表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/131

■六月二四日 恐怖の大王 転 撮影

  ♠♠♠科學戦隊レオタン テレビシリーズ

  ♠♠♠第一話 恐怖の大王 転


 僕は、東夷(とうい)持國(じこく)


 フェロモン諸島の巨門島。

 夜中に、火口に投げ込まれそうになった、セーラーレオタっ子と、旧スク水っ子を助けた。

 その際、『筋肉ダルマ』さん、『ガチムチ』さん、『筋ショタ』くんの三人と知り合った。

 その三人は、僕のことを『筋ピク』くんと呼ぶ。


 夜明とともに、カンテラの灯を消し、巨門島からの脱出を開始した。


 『筋肉ダルマ』さんが旧スク水っ子を背負い、『ガチムチ』さんがセーラーレオタっ子を背負う。

 そのまま、『筋肉ダルマ』さんの小型船を目指すこととした。

 僕の高速艇の方が逃げ足は速いが、一人しか乗れない。


 カルデラの淵まで達したところで、ドーンと音がして、眼下に火の手が上がった。

 見ると、『筋肉ダルマ』さんの小型船が、炎上している。

 半魚人たちが、船の燃料として積まれている魔木炭を、爆発させたようだ。


 カルデラの淵なので、島の海岸線の様子が、朝日の中に見て取れる。

 島の周りの海から、そこらじゅうに、その半魚人が頭を出している。

 半魚人たちは、島を包囲した状態で、夜明けを待っていたらしい。


 半魚人たちは、続々と上陸を開始している。

 腰のククリナイフとは別に、ゴツイ銛を装備している。


 しかも、大型の魔獣を、相当数、引き連れている。

 人の何倍もありそうな、海胆(ウニ)兜蟹(カブトガニ)高脚蟹(タカアシガニ)山椒魚(サンショウウオ)海馬(トド)などの姿が見える。


 多勢に無勢とかいったレベルではない。

 向こうは、何千体もいて、こっちは男子四人だけだ。

 しかも、内二人が、意識のない女子二人(名誉女子一人を含む)を背負っている。


 そして、とっくに、完全に包囲されている。


 どうすれば良いのか、考える。

 島の岩場や草木は、一時的に身を隠せても、そこに隠れ続けられはしない。

 ましてや、海岸線まで出たら、一切隠れる場所がない。

 ……結論として、どう足掻いても、助からないと思う。


 僕は、他の男子三人に、せめて、僕の高速艇で、女子二人(名誉女子一人を含む→以下略)だけでも逃がそうと提案した。

 僕の高速艇のコクピットには、構造上一人しか入れない。

 それでも、子供みたいに小柄な女子二人だけなら、強引に押し込められると思う。


 無茶な提案なのに、男子三人は、あっさり同意してくれた。

 闇雲に戦っても、全滅は免れえない。

 ならば、せめて女子二人を逃がせる、僅かな可能性に向かって、足掻いて、死のうと言ってくれた。


 状況認識を、共有。

 ・高速艇は、入り江に、倒木で偽装し隠してある。

 ・いったん戦闘になったら、圧倒的な人数差で押し潰される。


 そして、方針を確認。

 ・可能な限り、見つからないように、高速艇に近寄る。

 ・見つかってしまったら、眼前の敵を排除しつつ、ひたすら走る。

 ・男子四人については、誰が倒れても、見捨てて前進し続ける。

 ・女子二人を抱えている者が倒れたら、他の者が、その女子を引き継ぐ。


 武器以外のもの、つまり、カンテラとか食料とかは捨てて、身軽になる。


 ・僕の武器は、クロスボティバッグに入れた投石機(スリング)と、鋼鉄球だ。

 ・『筋肉ダルマ』さんは、ネイルハンマー。

  片側が打撃面、もう片側が釘抜きになっている、金属製ハンマーだ。

 ・『ガチムチ』さんは、金属シャベル。

  先が尖った形状で、二叉になった柄に、直交するグリップがついている。

 ・『筋ショタ』くんは、1メートル半ほどの長さの鉄パイプ。

  吹き矢の筒みたいだけど、矢は持っていない。


 陽が登って、完全に明るくなる前にと、即座に移動を開始した。


 半魚人たちの先遣隊が、カルデラを目指して、駆け上っていく。

 僕たちは、岩や、草木に隠れて、これをやり過ごしつつ、海岸線へと降りていく。


 暫くして、カルデラから、半魚人たちの、エラを鳴らすような声が聞こえてきた。

 たぶん、カルデラ上には、放置された半魚人の七死体だけで、僕たちが居ないと、確認したのだ。

 そして、辺りを探せと、呼び交わす。


 高速艇を隠した入り江へと続く、沢へと辿り着いた。

 この沢沿いに下れば、あと少しだ。


 『筋肉ダルマ』さんが、苔むした岩に、足を滑らせた。

 沢の水に倒れ込むが、手脚を伸ばし、音を立てないよう、踏ん張っている。


 ただ、背中の旧スク水っ子の下半身が、ザブンと水に浸かる。

 「う、ギャーーーッ、み、水なん。水、恐いんよーーーっ」

 それで目覚めたらしく、旧スク水っ子の悲鳴が、辺りにこだました。


 ――スク水なんか着といて、水が恐いって、なんなんだよ!

 そう言ってやりたかったが、そんな余裕はない。


 僕は、男三人に、「高速艇は、この下だ、一気に、沢沿いに、駆け下れ。足を取られるから、水には入るな」と叫ぶ。


 沢の水中から、山椒魚(サンショウウオ)が、次々と飛び出してくる。

 僕は、水に手を突っこんで、沢に雷撃を流す。

 |山椒魚《サンショウウオは、次々と感電死していく。


 高脚蟹(タカアシガニ)たちが、長い脚を駆使して、岩場を乗り越え、見おろして来る。

 『筋肉ダルマ』さんが、ネイルハンマーを振るう。

 ハンマーを振る度に、打撃面から、火球が飛び出していって、焼き蟹を量産する。


 『筋肉ダルマ』さんの背中で、旧スク水っ子が、手脚をバタバタさせている。

 「なんなん? これ、なんなん? どういう状況なん?」

 どうやら、完全に覚醒したようだ。


 「半魚人軍団から逃げてんだよ。僕らが身を挺して、二人を逃がすから、大人しくしてろ!」


 旧スク水っ子が、状況を理解したらしく、目を見開く。

 「う、うちら、大王様の巫女なん。それでも、助けようとしてるん?」


 僕は、立ち塞がろうとする半魚人たちに向かって、雷撃を纏わせた鋼鉄球を、投石機(スリング)で飛ばしながら、旧スク水っ子に確認する。

 「大王様って、なんなんだ? 半魚人たちは、『恐怖の大王』って呼んでたぞ。僕は、このフェロモン諸島の領主の息子だけど、そんなもの聞いたことないぞ」


 「邪神の一柱であられた大王様のことを、たかだか百年前にやってきた、天津神の手先に、理由もなく教えたりはしないん。大王様は、うちら廉貞島の民にとっては、妙見珊瑚礁の護り神なん。代々巫女をたて、供え物をして、仕えてきたん。でも天津神の血が混じった者たちにとっては、ただの獰猛な魔獣でしかないん。だから、うちは、そんな『恐怖の大王』の巫女であるうちらを、助けるんかと、訊いてるん」


 『筋ショタ』くんが、鉄パイプを振り回して、背後から迫ってくる半魚人たちを退けながら、断言する。

 「こちとら、思春期男子だぞ。天津神も、國津神も、邪神も関係ない。カワイければ、正義だ。ムサイ男の子なら放置するけど、カワイイ、女の子と、男の娘は助ける!」


 『ガチムチ』さんは、シャベルを振り回している。

 シャベルの剣先による直接攻撃だけでなく、剣先に発生した氷を飛ばしている。

 氷は、針のようになって飛び、半魚人たちに突き刺さる。


 攻撃の合間に、『ガチムチ』さんが、旧スク水っ子に近寄って、自分が背負っているセーラーレオタっ子を見せながら訊ねる。

 「この子が眠ったままだと、思うようにシャベルが振り回せないんだ。何とか、起こせないか?」


 旧スク水っ子は、セーラーレオタっ子の顔を覗き込んで、悲壮な声になる。

 「うちら、寝てたんじゃないん。(オコゼ)の毒で、シビレてたん。だから、二度と目覚めんかもしれん」


 空から、等身大の海胆(ウニ)が、降ってきた。

 かなりの数が、次々降ってくる。


 『筋ショタ』くんが、鉄パイプに息を吹き込んで突風を起こす。

 辛うじて、誰かを直撃しそうな海胆(ウニ)、数匹の、軌道を変えてくれた。


 直撃こそ免れたものの、海胆(ウニ)たちは、落下後も、僕たちへ向かって転がって来る。

 棘先が掠めるだけで、衣服や皮膚が裂ける。

 このままでは、ヤバイ。


 僕は、毒づく。

 「くそっ、こいつら、バフン海胆(ウニ)じゃないか! 最高級食材だぞ。このサイズなら、一匹で金貨一枚の価値があるっていうのに――」


 旧スク水っ子が、「金貨……」と、何かを思い出そうとするかのように呟く。

 旧スク水っ子が、「あっ!」と声をあげて、『筋ショタ』くんを指さす。

 「キミ、ヨーホーホー亭で、金貨持ってたんね。あれ、まだ持ってるん?」


 『筋ショタ』くんが、「おう」と答えて、懐から、取りだして見せる。


 沢の先が、下り坂――というか、急峻な崖となっている。

 勢いのまま、滑り降りた先に、壁が立ちはだかった。

 何と、兜蟹(カブトガニ)たちが、ぎっしりと集まって、行く手を遮っている。

 とてもじゃないが、越えられそうにない。


 「くそっ、ほら、兜蟹(カブトガニ)の壁の向こうに、倒木が見えるだろ。僕の高速艇は、あそこに隠してある」


 何とか、高速艇へ辿り着けないかと、思考を巡らす。


 旧スク水っ子が、『筋ショタ』くんと目を合わせたまま、『ガチムチ』さんに背負われているセーラーレオタっ子を、指さす。

 「その金貨を、あの子に握らせるんよ! 『奉納するから、目を覚ませ』って、言うんよ!」


 高速艇の背後、入り江の中から、大きな影が出現した。

 家ほどのサイズの、巨大海馬(トド)だ。

 海馬(トド)は、高速艇に、のしかかる。

 高速艇は、ペリペリ、バリバリと音をたてて、あっけなく、潰れていく。


 どうやら、意図的に、この場所に誘い込まれたようだ。

 いつの間にか、背後は半魚人たちによって、幾重にも囲まれ、逃げ場のない状態となっていた。

 絶体絶命だ。


 『筋ショタ』くんが、手にしていた金貨を、セーラーレオタっ子の手に、確りと握り込ませてこう言った。

 「この金貨を奉納します。恐怖の大王様、この巫女さんを、僕のお嫁さんにください」


 旧スク水っ子は、「な、なんて、バチ当たりなん……」と絶句している。


 『筋ショタ』くんが、旧スク水っ子に言い返す。

 「本気だぞ。悪いか! ヨーホーホー亭で一目惚れしたんだよ」


 僕は、たまらずツッコミを入れた。

 「バ、バカヤロウ、目を覚ませ! どんなにカワイクとも、コイツ、男だぞ」


 『筋ショタ』くんが、僕に言い返す。

 「昨夜、男の娘だって判明して、この気持ちは封印しようって思ったんだ。だけど、どうしても諦められなかったんだよ!」


 『ガチムチ』さんは、冷静だ。

 「お嫁さんにするなら、結婚しなきゃだけど、それ以前に、全員、ここで、オシマイだね」


 『筋肉ダルマ』さんは、器が大きい。

 「こんな状況だからこそ、悔いを残してはいけない。いいんじゃないか、愛があれば、性別なんて、何の障害にもならないよ」


 ドドドドドーーーーンと、轟音が響き、島が揺れた。


 入り江の先、海中から、海馬(トド)どころではない、もっと巨大なものが、飛び出してきた。

 真っ黒なスミを吐いて跳躍し、ズドドドドンと、僕らの傍に降り立った。


 それは、恐怖の大王……というか、恐怖の大王烏賊(イカ)……様だった。

 十本の触手を持つ、巨大イカだ。

~~~ 薄荷(はっか)ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~

■六月二六日 キャプテンキッドの秘宝 結 撮影

いよいよ、決着の時!

『スクール水着魔女っ子』の糖菓(とうか)ちゃんは、一族の宿敵である『河童(かっぱ)水軍』に勝てるのか?

『キャプテンキッドの秘宝』の謎は、解明されるのか?

次回完結編を、刮目して待て!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ