■七月二四日④~二六日 温泉お色気仲居修行 結 撮影
♠♠♠科學戦隊レオタン テレビシリーズ
♠♠♠第二話 温泉お色気仲居修行 結
僕は、『爆炎レッド』。
科學戦隊レオタンのリーダー……だというのに、どうしたら良いのか分からない。
『ドキッ、水着だらけの水上大運動会』が佳境にさしかかったところで、魔周湖全体が、大きく揺れた。
さらに、ズズズズズン、ズズズズズズズズズスズンと、揺れが増幅する。
「ウ――、ウ――、ウ――」と警報が鳴り響く。
そして、女性の声によるアナウンスが、魔周湖全体に響き渡った。
「地底よりの侵略を確認! 地底よりの侵略を確認! ジャングル風呂地帯の湯源である『極楽湯』脇の洞窟『地獄釜』が陥没し、大穴が出現。聖力ダウジングにより、地底人千体と、巨大ゴーレム数十体による、大規模侵攻と判定しました。カストリ皇國軍よりの指示を伝えます。この事態には、皇國軍と科學戦隊が対応します。鹿鳴館學園生による『ドキッ、水着だらけの水上大運動会』は、即刻中止。鹿鳴館學園生については、戦闘能力の有無にかかわらず、全員即刻退去を命じます。各温泉ホテルの送迎バスを動かします。そのままバスでオテダマ市駅へ向かい、大陸縦断鉄道宿業号に乗り継いで、學園へ帰還なさい」
僕は、儚内薄荷ちゃんと二人で、『ドキッ、水着だらけの水上大運動会』の進行役を務めていた。
ちなみに、薄荷ちゃんって、ホントは『セーラー服魔法少女』だ。
小柄で、貧弱なお子様体型の、男の娘なのだ。
だけど、今日は、神器の『お色気水着』を着用して、TS化している。
変化した豊満な肢体をビキニに包んで、僕のアシスタント役を務めてくれていた。
警報が鳴り、アナウンスが流れる間に、このジャングル風呂地帯に来ている、他の『服飾に呪われた魔法少女』たちが、集まってきた。
『運動部衣装魔法少女』の菖蒲綾女ちゃん。
『文化部衣装魔法少女』のスイレンレンゲさん。
そして、『舞踏衣装魔法少女』の宝生明星様の三人だ。
綾女ちゃんは、血の気が多い。
「地底人、ぶっ殺そうぜ」と、拳を握っている。
それを、統率力のある明星様が諫める。
「この場にいる僕らは、学徒動員された軍人だよ。そして、先程のアナウンスでカストリ皇國軍から命令が下った。これには、従わねばならない。地底人の侵攻は、科學戦隊の『爆炎レッド』と『お色気ピンク』に任せる。我々三人は、この場にいる學園生徒を統率し、退避する」
『お色気ピンク』っていうのは、薄荷ちゃんのロールのひとつだ。
その薄荷ちゃんが、差し迫った声をあげる。
「レンゲさん、お願いがあるの。退避の前に、『爆炎レッド』さんとボクを、白湯温泉旅館まで転移で、連れてって。ほら、魔周湖の対岸に見えている、あの古い建物だよ」
僕には、薄荷ちゃんの意図が分からない。
「白湯温泉旅館に戻って、どうするつもりだ。地底人が出現した『地獄釜』は、こちら側だぞ。それに、僕ら二人では、地底人数人なら相手できるが、百人は厳しい。せめて戦闘車両が欲しい。だが、科學戦隊基地からここまで運んでもらうだけで五日はかかる。ブルー、イエロー、グリーンが駆けつけてくれるまで、二人で時間を稼ぐしかないだろう」
薄荷ちゃんが、「あれ、あれ~っ」と首を傾げる。
「レッドさん、気づいてないんですか? 白湯温泉旅館の女将さんって、先代『お色気ピンク』の白桃撓和さんですよ。それに、さっき流れた緊急アナウンスって、女将さんの声でしたよね」
僕は、目を見開いて、その場に固まった。
「えっ……あ……いや……うん……でも……またまた~っ……うえええええええっ。それっ、もっと早く言ってよ。撓和さんって、僕ら科學戦隊が、一年以上に渡って、捜している人だって知ってるよね。昨日のうちに、というか、会ってすぐ、まず、それを教えて欲しかった」
「ん~とね、女将さんが、ナイショにしたがってるみたいだったから……。ボク、こんなことにならなかったら、このまま黙って帰ろうって思ってたんだ」
「いや……だからって……でも……。じ、状況は理解した。皇国軍としてのアナウンスを、撓和さんが、やったんだから……そういうことだよね。よし、白湯温泉旅館へ行こう」
レンゲさんが、薄荷ちゃん僕を連れて、白湯温泉旅館まで転移してくれた。
レンゲさんは、即座に転移で魔周湖に戻り、明星様や綾女ちゃんとともに、學園生徒の退避活動に従事するそうだ。
☆
白湯温泉旅館の前で、女将さんが、僕と薄荷ちゃんを待っていた。
薄荷ちゃんは、既に『お色気水着』姿から、『道衣』であるセーラーレオタード姿になっている。
僕も、赤い男子体操レオタード姿だ。
女将さんは、「緊急事態だから、説明はあと、ついてきて」とだけ言って、急ぎ足で先導する。
向かった先は、昨日、僕が宿泊していた『火焔太鼓の間』だ。
ここは、最上階にある特別室だ。
入口の引き戸をあけると、此処彼処に飾られていた『でんでん太鼓』が動き、「デン、デン、デン、デン……」と、非常事態であること告げている。
女将さんが、「第一種戦闘配備へ移行」と、宣言した。
『でんでん太鼓』が停止する。
床の間に飾られている、一対二つの燃えさかるような火焔太鼓が、床の間ごと左右に移動する。
開いた壁面に、巨大スクリーンが出現した。
床の畳が、次々と壁面に畳み込まれ、いくつもの、掘り炬燵と座卓がせり上がってくる。
各掘り炬燵にはモニターと操作盤がある。
ほとんどの座卓には、既に仲居さんが着席している。
手元のモニターを覗き込みながら、操作盤をしきり動かしている。
「現場の映像を、メインスクリーンに投影」と、女将さんが指示。
火焔太鼓に挟まれた巨大スクリーンが点灯。
どのようなシステムなのか分からないが、白黒ではあるものの、かなり鮮明な映像だ。
『地獄釜』洞窟があったと思しきあたりに、大きな穴が開いている。
洞窟の底にあったはずの湯源は、温泉水が、地中へと吸い込まれ、干上がっている。
穴の中で蠢いている、人型の魔獣たちが見える。
蚯蚓のよう手脚を持ち、うねうねと動いている。
過去の事例から、その魔獣たちは、地底人と呼ばれている。
地底人については、解体結果から、更にいくつかの特徴が判明している。
その目は、光を感知せず、代わって、聖力や魔力を感知する。
頭部や手脚はあるが、体内に骨格はない。
また、耳に超音波を発する部位があり、これにより空間把握が可能だ。
高い思考能力を持ち、超音波による言語活動も確認されている。
高い魔力を持ち、ゴーレムを使役する。
そのゴーレムとおぼしき巨体が、いくつか前に出てきた。
五メートルほどの高さがある、人型のストーンゴーレムだ。
ストーンゴーレムは、バケツリレーの要領で、穴の奥から岩石を受け渡し、元湖底だった泥土へ、次々と投げ込んでいる。
どうやら、岩で、地上までの道を作る算段だ。
あの様子では、数十分で地上へ攻めあがってくるだろう。
女将さんが、仲居さんのひとりに確認する。
「聖力ダウジングによる個体数判定を、再度実施。地底人千体と、ストーンゴーレム数十体で間違いないか?」
その仲居さんが「間違いありません。後続はないものと考えられます」と答えた。
別の仲居さんが、報告する。
「科學戦隊戦闘車両三機の接近を確認。北から、ブルーとグリーン、東からイエローです。ブルーからの通信を確認。メインスクリーンを切り替えます。」
メインスクリーンに、B戦闘車両のコクピットが大写しになった。
ブルーは、どこかで女将さんと面識を得ていたらしく、平然と報告する。
「撓和大佐、ご指示通り、R戦闘車両と、P戦闘車両は、カタパルト射出済です。魔周湖上空到達は、約五分後となります。レッドとピンクに、ご指示願います」
女将さん=撓和大佐が、「天井全開!」と命じる。
『火焔太鼓の間』の天井が、ゴゴゴゴゴと音を立てながら、観音開きになっていく。
上は、青空だ。
撓和大佐が、「薄荷」と呼びかける。
「薄荷は、まだまだ、お子ちゃまです。どうにかこうにか、外面を取り繕って、男性と相対することができるようになっただけです。昨日の宴会だって、ちょっとエロジジイから手を握られた程度で、動転して、悲鳴をあげてたでしょ。『お色気ピンク』となったからには、あらゆる男性を手玉に取り、手脚のように操れなければ、なりません。修行は不十分ですが、唐突に、もはや甘えは許されない事態へと、立ち至ってしまいました。現状でも、何とか、男性四人を受け入れることはできるはずです。さあ、師匠であるわたしの前で、立派に合体してみせなさい。いいですね」
薄荷ちゃんが、「はい」と決意を固め、唇を引き結ぶ。
撓和大佐が、「レッド、そして、ピンク」と呼びかける。
「カタパルト発射された、R戦闘車両と、P戦闘車両が、魔周湖へ向かって落ちてきます。二人は、上空に自身の戦闘車両を感じたら、それを身に着けるのです。まず、戦闘車両に『乗り込む』という、思い込みを捨てなさい。いいですか、戦闘車両を鎧として、装着するのです。さあ、呼びかけなさい、『インストール』と!」
僕と薄荷ちゃんは、揃って「インストール」と宣言する。
身体がふわりと浮き上がり、自分の戦闘車両へ呼び寄せられる。
僕は、自分が、これまで、戦闘車両について、とんでもない思い違いをしていたことに気がついた。
戦闘車両は、乗って操作する、乗り物ではなかったのだ。
戦闘車両は、着て、身体の一部とする『衣装』だったのだ。
落下中の戦闘車両を、自分に装着。
操作パネルの片隅ある『R度計』を確認。
これまでは、どう頑張っても70パーセント程度だったのに、90パーセントを越えている。
R戦闘車両の蜘蛛のような手脚を、まるで自分の手脚そのものであるかのように感じられる。
戦闘車両のお尻の位置から、何本もの長い糸を出す。
バルーニング飛行時に使用したのと同じ糸だ。
その糸を、ふわりと広げ、パラシュート状に展開する。
着陸態勢を取りつつ、眼下を見おろす。
地底人千体と、ストーンゴーレム数十体は、既に地上に出てきている。
岩石を受け渡して道を作っていた、ゴーレムたちは、まだ後方にいる。
だが、地底人の前衛は、既に、送迎バスに分乗して逃げようとしている學園の生徒たちや、ホテルの従業員たちに襲いかかっている。
地底人たちは、手脚をうねうねと動かして、歩くのではなく這い寄ってくる。
頭部全体を口にして、大きく広げ、人間を丸呑みにしている。
生徒たちも、やられる一方でしない。
明星様、レンゲさん、綾女ちゃんが大活躍しているようだ。
『服飾に呪われた魔法少女』三人で連携し、一人でも多くの人を救助し、逃がそうとしている。
僕――『爆炎レッド』――のR戦闘車両が、着地する。
その横に、薄荷ちゃん――『お色気ピンク』――のP戦闘車両が、着地する。
更に、ここまでバルーニング飛行してきた、『氷結ブルー』のB戦闘車両、『旋風グリーン』のG戦闘車両、『雷撃イエロー』のY戦闘車両が次々と着地し、五台が居並んだ。
まずは、『服飾に呪われた魔法少女』三人と協力して、生徒や従業員を逃がそう。
周辺のホテルや旅館をしらみつぶしにして、逃げ遅れている者たちを助けてまわる。
戦闘車両を一旦降りて、生身で、宿泊施設を一部屋づつ確認して回った。
救助対象者がいる場所では、大型破壊兵器は使えない。
小型の火器や、蜘蛛のような四本の手脚で、襲いかかった。
地底人は、火に弱いようだ。
となると、僕――『爆炎レッド』の出番だ。
途中から、地底人たちに追いついてきたゴーレムが、建物を直接破壊しはじめた。
ただし、その前に、あらかたの人間を脱出させられたと思う。
『服飾に呪われた魔法少女』三人を含む、殿を送り出した時には、真夜中になっていた。
☆
翌日、早朝、いよいよ、ストーンゴーレムを叩くことになった。
と、なれば、巨大ロボットの出番だ。
まともに成功したことのない、戦闘車両を変形させての合体、巨大ロボット化を果すべきときだ。
変形合体の手順を、おさらい。
まず、『お色気ピンク』のP戦闘車両が、ロボットの頭部から背骨と骨盤までの部分に変形する。
ここに、他の四人が、各ビークルを四肢に変形させて、合体する。
僕、『爆炎レッド』のR戦闘車両が、右股関節から、右脚。
『氷結ブルー』のB戦闘車両が、左股関節から、左脚。
『雷撃イエロー』のY戦闘車両が、左肩から左手。
『旋風グリーン』のG戦闘車両が、右肩から右手だ。
これまでなら、『お色気ピンク』の薄荷ちゃんは、過去のトラウマのせいで、男四人に四肢を押さえ込まれるような合体に、恐慌状態となっていた。
合体の瞬間なんて、実際にはあり得ないことなのに、身体に激痛を感じてしまうのだそうだ。
薄荷ちゃんは、先代『お色気ピンク』の元で、その恐怖を克服すべく、修行した。
「スミマセン、それでも、四人から一斉に押さえ込まれたら、パニックになっちゃうと思うんです。なので、グリーンさん、イエローさん、ブルーさん、レッドさんの順で、一人づつお願いします。」
「なんでこの順番なの?」って、薄荷ちゃんに確認したら、「恐くない順番です」って言われた。
――それって、僕が、いちばん恐いってことじゃん。
思春期男子として、けっこう落ち込む。
グリーンのやつが、ニマニマしながら、「薄荷ちゃんの初めては、僕のもの」とか呟いているのが、メッチャ、ムカつく。
――ロボット合体順に、
初めてもクソもあったもんじゃネエだろ!
薄荷ちゃんから、「恥ずかしいので、合体前後の戦闘車両間通信は、音声、画像ともにオフにします」と宣言された。
――合体の瞬間、声でも出ちゃうの?
どんな恥ずかしい表情になってるっていうの?
それでも、とにかく、薄荷ちゃんは、僕を含む男四人を受け入れてくれるようだ。
先代科學戦隊時代の合体ロボット名は、ラララテックスだった。
僕ら五人は、声を合わせて、高らかに宣言する。
「変形合体ロボ『レオ・ターボ』ここに見参!」
五つの神力エンジンが同調し、キーンという高い回転音が聞こえる。
これは、神力エンジンから排出される『混沌』を、再度エンジンのシリンダー内へと送り込み、『混沌』を大発生させることで、最高出力を発生させる機構で、『ターボ』と呼ばれている。
一旦、混沌に落ちてしまった、聖力や、魔力は、もう元には戻らない。
本来望ましいことではないが、それは神力エンジンを使っている時点で、いまさらではある。
P戦闘車両との、音声、画像通信が、復活した。
薄荷ちゃんの様子が、明らかにオカシイ。
顔を真っ赤にして、鼻血を出し、「あばばばば」とか、口走っている。
ストーンゴーレムたちは、『レオ・ターボ』を包囲しつつ、岩弾を飛ばして攻撃してくる。
だけど、ターボ機能が働いている、いまの『レオ・ターボ』なら、ミサイルやレーザーソード等の、大型破壊兵器が使える。
それを使いさえすれば、難なくストーンゴーレムを退けられる。
というのに、薄荷ちゃんは、大型破壊兵器を使わず、『レオ・ターボ』の両手をワタワタと振り回している。
僕ら四人は、懸命に「薄荷ちゃん、大型兵器を使え!」と、呼びかける。
それらを使うためのコンソールは、P戦闘車両にしかないのだ。
ストーンゴーレムの一体が、『レオ・ターボ』に、正面から殴りかかってきた。
薄荷ちゃんは、「バカ、バカ、バカ……」とか言いながら、『レオ・ターボ』でストーンゴーレムをポカポカ叩く。
力の入ってない、子供のケンカみたいな動き……なのに、ストーンゴーレムが、吹っ飛んだ。
しかも、その後に迫ってきていた、二体のゴーレムまで巻き込んで吹っ飛び、三体とも瓦解した。
薄荷ちゃんが、叫んだ。
「ムリ、ムリ、ムリ、ムリ、ムリ、ボクには無理! 何もかもムリ、絶対無理!」
薄荷ちゃんを取り囲んでいたストーンゴーレムたちが、一斉に、吹っ飛んだ。
周囲の地底人や、ホテルの建物や、木々までも、吹っ飛んでいた。
地底人は、まだ、うじゃうじゃいるが、なんと今の一撃で、ストーンゴーレムは一掃されていた。
でもこれは、『レオ・ターボ』の力ではない。
薄荷ちゃんの持つ『拒否』の力だ。
薄荷ちゃんの魔力が、『レオ・ターボ』の神力によって増幅された結果だ。
合体ロボット『レオ・ターボ』が、轟音とともに強制パージされた。
合体が解かれ、五台の戦闘車両に戻る。
モニター越しに、薄荷ちゃんの様子を確認する。
白目を剥き、身体をピクピク痙攣させ、口から泡を吹いている。
グリーンが、まだ戦闘中であるにもかかわらず、G戦闘車両のコクピットを開ける。
P戦闘車両へと駆け寄って、コクピット非常解放用の外部レバーを引く。
P戦闘車両から、ピンク=薄荷ちゃんの身体を引っ張りだして、抱き寄せた。
「ピンクちゃん、確りして!」という、グリーンの声が聞こえてきた。
撓和大佐の声が、戦闘車両内に響く。
「レッド、ブルー、イエローは、地底人との戦闘を継続。グリーンとピンクは、ジープを回して、こちらで回収します」
僕――レッド――と、ブルー、イエロー、そして、しばらくして戦闘に復帰してきたグリーンで、戦闘車両を操って、地底人を掃討する。
地底人たちは、午後には、敗走を開始した。
自分たちから、『地獄釜』洞窟の奥へ、逃げ込んでいった。
戦闘車両を降りて、地底人たちを、元は湯源であった空洞下の大穴、というかその横穴まで押し戻す。
ブルーが、シャベルを振り回して、氷塊を創りあげ、横穴ごと大穴を塞いだ。
だけど、地熱が溢れ出てくる場所であり、氷塊では短時間しか持たない。
なにか手だてはないものかと、辺りの状況を確認していたら、ブルーが、空洞の底に倒れている少女を見つけた。
握りしめている『矛』が創り出した、聖力結界に護られ、無傷のまま眠っていた。
グリーンが風で浄化し、イエローが軽い電気刺激を与えると、少女が目を覚ました。
少女は、雲母綺羅々と名乗り、自分は『極楽湯』の『湯もみ役』だと自己紹介した。
僕らが、状況を説明すると、綺羅々は、目に涙を浮かべた。
「この地をお救い下さり、ありがとうございます」と額ずいた。
「『地獄穴』を塞ぐのは、『湯もみ役』である、小妹の役目です」
懇願に従い、僕らは、綺羅々を、洞窟の一段上、湯が溜まっていたあたりまで連れていった。
そこに直径、五メートルほどの白い球体があった。
綺羅々の話しでは、それは『澱球』というそうだ。
綺羅々は、手にしていた『矛』――『地之瓊矛』――を、『澱球』に突き立てた。
綺羅々は、『澱球』を、『地之瓊矛』で、軽々と持ち上げてみせた。
聖力だけでは説明がつかない、『地之瓊矛』の神器としての力だろう。
綺羅々は、『地之瓊矛』をグインと伸ばして、『澱球』を、地獄の釜の底へ落とし、それで、下の大穴を塞いだ。
どこからか、ゴゴゴゴゴゴゴという音が聞こえてきて、洞窟内に反響する。
湯源であった壁面の彼方此方から、熱湯が噴き出した。
二日後には、湯源が復活し、各温泉施設に、温泉が供給され始めた。
地底人によって破壊された建物は、一朝一夕で戻りはしない。
だけど、ジャングル風呂地帯は、これからも温泉であり続けるようだ。
☆
薄荷ちゃんについては、昏睡状態が続いている。
戦闘車両を変形合体させて、巨大ロボット化させた際、相当な精神的負荷がかかったようだ。
撓和大佐の診断では、「暫し安静にして、様子を見るしかない」とのことだった。
~~~ 薄荷ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~
■七月三〇日① 温泉合宿大作戦 結① 撮影
服飾に呪われた魔法少女テレビシリーズ第六話も、いよいよ完結編。
ジャングル風呂地帯における温泉合宿は、そこで終わりきれず、鹿鳴館學園における前期末舞踏会へと縺れ込んじゃうんだ。
なにかと話題にあがる前期末舞踏会なんだけど、いったい、どうなっちゃうんだろう?
なんか、メチャクチャなことになっちゃいそう。