■七月二四日① 温泉合宿大作戦 転 撮影
♥♥♥服飾に呪われた魔法少女テレビシリーズ
♥♥♥第六話 温泉合宿大作戦 転
ボク、儚内薄荷なんだけど!
『セーラー服魔法少女』なんかやらされてるけど、ホントにホント、オトコノコなの!
でも、今日で、自尊心だとか、羞恥心だとか、そういうの全部、かなぐり捨てるの。
もうね、皇国軍から、オマエ死んでこいって、言われたようなものなの。
ボクにできるのは、居直って吶喊することだけなの。
だって、ボク、ビキニの水着で、大勢の人の前に出なきゃいけないんだよ。
このビキニって、『お色気水着』って銘のある伝説の防具なんだ。
伝説の勇者パーティーの防具『あ○ない水着』の、上位互換品なんだって。
ピンクのレース生地を使った、紐だらけのGカップビキニ。
ボクしか装備できない。
『神器』なのは間違いないよ。
だって、これを装備すると、ボクの外見が、水着に合わせて、女体化しちゃうんだから――。
『お色気水着』を装備すると、ボクの胸は、プルンとGカップに突き出て、ボクの股間はスルリとスッキリしてしまう。
なのに、身長は、ちんちくりんな、元のボクのまんまだ。
それから、着用した瞬間、トップスに、セーラー襟が出現する。
つまり、『セーラービキニ』だね。
念のために言うと、ボトムスのお尻に白鼠様の絵姿はなく、ボクの魔力が増幅されることはない。
どうしても、これだけはと懇願して、腰にパレオを巻くことを許してもらった。
「ボクだって、バレたらヤだな」って泣きごとを言ったら、みんなからは、「ビキニ姿で、胸がGカップって時点で、ゼッタイ身バレしないよ」って笑われた。
でもさ、セーラー襟のついた、ピンクのビキニなんだよ。
ホントにダイジョウブかな。
こんな恰好で何をさせられているのかというと、『ドキッ、水着だらけの水上大運動会』の総合司会だ。
Aグループ日程の、鹿鳴館學園夏合宿の打ち上げに相当するイベントだよ。
会場はジャングル風呂地帯のど真ん中にある、魔周湖ロングビーチ。
毎年、国営テレビの夏の特番として放送されている、大人気番組でもある。
総合司会は二人いて、ボクの相方は、科學戦隊レオタンの『爆炎レッド』さんだ。
キャプテンらしいスカーレットレッドの、男子体操用レオタード+長パン姿だ。
競技の説明や解説は、ほとんど全部『爆炎レッド』さんがやってくれる。
ボクの役目は、各競技会場へ出向いてのインタビューとレポート。
お約束があって、出向いた先々でのレポート中に必ずハプニングが起きることになっている。
ボクは、その度ごとに、Gカップを揺らしながら、水中に落ちなければならない。
……結構大変だ。
浮島争奪戦、ゴムボート騎馬戦、テトラポッド転がし、勝ち抜き野球拳等、エッチなハプニングを期待させるような競技だらけだ。
ボクが、ターザン高飛込の実況に行ったら、競技実演のため、水上のロープからロープへ飛び移れと、『爆炎レッド』さんに指示された。
でもって、ロープを掴んだとたん、いきなりスタッフから突き飛ばされた。
飛び移る先のロープなんて確認する間もなかったら、そのまま、空中に投げ出された。
ビキニのボトムスの前後を結んでいた紐に、ロープが引っかかって、結び目が解け――。
慌てて、解けかけている結び目のあたりを、夢中で掴んだ。
ウギャーッと叫びつつ、脚をバタバタさせながら、魔周湖に落ちた。
危なかった。
もうちょっとでも脱げてたら、オトコノコに戻ってしまたに違いない。
もし、そんなことになったら、ボク、もう、魔周湖にある大瀧から身投げするしかないよ。
☆
午前の部の最終競技は、『お着替えリレー障害物競走』だ。
この競技には、『文化部衣装魔法少女』のスイレンレンゲさんが出場する。
この競技は、例年『被服流行創出部』と『服飾文化研究部』で競われる。
両部が夏合宿で作った『お着替え衣装』の出来と、『リレー障害物競走』の速さで、勝敗が決まる。
衣装の製作時から競技が開始されているから、お題は事前に発表されている。
今年の、お題は、出走順に、次の通り。
十二単 → 執事服 → ナース服 → ビキニアーマー → メイド服
魔力や聖力については、服飾を美しく魅せるための使用のみが認められている。
走るために使用しては、ならない。
最初の十二単は、両部のこだわりが発揮された、絢爛豪華なものだ。
『被服流行創出部』の方は電飾で、十二色に輝いている。
『服飾文化研究部』は、一見地味かと思ったが、よく見ると、重ね着された十二の単衣が、リズミカルに入れ替わっている。
入れ替わって見えるとかいうのではなく、聖力を用いて、実際に入れ替えている。
その技術力の高さに、会場が沸き返った。
両部ともに技術点は、前例のないほどの高得点だった。
だが、流石にこの衣装では走れないため、速度については。かなりの低得点となった。
執事服、ナース服、ビキニアーマーと、衣装が軽く動きやすくなっていくため、スピード勝負となっていく。
レンゲさんは、最後のお題であるメイド服を着る、『服飾文化研究部』の走者だ。
見ると、そのまんま『服飾に呪われた魔法少女』としての『平服』、つまりコスプレメイドだ。
レンゲさんが、この『呪われた服飾』しか着れないことに配慮し、最終走者だけは、合宿中の製作物でなくとも良いという特別ルールだそうだ。
『被服流行創出部』は、誰が出てくるんだろうと思ったら、知っている人だった。
冥土喫茶『比翼の天使』のバニーメイドさんだ。
ボク、思わず、選手紹介のとき、「バニーメイドさん、今度お店に行ったら、指名させてください」って、言い寄っちゃった。
そしたら、ボクは、後から誰かに抱えあげられた。
誰かと思ったら、レンゲさんだ。
レンゲさんの「指名するなら、ワタシ、デス」という声とともに、ボク、魔周湖に放り込まれちゃった。
『お着替えリレー障害物競走』は、抜きつ抜かれつの接戦となっていた。
そして、勝敗の行方は、最終走者へ託された。
最終走者の、ゴール直前に、幅の狭い筏を繋いだだけの長い浮橋がある。
僅かに先行していたバニーメイドさんが、浮橋の揺れにもたつく。
そこに、コスプレメイドさんが追いすがる。
ところが、コスプレメイドさんも、揺れる浮橋に足をとられて、転びかける。
コスプレメイドさんは、落ちてはたまらないと、バニーメイドさんの丸い尻尾を掴む。
尻尾が、引っこ抜けてしまった。
バニーメイドさんが、「うさ~っ!」悲鳴をあげながら、お尻を押さえる。
その隙に、コスプレメイドさんは、バニーメイドさんを追い抜く。
バニーメイドさんが、意地を見せ、「うさ、ぴょん!」と跳ねる。
その長い耳ごと、コスプレメイドさんのミニスカの中へ、頭を突っ込んだ。
コスプレメイドさんの、フリルだらけのパニエに、バニーメイドさんの耳が絡みついて、取れない。
そのまま、二人、縺れ合ったまま、魔周湖に落ちた。
結果、この勝負はドローとなった。
観客は、大盛り上がりだ。
誰も勝敗なんて気にしてないのが分かる。
☆
午後の部の山場というか、メインイベントは、『尻相撲バトルロワイヤル』だ。
女子相撲部と、女子プロレス部の、ガチンコ対決だ。
エンターテイメント性の高い格闘技として、どちらも、國営放送で大人気。
そして、両部は、自他共に認めるライバル関係にある。
『爆炎レッド』さんも、ノリノリで、プロレスの場内アナウンス風に煽りまくっている。
ルールは簡単だ。
魔周湖に、大きめの土俵のようなものを、板で作って浮かべてある。
そこに両チームの選抜選手が五人づつ入り、合図で試合開始する。
魔力抜きで、ヒップアタックのみ。
座っても転んでも問題なく、板土俵から落ちたら負け。
最後に残った一人の所属する部が勝ちとなる。
試合中、魔力または聖力を纏うことは許されるが、それを使っての攻撃はできない。
ステージ上での、選手紹介。
女子相撲部は、色違いのレスリングレオタードに、相撲まわし姿だ。
東西の横綱、部長の二ツ山と、副部長の玉之輿。
そして、三大関の、桃尻姫、姉ケ淵、弾丸娘が続く。
弾丸娘は、『運動部衣装魔法少女』菖蒲綾女ちゃんの四股名だ。
ボクと、綾女ちゃんは、小さく手を振り合った。
女子プロレス部は 部長が女戦士族長、副部長が黒女豹と舞獅子の二人。
続いて、事前予告と異なる選手が、ステージに上がってきた。
ヒールの二人、牝鬣犬と白鼬鼠だ。
この二人の凶悪さは、広く知られている。
「この二人出したら反則だろ」とか、「女子相撲部、かわいそう」といった、悲鳴のような声が上がった。
女子プロレス部は 部長がビキニアーマー風。
他の四人はリングネームの動物柄をしたビキニだ。
ちゃんと、尻尾まで縫い付けてある。
選手紹介の最後に、女子相撲部の二ツ山親方と、女子プロレス部の女戦士族長が、前に進み出た。
それぞれ、太いベルト状のものを肩にかけている。
二人は、『爆炎レッド』さんの手から、マイクを奪い取る。
そして、宣言した。
「あたいら、女子相撲部は、この勝負に、この『伝説の鳳凰チャンピオンまわし』をかける!」
「うちら、女子プロレス部は、この『伝承の麒麟チャンピオンベルト』だ!」
これは大変なことになった、と会場が盛り上がる。
だって、この『化粧まわし』と『ベルト』の争奪戦が、両部活のテレビ番組人気を支えているのだ。
この『化粧まわし』や『ベルト』を奪われてしまったら、どちらの部もそれぞれの番組が放送できなくなってしまう。
ボクが、あわあわと、進み出て、『化粧まわし』と『ベルト』を預かった。
牝鬣犬が、クンクン、ボクのニオイを嗅いでくる。
「なんだ、コイツ、カワイイのに、男みたいなニオイがすっぞ」
白鼬鼠が、「このぷるんぷるるんのデカチチは、女だろ」と言いながら、ボクの胸を揉んできた。
ボクは、「あふっ」と声をあげながら逃げようとした。
だけど、がっちり掴まれているので、逃げられない。
そしたら、弾丸娘=綾女ちゃんが、素早く割って入って、白鼬鼠の腕を引き剥がしてくれた。
綾女ちゃん、カッコイイ。
惚れちゃいそう。
両部の選手たちが、スワンボートで、水上土俵に移動して、試合開始だ。
試合開始早々、黒女豹と舞獅子の二人が、二ツ山親方を、ツープラトンで攻めてきた。
黒女豹と舞獅子は、普段からタッグを組むことが多いので、息はピッタリだ。
この不意討ちで、まず女子相撲部のトップを潰そうとしたのだろう。
二ツ山親方は、膝に手を添えて足を高く上げて、板土俵を強く踏む。
四股を踏んだのだ。
黒女豹と舞獅子が、同時にジャンピングヒップアタックをかましてくる。
だが、二ツ山親方は、四股を踏んだ姿勢から、一歩も動かない。
動かざること二ツ山の如し、だ。
体勢を崩したのは、黒女豹と舞獅子の方だった。
そこへ玉之輿による、腰を大きく捻っての、玉の腰アタックが炸裂した。
黒女豹と舞獅子は、板土俵際まで跳ね飛ばされた。
二人一緒に落ちそうになったのを舞獅子が我が身を犠牲にして、自身は水に落ちながらも、黒女豹を板土俵内に戻した。
一方、弾丸娘の顔面目がけて、白鼬鼠がヒップアタックを仕掛けてきていた。
日頃、相撲部で受けているぶちかましに比べたら、どうみても、軽い一撃だ。
弾丸娘は、それを頭突きで跳ね返そうとした。
アタックはヒップに限定されるが、ディフェンスは身体のどこでも構わない。
弾丸娘は余裕だと思っていたのに、姉ケ淵が血相を変えて割り込んできた。
「危ない!」と叫んで、弾丸娘を抱き寄せる。
その姉ケ淵の肩口に、白鼬鼠の尻が当った。
大した衝撃ではない。
だけど、何かが、飛び散った。
姉ケ淵の身体が、力を失い、コロコロ転がって、丸太土俵から落ちた。
辺りに、血が、飛び散っている。
ステージ上で見守っていたボクの位置からは、何が起こったか見えていた。
ボクは、弾丸娘=綾女ちゃんに向かって、叫んだ。
「弾丸娘気をつけて! 白鼬鼠は、尻っぺたに、何か仕込んでる。たぶん、剣山だよ!」
弾丸娘の形相が、怒りに歪んだ。
だって、姉ケ淵は、自分たち一年生を、いつも優しく導いてくれた、姉のような先輩二年生なのだ。
白鼬鼠を睨み付けた弾丸娘の視線の先では、桃尻姫が牝鬣犬に仕掛けていた。
大きなお尻をぷるぷる振っての攻撃は、往復ビンタ並みの破壊力だ。
牝鬣犬が両手をあげて、それを防ぐ。
牝鬣犬の片手に、光るものが見えた。
栓抜きだ。
それを、眼前の桃に突き立てる。
桃尻姫が「うぎゃっ」と悲鳴をあげつつ、前のめりに、板土俵から転げ落ちる。
桃尻姫は、『相撲まわし』を身につけているので、大事には至っていないはずだ。
牝鬣犬が、素早く手を下ろして、水着のボトムスに、栓抜きを隠すのが見えた。
ボクが、また弾丸娘=綾女ちゃんに向かって叫ぶ。
「牝鬣犬は、パンツに栓抜き隠してるよ!」
弾丸娘=綾女ちゃんは、軽く手を上げて、ボクに、『了解』と応じた。
二ツ山親方&玉之輿は、女戦士族長&黒女豹と、二対二で戦っており、状況は拮抗している。
そのため、弾丸娘は一人で、白鼬鼠と牝鬣犬の相手をするしかなさそうだ。
牝鬣犬がフェイントをかけ、その後に隠れていた白鼬鼠が、剣山入りのお尻で、アタックしてくる。
弾丸娘は、白鼬鼠の尻に仕込まれた剣山を、水着ごと掴む。
剣山の針が、掌に喰い込むのに構わず、グイと水着ごと剣山を引き上げ、そのまま、水着の中で、針の向きを反転させる。
そして、手を離す。
水着は、剣山ごと、バチンと、白鼬鼠の尻に貼り付いた。
白鼬鼠が「うぎぎゃゃゃーーーっ」と絶叫しつつ、その場に俯せになる。
牝鬣犬が、白鼬鼠を救おうと、栓抜きを振り翳して、弾丸娘に殴りかかってきた。
もはや、栓抜きを隠そうともしていない。
アタックはヒップのみの、大原則すら忘れている。
弾丸娘は、ジャンプして、栓抜きを躱す。
偶然にも、ジャンプして、着地した先が、白鼬鼠の尻、それも、剣山の真上だ。
「うううううぎぎぎぎぎゃゃゃゃゃーーーーーーーーーーっ」という断末魔のごとき声とともに、白鼬鼠が全身をピクピク痙攣させている。
もはや、動けない。
弾丸娘の方も、着地先にあった剣山のせいで、バランスを崩している。
そこへ、牝鬣犬が闇雲に栓抜きを振り回してくる。
牝鬣犬が振り回す、栓抜きの爪が、弾丸娘のレスリングレオタードの股下に引っかかる。
そのまま、ピリピリと、レスリングレオタードの薄い布地を引き裂いた。
弾丸娘のレスリングレオタードは上半身のみを被い、下半身は『相撲まわし』のみとなってしまった。
観客席から、沢山の悲鳴が上がった。
観客たちもみんな、弾丸娘=綾女ちゃんの衣装が、『呪われた服飾』の『道衣』だと知っている。
『呪われた服飾』が破損すれば、弾丸娘=綾女ちゃんの呪いが発動し、身に纏っていた魔力が消失してしまう。
牝鬣犬が、ニンマリ笑う。
そして、露になった弾丸娘の横っ腹へ、これまた反則の、噛みつき攻撃を仕掛けてきた。
内臓を、喰い荒さんばかりの勢いだ。
弾丸娘は噛みつきアタックへのディフェンスとして、強烈な突っ張り『機関銃連打』を繰り出した。
高速で打ち出される、機関銃の弾丸のごとき連打だ。
牝鬣犬は、「ぎゃゃゃーーーっ」と悲鳴をあげながら、板土俵の外へ弾き出された。
ボクは、知っている。
弾丸娘=綾女ちゃんの『道衣』って、実は、『相撲まわし』だけなのだ。レスリングレオタードは、『呪われた服飾』の下に着用が赦された、下着扱いなのだ。
それが破れても、魔力が減じるこしはない。
むしろ、脱いだことの羞恥心により、力が強まるんだ。
弾丸娘が、剥き出しになった自分の尻っぺたを、両手でパンパンはたきながら、「ウォーッ」と吠える。
大人の女性みたいな丸みはない、少年のような、小ぶりのお尻だ。
弾丸娘としては、恥ずかしいのもあるのだろうが、むしろ、下半身が、男性力士と同じ、裸に『相撲まわし』スタイルとなったことで、戦闘意欲が高まっているようだ。
板土俵上に残っているのは、女子相撲部が、二ツ山親方、玉之輿、弾丸娘の三人。
女子プロレス部は、女戦士族長と、黒女豹の二人。
玉之輿が、いきなり、弾丸娘を抱えあげ、女戦士族長へ向かって投げた。
女戦士は、「わおっ」と驚きつつも、何とかこれを避けた。
狙いが外れて、そのまま板土俵の外に飛び出しそうになった、弾丸娘の身体を、二ツ山親方が何と片手で受け止め、そのまま、黒女豹へ向かって投げた。
実は、女戦士への一投はフェイントで、こちらが、本命だったのだ。
黒女豹は、本来、素早い身のこなしこそが、その身上だ。
ところが、このとき、弾丸のごとく飛来する弾丸娘に、まるで対応できずに、棒立ちになっていた。
プロレスは、タッグマッチや、団体戦があり、連携技も多い。
一方、相撲は、個人戦しかない。
このときまで、黒女豹は、女子相撲部が、連携技を仕掛けてくるなどと思ってもみなかったのだ。
弾丸娘の剥き出しのお尻が、黒女豹の顔面を直撃した。
黒女豹は、板土俵の外へ弾き出された。
板土俵上に残っている女子プロレス部は、女戦士族長、ただ一人となった。
これを、女子相撲部の三人で、取り囲む。
女戦士族長の背後を取った玉之輿が、そのまま羽交い締めにしようと……。
それを、二ツ山親方が、押し止めた。
「玉之輿、弾丸娘、悪いが、ワガママを言わせてくれ。あたい、この女戦士とは、サシで勝負したいんだ」
女戦士族長が、「恰好つけて、後悔しても知らないぜ」と嘯く。
「女子相撲に伝わる秘技『風林火山』を、魅せてやろう。おまえも、戦士としてのプライドを魅せな」
「いいだろう、ピラニアの喰らいつきを魅せてやる」
二ツ山親方と、女戦士族長が、板土俵の中央で激突し、がっぷり四つに組み合った。
魔周湖に浮かべた板土俵が、ズンと、大きく揺れた。
さらに、ズズズズズン、ズズズズズズズズズスズンと、揺れが増幅する。
それは最早、人二人が組み合っただけで起こせる揺れではない。
続いて、「ウ――、ウ――、ウ――」と警報が鳴り響いた。
何かが、起こっている。
それも、大規模な異変だ。
暫しの静寂の後、女性の声によるアナウンスが、魔周湖全体に響き渡った。
「地底よりの侵略を確認! 地底よりの侵略を確認! ジャングル風呂地帯の湯源である『極楽湯』脇の洞窟『地獄釜』が陥没し、大穴が出現。聖力ダウジングにより、地底人千体と、巨大ゴーレム数十体による、大規模侵攻と判定しました。カストリ皇國軍よりの指示を伝えます。この事態には、皇國軍と科學戦隊が対応します。鹿鳴館學園生による『ドキッ、水着だらけの水上大運動会』は、即刻中止。鹿鳴館學園生については、戦闘能力の有無にかかわらず、全員即刻避難を命じます。各温泉ホテルの送迎バスを動かします。そのままバスでオテダマ市駅へ向かい、大陸縦断鉄道宿業号に乗り継いで、學園へ帰還なさい」
~~~ 薄荷ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~
■七月二四日② 温泉お色気仲居修行 転① 撮影
ジャングル風呂地帯には、大型リゾートホテルや、温泉旅館の他に、いくつかの湯屋もあるんだ。
湯屋は、ジャングル風呂地帯における、最も古い形態の浴場だよ。
歴史ある建物ばかりで、湯屋めぐりは、ホテルや旅館宿泊者の娯楽のひとつとなっている。
なかでも、『極楽湯』は、旧き神々も湯治に訪った最古の湯屋だとされている。
そこに、召喚勇者が、パーティーメンバーを引き連れて、乗り込んできたんだ。