■七月二四日③ 温泉お色気仲居修行 転② 撮影
♠♠♠科學戦隊レオタン テレビシリーズ
♠♠♠第二話 温泉お色気仲居修行 転②
僕は、『氷結ブルー』。
科學戦隊レオタンのサブリーダーだ。
いままさに、ジャングル風呂地帯において、未曾有の大惨事が起きようとしている。
信じられない光景だ。
いや、眼前の光景が信じられないのではなく、この光景が予見されたものであることが、信じられない。
これは、ここ数日の出来事を、整理してからでなければ、眼前の出来事を受け入れられそうにない。
回想するのは、『お色気ピンク』となった薄荷ちゃんが、失踪したところからだ。
戦闘車両の変形合体が、上手くできなくて、思い詰めたのだ。
「『お色気』の修行に出ます。必ず、戻ります。捜さないでください」という、書き置きを残して、科學戦隊基地から逃げ出してしまった。
何日か待ったが、何の音沙汰もない。
いくらオトコノコだとはいえ、あんなかよわい外見の子を、放置できない。
正隊員四人で分担し、薄荷ちゃん向かった可能性がある場所を、捜索することにした。
僕――『氷結ブルー』――は鹿鳴館學園へ、『旋風グリーン』は皇都トリスへ、向かうことになった。
この二箇所は近場なので、大陸横断鉄道で向かった。
『雷撃イエロー』は、自分と薄荷ちゃんの両方に因縁のある、フェロモン諸島へ向かった。
距離があるため、自身のY戦闘車両に搭乗している。
そして、リーダーの『爆炎レッド』は、『爆炎』ジャングル風呂地帯にあるという 白湯温泉旅館へと向かった。
なんでも、『お色気ピンク』の私室に貼ってあったポスターを見て直感したらしい。
僕は、『爆炎レッド』の直感を高く評価している。
当たりを引く可能性が、いちばん高いのではなかろうか。
『爆炎レッド』は、一般の湯治客を装うため、遠方にもかかわらず、戦闘車両は使わないという。
列車やバスを乗り継いで、片道五日かかることになる。
☆
僕――『氷結ブルー』――は、鹿鳴館學園を捜し回ったが、薄荷ちゃんは見つからなかった。
困ったことに、薄荷ちゃんと関わり合いがある人物たちのほとんどが、夏合宿でジャングル風呂地帯へ行っているという。
やはり、『爆炎レッド』の向かった先が、正解のように思える。
薄荷ちゃんが學園内にいるとしたら、魔法少女育成棟に籠っている可能性が高いのに、そもそも、そこに入れてもらえない。
これまで、科學戦隊と魔法少女は敵対関係にあったのだから仕方ないことではあるのだけど……。
僕は、魔法少女育成棟の外来受付で、とにかく入れてくれ、とゴネた。
困った事務員が、『服飾に呪われた魔法少女』たちの担任の先生を呼びだした。
担任の先生は、僕と面識のある方だった。
御影辺境伯家嫡男の密様だ。
御影辺境伯領は、北のチリトリ地方にある。
一方、僕の本名は、北狄子爵家の四男で多聞という。
北狄子爵家は、御影辺境伯の臣下。
北狄子爵家領は、御影辺境伯領でも、もっとも北にあって、ウヲッカ帝國との國境地帯だ。
僕は、密様に、臣下の礼を取ろうとした。
ところが、密様は、血相を変えて、「その服装は、何ですか?」と、僕の胸ぐらを掴んできた。
絵柄的には、ガチムチ体型の大柄な生徒の胸元を、少年のような面影を残す華奢な先生が、背伸びをしながら掴んでいる状態だ。
だから、威圧感はないのだが、何しろ相手は、主家の御曹司だ。
指摘されている当方の服装だが、科學戦隊の正隊員であることを示す、ブルーのぴっちりスーツだ。
正装として認められており、このまま皇帝の前に出ることもできる。
何ら問題はないはずだ。
別段、報告が必要な立場ではないが、きっと密様は、僕が『氷結ブルー』となったことを知らなかったのだろう。
「君は、その服装に、わたしたち魔法少女が、どんな思いを抱いているか知らないとでも言うのか! 『科学の鉄槌』により無残に死んでいた仲間達の恨み、いまここで晴らしてやる!」
密様が、飛び退いて、片手を振る。
そこに、ステッキが出現した。
そのステッキをクルクルと回して、ポーズを決める。
着用していたフード付きのマントが、燕尾服に変化し、顔が仮面に被われた。
灰白色のゴツイ顎骨に、上下の歯がズラリと並んだ、スカルマスクだ。
四本の犬歯が、凶悪に突き出ている。
仮面の奥から、「顎」という声に続いて、上下の歯を噛み合わせる、ガチンという音が聞こえた。
顎が飛び出して、ガチン、ガチンと、歯を噛み合わせながら迫ってくる。
慌てて、自分の武器である、金属シャベルを取り出す。
先が尖った形状で、二叉になった柄に、直交するグリップがついているヤツだ。
噛みつこうとしてきた顎に向けて、シャベルを振るう。
顎が砕け散った。
ところが、砕け散ったあとに、新たな顎が出現する。
燕尾服仮面が、ガチン、ガチン、ガチンと、連続して上下の歯を噛み合わせる。
噛み合わせる度ごとに顎が砕け散り、その下から新たな顎が飛び出してくる。
僕は、シャベルの剣先から、氷を跳ばして、回避しつつ、外来受付から、魔法少女育成棟内に転がり込む。
僕は、遅まきながら、状況を理解した。
『科学の鉄槌』の物語の中で、先代の科學戦隊が、密様の仲間である魔法少女たちと戦って殺したのだ。
僕としては、ここで密様を攻撃したくない。
そんなことをしたら、せっかく築きはじめた『服飾に呪われた魔法少女』たちとの協力関係が崩れてしまう。
魔法少女育成棟内を、薄荷ちゃんを捜しつつ、懸命に逃げ回る。
廊下の分岐点に、カードが浮かんでいた。
分岐の片方には○印が描かれたいカード。
もう片方には十字なのだが、四十五度傾いて浮かんでいるので、これは×印に見える。
咄嗟に、○印の方を選んで、駆け抜ける。
すると、次の分岐で、またしても、○印と×印が出現する。
もう、躊躇することなく、分岐の度に○印を選びながら駈け続ける。
分岐で○印を選択するたび、追ってきていた顎が、ひとつ、またひとつと、消えていく。
そして、全ての顎が消え去る。
眼前の教室の扉が開いていて、そこに☆印のカードが浮かんでいる。
僕が、勢いのまま教室に飛び込むと、教室の引き戸が、ガランと閉じた。
ここは、結界化されていて、多くの人の目から隠されているのだと分かる。
――さて、味方が助けてくれたのか、
敵方の手に落ちたのか、どっちだろう?
教室に並んだ机のひとつに、誰かが腰掛けている。
白いヘソ出しルックだ。
トップスは、タートルネックのノースリーブ。
ボトムスは、カボチャパンツ。
だぼだぼのレッグカバーを付けている。
「ちわ~っ、おれ、発火の南斗華美で~す。『カードパーシヴァーさいこ』の一人だせ」
ギョッとした。
その人物の姿が、半分透けていることに気がついたからだ。
「あ~っ、華美のこと、エッチな目で見てるでしょ。透け透けフッションだけど、身体ごと透けてるんだから、凝視しても、身体や、下着は、見えないぜ」
「どうして透けてる。思念体をとばしてるとかか?」
「死んでるからだぜ。つまり、霊体。智子がさあ、おれに、行けっていうんだよ。あっ、|智子《ともこってさ、おれら『カードパーシヴァーさいこ』のリーダーで、極光智子っていうんだ。その智子がさあ、死んでるやつが接触した方が、予知への影響を抑えられるから、華美が行けって言うんだよ。まったく、死人使いが荒いぜ」
想像を超えた、事態だ。
僕が、状況を理解できなくて、華美さんを、問い質そうとしたら、「ちょっと、待ってね。あと二人、来るから……」と押し止められた。
華美さんは、後の、誰も居ない空間へ向かって呼びかける。
「伝子、まだ繋がらないの?」
すると、誰も居ない空間から、声がした。
「一人目と繋がって、質問攻めにされかけたとこ。納得してないみたいだけど、接触は最低限でないと予知が狂うってだけ伝えたよ。そっちに、送り込むから、あとは、よろしく」
僕が入ってきたのと同じ扉から、もうひとりの人物が入ってきた。
その扉は、さっきまで教室の引き戸だったのに、今では、ホテルの一室みたいな開き戸になっている。
その人物は、その扉のドアノブを掴んで、自分で開け閉めして入室してきた。
宝生明星様だった。
僕と、明星様は、黙礼を交わす。
僕と、明星様は、だぶん別の場所にいて、その精神だけが、ここに招き入れられたのだろうと推測できた。
「おお、さすが、『科學戦隊レオタン』と『服飾に呪われた魔法少女』のリーダーだね、説明せずとも、二人揃って、話しを聞く気になってくれてるみたいで嬉しいぜ」
僕と明星様が揃って反論しかけたのを、華美さんが、片手をあげて押し止めた。
「ごめん、ごめん、二人とも、リーダーは自分じゃないっていいたいんだよな。言い直すぜ。『科學戦隊レオタン』と『服飾に呪われた魔法少女』の中で、最も理解が早くて、的確な対応を仲間たちに取らせることができる人に、来てもらったぜ」
「二人目と繋がったの」
華美さんの後の、誰も居ない空間から、伝子さんの声が聞こえてきた。
「自分の名前を出さないなら、立ち会ってくれるってさ。そっちに行ってもらうね」
僕と明星様が入ってきた扉が、また変様している。
いつの間にか、水墨画が描かれた和紙が貼られた引き戸――つまり、襖になっている。
その襖を正座した状態で引き開けて、艶やかな和装を着こなしている若い女性が入ってきた。
旅館の女将さんでもやっているかのように、見える。
にこやかな表情で、頭の回転が良さそうだ。
僕たちのいる部屋から、すーっと扉が掻き消え、ただの白い空間へと変様していく。
華美さんが、僕たち三人を見回す。
「ごめんなさい。おれたちの力は弱いから、挨拶を交わしている余裕もないんだ。それに、予知への影響を抑えるため、この場での情報量を、極力抑えなきゃいけないんだ。だから、伝えるべきと判断したことを、一方的に伝えるだけ。質問も受付けないぜ」
まず、立場表明するぜ。
おれたち、『カードパーシヴァーさいこ』は、儚内薄荷様に恩義があり、運命をともにしている。
だけど、薄荷様と共にあることは許されていない。
そして、本題だぜ。
『科學戦隊レオタン』には、来る七月二四日までに、薄荷様を除く正隊員四名と、薄荷様のものを含む戦闘車両五台を、ジャングル風呂地帯に集結させることを進言する。
『服飾に呪われた魔法少女』のうち、夏合宿に参加している三名は、来る七月二四日に何が起ころうと、學園への帰路につくことを進言する。
「なるほど、わたしが呼ばれたわけが分かったわ。」
和装の女性が、口を開いた。
「『氷結ブルー』」と、僕に向き直る。
彼女とは、初対面だ。
だけど、ボクは、青い『ぴっちりスーツ』を着用している。
だから、自己紹介など交わさずとも、僕が『氷結ブルー』だと分かるのだろう。
その次の一言が、衝撃的だった。
「『氷結ブルー』、先代の『お色気ピンク』として、アドバイスします。カタパルトをお使いなさい」
先代『お色気ピンク』!
こ、この人が、僕たちが一年以上に渡って捜し回ったにもかかわらず、見つけ出すことのできなかった、あの白桃撓和先輩だと!
☆
僕――『氷結ブルー』――の記憶は、そこで途絶えている。
気がついたら、魔法少女育成棟前の路上に、へたり込んでいた。
ついさっきまで、魔法少女育成棟内で、『カードパーシヴァーさいこ』の華美さんと話していた……と思う。
その記憶は鮮明で、疑いようがないことに思える。
だとしても、聞かされた話しは、行動理由さえ明示されていない、わけの分からない妄言だ。
ただ、『カードパーシヴァーさいこ』の薄荷ちゃんに対する思いは、本物に思えた。
僕は、「よし、やってみよう」と立ち上がった。
まず、大陸横断鉄道で、皇都トリスに行き、『旋風グリーン』と合流。
一緒に、大陸横断鉄道で、科學戦隊基地へ。
科學戦隊基地から、戦闘車両間通信で、フェロモン諸島にいる『雷撃イエロー』と連絡を取る。
『雷撃イエロー』には、自身のY戦闘車両で、直接ジャングル風呂地帯へ向かってもらう。
問題は、ここからだ。
戦闘車両は、操縦者が搭乗していなければ、動かせない。
鉄道やトラックで当然、空も飛べない。
つまり、僕と『旋風グリーン』は、『雷撃イエロー』と同様、自身の戦闘車両を飛ばして、ジャングル風呂地帯まで行ける。
だけど、操縦者がいない『爆炎レッド』と『お色気ピンク』の戦闘車両は、そうはいかない。
鉄道やトラックに積載して移動させることは可能だ。
だが、それでは、七月二四日に間に合わない。
皇國軍には飛空艇があるが、重量的に不可能だし、積載可能な構造になっていない。
……ど、どうしろっていうのか?
~~~ 薄荷ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~
■七月二四日④~二六日 温泉お色気仲居修行 結 撮影
いよいよ、科學戦隊レオタン、テレビシリーズ第二話の完結編です。
五台の戦闘車両は、変形合体を果し、巨大ロボット化を果たせるのでしょうか?
ジャングル風呂地帯に、平和は訪れるのでしょうか?
う~ん、ボクには、ちょっと、ムリ……ムリ、だよ。