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■五月二六日 舞踏學の実習

 今日は、舞踏學の実習日だ。

 ボク――儚内(はかない)薄荷(はっか)――は、軽い足取りを隠すようにしながら、魔法少女育成棟へ向う。


 ボクは、五月一九日に予定されていた舞踏學の前回授業を、サボった。

 だって、一九日って、ボクのパンツに関する、この世界の認識が変様した日だ。

 萵苣(ちしゃ)博學(はくがく)宰相の解釈では、この世界の物語が『変革』された日だ。


 舞踏學の実習は大切だって分かってたけど、あの日は、とてもじゃないけど、授業に出れる状況じゃなかった。

 次の舞踏學実習で、きっとメチャクチャ怒られるぞって覚悟してた……ら、状況が変わった。


 徴兵に応じて、五月二〇日に皇國軍鹿鳴駐屯地に出頭した際、ボクは、闇烏(やみがらす)暗部(あんぶ)皇國軍参謀から、前期末舞踏会におけるエスコートとダンスを、白金(しろがね)鍍金(めっき)第二皇子にお断りするよう、厳命されちゃった。


 だから、ほら、もう、ホント、ザンネンだけど、苦手な舞踏學を熱心に學ぶ理由なんてない。

 學習意欲なんて、だだ下がりだ。


 えっ、第二皇子に、ちゃんとエスコートとダンスをお断りしたのか、って?

 もちろん、だよ。

 ただ、鍍金(めっき)皇子に直接お会いする勇気は無かったので、お手紙をお出ししました。


 本心は、『苦手な第二皇子』と、『苦手なダンス』の両方から逃げられることに、大喜びだったんだけど、そんな露骨なこと書けないから、こんな感じの手紙になった。


  拝啓 鍍金(めっき)皇子様

  ボク――儚内(はかない)薄荷(はっか)――は、

 敬愛する皇子様のエスコートを心待ちにし、

 ダンスレッスンを重ねる毎日を過ごしておりました。

  ところが、この度、皇國軍に徴兵され、

 癸種『廃棄』の三等兵として、

 死地へ赴くことを命じられました。

  もはや、皇子様の寵愛も、ダンスも、

 叶わぬ夢と成り果てました。

  どうか、ボクのことは、皇國にその身を捧げ、

 儚く散ったものと思い、

 お忘れくださいますようお願いいたします。

  草葉の陰から、皇子様と、許嫁であらせられる

 芍薬(しゃくやく)牡丹(ぼたん)様のお幸せを、

 お祈りしております。

                    かしこ


 そしたら、鍍金(めっき)皇子から、返信が届いた。


  拝復、甘えん坊の、愛しきピンクへ。

  情愛の籠もった、熱烈なラブレターをありがとう。

  ファンレターなら、全皇國の女子たちから、

 毎日何通ももらっているが、

 愛するピンクからのラブレターは、格別だ。

  どんな障害が立ち塞がろうと、

 俺様とピンクの愛を阻むことなどできないと確信した。

  ヒーローとヒロインには、物語の強制力が働く。

  俺様とピンクは、必ずや、

 前期末舞踏会でダンスを踊ることになる。

  ピンクをこの手に抱きしめるそのときを、

 俺様は待っている。

                    草々


 ……ええっと、ね。

 ボクは、ちゃんと、断ったからね。

 だから、後のことは、もう知らない。


 ☆


 學園の授業は、科目ごとに組まれるグループ制だ。

 ところが、ボクの舞踏學実習については、五月五日から、ボクと宝生(ほうしょう)明星(みょうじょう)様の二人だけを、祓衣(はらい)玉枝(たまえ)學園長先生が直接指導してくれていた。

 それは、ボクが鍍金(めっき)皇子のダンスパートナーに選ばれてしまったからだ。


 でも、皇子様とのダンスは無くなったんだから、これはもう授業グループはどうなるんだろう。

 元のグループに戻るのかな、なんて思いつつ教室に入った。

 すると、そこに、『服飾に呪われた魔法少女』が、全員揃っていた。


 つまり、ボクと明星(みょうじょう)様ただけでなく、金平(こんぺい)糖菓(とうか)ちゃんと、菖蒲(しょうぶ)綾女(あやめ)ちゃんと、スイレン(睡蓮)レンゲ(蓮華)さんまで、揃っていた。


 ――今度は、なにが始まるの?


 いやな予感に慄いていたら、學園長先生が、後ろに数名の教師を引き連れて入室してきた。

 しかも、教師たちに続いて、皇國軍の興業プロモーターである毀誉(きよ)褒貶(ほうへん)氏まで、入室してきた。


 學園長先生が、手にしている破魔矢を、パシリと教卓に打ちつけて、宣言した。

 「我が鹿鳴館學園は、『學園偶像(アイドル)』育成プロシェクトを実施することとなった」


 ――なっ、なんですか、それ!

   言うにことかいて、『學園偶像(アイドル)』ですと!

   どれだけ、設定を盛れば満足なんですか!


 ボクは、もう、知っている。

 こうなったら、どんなことになるのか知っている。

 ボクは、慌てて、生徒徽章に手を翳し、自身のロールを確認した。


  皇立鹿鳴館學園 魔法少女育成科 一年

  儚内(はかない)薄荷(はっか) 男の娘

  ロール:セーラー服魔法少女

      令嬢の転生メタヒロイン ← 第二皇子の第一夫人候補

      転生勇者 ← 召喚勇者パーティー候補

      生徒会会計候補

      科學戦隊お色気ピンク

      學園偶像(アイドル)


 やっぱりね、と思った。

 『學園偶像(アイドル)』なんてものが増えている。

 ついでに言うと、『令嬢の転生メタヒロイン』も、『生徒会会計候補』も消えていない。

 もはや、嘆息しか出ない。


 學園長先生が、一拍置いて、話しを続ける。

 「これは、皇國軍の毀誉(きよ)褒貶(ほうへん)興業プロモーターによる立案を受け入れ、国営放送や、カストリ雑誌社とも手を携え、製作委員会方式で、メティア展開するものだ」


 褒貶(ほうへん)氏が、当然のごとく、話しを引き継ぐ。

 「皇立鹿鳴館學園は、歌って踊れる二つの偶像(アイドル)グループをプロモートするですです。女性グループの『カースウィチ』と、男性グループの『レンジャラス』ですです。」


 ボク以外の四人は、『やっぱり、そうなるか』とでも言いたげに頷いている。


 「ちょっと、待ってください。グループ名を告げただけで、グループメンバーが、発表するまでもなく、決定しちゃってますよね。『カースウィチ』のメンバーが『服飾に呪われた魔法少女』五人で、『レンジャラス』のメンバーが『科學戦隊』五人って、ことですよね?」


 學園長先生が、「そうね」とだけ、答えた。

 『この子、なんで、そんな分かりきったこと聞いてくるの? やっぱり、この子、おバカなの? アホの子なの?』っていう表情だ。


 「それ、メンバーが一人、ダブッてますよね」


 學園長先生が、「そうね」とだけ、答えた。


 ボクの声は、もはや悲鳴に近い。

 「一人の人間に、『魔法少女』と、『科學戦隊』と、『女性偶像(アイドル)グループ』と、『男性偶像(アイドル)グループ』を兼任できると思いますか?」


 「できるかどうかじゃないの。やるのよ」

 學園長先生が、決然として、言い放った。


 「更なる嬉しいお知らせがありますです」と、褒貶(ほうへん)氏。

 「なんと、『服飾に呪われた魔法少女』シリーズのテレビ番組において、『カースウィチ』が、オープニング曲、エンディング曲、そして番組挿入歌の全てを担当することが決定されましたですです。ついでに、申し上げておきますと、『科學戦隊』シリーズのテレビ番組において、『レンジャラス』が、オープニング曲、エンディング曲、そして番組挿入歌の全てを担当することも決定しておりますです」


 褒貶(ほうへん)氏は、『ガンバッテ、仕事を取ってきました。褒めてください』とでも言いたげな、満面の笑顔だ。


 「これを実現するため、『服飾に呪われた魔法少女』五人については、当面の間、全授業を舞踏學に振り当て、昼夜を問わず、ぶっ通しで、歌とダンスの集中レッスンを行うこととしました。ついでに言っておきますが、『科學戦隊』五人については、科學戦隊育成棟において、同様の体制を取ります。儚内(はかない)薄荷(はっか)は、両方のレッスンに欠かさず出席するように」


 「そ、そ、そ、そ、それって、物理的に無理ですよね?」


 「無理かどうかじゃないの。やるのよ」


 ☆


 そして、魔法少女育成棟と、科學戦隊育成棟を往復しながらの、不眠不休のレッスン三昧が始まった。

 このところ、合間合間の仮眠以外、眠らせてもらってない。

 飲食も、レッスンしながらだ。


 実はボク、これまでの舞踏學実習で、『道衣』を着た状態でなら、リズムを取れるようになっていた。

 しかも、リズム感がないことが、音痴の原因でもあったらしく、すこしだけ歌えるようにもなっていた。


 ダンスも歌も、どうにか他のメンバーに迷惑をかけずに済みそうだよ。

~~~ 薄荷(はっか)ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~

■六月一日~六日 写真撮影、レコーディング、そして番宣開始

フェ~ン、泣いちゃうぞ!

レッスン、レッスンで、寝てないんですけど!

プロモーション写真撮影って、ナニ、ソレ?

ソノシートレコーディングって、ナンナノ?

同時に、番宣動画撮影までって……魔法少女や、科學戦隊のやることじゃないよね!

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