■六月二十日 恐怖の大王 承 撮影
♠♠♠科學戦隊レオタン テレビシリーズ
♠♠♠第一話 恐怖の大王 承
僕は、東夷男爵家の持國という。
『科學戦隊地方駐在員』として、東夷男爵家の領地であるフェロモン諸島を、支給された高速艇で巡り、乳香や麝香を集めている。
真夜中、半魚人たちから、巨門島の火口に投げ込まれそうになった、セーラーレオタっ子と、旧スク水っ子を助けた。
そして、恐怖の大王がどうとかと言い始めた、生き残り半魚人の話しを聞こうとしていた。
そこへ、あとから駆けつけてきた三人組が、僕たちが危ないと勘違いし、助けようとして、その半魚人たちを殺してしまった。
善意とはいえ、余計なことを――。
あの半魚人は、とても大切なことを話そうとしていた義がする。
だけど、済んでしまったことは、仕方ない。
とにかく、状況を確認すべきだろう。
僕は、自分のカンテラを取りだして、灯を点した。
さっきまでは、敢えてカンテラを使わず、身を隠していた。
だが、これだけの騒ぎを起こしたとなれば、もはや、身の隠しようがない。
それに、駆けつけてきた三人組は、各自が手にしたカンテラを、最初っから振り回している。
カルデラ内は、草木が生えておらず、岩場となっている。
少なくとも、大型の魔獣が、近場に潜んでいる様子はない。
打ち倒した半漁人八体と、セーラーレオタっ子と、旧スク水っ子が、転がっている。
打ち倒した半魚人八体は、朝まで放置で構わない。
セーラーレオタっ子と、旧スク水っ子の状態確認を急ぐべきだ。
カンテラをかざして、二人を確認すると、それぞれ棒に手脚をしばられたまま、火口間近の岩場に倒れている。
二人とも、怪我はなく、息はしているのに、目覚める様子がない。
強い睡眠薬でも飲まされたのか、それとも、魔力か聖力が使われたのか……。
まずは、二人を縛めから解放し、危険な火口間近の岩場から離さなくては――。
僕は、駆けつけてきた三人組に協力を要請した。
僕は、駆けつけてきた三人組を、『筋肉ダルマ』さん、『ガチムチ』さん、『筋ショタ』くんと、認識している。
僕が、半魚人の遺体からククリナイフを奪うと、三人組もこれに倣った。
そのククリナイフで、セーラーレオタっ子と、旧スク水っ子を縛っていた縄を切る。
僕は、自分が隠れていた岩場の穴に、二人を運び込もうと提案した。
『筋肉ダルマ』さんが旧スク水っ子を、『ガチムチ』さんがセーラーレオタっ子を、それぞれお姫様抱っこして、運び入れた。
後ろから付いてきていた『筋ショタ』くんが、「あれっ!」と、素っ頓狂な声をあげた。
穴の中に降ろされた、セーラーレオタっ子の肢体に、カンテラをかざす。
そして、「ほら、これ見て!」と、セーラーレオタードの腰に巻かれていた布を捲った。
僕は、「なにしてんだ」と、拳を振り上げかけて、固まった。
巻きスカートの中を目にして、『筋ショタ』くんが言いたかったことを理解したからだ。
僕だけでなく、『筋肉ダルマ』さんも、『ガチムチ』さんも、驚いている。
そこに、膨らみがあった。
セーラーレオタっ子は、男の娘だったのだ。
旧スク水っ子には膨らみが無いから、こっちは女の子だ。
外見は、二人揃って、信じられないほどの美少女だ。
ほぼ同じ背丈の低身長で、胸はペッタンコで、華奢。
生身の人間とは思えない、双子の、人形、もしくは妖精めいた可愛さだ。
ここは島だから、スクール水着姿は、理解できる。
だけど、セーラーレオタードって、でもって、なのに男の娘ってなんなんだ?
――信じられない。
半魚人たちは、この二人を『大王の巫女』と呼んでいた。
『巫女』って、女しか、なれないよな……。
『筋肉ダルマ』さんが、『ガチムチ』さんと話している。
「いまのいままで、女の子だと、疑いもしなかった。気づいてたか?」
「いや、全く。あの歌声だぞ。男だなんて、あり得ないよ」
「歌声? この二人が歌うのを聞いたのか?」
どうやら、『筋肉ダルマ』さん、『ガチムチ』さん、『筋ショタ』くんの三人は、セーラーレオタっ子と、旧スク水っ子と、この島で初対面ではないらしい。
どうせ、朝まで、ここを動かない方が良い。
夜の間は、下手に動くのは危険だし、この場で二人の目覚めを待つべきだろう。
その間に、カンテラの光を囲んで、四人で話すことになった。
『筋肉ダルマ』さんが、南のトリモチ地方に領地を持つ南蛮子爵家の三男で、増長。
『ガチムチ』さんが、北のチリトリ地方に領地を持つ北狄子爵家の四男で多聞。
『筋ショタ』くんが、西のカストリ地方に領地を持つ西戎男爵家の五男で広目だという。
ちなみに、自己紹介時に、僕が三人に『筋肉ダルマ』さん、『ガチムチ』さん、『筋ショタ』くんと呼びかけたら、「では、君のことは『筋ピク』くんだな」と言われた。
☆
『筋肉ダルマ』さん、『ガチムチ』さん、『筋ショタ』くんの三人は、アヤトリ湾にあるヨーホーホー亭という酒場で知り合ったそうだ。
『筋ショタ』くんは、未成年だから酒場には入れないだろうと確認したら、この外見で、成人している――つまり、十五歳以上だ――そうだ。
ヨーホーホー亭で、名物のラム酒を飲み交わすうちに、三人は、すっかり意気投合してしまった。
三人揃って、田舎貴族の三男以下で、何かで功績でもあげない限り、爵位も得られない立場と分かったからだ。
それに、三人とも、皇立鹿鳴館學園の學生だが、貴族家の人間であれば、遊び歩いていても、ほぼ間違いなく卒業だけはできる。
その日、ヨーホーホー亭の舞台では、二人の少女が、歌っていた。
廉貞島の貧しい漁村の出身だそうだ。
何でも、村が、半魚人に襲われて、隠れて二人だけ生き延びたそうだ。
こうして、酒場で唄って、投げ与えられる小銭で、糊口を凌いでいるらしい。
二人は、露出度の高い衣装を着せられていた。
一人がピンクのセーラーレオタードで、もう一人が紺の旧スクール水着だ。
二人は、男たちの無遠慮な視線や、ヤジに晒されながらも、懸命に歌っていた。
少女たちの歌を聴きながら、『筋肉ダルマ』さんが、『ガチムチ』さんと、『筋ショタ』くんを、誘った。
『筋肉ダルマ』さんは、実家所有の小型船で、寝泊まりしている。
小型とはいえ、八人までの寝泊まりが可能だ。
この小型船で、一緒にフェロモン諸島を巡り、キャプテンキッドのお宝を見つけて、爵位を得ようと提案したのだ。
もちん、三人とも、キャプテンキッドのお宝なんてものが、実在するなんて思ってない。
つまり、お宝を名目に、未来のない若者三人で、憂さ晴らししようと誘ったのだ。
歌い終えた少女二人が、水泳帽を持って、回ってきた。
酒場にいた客たちが、その水泳帽に、銅貨を投げ入れる。
『筋肉ダルマ』さんたち三人も、銅貨を投げ入れた。
『筋ショタ』くんが、イタズラを思いついた悪ガキみたいな表情を浮かべた。
ボケットから金貨を取り出して、少女二人に言う。
「ねえ、ねえ、君たち、キャプテンキッドのお宝の在処を教えてくれたら、これあげるよ」
セーラーレオタっ子が、ゴクンと生唾を呑んで、金貨を見つめている。
お金が、大好きらしい。
きっと、金貨なんて見たのは、初めてだろう。
思わず、金貨に手を伸ばそうとするセーラーレオタっ子と、『筋ショタ』くんの間に、旧スク水っ子が、割って入る。
旧スク水っ子は、『筋ショタ』くんを、キッと睨む。
「教えないん」と言い捨て、セーラーレオタっ子の手を取って楽屋の奥に引っ込んでいった。
三人は、旧スク水っ子が『知らない』とか『分かんない』とかではなく、『教えない』と答えたことが、気にならないでもなかった。
だけど、そもそも、キャプテンキッドのお宝なんてものが、実在しているはずかない。
たぶん、あの旧スク水っ子が、虚勢を張っただけなのだ。
三人は、ヨーホーホー亭で、閉店時刻まで、飲み続けた。
店を追い出され、『筋肉ダルマ』さんの小型艇で眠ろうと、波止場へと向かう。
途中、怪しげな集団を見つけた。
暗がりを縫って進む、八つの大柄な人影。
全員が、フード付きのマントを、目深に被っている。
腰には、ククリナイフ。
力の逃げにくい「く」の字型の刀身を持つ、凶悪なナイフだ。
人影のうちの二人が、何かを肩に背負っている。
それが、『ガチムチ』さんの目を引いた。
声を潜めて、「おい、背負われてるのって、さっきの酒場で唄ってた娘たちじゃないか」と指摘する。
確かに、遠目に見ても、あの、露出度の高い服装のようだ。
八つの人影は、波止場に繋留された、手漕ぎボートに向かった。
四人ぐらいしか乗れそうにない小さなボートだ。
手漕ぎボートなのに、オールが付いていない。
まず、少女二人が、ボートに降ろされた。
ぐったりしているから、気を失っているのだろう。
次に八つの人影が、一斉に、フード付きのマントを取る。
マントの下から現われたのは、半魚人とも呼ぶべき魔獣だった。
ギョロリとした魚眼。
鋭く尖った歯が並んで、前に突き出た口。
領頬が張り出していて、そこにエラが見える。
背びれと尾を持ち、手脚には水かきが付いている。
半魚人たちは、脱いだマントをボートに投げ入れ、少女二人の肢体を隠す。
ボートの舳先に結びつけた縄を掴んで、半魚人たちは、音もなく、海中に入っていく。
縄が海中から引かれ、ボートが静かに動きだす。
半魚人たちが、海中から、ボートを引いているのだ。
半魚人たちは、エラ呼吸しているため、海面に顔を出すことがない。
ボートだけが、オールもないのに、ひとりでに、海へ向かって進んでいくように見える。
『筋肉ダルマ』さんは、素早く小型船に、『ガチムチ』さんと『筋ショタ』くんを引き入れ、出航させた。
できる限り距離を取って、ボートを追跡する。
『筋肉ダルマ』さんたち三人は、何の根拠もなく、キャプテンキッドのお宝もしくは、そのヒントに辿り着けるのではないかと、期待していた。
そして、丸一日に及ぶ追跡劇の末、辿り着いたのが、この巨門島だった。
☆
そんな話しを聴いているうちに、空が白み始めた。
曙の光の中で、辺りの様子を確認する。
『ガチムチ』さんが、突然、警戒感のこもった声をあげた。
「おい、あそこに、半魚人の遺体があったよな?」
見ると、そこにあったはずの半魚人の遺体が、確かに消えている。
あそこには、僕が最後から二番目に倒した半魚人の遺体が転がっていたはずだ。
夜中の、闘いを回想する。
そういえば、あそこにあった一体は、タックルされて、鋼鉄球を使わず、直接、雷撃を喰らわせただけだ。
直後に、最後の一体がククリナイフを抜いて襲いかかってきたから、生死を確認していない。
半魚人の遺体を数え直すが、やはり、一体足りない。
これはまずい。
フェロモン諸島海域における半魚人の生息数が、八体だけだったはずがない。
仲間を呼び集めて、戻って来ると考えるべきだ。
巨門島は、比較的大きな島だが、地の利は半魚人側にある。
一刻も早く、船に戻って、島を離れるべきだ。
カンテラの灯を消し、巨門島からの脱出を開始した。
『筋肉ダルマ』さんが旧スク水っ子を背負い、『ガチムチ』さんがセーラーレオタっ子を背負う。
そのまま、『筋肉ダルマ』さんの小型船を目指すこととした。
僕の高速艇の方が逃げ足は速いが、一人しか乗れない。
カルデラの淵まで達したところで、ドーンと音がして、眼下に火の手が上がった。
見ると、『筋肉ダルマ』さんの小型船が、炎上している。
半魚人たちが、船の燃料として積まれている魔木炭を、爆発させたようだ。
カルデラの淵なので、島の海岸線の様子が、朝日の中に見て取れる。
島の周りの海面の、そこらじゅうから、半魚人が顔を覗かせている。
半魚人たちは、島を包囲した状態で、夜明けを待っていたらしい。
半魚人たちは、続々と上陸を開始している。
腰のククリナイフとは別に、ゴツイ銛を装備している。
しかも、大型の魔獣を、相当数、引き連れている。
人の何倍もありそうな、海胆、兜蟹、高脚蟹、山椒魚、海馬などの姿が見える。
多勢に無勢とかいったレベルではない。
向こうは、何千体もいて、こっちは男子四人だけだ。
しかも、内二人が、意識のない女子二人(名誉女子一人を含む)を背負っている。
そして、とっくに、完全包囲されている。
~~~ 薄荷ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~
■六月二二日 キャプテンキッドの秘宝 転 撮影
いよいよ、だよ。
『スクール水着魔女っ子』糖菓ちゃんが、一族の宿敵である『河童水軍』との対決に臨もうとしている。
ボクも、ガンバルね。