表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/130

■六月一八日 キャプテンキッドの秘宝 承 撮影

  ♥♥♥服飾に呪われた魔法少女テレビシリーズ

  ♥♥♥第五話 キャプテンキッドの秘宝 承


 うち――金平(こんぺい)糖菓(とうか)――は、『服飾に呪われた魔法少女』仲間の四人と一緒に、アヤトリ湾に来たん。


 アヤトリ湾は、指のように突き出た岬が、北側に五つ、南側に五つ、あるん。

 その十本の指で、アヤトリしているように見えることから、その名がついたん。

 『金平(かねひら)水軍』の海城があった『破軍岬』は、北側の人差し指にあたるん。


 うちらは、北側の親指にある船着場に移動し、チャーターできる船を探したん。


 うちらは、破軍岬から、武曲島、廉貞島、文曲島、禄存島、巨門島を順に巡って、貪狼島に辿り着く必要があるん。

 それでなくとも、海賊が多い海域なん。

 そして、貪狼島は、極悪人揃いで知られる『河童(かっぱ)水軍』の根城なん。


 島と島の間は、それなりに距離があって、視認も難しい。

 だから、スイレン(睡蓮)レンゲ(蓮華)さんの転移は、使えないん。


 でも、「自分から死ににいく愚か者はいねぇ」って、笑われて、誰も相手にしてくれん。

 途方に暮れて、海沿いのベンチに五人で並んで座り込んだん。

 ぼーっと休んでたら、ラム酒を片手にふらふら歩いている酔っ払いが、うちに寄ってきたん。

 その酔っ払いが、うちの耳元に、臭い吐息を吐きかけてきたん。

 「酒はラムがただ一本」

 確かに、そう聞こえたん。


 うちは、その言葉に聞き覚えがあったん。

 お爺ちゃんから、教えてもらった記憶があるん。

 これって、海賊同士の符丁なん。


 うちは、咄嗟に「亡者の箱にゃ十五人」と答えたん。

 その酔っ払いに、大銀貨を一枚握らせたん。


 「ヨーホーホー亭に行ってみな」と。囁かれたん。


 捜し回って、やっとのことで、ヨーホーホー亭に辿り着いたん。

 期待を込めて、ドアを開けたら、店内は、結構な賑わいなん。


 奥のカウンターにいるオヤジから、いきなり怒鳴られたん。

 「ガキはダメだ。帰って、おとなしくネンネしな」

 頬にキズのある強面のオヤジなん。


 「ガキじゃないん。うちら、これでも、成人してるん」って、言い返したん。


 「珍妙な恰好しやがって、踊り子か?」

 客たちがが、うちらの『呪われた服飾』を見て、いやらしい視線を向けてくるん。

 「あそこで、一曲、歌ってけよ」と、奥にある小さなステージを指し示すん。

 「うまけりゃ、おひねり、投げてやっからよ」


 「こいつら、全員、ぶっ殺そうぜ」

 菖蒲(しょうぶ)綾女(あやめ)ちゃんが、小声で言ってきたん。

 それを宝生(ほうしょう)明星(みょうじょう)様と、スイレン(睡蓮)レンゲ(蓮華)さんが押し止めるん。


 うちは、ムカっとして、『やってやるん』って、決めたん。

 儚内(はかない)薄荷(はっか)ちゃんの手を取って、「手伝って」と言いながら、ステージに上がったん。


 二人で、『呪われ魔女っ子の狂詩曲(ラプソディ)』を歌ったん。

 これなら。アカぺラでハモれるん。


 薄荷(はっか)ちゃんと、手を取りあったまま、見つめ合い、情感たっぷりに歌いあげるん。

 その歌詞は、意味深で『イケナイ恋に落ちてしまった二人が、清い身体のまま、永遠の眠りにつきましょう』って聞こえちゃうん。


 途中から、店内にいた流しのギター弾きが、耳コピで、伴奏をつけてくれたん。

 客たちが、静まりかえって、聴き入ってくれているん。

 いや、なんか、みんな、目をギラギラさせてるから、歌じゃなくて、うちと、薄荷(はっか)ちゃんの肢体に、夢中なのかもしれないん。


 視界の片隅に、カウンターに寄りかかって、店主の頬傷オヤジと話している明星(みょうじょう)様が見えたん。

 「酒はラムがただ一本」だとか、「亡者の箱にゃ十五人」だとか言い交わして、金貨を渡しているん。


 間奏から、ダンスが入る。

 うちのバスタオルポンチョや、薄荷(はっか)ちゃんのミニスカセーラー服が捲れ上がるたびに、歓声があがり、銅貨が投げ込まれるん。


 歌い終わったら、歓声や口笛とともに、銅貨が雨のように降りそそいできたん。

 薄荷(はっか)ちゃんが、大喜びで拾い集めているん。

 薄荷(はっか)ちゃんちって、スゴい貧乏だったらしいから、本気で喜んでるみたいなん。


 明星(みょうじょう)様が手招きするので集まると、オヤジが、店の奥にある小部屋に案内してくれたん。

 暫く待ってたら、若いあんちゃんが、入ってきたん。


 まだ若いけど、海の男らしく、全身真っ黒に日焼けしているん。

 高身長で、肩幅もあり、肉体労働により、ガッチリ引き締まった身体なん。

 角張った男顔に、刈りあげた短髪が精悍なん。

 ただ、その顔の造作に、どうにも、既視感があるん。


 あんちゃんの顔を見て、薄荷(はっか)ちゃんの表情が固まったん。

 「……らった……。喇叭(らっぱ)拉太(らった)、だ、よ、ね……」


 あんちゃんが、首を傾げるん。

 「誰? オレ、ドブ街育ちだから、こんなキラキラしい子の知り合いなんていないぜ」


 薄荷(はっか)ちゃんが、唇を尖らせるん。

 「ボクのこと、ホントに、分かんないの。怒るよ」


 薄荷(はっか)ちゃんが尖らせた唇の形を見て、あんちゃんの表情が、『えっ、まさか?』という表情に変わるん。


 次の瞬間、あんちゃんは、薄荷(はっか)ちゃんの懐へ飛び込んで、そのミニスカートを捲りあげていたん。

「はっかのだ! 間違いねぇ、この粗品は、薄荷(はっか)のだ。はっはっは! すっかり、カワイクなりやがって、惚れちまうじゃないか、このヤロウ」

 捲りあげた、薄荷(はっか)ちゃんのミニスカートの中へ向かって、話しかけているん。


 「なんだよ、自分のがデカイからって、威張るなよ」


 「オレのは、デカイだけじゃなくて、剥けてるし、ぼうぼうだかんな。どうせ薄荷(はっか)のは、一緒に銭湯に通ってた頃のまんまなんだろ」


 「そうだよ、悪いか! それ以上言ったら、ボク、泣いちゃうぞ」

 薄荷(はっか)ちゃんは、ホントに涙ぐんでいるけど、どうやらそれは嬉し泣きみたいん。


 「悪かった。オレが悪かった。謝るから泣くなよ」

 あんちゃんは、そう言って、薄荷(はっか)ちゃんを優しく抱きしめたん。


 「ボク、鹿鳴館學園へ入學さえできたら、きっと、また、拉太(らった)に逢えるって、楽しみにしてた。なのに、入學者の一覧に、拉太(らった)の名前が無くて……。イニシエーションを通過できなかったんじゃないかって……」


 「あれっ? 辣人(らっと)アニキに、オレの木刀を預けて、オレの近況連絡と、アニキと一緒に姫様を見つけ出して、ここに連れて来て欲しいって頼んでおいたんだけど――。アニキから、何も聞いてないのか?」


 ――姫様って!

   いま、姫様って言ったん。


 もう、うちにも、このあんちゃんが、誰だか分かってるん。

 この人、喇叭(らっぱ)辣人(らっと)水泳部長の、弟さんなん。


 「學園に行ったらさ、色んな物語が絡み合っててさ――。木刀だけは受け取ったんだけど、お互い会って話そうとしてるのに、未だに、ちゃんと話せてないんだ」

 薄荷(はっか)ちゃんが、声を潜めて、拉太(らった)さんに囁く。

 「姫様の話しをしたいんだけど、ここって、安全?」


 すると、拉太(らった)さんが囁き返す。

 「この店は、『金平(かねひら)水軍』残党の隠れ家だよ」


 ☆


 小一時間後、うちは、再び、ヨーホーホー亭のステージに立っていた。

 ステージ上には、『服飾に呪われた魔法少女』五人と、喇叭(らっぱ)拉太(らった)さんと、頬傷オヤジさん。

 ヨーホーホー亭内にあった、椅子や、テーブルは外に出されて、店内は、集まってきた老若男女でぎっしり埋まってるん。


 頬傷オヤジさんが、うちを一歩前に押し出して、宣言したん。

 「今日、ここに、金平(かねひら)本家の血を引く、唯一人の御方が、帰還された。皆の者、この御方こそ、金平(かねひら)改め、金平(こんぺい)糖菓(とうか)姫様であらせられる」


 ヨーホーホー亭に集合した全員が、静かに、うちを見つめている。

 全員の目が期待に輝いている。


 「姫様、お印をお示しください」と、拉太(らった)さん。


 うちは、羽織っていたバスタオルポンチョを脱ぎ捨てるん。

 うちは、うちの『呪われた服飾』であるスクール水着を、『平服』から『体育服』へチェンジする。

『平服』であるスパッツ風スカート付き新スク水が、『体育服』である水抜き穴付き旧スク水へ、一瞬で変化するん。

 同時に、うちの右手に、『(フック)の鉤爪』と呼ばれる『手甲鉤(てっこうかぎ)』が出現したん。 

 うちは、『(フック)の鉤爪』が嵌まった右手の甲を、高々と掲げて見せたん。


 そこには、北斗七星の形をした、七つの光が灯っているん。

 七星のうち六つは赤く点灯し、柄杓の柄の端にあたる一つだけが青く点灯しているん。


 店内に、歓声が湧き起こったん。

 ヨーホーホー亭の建物を揺り動かすほどの歓声だったん。


 頬傷オヤジさんが、感極まった声で、言うん。

 「姫様、今夜のうちに出立すれば、武曲島、廉貞島、文曲島、禄存島、巨門島を順に巡って、三日後には、『河童(かっぱ)水軍』の根城である貪狼島に辿り着きます。途中の各島において、軍勢が合流し、貪狼島に辿り着く時には、総勢千数百、五十隻を超える軍勢が整います。姫様と『(フック)の鉤爪』のお力があれば、必ずや『河童(かっぱ)水軍』を打ち滅ぼし、本家三代の方々、そして、散っていった一族郎党の仇を討ちましょうぞ」


 うち、平静を装ってたけど、内心は、動転していたん。

 だって、うち、『まずは、キャプテンキッドの秘宝を手に入れ、得られた力をもって、いずれ『河童(かっぱ)水軍』を打倒できれば』なんて、悠長なことを考えていたん。


 ところが、二年前に『金平(かねひら)水軍』の海城が落とされて以降、生き残った人々は、復讐を誓い、着々と準備を進めていたん。

 『金平(かねひら)水軍』と同盟関係にあった、五つの水軍の人たちも、『河童(かっぱ)水軍』討伐に加わってくれるん。


 ここにいる人たちは、万全の体制を整え、『金平(かねひら)水軍』復興の旗頭たり得る、うちの帰還を、信じて、待っていたん。

 だから、もはや、うちだけの問題ではないん。

 うちは、この一戦に、命を賭けるん。

 『服飾に呪われた魔法少女』仲間の四人も、『手伝うよ』って言ってくれてるん。


~~~ 薄荷(はっか)ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~

■六月二十日 恐怖の大王 承 撮影

『セーラーレオタっ子』と『旧スク水っ子』は、『筋ピク』くんに助けられたものの、意識不明。

そこに、『筋肉ダルマ』さん、『ガチムチ』さん、『筋ショタ』くんが合流。

どうやら、この三人も、『セーラーレオタっ子』や『旧スク水っ子』と面識があるみたい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ