴァーさいこ』メンバーは、全員、制服ぼっち参加よ。
『さいこ』であっても、パートナーを得ることは禁じられていない。
だけど、誰もそんな気持ちの余裕を持てないみたい。
と、ここまでは、『さいこ』を含めた平民の話し。
これが貴族となると、まるっきり、状況が違うわ。
生徒のパートナー関係が、家同士の結び付きに直結しているのだから、当然ね。
誰もが、六歳までに踊れるように教育されるし、正装やドレスをあつらえる。
熾烈なパートナー争奪戦が繰り広げられ、時には、血で血を洗う争いとなるわ。
舞踏会当日、學園の生徒たちは、魔力や聖力による連結路を使って、徒歩で鹿鳴館に参集してくるの。
これは、平民でも、貴族でも同じ。
だけど、ある条件を満たした特別なカップルだけは、屋根のない馬車で、鹿鳴館に乗り付ける。
この行為は、王位継承権を持つ者にだけ許される。
そして、この行為は、そのカップルで、皇選に立候補するという意思表示でもある。
四月三日に開催された祝入學進學舞踏会に、鹿鳴館に馬車で乗り付けたカップルは、二組だった。
一組目は、第一皇子白金黄金様と、公爵令嬢萵苣智恵様のカップル。
黄金皇子は金襴王妃の子で、智恵公女は博學宰相の子。
騎士団や神殿の支持も得ているから、黄金皇子が、卒業と同時に皇太子の座を得ることは確実視されているわ。
二組目は、第二皇子白金鍍金様と、公爵令嬢の芍薬牡丹様のカップル。
鍍金皇子は緞子側室の子で。牡丹公女は矍鑠元帥の子。
皇國軍の支持を得ているけど、皇國軍は平民が多いから、政治基盤としては弱いの。
そして、あの事件が起こったわ。
祝入學進學舞踏会のさなか、鍍金皇子が、とある平民を第一夫人とし、牡丹、公女を第二夫人に格下げすると宣言したの。
これは、二年生の大物語『令嬢の転生』のストーリー展開だって、誰もが思ったわ。
であれは、鍍金皇子がご執心の平民は、ヒロインとしての物語力を得て、鍍金皇子を、皇太子の座に押し上げてくれる可能性があるの。
その後の出来事は割愛するけど、今回の前期末舞踏会は、どんなことになるのか、皇國中の関心を集めているの。
☆
前々日から、學園内は、騒然としたてたわ。
どうやら、『ピンクのセーラー服を着用した名誉女子を、捕獲し、前期末舞踏会終了まで、拘留せよ』っていう極秘命令が、三つの組織に、下ったみたい。
萵苣博學宰相に命じられた警察機構。
芍薬矍鑠元帥に命じられた皇國軍の學園駐屯部隊。
そして、御柱猛史団長に命じられた皇国騎士団。
三組織とも、逮捕とかじゃなくて、むしろ、そのピンク名誉女子の保護目的で動いてるの。
ただ、騎士団の一部に、確保とみせかけて殺害しようとしている者たちもいるみたい。
Aグループ日程で、南のジャングル風呂地帯に夏合宿に行っていた生徒たちが、鉄道で、続々帰還してきたんだけど、これが重点捜査対象だったの。
列車内はくまなく捜査され、帰還者全員がボティチェックまで受けたみたい。
でも、ピンク名誉女子は、見つからなかった。
昨夜、露出狂の女子が、學園内をうろついているっていう、噂が流れたわ。
ピンクのセーラー襟なんだけど、スケスケのベビードールドレスなんだって。
Gカップの胸を揺らして走り回ってるから、どうみても、名誉女子なんかじゃないの。
警察も皇國軍も騎士団も、これについては、名誉女子のファンか、目立ちたがり屋が、捜査を攪乱しようとしているだけだと判断して放置してるみたい。
その露出狂の女子は、科學戦隊育成棟から、學生寮の貴族女子棟最上階へ連れて行かれて、そこを逃げ出したあと、貴族男子棟最上階で消えたって噂されている。
念のため、捕捉しておくわ。
貴族は、學園に侍従一人だけを連れて来る決まりなの。
貴族寮の各部屋は、当の貴族生徒自身と、お付きの侍従用の部屋が、繋がった造り。
皇族や公爵家子女であっても、ちゃんとこの決まりを遵守しているの。
ただ、皇族や公爵家子女の部屋は、貴族寮の最上階に集まってる。
そして、皇族や公爵家子女は、自室の周りを、臣下生徒たちの部屋で固めてる。
それは、第一皇子区画とか、第二皇子区画とか呼ばれているの。
区画ごとに、臣下か、その侍従が歩哨に立つ。
派閥の異なる者や、不審者が、おいそれと出入りできるような場所じゃないの。
だから、露出狂女子が、そんなところに出没したという噂自体、眉唾ものよ。
☆
何はともあれ、日は変わり、今日は、前期末舞踏会当日。
そして、いよいよ、鹿鳴館の前庭に、最初の馬車が、入ってきたわ。
黄金第一皇子と、智恵公女。
黄金皇子は、騎士団制服風の白い衣装。
智恵公女は、そのままウェディングドレスとして使えそうな純白の衣装。
二人とも、自分たちこそが、次代の皇帝と皇后になるのだという、自信に満ちた顔つきだね。
この場に詰めかけていた人々は、理想を体現したかのようなカップルに溜め息をつく。
だけど、これは、想定通りで、面白みはないわ。
人々の関心は、続いて入ってきた、二つめの馬車に集まっている。
二つめの馬車に乗っていたのは、皇國軍風の黒い衣装を着た鍍金皇子と、ピンクのドレスに身を包んだ……牡丹公女だった。
詰めかけていた人々は、戸惑っていたわ。
鍍金皇子のお相手が、牡丹公女であったというだけなら、人々は納得して終わってたはず。
「ああ、やっぱりね」とか、「いくらなんでも、平民の、男の娘なんてあり得ないもの」といった感想を抱くだけ。
問題は、牡丹公女のドレスがピンクだったことよ。
淡く可憐なピンクで、公女に似合っていなくはない。
だけど、妖艶で、悪役令嬢めいた牡丹公女には、もっと他に似合う色があったはず。
四月以降の報道やテレビ番組によって、今や、皇国中の人々は、ピンクの衣装というだけで、あのオトコノコを思い浮かべるまでになっているわ。
つまり、牡丹公女がピンクの衣装で登場したことには、何らかの意図があるってこと。
今日の舞踏会は、波乱が待っている。
人々は、そう予感したわ。
司会者から、舞踏会の開催が宣言され、ファーストダンスを務める、カップルが紹介された。
四月の祝入學進學舞踏会では、黄金皇子と智恵公女の一組だけだった。
今回は、それに、鍍金皇子と牡丹公女を加えた、二組だった。
ファーストダンスを踊るカップルは、婚約成立と見做される。
鍍金皇子と牡丹公女については、四月の時点では、許嫁というだけだった。
それが、遂に、婚約に至ったってこと?
いや、それだと、『令嬢の転生』のストーリー展開はどうなっちゃうの?
年度の大物語なのに、人々の預かり知らぬところで、悪役令嬢の大勝利で終わっちゃったってこと?
二カップルが、ロイヤルボックスからダンスホールの中央へと進み出たわ。
鹿鳴館内は、静まり返っている。
緊張感が場を支配し、息を吐くのもはばかられる。
二つのカップルは、どちらも、もうひとつのカップルを敵と見定めているわ。
互いに相手を意識しまくっているのに、そちらを見ようともしない。
まるで、これから踊るダンスで、次期皇帝が決定でもするかのよう。
いや、もちろん、そんなことは、ないんだけど――。
オーケストラビットで、指揮者が、タクトを振り上げる。
ファーストダンスが始まったの。
そして、そのころ、鹿鳴館の前庭に、三台目の馬車が入って来ようとしていたわ。
~~~ 薄荷ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~
■七月三〇日② 温泉合宿大作戦 結② 撮影
公式舞踏会で、ファーストダンスを務めるカップルは、会場である鹿鳴館へ、馬車で乗り付けるんだ。
四月に開催された祝入學進學舞踏会は、黄金皇子と智恵公女の一組だけだった。
今回の前期末舞踏会では、それに、鍍金皇子と牡丹公女が加わった。
二組がファーストダンスを踊りはじめた頃、予定にない三台目の馬車が、鹿鳴館の前庭に入って来ようとしていた――って、誰がのってるのかな?