■六月一四日 キャプテンキッドの秘宝 起 撮影
♥♥♥服飾に呪われた魔法少女テレビシリーズ
♥♥♥第五話 キャプテンキッドの秘宝 起
うち――金平糖菓――らは、『服飾に呪われた魔法少女』のテレビシリーズ撮影のため、カストリ皇國最東端の街、アヤトリ市に来てるん。
アヤトリ市は、大陸横断鉄道の、東の終着駅。
ポンポン船が行き交う港町。
漁業、海運業、そして海賊の街なん。
ここは、うちの、出身地なん。
うちは、アヤトリ湾の北端に突き出た岬に建てられた、海城で育ったん。
この海城は、海賊が跋扈していた時代に、アヤトリ湾を支配していた『金平水軍』が、他の海賊からアヤトリ湾を護るために、建てたん。
当時の海賊たちは、どこも『水軍』を名乗っていたん。
海賊って、『海の上で悪事を働く賊』ってだけじゃないんよ。
海の民を護る軍隊としての役割を担い、皇國の國益のために働いていた者も多いん。
『金平水軍』は、多くの一族郎党を抱えていて、代々、みんなで、アヤトリ湾の海の民を護ってきたん。
うちは、その『金平水軍』の長の、娘なん。
一族郎党の人たちからは、『姫』と呼ばれていたん。
でも、あくまで平民で、爵位とかは持たないんよ。
二年前、うちの、トラウマイニシエーションとなる事件が起こったん。
宿敵の『河童水軍』が、夜襲を掛けてきたん。
先代のお爺ちゃんお婆ちゃん、今代の父さま母さま、そして次代となるはずだった兄さままで、みんな拷問の末、殺されたん。
助かったのは、うちだけ。
うちは、名字を『金平』から『金平』に変えて、遠縁の親戚の家に匿われていたん。
『金平水軍』の海城は、そのとき、破壊されたん。
いまでは、湾の北端に突き出た岬に、廃墟を晒している。
うちの家族の墓は、あの廃墟の中にあると、聞いているん。
うちは、匿われていたから、事件のあと、一度も、あの海城に行ってないん。
つまり、墓参りもできていないん。
うち、皇立鹿鳴館學園に行ってから、『金平水軍』の残党と交流を持ち、色んなことがあった。
うち、少しだけ、強くなれた気がするん。
いまなら、家族の死と向かい合える気がするん。
☆
うちが、このアヤトリ市に来たんは、『服飾に呪われた魔法少女』テレビシリーズ撮影のためなん。
うち、撮影の合間に、墓参りさせて欲しいって、巡業を統括している毀誉褒貶氏へ申し出たん。
褒貶氏は、電話で闇烏暗部参謀に掛け合ってくれたん。
暗部参謀は、二つの条件付きで、この墓参を認めてくれたん。
ひとつは、安全のため、『服飾に呪われた魔法少女』五人全員で行くこと。
もうひとつは、その様子を、『服飾に呪われた魔法少女』のテレビシリーズとして、撮影、放送すること。
うち、ホントは、自分のトラウマを、これ以上、晒されたくないん。
でも、それこそが、『服飾に呪われた魔法少女』の一人である自分に求められていることだって、分かってもいるん。
☆
海城の廃墟を、五人で歩くん。
城の石積みは、海賊船からからの砲撃で、倒壊しているん。
建物は、燃えてしまって、残骸しか残っていないん。
でも、うちには、在りし日の城の姿が、視えてるん。
ここかしこを走りまわって遊んでいる、幼い日の自分の姿がみ視えているん。
お墓は、城の中庭だった場所の片隅にあった。
ここには、籠城に備えた地下倉庫があった。
あの日死んだ者たちを全員、そこに収納し、無銘の石碑で、蓋をしただけのお墓。
うちら五人は、石碑に花を供えて跪き、ここで死んだ人々の冥福を祈ったん。
――お爺ちゃんお婆ちゃん、父さま母さま、そして兄さま、糖菓なん。
ここに来るのが、遅くなって、ごめんなさい。
祈っていたら、また、幻影が見えたん。
ありし日のお爺ちゃんが、幼いうちを抱っこして、中庭を巡り歩いているん。
お爺ちゃんが、中庭に埋まった星形のしるしがある舟みたいな形の石を、つま先で示す。
「これが破軍岬、この海城がある岬のことじゃ」
すこし歩くと、また、星のしるしがある舟形石が埋まっている。
「これが、武曲島。ほら、あそこに見えるあの島じゃ」
お爺ちゃんが、この海城がある岬の先、はるか海上にある島影を指さした。
「これ、なんなん! この記憶、なんなん!」
うちは、立ち上がって、駆け出すん。
最初の舟形石を探すん。
記憶通りの場所に、それはあったん。
星形のしるしが彫られていて。よく見るとその中に、うっすらと『破』の文字が残っているん。
そこから、まっすぐ二番目の舟形石へ。
星の中に『武』の文字。
その位置で、視線を上げると、城跡のあるこの岬の先、海上に武曲島の影が見えているん。
間違いないん。
この舟形石って、実際の位置関係通りに、置かれてるん。
記憶の中のお爺ちゃんと一緒に、三番目の石へ向かうん。
あった、廉貞島なん。
四番目の文曲島。
五番目の禄存島。
六番目の巨門島。
そして、七番目の貪狼島なん。
記憶通り、七つの石、全てがそこにあったん。
この記憶って、何か、とっても大切なことだった気がするん。
でも、いったい、なんなん。
後ろから、「この石の配置って、柄杓の形だね」という声がしたん。
儚内薄荷ちゃんの声なん。
振り向くと、うちに続いて、『服飾に呪われた魔法少女』仲間の四人が、七つの舟形石を巡ってきていたん。
「柄杓形の七つの星といえば、北斗七星だね」と、宝生明星様。
うちは、「ううう~っ」と唸って、頭を抱えたん。
たぶん、うち一人では、答えに辿りつけない。
うちは、この七つ場所が実在していることを、みんなに説明したん。
「柄杓の柄の端にあたる、一番目の舟形石が、破軍祠。この海城の場所にあった古い祠の名前なん。二番目が、武曲島。あそこに見える、島の名前なん。三番目から七番目までの舟形石も、この先のフェロモン諸島内に実在している島なん。そして、七番目の貪狼島が、『河童水軍』根城になってるん」
「『河童水軍』が、貪狼島を根城にしたのには、何か理由があるデスか?」と、スイレンレンゲさん。
「大昔、キャプテンキッドっていう伝説の海賊がいたんよ。キッドは、一生かけて集めた金銀財宝を、このフェロモン諸島内のどこかの島に隠したって、言われてるん。十四年前、『鉤船長』は、それを見つけ出そうとしたん。その財宝で、為政者から犯罪者に追いやられた、義賊や、海賊の地位と誇りを取り戻そうとしたん」
「『鉤船長』の家には、代々、キャプテンキッドの財宝に辿り着くための手がかりが伝わっていたん。それが、これなん」
うちは、うちの『呪われた服飾』であるスクール水着を、『平服』から『体育服』へチェンジする。
『平服』であるスパッツ風スカート付き新スク水が、『体育服』である水抜き穴付き旧スク水へ、一瞬で変化するん。
同時に、うちの右手に、『鉤の鉤爪』と呼ばれる『手甲鉤』が出現したん。
「『河童水軍』も、キャプテンキッドの財宝を狙ってるん。何らかの理由から、それが自分たちの根城である貪狼島に眠っていると考えてるん。そして、キッドの財宝に至るカギとなる、この『鉤の鉤爪』を、なんとしても手に入れたいと狙っているん」
そこまで話して、違和感を感じたん。
『鉤の鉤爪』の様子が、昨日までと違う。
『手甲鉤』の、手の甲の部分に、七つの光が灯っている。
北斗七星の形だ。
七星のうち六つは赤く点灯し、柄杓の柄の端にあたる一つだけが青く点灯している。
「これって、お約束の、あれだよね」と、薄荷ちゃん。
「残り六つ星である島々を、順番に巡って、七番目の貪狼島にいる『河童水軍』を打ち破れって、やつ」
全員が、これに、頷いた……と、思ったら、菖蒲綾女ちゃんが、考え込んでいるん。
――えーっ、考えなしの綾女ちゃんが、考え込んでるん!
「……舟形……? オレ、石が舟形なのが、なんか引っかかるんだよな」という、綾女ちゃんの呟きが聞こえたん。
でも、すぐに、考えるのは諦めたようなん。
「まっ、このオレが考えてもムダだよな。とにかく、船を確保して、武曲島に行こうぜ」
~~~ 薄荷ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~
■六月一六日 恐怖の大王 起 撮影
いよいよ、『科學戦隊レオタン』テレビシリーズの撮影開始だよ。
第一話は、『恐怖の大王』。
なんか、ね、これまでの物語と齟齬があるんですけど……。
そういう設定って、なにそれ?
『セーラーレオタっ子』と、『旧スク水っ子』ってぇのが登場してきて、なんか、殺されそうになってるんですけど――。
この二人って、ボクと糖菓ちゃんだったりしないよね……。
■この物語を読み進めていただいておりますことに感謝いたします。
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