■六月二四日 恐怖の大王 転 撮影
♠♠♠科學戦隊レオタン テレビシリーズ
♠♠♠第一話 恐怖の大王 転
僕は、東夷持國。
フェロモン諸島の巨門島。
夜中に、火口に投げ込まれそうになった、セーラーレオタっ子と、旧スク水っ子を助けた。
その際、『筋肉ダルマ』さん、『ガチムチ』さん、『筋ショタ』くんの三人と知り合った。
その三人は、僕のことを『筋ピク』くんと呼ぶ。
夜明とともに、カンテラの灯を消し、巨門島からの脱出を開始した。
『筋肉ダルマ』さんが旧スク水っ子を背負い、『ガチムチ』さんがセーラーレオタっ子を背負う。
そのまま、『筋肉ダルマ』さんの小型船を目指すこととした。
僕の高速艇の方が逃げ足は速いが、一人しか乗れない。
カルデラの淵まで達したところで、ドーンと音がして、眼下に火の手が上がった。
見ると、『筋肉ダルマ』さんの小型船が、炎上している。
半魚人たちが、船の燃料として積まれている魔木炭を、爆発させたようだ。
カルデラの淵なので、島の海岸線の様子が、朝日の中に見て取れる。
島の周りの海から、そこらじゅうに、その半魚人が頭を出している。
半魚人たちは、島を包囲した状態で、夜明けを待っていたらしい。
半魚人たちは、続々と上陸を開始している。
腰のククリナイフとは別に、ゴツイ銛を装備している。
しかも、大型の魔獣を、相当数、引き連れている。
人の何倍もありそうな、海胆、兜蟹、高脚蟹、山椒魚、海馬などの姿が見える。
多勢に無勢とかいったレベルではない。
向こうは、何千体もいて、こっちは男子四人だけだ。
しかも、内二人が、意識のない女子二人(名誉女子一人を含む)を背負っている。
そして、とっくに、完全に包囲されている。
どうすれば良いのか、考える。
島の岩場や草木は、一時的に身を隠せても、そこに隠れ続けられはしない。
ましてや、海岸線まで出たら、一切隠れる場所がない。
……結論として、どう足掻いても、助からないと思う。
僕は、他の男子三人に、せめて、僕の高速艇で、女子二人(名誉女子一人を含む→以下略)だけでも逃がそうと提案した。
僕の高速艇のコクピットには、構造上一人しか入れない。
それでも、子供みたいに小柄な女子二人だけなら、強引に押し込められると思う。
無茶な提案なのに、男子三人は、あっさり同意してくれた。
闇雲に戦っても、全滅は免れえない。
ならば、せめて女子二人を逃がせる、僅かな可能性に向かって、足掻いて、死のうと言ってくれた。
状況認識を、共有。
・高速艇は、入り江に、倒木で偽装し隠してある。
・いったん戦闘になったら、圧倒的な人数差で押し潰される。
そして、方針を確認。
・可能な限り、見つからないように、高速艇に近寄る。
・見つかってしまったら、眼前の敵を排除しつつ、ひたすら走る。
・男子四人については、誰が倒れても、見捨てて前進し続ける。
・女子二人を抱えている者が倒れたら、他の者が、その女子を引き継ぐ。
武器以外のもの、つまり、カンテラとか食料とかは捨てて、身軽になる。
・僕の武器は、クロスボティバッグに入れた投石機と、鋼鉄球だ。
・『筋肉ダルマ』さんは、ネイルハンマー。
片側が打撃面、もう片側が釘抜きになっている、金属製ハンマーだ。
・『ガチムチ』さんは、金属シャベル。
先が尖った形状で、二叉になった柄に、直交するグリップがついている。
・『筋ショタ』くんは、1メートル半ほどの長さの鉄パイプ。
吹き矢の筒みたいだけど、矢は持っていない。
陽が登って、完全に明るくなる前にと、即座に移動を開始した。
半魚人たちの先遣隊が、カルデラを目指して、駆け上っていく。
僕たちは、岩や、草木に隠れて、これをやり過ごしつつ、海岸線へと降りていく。
暫くして、カルデラから、半魚人たちの、エラを鳴らすような声が聞こえてきた。
たぶん、カルデラ上には、放置された半魚人の七死体だけで、僕たちが居ないと、確認したのだ。
そして、辺りを探せと、呼び交わす。
高速艇を隠した入り江へと続く、沢へと辿り着いた。
この沢沿いに下れば、あと少しだ。
『筋肉ダルマ』さんが、苔むした岩に、足を滑らせた。
沢の水に倒れ込むが、手脚を伸ばし、音を立てないよう、踏ん張っている。
ただ、背中の旧スク水っ子の下半身が、ザブンと水に浸かる。
「う、ギャーーーッ、み、水なん。水、恐いんよーーーっ」
それで目覚めたらしく、旧スク水っ子の悲鳴が、辺りにこだました。
――スク水なんか着といて、水が恐いって、なんなんだよ!
そう言ってやりたかったが、そんな余裕はない。
僕は、男三人に、「高速艇は、この下だ、一気に、沢沿いに、駆け下れ。足を取られるから、水には入るな」と叫ぶ。
沢の水中から、山椒魚が、次々と飛び出してくる。
僕は、水に手を突っこんで、沢に雷撃を流す。
|山椒魚《サンショウウオは、次々と感電死していく。
高脚蟹たちが、長い脚を駆使して、岩場を乗り越え、見おろして来る。
『筋肉ダルマ』さんが、ネイルハンマーを振るう。
ハンマーを振る度に、打撃面から、火球が飛び出していって、焼き蟹を量産する。
『筋肉ダルマ』さんの背中で、旧スク水っ子が、手脚をバタバタさせている。
「なんなん? これ、なんなん? どういう状況なん?」
どうやら、完全に覚醒したようだ。
「半魚人軍団から逃げてんだよ。僕らが身を挺して、二人を逃がすから、大人しくしてろ!」
旧スク水っ子が、状況を理解したらしく、目を見開く。
「う、うちら、大王様の巫女なん。それでも、助けようとしてるん?」
僕は、立ち塞がろうとする半魚人たちに向かって、雷撃を纏わせた鋼鉄球を、投石機で飛ばしながら、旧スク水っ子に確認する。
「大王様って、なんなんだ? 半魚人たちは、『恐怖の大王』って呼んでたぞ。僕は、このフェロモン諸島の領主の息子だけど、そんなもの聞いたことないぞ」
「邪神の一柱であられた大王様のことを、たかだか百年前にやってきた、天津神の手先に、理由もなく教えたりはしないん。大王様は、うちら廉貞島の民にとっては、妙見珊瑚礁の護り神なん。代々巫女をたて、供え物をして、仕えてきたん。でも天津神の血が混じった者たちにとっては、ただの獰猛な魔獣でしかないん。だから、うちは、そんな『恐怖の大王』の巫女であるうちらを、助けるんかと、訊いてるん」
『筋ショタ』くんが、鉄パイプを振り回して、背後から迫ってくる半魚人たちを退けながら、断言する。
「こちとら、思春期男子だぞ。天津神も、國津神も、邪神も関係ない。カワイければ、正義だ。ムサイ男の子なら放置するけど、カワイイ、女の子と、男の娘は助ける!」
『ガチムチ』さんは、シャベルを振り回している。
シャベルの剣先による直接攻撃だけでなく、剣先に発生した氷を飛ばしている。
氷は、針のようになって飛び、半魚人たちに突き刺さる。
攻撃の合間に、『ガチムチ』さんが、旧スク水っ子に近寄って、自分が背負っているセーラーレオタっ子を見せながら訊ねる。
「この子が眠ったままだと、思うようにシャベルが振り回せないんだ。何とか、起こせないか?」
旧スク水っ子は、セーラーレオタっ子の顔を覗き込んで、悲壮な声になる。
「うちら、寝てたんじゃないん。鰧の毒で、シビレてたん。だから、二度と目覚めんかもしれん」
空から、等身大の海胆が、降ってきた。
かなりの数が、次々降ってくる。
『筋ショタ』くんが、鉄パイプに息を吹き込んで突風を起こす。
辛うじて、誰かを直撃しそうな海胆、数匹の、軌道を変えてくれた。
直撃こそ免れたものの、海胆たちは、落下後も、僕たちへ向かって転がって来る。
棘先が掠めるだけで、衣服や皮膚が裂ける。
このままでは、ヤバイ。
僕は、毒づく。
「くそっ、こいつら、バフン海胆じゃないか! 最高級食材だぞ。このサイズなら、一匹で金貨一枚の価値があるっていうのに――」
旧スク水っ子が、「金貨……」と、何かを思い出そうとするかのように呟く。
旧スク水っ子が、「あっ!」と声をあげて、『筋ショタ』くんを指さす。
「キミ、ヨーホーホー亭で、金貨持ってたんね。あれ、まだ持ってるん?」
『筋ショタ』くんが、「おう」と答えて、懐から、取りだして見せる。
沢の先が、下り坂――というか、急峻な崖となっている。
勢いのまま、滑り降りた先に、壁が立ちはだかった。
何と、兜蟹たちが、ぎっしりと集まって、行く手を遮っている。
とてもじゃないが、越えられそうにない。
「くそっ、ほら、兜蟹の壁の向こうに、倒木が見えるだろ。僕の高速艇は、あそこに隠してある」
何とか、高速艇へ辿り着けないかと、思考を巡らす。
旧スク水っ子が、『筋ショタ』くんと目を合わせたまま、『ガチムチ』さんに背負われているセーラーレオタっ子を、指さす。
「その金貨を、あの子に握らせるんよ! 『奉納するから、目を覚ませ』って、言うんよ!」
高速艇の背後、入り江の中から、大きな影が出現した。
家ほどのサイズの、巨大海馬だ。
海馬は、高速艇に、のしかかる。
高速艇は、ペリペリ、バリバリと音をたてて、あっけなく、潰れていく。
どうやら、意図的に、この場所に誘い込まれたようだ。
いつの間にか、背後は半魚人たちによって、幾重にも囲まれ、逃げ場のない状態となっていた。
絶体絶命だ。
『筋ショタ』くんが、手にしていた金貨を、セーラーレオタっ子の手に、確りと握り込ませてこう言った。
「この金貨を奉納します。恐怖の大王様、この巫女さんを、僕のお嫁さんにください」
旧スク水っ子は、「な、なんて、バチ当たりなん……」と絶句している。
『筋ショタ』くんが、旧スク水っ子に言い返す。
「本気だぞ。悪いか! ヨーホーホー亭で一目惚れしたんだよ」
僕は、たまらずツッコミを入れた。
「バ、バカヤロウ、目を覚ませ! どんなにカワイクとも、コイツ、男だぞ」
『筋ショタ』くんが、僕に言い返す。
「昨夜、男の娘だって判明して、この気持ちは封印しようって思ったんだ。だけど、どうしても諦められなかったんだよ!」
『ガチムチ』さんは、冷静だ。
「お嫁さんにするなら、結婚しなきゃだけど、それ以前に、全員、ここで、オシマイだね」
『筋肉ダルマ』さんは、器が大きい。
「こんな状況だからこそ、悔いを残してはいけない。いいんじゃないか、愛があれば、性別なんて、何の障害にもならないよ」
ドドドドドーーーーンと、轟音が響き、島が揺れた。
入り江の先、海中から、海馬どころではない、もっと巨大なものが、飛び出してきた。
真っ黒なスミを吐いて跳躍し、ズドドドドンと、僕らの傍に降り立った。
それは、恐怖の大王……というか、恐怖の大王烏賊……様だった。
十本の触手を持つ、巨大イカだ。
~~~ 薄荷ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~
■六月二六日 キャプテンキッドの秘宝 結 撮影
いよいよ、決着の時!
『スクール水着魔女っ子』の糖菓ちゃんは、一族の宿敵である『河童水軍』に勝てるのか?
『キャプテンキッドの秘宝』の謎は、解明されるのか?
次回完結編を、刮目して待て!