■六月一日~六日 写真撮影、レコーディング、そして番宣開始
□六月一日 『服飾に呪われた魔法少女』
プロモーション写真撮影
プロモーション写真撮影なんてものが行われた。
番組宣伝のため、看板、ポスター、チラシ、パンフレット等に使われるそうだ。
今回の『服飾に呪われた魔法少女』と、『科學戦隊レオタン』の写真撮影については、画期的な新技術が用いられる。
な、なんと、色つきの写真だそうだ。
白黒写真に彩色するんじゃなく、撮影した写真に色がついてるんだって!
皇國軍が、偵察用に開発した新技術なんだって。
ほら、『服飾に呪われた魔法少女』も『科學戦隊レオタン』も、キャラクターごとの色があるでしょ。
でね、蛇行濁流研究官が、闇烏暗部参謀に、キャラクターカラーの大切さを訴えて、秘匿技術扱いだったカラー写真技術の、民間転用が決定したんだって。
ボクたち魔法少女五人は、『体育服』で揃えることになった。
『舞踏衣装魔法少女』の宝生明星様は、空色のチア服。
鹿鳴陸上競技場上空で、四体に分身して、ポンポンを振りながら、チアダンスを踊っているところ。
凜々しいよね、カッコいいよね。
『文化部衣装魔法少女』のスイレンレンゲさんは、真紅のゴスロリ服。
鹿鳴館の広間で、片手にロゼワイン、もう片手には、今外したところとおぼしき仮面。
金髪碧眼だし、作り物めいた妖艶さだね。
『運動部衣装魔法少女』の菖蒲綾女ちゃんは、若葉色の陸上ウェア。
半壊した水泳部トロピカルランドを背景に、神槍グングニルを投擲する瞬間だ。
躍動感があって、勇壮だよね。
『スクール水着魔女っ子』の金平糖菓ちゃんは、紺の旧型スクール水着。
召喚勇者邸(に、そっくりな邸宅)の門扉を、『鉤の鉤爪』で切り裂いているところだ。
うん、糖菓ちゃんは、破壊行為中でも、カワイイ。
でもって、ボク――『セーラー服魔法少女』の儚内薄荷――は、ピンクのセーラーワンピ。
パンチラしそうになったワンピの裾を、必死で押さえているところだ。
……なにげに、ボクだけ、扱い酷くない?
□六月二日 『科學戦隊レオタン』
プロモーション写真撮影
実は、この日が、『科學戦隊レオタン』の新衣装お披露目だった。
蛇行濁流研究官が、國軍造兵廠の総力を挙げて開発に取り組んでいたものだ。
一見タンクトップみたいだけど、ちゃんと股下の繋がった男子体操用レオタードだ。
薄い長パンや短パンを履いているので、セパレートみたいに見えるだけだ。
なぜか、『爆炎レッド』さんと『氷結ブルー』さんが長パンで、『雷撃イエロー』さんと『旋風グリーン』さんは短パンだった。
個々の色合いは、ちゃんと魔法少女との差別化が図られている。
『爆炎レッド』さんは、キャプテンらしいスカーレット。
『氷結ブルー』さんは、北の海を思わせるマリンブルー。
『雷撃イエロー』さんは、向日葵みたいなクロムイエロー。
『旋風グリーン』さんは、輝くようなエメラルドグリーンだ。
ボクは、『道衣』である、ショッキングピンクのセーラーレオタード。
ボクとしては、自分だけでなく、戦隊全員レオタードだと思うと、心底、心強い。
プロモーション写真撮影は、鹿鳴体育館で行われた。
『あん馬』で、馬端から馬端まで下向き360度転向移動を見せる、『爆炎レッド』さん。
『つり輪』で、背面水平懸垂経過脚上挙十字懸垂を見せる、『氷結ブルー』さん。
『鉄棒』で、前方浮腰回転振り出しとび1回ひねり片大逆手倒立を見せる、『雷撃イエロー』さん。
『ゆか』で、前とびひねり後方かかえ込み2回宙返りを見せる、『旋風グリーン』さん。
そして、『平均台』上を歩いていただけなのに転げ落ち、慌てて、巻きスカートが捲れないように押さえているボク。
……なにげに、ボクだけ、扱い酷くない?
□六月三日 學園偶像女性グループ『カースウィチ』
ソノシートレコーディング
ソノシートというのは、半透明の柔らかな円盤で、片面にだけ、音楽を録音できる。
蓄音機を用いれば、その録音内容を何度でも再現できる。
蓄音機は、テレビより、よほど普及しており、多くの一般家庭で楽しまれている。
……うちの実家には、なかったけどね。
録音と同時に、動画撮影もやらされた。
こちらは、番組宣伝のため、国営放送で繰り返し放送されるそうだ。
魔法少女のオープニング曲は、『呪われちゃった、どうしよう』。
魔法少女五人で唄う、軽快でポップな楽曲。
「イケナイことしちゃった。困ったちゃんだ。困っちゃった、どうしよう~!」って繰り返し唄う。
困ったと言いながら、みんな脳天気で誰も本気で困った様子がない、そんな唄だ。
魔法少女のエンディング曲は、『呪われた學園音頭』。
呪われた魔法少女たちが、真夏の夜の夢の中で、たくさんの妖怪たちと、百鬼夜行しながら踊り狂う。
軽快なリズムを刻んでいた和太鼓が、間奏部分で、ドロドロドロドロと低い音をたて、ヒューーーッと横笛が怪しい音を立てるところが印象的だ。
魔法少女の挿入歌は、『呪われ魔女っ子の狂詩曲』。
ボクと、金平糖菓ちゃんが、二人でハモる。
これがね、何と言うか、意味深な歌詞なんだよね。
深読みすると、『イケナイ恋に落ちてしまった二人が、清い身体のまま、永遠の眠りにつきましょう』って聞こえちゃう。
ボクと、糖菓ちゃん、レコーディング中ずっと、見つめ合って、手を繋いで唄ってたんだ。
□六月四日 學園偶像男性グループ『レンジャラス』
ソノシートレコーディング
『科學戦隊レオタン』のオープニング曲は、『新星のレオタード』。
戦隊男性四人が、力の限り絶唱している。
「一万年と三千年前からレオタード 九千年過ぎた頃から……」
『何、この既視感だらけのフレーズ』と思って、作詞者を確認した。
芍薬百合様だった。
あの人、行方不明のはずなのに、どうやって?
芍薬矍鑠元帥の娘さんだから、これくらい簡単にやれちゃうんだろうけど……。
『科學戦隊レオタン』のエンディング曲は、『レオタン・サンバ』。
サンバなのに、男子四人は、キンキラキンの和服姿。
ボクだけ、不本意なからお姫様姿。
「レ~オ~、レ~オ~、レオタン・サンバ」と、しつこいぐらい、繰り返す。
『科學戦隊レオタン』の挿入歌は、『獅子の子守歌』。
なぜか、ボクの膝の上で、『旋風グリーン』さんが眠っている。
でもって、ボクが、『旋風グリーン』さんを寝かしつけるように、その頭を撫でながら唄う。
アラペラで、独唱。
――ん~な、アホな企画考えたの、誰だよ?
責任者、出て来い!
頭、ポコポコ叩いてやる。
でも、ボク、この時に気づいたことがある。
ボクって、今でも男の人が恐くて、触られるのがイヤなんだ。
だけど、不思議と、『旋風グリーン』さんのことは、そんなに恐くない。
ずっと、その頭を撫でていたいって、思った。
□六月六日 番宣開始
各地に、『服飾に呪われた魔法少女』と『科學戦隊レオタン』の番宣ポスターが張り出された。
初めてのカラー写真ポスターということもあって、ポスターを見るために、わざわざやって来る人までいるらしい。
各地で、ポスターの盗難事件や、落書き事件が多発した。
ポスターへの落書きで多いのが、ボクの股間のところを、黒く塗り潰すパターンだって聞いて、恐くて震えちゃった。
どこかに逃げ出したくなるくらい、恐い。
ポスターの前に、二十四時間体制で、ガードマンを立たせる事態となっているそうだ。
国営放送で、番宣CMも流れはじめた。
こちらは、当然、白黒画面だ。
『服飾に呪われた魔法少女』と『科學戦隊レオタン』をカラー画面で視聴したいとの要望が多数寄せられているとのこと。
国営放送のエライ人が、テレビ放送のカラー化に取り組むと宣言したそうだ。
両番組のソノシート発売日は、未定だ。
テレビCM内で、楽曲の一部が流れているので、問い合わせがスゴイらしい。
最も問い合わせが多いのが、『獅子の子守歌』なんだって。
ボクの、アカペラ独唱が、天使の歌声とか、騒がれてるみたい。
ボク、発育不良で、声変わりしてないから、ボーイソプラノなんだよね。
でも、信じらんないよ。
だって、ボク、ヘタッピで、歌唱力なんてないし、あちこち音程外れてるんだよ。
~~~ 薄荷ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~
■六月七日 皇立鹿鳴館學園出立 ~ 六月一二日 アヤトリ市着
『服飾に呪われた魔法少女』と『科學戦隊レオタン』のメンバーは、軍用列車『天罰号』で、皇立鹿鳴館學園出立した。
科学戦隊基地駅で、戦闘車両を積み込み。
カストリ皇國最東端の街、アヤトリ市を目指す。
途中、列車は、ボクの故郷、リリアン市を通過する。
通過するだけだよ、停車したりはしない。
そのとき、ボクは……。