■六月二二日 キャプテンキッドの秘宝 転 撮影
♥♥♥服飾に呪われた魔法少女テレビシリーズ
♥♥♥第五話 キャプテンキッドの秘宝 転
うち――金平糖菓――は、仲間と一緒に、フェロモン諸島内にある、北斗七星の島々を順に巡ってきたん。
破軍岬をスタートし、武曲島、廉貞島、文曲島、禄存島、巨門島を順に巡って、遂に、『河童水軍』の根城である、貪狼島を眼前にしてるん。
うちは、『鉤の鉤爪』が嵌まった右手の甲を、確認するん。
手甲の北斗七星は、既に六つが青く点灯しており、残された赤の点灯はひとつだけ。
柄杓で例えれば、『合』と呼ばれる、お椀の先端部だけ。
その位置にあるのが、貪狼島なん。
破軍岬出立時は、我が『金平水軍』勢の船は、七隻だけだったん。
その後、武曲島、廉貞島、文曲島、禄存島、巨門島の各島で、同盟関係にある五水軍が合流してくれたん。
今や、軍勢は、五十隻を越え、千数百人に達しているん。
うちらは、その五十隻で、夜の内に貪狼島を取り囲んだん。
朝日とともに、貪狼島の様子が慌ただしくなるん。
『河童水軍』の奴らが、包囲されて、慌てているん。
貪狼島にいる『河童水軍』は、約五百人。
貪狼島は、城とまでは呼べないけど、島全体が要塞化されているん。
罠とか、抜け道とか、隠し部屋だらけなん。
『河童水軍』は、多少の戦力差があろうと、貪狼島に籠もっている限り負けないと考えるはずなん。
なんで、ここまで、貪狼島や、『河童水軍』のことが分かっているのかというと、喇叭拉太くんが、一年がかりで、潜入していてくれたからなん。
☆
十四年前の、大物語『鉤の鉤爪』が、事の発端なん。
前皇帝から現皇帝への政権移譲の中で、行き場を失った平民たちの怒りを、時の義賊や海賊たちが代弁する形で、大規模な反乱が起こったん。
『海賊』や『義賊』は、あまたの過去の物語において、英雄だったん。
それが、中央集権化を進めるカストリ皇國の意向により、非道な犯罪者に貶められようとしていたん。
鉤船長は、『義賊軍』を取り纏め、その復権のため、皇帝に戦いを挑んだん。
そして、あえなく、破れたん。
鉤船長の、最後の戦いとなったのが、アヤトリ市沖海戦なん。
鉤船長は、敵味方のポンポン船を、ポンポン跳び移りながら戦うことで有名だったん。
掌につけた手甲鉤を舷に引っかけて、船から船へと渡っていくん。
これに立ち塞がったのが、菖蒲決。
綾女ちゃんのお父さんなん。
決は、船から船へと逃げ回る鉤船長を追って、家宝の槍、グングニルを投げたん。
グングニルは、投擲すると、手元に戻ってくる神槍なん。
決は、グングニルを投げ続け、鉤は、船を跳び移り続けたん。
ところが、鉤船長は、七艘目の『河童水軍』の船で、何かに足を取られた。
それは、カッパのロゴで有名なカップ酒の、空き瓶だったん。
『河童水軍』の海賊たちは、カップ酒をあおりながら戦うものだから、その船内は、放り捨てられた空き瓶だらけだったん。
空き瓶に足を取られて転倒した鉤船長の身体を、決の八投目が貫いたん。
それでも鉤船長は、「こなくそっ!」と身を起こし、どうにか八艘目の『金平水軍』の船へと跳び移ったものの……そこで力尽きたん。
この物語をもって、義賊や海賊たちの時代は終わったん。
いまでは、義賊や海賊は、ただの犯罪者集団と見做されてるん。
ただ、それでも、鉤船長と、その鉤爪は、虐げたられた民衆の間で、神格化されているん。
鉤船長は、キャプテンキッドの秘宝の在処を見つけたと、言われてるん。
そこで、キャプテンキッドの霊から、ひとつの手甲鉤を託されたん。
そのとき、キャプテンキッドの霊が、言ったそうなん。
「この手甲鉤こそが、義賊海賊復興の鉤=鍵となろう」と。
だから、当時、『金平水軍』の長であった、うちのお爺ちゃんは、決意したん。
何としてもこの手甲鉤を、その時が来るまで、國の為政者や、悪党どもから隠しおおせねばならないと。
それで、郎党の中から、いくつかの家族を選び、義賊海賊復興の時まで、カストリ皇國の各地に隠れ住むよう命じたん。
各家族が隠れ住む先については、互いに、そして、本家である自分たちにすら、明かしてはならんとも――。
そして、その中の一家族に、極秘裡のうちに、手甲鉤=『鉤の鉤爪』を託したん。
つまり、複数の離散郎党のうち、どの家が『鉤の鉤爪』を託されたか分からなくしたん。
その、『鉤の鉤爪』を託された家族こそが、喇叭家だったん。
☆
喇叭家は、元々、『金平水軍』の郎党筆頭だったん。
喇叭って、戦場の号令係を指すん。
『金平水軍』の軍師にあたる家柄なん。
喇叭家は、夫と、妻と、その子供である兄と、弟の四人だったん。
四人は、敢えて、海から遠い、内陸の都市、リリアン市を選び、そこに隠れ住んだ。
兄弟は、六歳になると、二人とも、ロールを授かったん。
兄の辣人さんが『乱波』で、弟の拉太くんが『海賊』。
喇叭家夫婦は、自分たちの子供二人が、何か大切な御役目を担っているのだと理解したん。
弟が、海賊になるのなら、兄は、『鉤の鉤爪』を継承すべき者との連絡役なん。
そして、二年前、破軍岬にある海城が、『河童水軍』の夜襲を受けたん。
本家の者たちは、『鉤の鉤爪』の所在を問う拷問の末、殺されたん。
しかしながら、本家の姫が唯一人だけ行方知れずとの、不確かな報道もあったん。
夫婦は、その姫が、まだ赤子だった頃を知っているん。
自分たちの息子のうち、兄の一歳年下で、弟と同年なん。
夫婦は、その姫が、物語に導かれて、必ず學園にやって来ると確信していたん。
だから、トラウマ取得済の兄の辣人さんに、『鉤の鉤爪』を隠し持たせて、學園へ送り出した。
『乱波』のロールを活かして、姫様を捜し出し、接触し、お護りせよ、と。
そして、弟の拉太くんに命じたん。
『海賊』のロールを持つ者の、イニシエーションは、海にて与えられる。
アヤトリ湾の、ヨーホーホー亭にいる頬傷の男を訪ねよと。
拉太くんが、ヨーホーホー亭を訪ねると、頬傷の男が、「ちょうど良かった」と言ったん。
「『海賊』のロール持ちで、『河童水軍』に、顔や、素性を知られてねえヤツが、欲しかったんだ。あんちゃん、貪狼島に潜り込んで『河童水軍』の様子を調べてきてくんねえか?」
拉太くんは、見事に役目を果し、事故死を装って、貪狼島から戻ってきたん。
拉太くんは、貪狼島の砦の構造も、弱点も、罠も、抜け道も、隠し部屋まで、全部把握しているん。
☆
一族郎党の仇を取るん。
島の砦に潜んでれば負けないと、高をくくってる河童どもに、吠え面かかせるん。
最初に、『舞踏衣装魔法少女』の宝生明星様、が動いたん。
『平服』のミニ袴巫女服を、『体育服』のチア服にチェンジする。
どちらも、ラメが散りばめられた空色なん。
両手のポンポンを振りながら、貪狼島上空に躍り上がる。
右手のポンポンを振って、味方の『金平水軍』側に、バフをかける。
左手のポンポンを振って、敵の『河童水軍』に、デバフをかける。
対象人数が多いので、効果は薄まる。
それでも、バフをかけられた側は、明らかに戦意が高揚し、攻撃力が増す。
デバフをかけられた側は、恐怖に駆られ、逃げ出したい衝動に駆られている。
次に、『文化部衣装魔法少女』のスイレンレンゲさんが、動いたん。
『平服』のコスプレメイド服を、『体育服』のゴスロリ服にチェンジする。
どちらも、真紅のフリフリなん。
レンゲさんは、「転移の用意はいいデスか?」と、うちら三人に声をかけたん。
「おう」と返事したのは、『運動部衣装魔法少女』の菖蒲綾女ちゃん。
『平服』のテニスウェアを、『体育服』の陸上ウェアにチェンジ済なん。
綾女ちゃんの衣装は若葉色で、本当は、もう一段階上の『道衣』女相撲衣装にもチェンジできるん。
これは、レスリングレオタードを着たうえに、『すもうまわし』なん。
本人は、スポーツに相応しい衣装であれば恥ずかしくないって、言いはってるん。
それでもやっぱり、人前では『ふんどし』姿にはなりたがらないん。
レンゲさんは、貪狼島の海岸線を特徴づける、切り立った崖の上に、綾女ちゃんを転移させるん。
綾女ちゃんは、崖の上に居並んだ、砲台や石弩を、潰していくん。
綾女ちゃんが、グングニルを投げると、鋳物や岩石まで爆散するから、凄まじいん。
こうして、綾女ちゃんが、射程の長い大型兵器を潰したところから、『金平水軍』側の船舶が、接舷、上陸していく手筈となっている。
レンゲさんが、転移から戻ると、「ボクも行けるよ」と、『セーラー服魔法少女』の儚内薄荷ちゃん。
『平服』のセパレーツセーラー服を、『体育服』のセーラーワンピにチェンジ済なん。
薄荷ちゃんの衣装は、ショッキングピンクで、本当は、もう一段階上の『道衣』セーラーレオタにもチェンジできるん。
ただ、セーラーレオタは、科學戦隊の撮影でしか着ない約束になっているん。
レンゲさんは、薄荷ちゃんを、転移させたん。
薄荷ちゃんは、桟橋に繋がれた『河童水軍』の船を、片っ端から爆散させていくことになっているん。
これは、『河童水軍』側に、船で戦うことも、船で逃げることもさせないためなん。
薄荷ちゃんは、桟橋上で、仁王立ちになるん。
臍の下あたりに両手を降ろし、「男の娘のひみつ、見せてあげる♥」と呪文を唱えるん。
柄を上にして背中に吊されていた『転生勇者の剣ネコ』が、ふわりと浮きあがるん。
鞘ごと半回転し、柄を下にして、手元に降りて来るん。
『転生勇者の剣ネコ』は、鞘だけでなく、柄や鍔も、どピンクなん。
此処彼処に、花柄や、ハートや、星が散らされてるん。
薄荷ちゃんは、『転生勇者の剣ネコ』の柄を、臍の下あたりの位置で、両手で掴むん。
「ボクを見て♥」と呪文を唱えるん。
薄荷ちゃんは、柄を握ったまま、『転生勇者の剣ネコ』の位置を動かしていないん。
なのに、鞘の方が、蛍光ピンクにピカピカ点滅しながら背中に戻っていくことによって、抜剣されたん。
二つの呪文が、よほど恥ずかしいらしく、薄荷ちゃんの顔は、真っ赤なん。
その羞恥心が『転生勇者の剣ネコ』に伝わり、刀身に纏わり付く魔力が、爆発的に高まっているん。
薄荷ちゃんが、「えい、やー」とか言いながら、『転生勇者の剣ネコ』を闇雲に振り回すん。
すると、桟橋に繋がれていた船が、此処彼処から爆散していくん。
だけど、見てれば分かるんけど、『転生勇者の剣ネコ』は、どこにも当っていない。
『転生勇者の剣ネコ』は、何の役にもたっていなくて、薄荷ちゃんが、自分の持つ拒否の力で、船を爆散させているだけなん。
薄荷ちゃんは、間違いなく、『転生勇者の剣ネコ』を振り回さなくとも、全く同じことができるん。
ここで、薄荷ちゃんにとって、不幸なことが起こったん。
爆散され、傾いで、沈んでいく船から、『河童水軍』の海賊たちが、湧き出してきたん。
薄荷ちゃんも、うちも知らなかったけど、海賊は、本拠地の島にいるときですら、船の中で眠る者が多いん。
ほぼ裸の赤褌一丁で、眠っていた、むくつけき男たちが、這い出し、桟橋に取り付くん。
カトラスを抜いて、わらわらと迫ってきたん。
薄荷ちゃんは、トラウマのせいで、男の集団に迫って来られると、恐怖に駆られて、平静を保てなくなるん。
「ウギャーーーーーーーーーッ」と絶叫しながら、『転生勇者の剣ネコ』を、メチャクチャに振り回し始めたん。
――まったく、なにやってんだか。
だって、薄荷ちゃんに理性が残ってたら、今度こそホントに、「ムリ」と一回、大声で叫んで拒否すれば、その辺りの、あらゆるものを、自分に届かない場所に、撥ね飛ばせるって分かってるはずなん。
薄荷ちゃんには、重たい剣を振り回し続ける体力が無いん。
すぐに、『転生勇者の剣ネコ』を足下に突き立て、それに寄りかかって、ハアハア息を荒げはじめたん。
――これは、いよいよ、奥の手だね。
と思って見てたら、案の定なん。
薄荷ちゃんは、きゅと、身体を捻って、セーラーワンピの短い布地を、自ら捲ったん。
その下から、PAN2式が、國中の番組視聴者に、お披露目されるん。
皇國軍造兵廠が総力をあげて開発した、薄荷ちゃん専用の特殊兵装なん。
その、PAN2式のお尻には、御社の神使の一柱であらせられる白鼠様の絵姿。
マンガキャラクター化され、可愛らしくデフォルメされ、『SHIRONEZU―CYAMA』と丸っこいフォントで書き添えられているん。
薄荷ちゃんは、「お尻ぺんぺん。白鼠様、助けて!」という呪文を唱えつつ、パンツに描かれた白鼠様に、二回、優しく触れるん。
すると、白鼠様の絵姿が、薄荷ちゃんのお尻から、ポンと飛びだしてくる。
飛び出すと同時に、その御姿は、本来のリアルな白鼠に戻っているん。
白いハムスターみたいなん。
白鼠様は、薄荷ちゃんを護るように、その眼前に浮いているん。
そして、「チューーーーーーッ!」と鳴く。
すると、白鼠様と薄荷ちゃんを包み込むように、球状聖域が出現し、邪な欲望を抱く者は、中に入って来れなくなる。
薄荷ちゃんに襲いかかろうとしていた海賊たちは、ことごとく、球状聖域に弾き飛ばされていたん。
ってことは、あの海賊たちは、みんな、薄荷ちゃんに、邪な欲望を抱いてるってことなん。
薄荷ちゃんが、わたわたしているうちに、『金平水軍』側船が、次々と貪狼島に接舷し、攻め込んで行くん。
さて、いよいよ、なん。
次回、『服飾に呪われた魔法少女テレビシリーズ 第五話 キャプテンキッドの秘宝 結』を、刮目して待つんよ!
~~~ 薄荷ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~
■六月二四日 恐怖の大王 転 撮影
『筋ピク』くんは、『筋肉ダルマ』さん、『ガチムチ』さん、『筋ショタ』くんの三人とともに、絶望的な戦いに臨む。
それでなくとも不利なのに、『筋肉ダルマ』さんは気絶している『旧スク水っ子』を背負い、『ガチムチ』さんは気絶している『セーラーレオタっ子』を背負っている。
戦う相手は、何千体もの半魚人たちと、その支配下にある、人の何倍もありそうな、海胆、兜蟹、高脚蟹、山椒魚、海馬の群れだ。
しかも、既に島ごと包囲されているのだから、絶望的だ。
男子四人は、それでも、最後まで足掻く決意だ。