■六月一八日 キャプテンキッドの秘宝 承 撮影
♥♥♥服飾に呪われた魔法少女テレビシリーズ
♥♥♥第五話 キャプテンキッドの秘宝 承
うち――金平糖菓――は、『服飾に呪われた魔法少女』仲間の四人と一緒に、アヤトリ湾に来たん。
アヤトリ湾は、指のように突き出た岬が、北側に五つ、南側に五つ、あるん。
その十本の指で、アヤトリしているように見えることから、その名がついたん。
『金平水軍』の海城があった『破軍岬』は、北側の人差し指にあたるん。
うちらは、北側の親指にある船着場に移動し、チャーターできる船を探したん。
うちらは、破軍岬から、武曲島、廉貞島、文曲島、禄存島、巨門島を順に巡って、貪狼島に辿り着く必要があるん。
それでなくとも、海賊が多い海域なん。
そして、貪狼島は、極悪人揃いで知られる『河童水軍』の根城なん。
島と島の間は、それなりに距離があって、視認も難しい。
だから、スイレンレンゲさんの転移は、使えないん。
でも、「自分から死ににいく愚か者はいねぇ」って、笑われて、誰も相手にしてくれん。
途方に暮れて、海沿いのベンチに五人で並んで座り込んだん。
ぼーっと休んでたら、ラム酒を片手にふらふら歩いている酔っ払いが、うちに寄ってきたん。
その酔っ払いが、うちの耳元に、臭い吐息を吐きかけてきたん。
「酒はラムがただ一本」
確かに、そう聞こえたん。
うちは、その言葉に聞き覚えがあったん。
お爺ちゃんから、教えてもらった記憶があるん。
これって、海賊同士の符丁なん。
うちは、咄嗟に「亡者の箱にゃ十五人」と答えたん。
その酔っ払いに、大銀貨を一枚握らせたん。
「ヨーホーホー亭に行ってみな」と。囁かれたん。
捜し回って、やっとのことで、ヨーホーホー亭に辿り着いたん。
期待を込めて、ドアを開けたら、店内は、結構な賑わいなん。
奥のカウンターにいるオヤジから、いきなり怒鳴られたん。
「ガキはダメだ。帰って、おとなしくネンネしな」
頬にキズのある強面のオヤジなん。
「ガキじゃないん。うちら、これでも、成人してるん」って、言い返したん。
「珍妙な恰好しやがって、踊り子か?」
客たちがが、うちらの『呪われた服飾』を見て、いやらしい視線を向けてくるん。
「あそこで、一曲、歌ってけよ」と、奥にある小さなステージを指し示すん。
「うまけりゃ、おひねり、投げてやっからよ」
「こいつら、全員、ぶっ殺そうぜ」
菖蒲綾女ちゃんが、小声で言ってきたん。
それを宝生明星様と、スイレンレンゲさんが押し止めるん。
うちは、ムカっとして、『やってやるん』って、決めたん。
儚内薄荷ちゃんの手を取って、「手伝って」と言いながら、ステージに上がったん。
二人で、『呪われ魔女っ子の狂詩曲』を歌ったん。
これなら。アカぺラでハモれるん。
薄荷ちゃんと、手を取りあったまま、見つめ合い、情感たっぷりに歌いあげるん。
その歌詞は、意味深で『イケナイ恋に落ちてしまった二人が、清い身体のまま、永遠の眠りにつきましょう』って聞こえちゃうん。
途中から、店内にいた流しのギター弾きが、耳コピで、伴奏をつけてくれたん。
客たちが、静まりかえって、聴き入ってくれているん。
いや、なんか、みんな、目をギラギラさせてるから、歌じゃなくて、うちと、薄荷ちゃんの肢体に、夢中なのかもしれないん。
視界の片隅に、カウンターに寄りかかって、店主の頬傷オヤジと話している明星様が見えたん。
「酒はラムがただ一本」だとか、「亡者の箱にゃ十五人」だとか言い交わして、金貨を渡しているん。
間奏から、ダンスが入る。
うちのバスタオルポンチョや、薄荷ちゃんのミニスカセーラー服が捲れ上がるたびに、歓声があがり、銅貨が投げ込まれるん。
歌い終わったら、歓声や口笛とともに、銅貨が雨のように降りそそいできたん。
薄荷ちゃんが、大喜びで拾い集めているん。
薄荷ちゃんちって、スゴい貧乏だったらしいから、本気で喜んでるみたいなん。
明星様が手招きするので集まると、オヤジが、店の奥にある小部屋に案内してくれたん。
暫く待ってたら、若いあんちゃんが、入ってきたん。
まだ若いけど、海の男らしく、全身真っ黒に日焼けしているん。
高身長で、肩幅もあり、肉体労働により、ガッチリ引き締まった身体なん。
角張った男顔に、刈りあげた短髪が精悍なん。
ただ、その顔の造作に、どうにも、既視感があるん。
あんちゃんの顔を見て、薄荷ちゃんの表情が固まったん。
「……らった……。喇叭拉太、だ、よ、ね……」
あんちゃんが、首を傾げるん。
「誰? オレ、ドブ街育ちだから、こんなキラキラしい子の知り合いなんていないぜ」
薄荷ちゃんが、唇を尖らせるん。
「ボクのこと、ホントに、分かんないの。怒るよ」
薄荷ちゃんが尖らせた唇の形を見て、あんちゃんの表情が、『えっ、まさか?』という表情に変わるん。
次の瞬間、あんちゃんは、薄荷ちゃんの懐へ飛び込んで、そのミニスカートを捲りあげていたん。
「はっかのだ! 間違いねぇ、この粗品は、薄荷のだ。はっはっは! すっかり、カワイクなりやがって、惚れちまうじゃないか、このヤロウ」
捲りあげた、薄荷ちゃんのミニスカートの中へ向かって、話しかけているん。
「なんだよ、自分のがデカイからって、威張るなよ」
「オレのは、デカイだけじゃなくて、剥けてるし、ぼうぼうだかんな。どうせ薄荷のは、一緒に銭湯に通ってた頃のまんまなんだろ」
「そうだよ、悪いか! それ以上言ったら、ボク、泣いちゃうぞ」
薄荷ちゃんは、ホントに涙ぐんでいるけど、どうやらそれは嬉し泣きみたいん。
「悪かった。オレが悪かった。謝るから泣くなよ」
あんちゃんは、そう言って、薄荷ちゃんを優しく抱きしめたん。
「ボク、鹿鳴館學園へ入學さえできたら、きっと、また、拉太に逢えるって、楽しみにしてた。なのに、入學者の一覧に、拉太の名前が無くて……。イニシエーションを通過できなかったんじゃないかって……」
「あれっ? 辣人アニキに、オレの木刀を預けて、オレの近況連絡と、アニキと一緒に姫様を見つけ出して、ここに連れて来て欲しいって頼んでおいたんだけど――。アニキから、何も聞いてないのか?」
――姫様って!
いま、姫様って言ったん。
もう、うちにも、このあんちゃんが、誰だか分かってるん。
この人、喇叭辣人水泳部長の、弟さんなん。
「學園に行ったらさ、色んな物語が絡み合っててさ――。木刀だけは受け取ったんだけど、お互い会って話そうとしてるのに、未だに、ちゃんと話せてないんだ」
薄荷ちゃんが、声を潜めて、拉太さんに囁く。
「姫様の話しをしたいんだけど、ここって、安全?」
すると、拉太さんが囁き返す。
「この店は、『金平水軍』残党の隠れ家だよ」
☆
小一時間後、うちは、再び、ヨーホーホー亭のステージに立っていた。
ステージ上には、『服飾に呪われた魔法少女』五人と、喇叭拉太さんと、頬傷オヤジさん。
ヨーホーホー亭内にあった、椅子や、テーブルは外に出されて、店内は、集まってきた老若男女でぎっしり埋まってるん。
頬傷オヤジさんが、うちを一歩前に押し出して、宣言したん。
「今日、ここに、金平本家の血を引く、唯一人の御方が、帰還された。皆の者、この御方こそ、金平改め、金平糖菓姫様であらせられる」
ヨーホーホー亭に集合した全員が、静かに、うちを見つめている。
全員の目が期待に輝いている。
「姫様、お印をお示しください」と、拉太さん。
うちは、羽織っていたバスタオルポンチョを脱ぎ捨てるん。
うちは、うちの『呪われた服飾』であるスクール水着を、『平服』から『体育服』へチェンジする。
『平服』であるスパッツ風スカート付き新スク水が、『体育服』である水抜き穴付き旧スク水へ、一瞬で変化するん。
同時に、うちの右手に、『鉤の鉤爪』と呼ばれる『手甲鉤』が出現したん。
うちは、『鉤の鉤爪』が嵌まった右手の甲を、高々と掲げて見せたん。
そこには、北斗七星の形をした、七つの光が灯っているん。
七星のうち六つは赤く点灯し、柄杓の柄の端にあたる一つだけが青く点灯しているん。
店内に、歓声が湧き起こったん。
ヨーホーホー亭の建物を揺り動かすほどの歓声だったん。
頬傷オヤジさんが、感極まった声で、言うん。
「姫様、今夜のうちに出立すれば、武曲島、廉貞島、文曲島、禄存島、巨門島を順に巡って、三日後には、『河童水軍』の根城である貪狼島に辿り着きます。途中の各島において、軍勢が合流し、貪狼島に辿り着く時には、総勢千数百、五十隻を超える軍勢が整います。姫様と『鉤の鉤爪』のお力があれば、必ずや『河童水軍』を打ち滅ぼし、本家三代の方々、そして、散っていった一族郎党の仇を討ちましょうぞ」
うち、平静を装ってたけど、内心は、動転していたん。
だって、うち、『まずは、キャプテンキッドの秘宝を手に入れ、得られた力をもって、いずれ『河童水軍』を打倒できれば』なんて、悠長なことを考えていたん。
ところが、二年前に『金平水軍』の海城が落とされて以降、生き残った人々は、復讐を誓い、着々と準備を進めていたん。
『金平水軍』と同盟関係にあった、五つの水軍の人たちも、『河童水軍』討伐に加わってくれるん。
ここにいる人たちは、万全の体制を整え、『金平水軍』復興の旗頭たり得る、うちの帰還を、信じて、待っていたん。
だから、もはや、うちだけの問題ではないん。
うちは、この一戦に、命を賭けるん。
『服飾に呪われた魔法少女』仲間の四人も、『手伝うよ』って言ってくれてるん。
~~~ 薄荷ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~
■六月二十日 恐怖の大王 承 撮影
『セーラーレオタっ子』と『旧スク水っ子』は、『筋ピク』くんに助けられたものの、意識不明。
そこに、『筋肉ダルマ』さん、『ガチムチ』さん、『筋ショタ』くんが合流。
どうやら、この三人も、『セーラーレオタっ子』や『旧スク水っ子』と面識があるみたい。