■五月二三日① PAN2式実装試験 フェイズ1~2
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■五月二三日① PAN2式実装試験 フェイズ1~2
ボク――儚内薄荷――は、今日も、カストリ皇國軍の鹿鳴駐屯地に出頭していた。
PAN2式の実装試験が主目的だ。
PAN2式って、どうみても、ただの女児用パンツなんだけど……。
こんなんでも、皇國軍造兵廠が総力をあげて開発した、ボク専用の特殊兵装なんだって。
未装備のまま持参するように指示があったので、セーラー服のポッケに入れてある。
今日は、バンツ実装試験のついでに、五月八日に國津神様から下賜された『転生勇者の剣ネコ』の神剣認定も行うので、こちらも持参するように指示があった。
これは、設えたばかりの鞘に収め、背中に背負っている。
セーラー服に合うようにデザインされた、ピンクのキラキラしい鞘だ。
この剣と鞘が、『聖女親衛隊』による拉致事件の前に、ボクの元に届いてさえいたら、あんな不様なことにならなかったのに、と悔やまれる。
でも、いまさら言っても、しかたない。
ボクの兵装チェックが目的だから、今日呼び出されたのは、ボク一人だけだ。
『服飾に呪われた魔法少女』仲間は、一緒じゃない。
一人で軍事施設に呼び出されるのって、それだけでコワイ。
それに実装試験なんて言われたら、なんかこう、いきなり拘束されて、人造人間に改造されてしまいそうな気がする。
十万馬力とかに改造されて、人間に戻れなくなったら、どうしよう、って思う。
駐屯地のゲートまで、出迎えに来てくれた蛇行濁流少佐って、平然とそんなことをやってのけそうな、怪しい外見なんだもん。
少佐は、何年も洗濯してなさそうな、黄ばんだヨレヨレの白衣姿。
背は高いのに、ひょろりと痩せていて、血走った眼球を、キョロキョロとせわしく動かしている。
こんな外見だけど、濁流少佐は、皇國軍における武具、殊に、魔具、聖具、神器の開発責任者だ。
そんなエライ人が、ゲートまで出向いてくれたのは、神剣=武器を所持しているボクがゲートを通過できるようにするためだ。
少佐から、『武具携帯許可証』なるものを渡された。
今後は、これを提示すれば、剣を背負っていても、ゲートを通してもらえるそうだ。
濁流少佐が運転する木炭ジープで、造兵廠の兵装研究棟Aという建物に連れて来られた。
ただ、この駐屯地の建物って、どれも外見が同じで、ボクには、見分けがつかない。
だだっ広い、体育館みたいな部屋に案内された。
そこに、男性ばかり、三十人ぐらい人たちが待ち構えていた。
ここにいるのは、研究者ばかりのようで、全員が白衣を着用している。
ただし、少佐以外は、白くて、パリッとアイロンのかかった白衣だ。
部屋の中央に、回転式の台座が置かれていて、その上に乗るよう指示された。
心電図、心拍数、血圧、血中酸素、呼吸器等、いろんな測定装置を、身体につけられた。
殊に、魔力、聖力、神力については、測定装置を、台座の周囲にまで、貼り巡らせてあり、詳細なデータが取れるみたいだ。
四方と、上部には、テレビカメラも設置されている。
「儚内薄荷さん、造兵廠では、人と人との間に発生する感情を排除するため、研究対象となる人間を、名前ではなくコードで呼ぶのであります。薄荷さんのことは、被検体名ピンク三等兵と呼称するであります」
それまで優しく接してくれていた濁流少佐の口調が、「被検体ピンク三等兵、理解しましたか?」とういう厳格なものに変わった。
ボクは、ゴクリと生唾を飲んで、「はい」と答えた。
濁流少佐が、他の研究員たちに向って、宣言する。
「特殊兵装PAN2式、及び、『転生勇者の剣ネコ』の実装試験を行う。計測及び録画を開始するであります」
☆
「フェイズ1:オトコのくせに魔法少女なの認定」というアナウンスが流れた。
研究員の一人が、手にした書類を読み上げる。
「被検体、ピンク三等兵。個体名、儚内薄荷。性別については、肉体構造はオスだが、メスとして取り扱うものとする。年齢、十五歳だが、六歳時に『魔法少女』のロールを付与されたことにより、発育不全……」
少佐が、その研究員を押し止めるようにして、ボクに確認してくる。
「おや、まだ、特殊兵装を実装してもいないのに、心拍数、発汗、呼吸のどれもが異常に高い数値となっているであります。それに、震えているでありますね。被検体ピンク三等兵、自覚はありますか?
「……ボク、トラウマイニシエーションのせいで、男性に取り囲まれるのがコワイんです。これでも、鹿鳴館學園に入學して、力の使い方を覚えて、人を殺せるようになってからは、だいぶ平気になってたんです。それが、五月一六日に男性に取り囲まれてリンチ殺害されかけてから、再発しているんです。平静を保つのは、ちょっとムリです。ゴメンナサイ」
「了解であります。謝る必要などないのであります。実は、本日の実証実験は、被検体への過負荷状態で行うことが望ましいことから、意図的に、男性研究員だけを集めたのであります。この状態で、実証実験を続行させていただくであります」
「通常であれば、勇者パーティーであれ、科學戦隊メンバーであれ、魔法少女であれ、その能力を鑑定したり、測定したり、ましてや認定するようなことはないのであります。ただ、被検体ピンク三等兵については、安定性に懸念があるため、フェイズ1として認定試験を行うであります」
濁流少佐が「接触実験」と声をかけると、一人の研究員が進み出てきた。
鍛えた身体を白衣で包み、その上に、様々なプロテクターと、ヘルメットを着用している。
1メートルぐらいの棒状のものを持っている。
玩具のマジックハンドだ。
取っ手を引くと、棒の反対側についたピンチが、そこあるものを挟み込むようになっている、あの玩具だ。
プロテクター研究員がソロソロと近寄って来るけど、パーソナルスペース外なので、耐えられる。
恐くない。
プロテクター研究員が、さっと、マジックハンドを差し出して、ボクのミニスカートの裾をピンチに挟み込んだ。
――えっ、スカート捲り?
そう認識した瞬間、測定機器のいくつかに赤いランプが点滅し、「魔力異常、暴発の危険あり、緊急停止を推奨」という音声が聞こえた。
ボクは、動揺し、「ダメーーッ!」と叫んで、ミニスカを押さえた。
ボクの全身から、魔力が膨れ上がり、弾けた。
プロテクター研究員だけでなく、少佐や近くにいた数人の研究員が、吹っ飛んだ。
「うそ、これまで、こんなことなかったのに――。ボク、この『呪われた服飾』の着用を義務づけられてから、近所の悪ガキとか、悪意のある人たちに、何度もスカート捲られたし、雑誌社のカメラマンからスライディング撮影までされて、恥ずかしい思いはいっぱいした。だけど、それでも、魔力を暴発させたことなんて、なかった。なのに、なんで?」
研究員さんたちは、吹っ飛ばされたものの、大事なさそうだ。
片手を挙げて、大丈夫なことを示しながら、立ち上がってくる。
少佐も、立ち上がりながら説明してくれる。
「魔力暴発の理由は、はっきりしているであります。五月一八日のテレビ放送以降、被検体ピンク三等兵のスカートの中についての関心が社会現象となってしまっていることへの拒否反応であります。被検体ピンク三等兵、これは、意図して発現させた暴発なので、心配には及ばないのであります。そして、まさにこういった問題を解決するためのPAN2式なのであります」
☆
「フェイズ2:こんなコ選ぶなんて勇者の剣ってホンモノなの認定」というアナウンスが流れた。
「PAN2式の実装試験前に、『転生勇者の剣ネコ』の神剣認定をさせていただくのであります。カストリ皇國では、神器に相当する武具については、國が認定、管理しているのであります。ところが、これまで、『勇者の剣』については、召喚勇者が所持する『タチ』のみが存在を確認されており、この『ネコ』については、伝説上の存在だったのであります」
研究員の一人が、少佐に報告する。
「魔力、聖力、及び神力の測定準備が、整いました。
「では、『転生勇者の剣』を抜いて、構えて欲しいのであります。」
「……抜剣するんですよね、いま、ここで……」
「何か、問題でも?」
「ええと、ですね。この鞘、魔力で抜剣するんです。それでですね、鞘の制作時に『801』案件として、勝手に、抜剣の呪文を決められちゃったんです。ボク、恥ずかしい呪文はイヤだって言ったのに――。なので、笑われるのは、もう諦めてるんですけど、この呪文は、ボクが決めたんじゃないってことだけ、覚えておいてください」
ボクは、回転式の台座の上で、仁王立ちになり、臍の下あたりに両手を降ろし、呪文1を唱える。
「男の娘のひみつ、見せてあげる♥」
柄を上にして背中に吊されていた『転生勇者の剣ネコ』が、ふわりと浮きあがる。
ボクは何もしていないのに、鞘ごと半回転し、柄を下にして、手元に降りて来る。
鞘だけでなく、柄や鍔も、どピンクだ。
此処彼処に、花柄や、ハートや、星を散らされている。
ボクは、『転生勇者の剣ネコ』の柄を、臍の下あたりの位置で、両手で掴む。
呪文2を唱える。
「ボクを見て♥」
ボクは、柄を握ったまま、『転生勇者の剣ネコ』の位置を動かしていない。
なのに、鞘の方が、蛍光ピンクにピカピカ点滅しながら背中に戻っていくことによって、抜剣された。
ボクの顔は、恥ずかしさのあまり、真っ赤だ。
ボクの羞恥心が『転生勇者の剣ネコ』に伝わり、刀身に纏わり付く魔力が、爆発的に高まる。
研究員さんたちが、いくつかの計測器に飛びついて、スイッチを切っていった。
どれもも、針が振り切れそうになったらしい。
かなりヤバイ状態だったらしく、誰もボクのことを笑ったりしていなかった。
「修行も、剣の鍛錬もしていないのに、いきなり、この事態ですか。魔力値と神力値は、高すぎて計測不能。一方、聖力値は、ほぼゼロです」
少佐も、「ふぅーーっ」と息を吐いていた。
「実は、『召喚勇者の剣タチ』で、同じ計測を行ったことがあるのです。召喚勇者は、剣に込める力を制御できるので、このような危機的状況にはなっていません。そして、あちらの剣は、聖力値と神力値が計測不能で、魔力値はゼロでした」
「なんにしても、これで、『転生勇者の剣ネコ』は、正式に神剣と認定されました」
ボクは、頷いて、納剣した。
ちなみに、鞘を呼んで衲剣を開始する呪文1が「見ちゃイヤ♥」。
納剣を完了する呪文2は「ボク、男の娘のひみつ、見られちゃった♥」だ。
~~~ 薄荷ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~
■五月二三日② PAN2式実装試験 フェイズ3
皇國軍造兵廠が総力をあげて開発した、ボク――儚内薄荷――専用特殊兵装。
その名も、パーフェクト・アーマー・ネイキッド2式、略して、PAN2。
その実装実験は、いよいよ最終段階に至ろうとしていた。
「フェイズ3:オトコノコのくせにオンナノコPAN2実装試験」だ。