■五月二一日 皇國軍鹿鳴駐屯地出頭
ボクたち、『服飾に呪われた魔法少女』五人は、『青紙』、つまり徴兵令状に記載されていた出頭命令に従い、カストリ皇國軍の鹿鳴駐屯地に出頭した。
『スクール水着魔女っ子』の金平糖菓ちゃん。
『運動部衣装魔法少女』の菖蒲綾女ちゃん。
『文化部衣装魔法少女』のスイレンレンゲさん。
『舞踏衣装魔法少女』の宝生明星様。
そして、『セーラー服魔法少女』のボク、儚内薄荷だ。
鹿鳴駐屯地は、鹿鳴館學園に隣接しており、學園と同程度の敷地面積がある。
ただ學園と違って、ここの敷地内は、一般公開されていない。
だから、いきなり駐屯地内には、入れてもらえない。
ゲート前の建物で、厳格な入隊審査を受けねばならない。
ボクたち魔法少女については、ちゃんと女性兵士が対応してくれた。
徴兵検査のときみたいに、服を脱がされるようなことも無かったので、ホッとした。
カストリ皇國では、十五歳の誕生日に、男女ともに地域の駐屯地に出頭して、徴兵検査を受けなきゃならない。
その際は、医師や看護士の前で、全裸になって、身体測定や体力検査をさせられる。
これは、戦争勃発時に、いつでも必要な人材を徴兵できるようにするためだ。
徴兵検査は、甲種か乙種であれば『合格』で、丙種が『条件付き合格』で、丁種が『不合格』だ。
あのとき、ボクの審査結果は、癸種『廃棄』だった。
『廃棄』って、戦時下になれば、人間兵器的な扱いで、訓練もなしに最前線に投入されるんだって。
審査後、家に帰ってから、審査結果が癸種『廃棄』だったと、母に報告した。
「ボクって、身体はちんちくりんな発達不良で、幼児並みの体力しかないから……。こんな子で、ごめんなさい」
母は、「戦争中じゃなくて、良かった」って、泣いていた。
「でもね。この審査結果は、薄荷に身の程をわきまえさせようと、仕組まれたもので、間違いないわ。本来なら、体力はなくとも、尋常でない魔力持ちの薄荷が、『合格』しないはずはないの。だから、こんな審査結果なんか気にせず、胸を張ってなさい」
そんな経緯があったので、今回、入隊審査をやってくれた女性兵士に、恐る恐る訊いてみた。
「ボク、徴兵検査は癸種『廃棄』ですから、入隊したら、どこかで潰されちゃうんですよね?」
そしたら、思いっきり、ケラケラ笑われた。
「儚内薄荷さんは、皇國への有用性が認められての學徒出陣です。そんなことにはなりませんよ。安心して」
入隊チェックを終え、駐屯地内に入る。
ゲートを潜る前に、レンゲさんだけ、目隠しをさせられた。
レンゲさんの能力が転移なので、その対策らしい。
鹿鳴駐屯地は、皇國を担う人材を育てる鹿鳴館學園を、護るための施設だとされている。
しかしながら、學園警護に必要とされる以上の、過剰な戦力が配備されている、って噂だ。
木炭ジープに乗せられて、敷地内を移動する。
当たり前だけど、そこら中、軍服を着た兵士だらけだ。
迷彩服の一団が、銃剣を手に持ち、隊列を組んで、整然と走っている。
銃剣って、カッコいいよね。
ボク、就労実習のとき、銃剣工場を希望したんだ。
だけど、銃剣工場は危険だから、男子じゃなきゃだめだって、却下されたんだよね。
ボク、あのときは、まだ、ちゃんと男子だったのに……。
敷地内には、移動型砲台や、新型の軍用車両が居並んでいる。
なんか、無限軌道の付いたヘンな車両がある。
「なんですか、あれ?」って尋ねたら、「水を運ぶタンク車だ」って教えられた。
でも、大きな砲頭が付いてるんだよ。
ぜったい、タンクじゃないよね。
奥の方には、数隻の飛空艇の姿まである。
爆発の危険がある水素ガスではなく、ヘリウムガスを用いた最新型だそうだ。
ボクが、就労実習で造っていた落下傘は、実は、この鹿鳴駐屯地に納品されていた。
あの飛空艇の中には、きっと、ボクが足踏みミシンで縫った落下傘も、搭載されているはず。
そう思うと、ちょっとだけ誇らしかった。
鹿鳴駐屯地内の建物は、どれも、装飾のない武骨なものばかりで、外見的な特徴がない。
建物名を示す看板のようなものもない。
有事の際に、どれが重点施設なのか分からないようにしているのだろう。
そんな建物の一つに、ジープが横付けされた。
教室みたいな部屋に、通された。
教室みたい、というか、実際、兵士たちへ教育を施す場なんだろう。
教壇側に三席、受講者側に九席が用意されている。
窓の遮光カーテンが一斉に、閉ざされる。
そこでやっと、レンゲさんの目隠しが、外された。
教室には先客がいた。
『青紙』が届いたのは、ボクたちだけじゃ無かったようだ。
ボクの見知った人たちだった。
科學戦隊の四人だ。
それぞれ、赤、青、黄、緑のタイツとヘルメット姿なので、一目瞭然だ。
リーダー『爆炎レッド』の南蛮増長さん。
サブリーダー『氷結ブルー』の北狄で多聞さん。
『雷撃イエロー』の東夷持國さん。
そして、『旋風グリーン』の西戎広目さんだ。
『旋風グリーン』さんが、ボクの顔を見るや、駆け寄ってくる。
ボクの右手を取り、自身の両手で、ギュッと握る。
「ピンクレディー、いよいよ、僕との、結婚を前提としたお付き合いに、同意してくだるんですね」
「ボク、ちゃんとお断りしましたよね。はっきり、きっぱり、お断りしましたよね」
ボクは、『旋風グリーン』さんの手を振り払おうとするが、離してくれない。
『雷撃イエロー』さんが、割って入って、『旋風グリーン』さんの手を引き剥がしてくれた。
「グリーン、ピンクちゃんに、これ以上迷惑かけるな」
『雷撃イエロー』さんは、そのまま、ボクに向って、頭を下げた。
「ピンクちゃんに、謝りたいと思っていたんだ。『服飾に呪われた魔法少女テレビシリーズ』の第四話を視たよ。あの美容室で、ピンクちゃんを見つけたとき、騎士団に逆らってでも僕たちが連れ出してさえいれば、ピンクちゃんがあんなことにならずに済んだんだ。本当にすまない」
『旋風グリーン』さんも、遅まきながら神妙な表情になって、「ごめんね」と、頭を下げてくる。
「あれは仕方ないですよ。だって、ホンモノの騎士団で、偽造とはいえ學園長の命令書まで持ってましたもん。どうか頭を上げてください」
ボクは、『雷撃イエロー』さんと『旋風グリーン』さんに、気にしないでと、笑いかける。
その横では、レンゲさんが、明星様と綾女ちゃんと糖菓ちゃんに、『爆炎レッド』さんと『氷結ブルー』さんを紹介し、挨拶を交わしている。
「『氷結ブルー』は、ワタシの幼なじみなのデス。『氷結ブルー』から紹介されて、『爆炎レッド』さんとも面識がありマス。ワタシ、先日の授業で、この國の魔法少女と科學戦隊の間に、多くの血が流れ、歴史的な確執があったコトを、初めて知ったデス。留學生のワタシが言えたことではデハないデスが、デモ、それは過去のことデス。魔法少女と科學戦隊を同室に集めた、皇國軍の意図は分かりませんが、いきなり手を取り合うのは難しくトモ、どうかお互い、先入観を捨てて接していただけないデしょうか。」
何と言うか、思いもよらなかったメンバーが一堂に会したことで、ギクシャクとした雰囲気だ。
ボクは、この際、そんなわだかまりを、ぶった切っておくことにした。
「ボクね。初めて殺した相手が、『六色のオーブ』の魔法少女だったんです。それも、ボクが憧れていた『黒のオーブ』のお二人です。そのお二人は、他の仲間を科學戦隊に殺されたことを恨んでいました。そして、そんな科學戦隊の『お色気ピンク』のロールを得てしまったボクを、いたぶったうえで、殺害殺しようとしました。だから、ボクは、自分が生き延びるために、やむなくそのお二人を殺しました。そのことに、後悔なんてしていません。そして、そのときに、理解しました。『この世界』は、『物語』に支配されています。そして、『物語』ごとに敵味方が入れ替わり、助け合ったり、殺し合ったりせねばなりません。ボク、敵として立ち塞がる者については、躊躇なく殺します。その代わり、味方となってくれる人たちとなら、過去の経緯や歴史など関係なしに、迷うことなく共闘できます」
ボクは、レンゲさんに、笑顔を向ける。
「だから、レンゲさん。そんなに気をつかわなくとも、だいじょうぶだよ。ボクが『お色気ピンク』のロールを得てしまうきっかけを作ってしまったことを、ずっと、気に病んでるんだよね。そんなこと、気にする必要なんて、ないんだよ」
お互い、気を許してはいないものの、とりあえず同席して、皇國軍の意図を確認しようという雰囲気にはなったと思う。
そこへ、パン、パン、パンと、ことさら大きな音を立てて拍手をしながら、入室してきた男性がいる。
「結構。大いに結構」
あたりをはばかることのない、ガハガハという、笑い声まで加わる。
二人の人物を従えて、教壇側へ進む。
恰幅は良いが、不健康な顔色で、目の下が、ぶよんと弛み、黒ずんでいる。
金モールの肋骨服に、中将の階級章と、鈴なりの勲章が並んでいる。
部屋にいたボクたち九人は、ダッと起立して、直立不動で、出迎えた。
その人物には、何の説明もなくとも、否応なく、人を服従させるだけの威圧感があった。
「儂の名は、闇烏暗部。皇國軍の参謀を務めておる」
視線で、一緒に入室してきた二人にも、自己紹介を促す。
一人目は、背は高いのに、ひょろりと痩せた男性だ。
血走った眼球を、キョロキョロとせわしく動かしている。
「自分、造兵廠研究官の蛇行濁流であります。階級は、少佐であります」
もう何年も洗濯してなさそうな、黄ばんだヨレヨレの白衣姿だ。
軍の士官でありながら、制服を着ていなくとも許されるのだろうか?
二人目は、背丈はさほどないのに、でっぷり太った男性だ。
薄くなった頭頂部を、周囲の頭髪を持ち上げて隠している。
仕立ての良い背広姿だけど、不思議なほど似合っていない。
「わたくし、興業プロモーターの毀誉褒貶ですです」
ボクは、暗部参謀と、褒貶プロモーターの顔を、知っている。
この二人は、五月一九日のテレビ緊急討論会に出ていた。
暗部参謀が、全員に着席を促し、話し始めた。
「この会合には、芍薬矍鑠元帥閣下の出席が予定されておったのである。つまり、カストリ皇國において、それほどの重要案件あると認識されておるのだ。ところが、その元帥閣下が、急用で、来れなくなられた」
「元帥閣下が仰るには、今朝方急に、ご息女の牡丹様から、おねだりされたそうである。『パパ、仕立屋を呼んで。前期末舞踏会用のドレスを作らせるので、パパも立ち会って。わたくしに似合う衣装を、見立てて欲しいの』と。牡丹様は、第二皇子白金鍍金様の許嫁であられる。当然、前期末舞踏会でも、牡丹様は、鍍金皇子のエスコートを受ける手筈であった。更には、ファーストダンスも予定されておった。ところが、である。こともあろうに、その鍍金皇子が、牡丹様ではなく、別の誰かさんをエスコートすると言い出されたそうなのである。しかも、その誰かさんは、女ですらないのである。牡丹様は、名誉女子なんぞに負けてなるかと、発憤されておる」
暗部参謀が、ボクを見ている。
「元帥閣下は、止むを得ない事態と判断された。『牡丹よ、これは軍事機密なのだが、本日の会合には複数の目的があり、その一つが、その名誉女子の前期末舞踏会出席を阻むことなのだ』と状況を、暴露された。ところが、牡丹様は、納得されなかったのである。『あの憎たらしい名誉女子が『令嬢の転生メタヒロイン』のロールを持ち、自分のロールが『悪役令嬢』である以上、いずれにしても女の戦いは避けられませんわ。だから、わたくしは、女の武器となる、最高のドレスが入り用なのです』と仰られ、譲らなかったとのことである」
暗部参謀は、ずーっと、ボクを見ている。
「で、儚内薄荷、貴様に、元帥閣下のお言葉を伝えるのである。『本日、吾輩に代わって、暗部参謀より下される任務を、心して遂行せよ。完遂できなかった場合は、癸種『廃棄』の貴様なんぞ、すっ裸にひん剥いて、敵兵のデコイにしてやる』、とのことだ」
その口調は、事務的な連絡事項を伝える、淡々としたものだった。
「さて、この場にいる九人は、學徒動員された。最高学府の學生であるから、仕官とし、階級は少尉となる。ただし、儚内薄荷だけは、徴兵検査結果が癸種『廃棄』であったことから、三等兵の兵卒となる」
『なに、それ?』って、思った。
兵卒のいちばん下の階級って、二等兵のはずだ。
冗談かと思ったけど、暗部参謀の口調は大真面目だ。
三等兵のボクが、口を挟んだり、質問したりしたら、殴られそうだ。
「課せられる任務は、さほど困難なものではないのである。薄荷三等兵以外は、生きて除隊できる可能性も低くない。任務の主眼とするところは反逆者や魔獣の退治任務なのだが、同時に、國民の愛国心高揚と、皇國軍への入軍希望者増加を目的とした広報活動任務でもあるからだ」
要は、皇國軍の広告塔のような立場なので、むやみに死なれては入軍希望者が減ってしまうらしい。
「この任務は、毎年夏期、學園生から選抜して、実施しておる。一昨年と昨年は、召喚勇者と、そのパーティーメンバーを學徒動員したのである。今年も、召喚勇者での実施を予定しておった。ところが、現在、召喚勇者のパーティーメンバー内で、召喚勇者への不信感が高まっているらしいのである。無論、勇者パーティーメンバーについては、個々の戦闘能力は高いのだから、魔獣退治については問題ない。ただ、広報活動の側面上、皇國民や、皇国軍、チーム内での和気あいあいとした交流シーンの撮影が必須なのだが、現状、これが難しいのである」
暗部参謀が、今度は、綾女ちゃんを見ている。
「なんでも、召喚勇者が、勇者の名にふさわしからぬ手段で、とある女子を手に入れようと画策して、失敗したのが、パーティー内における不和の原因らしいのである。召喚勇者は、未だその女子を手中にすることを断念していない。しかも、その女子が、がさつで、勇者パーティーメンバーとしての品性に欠けていることが、パーティーメンバーの女子たちの不興をかっているのだとか……」
綾女ちゃんに向けられている、暗部参謀の視線が、恐い。
「……まあ、そんなこんなで、この魔獣討伐兼皇國軍プロモーション任務を、今年は、魔法少女と科學戦隊にやってもらう。この場にいる九人を、反逆者や魔獣の活動が活発化している地域に派遣し、皇國軍との協力体制のもと、プロモーション番組の撮影を行う。派遣先ごとに、魔法少女と科學戦隊、両方の番組を撮影し、テレビ放送される」
「お待ちください」と、『爆炎レッド』さんが挙手し、発言の許可を得た。
「僕たち、科學戦隊は、昨年度、現在のメンバーになって以降、まともに活動できていません。テレビシリーズも休止状態です。科學戦隊は、五人揃わなければ活動できないのに、『お色気ピンク』が不在のままだからです。本来の『お色気ピンク』である白桃撓和は、行方不明。これに代わり得るのは、ここにいる薄荷さんなのですが、『お色気ピンク』のロールを得ていながら、その役柄を務めることは、拒否されています」
暗部参謀は、事もなげに、「問題ないのである」と言い切った。
「その儚内薄荷は、『青紙』によって徴兵され、本日、ここに出頭しておるではないか。既に、矍鑠元帥閣下による命令書は発令されておる。本人の意思に関係なく、儚内薄荷には、『服飾に呪われた魔法少女』の一人として『セーラー服魔法少女』を務めてもらうと同時に、『科學戦隊』の一人として『お色気ピンク』を務めてもらう」
ボクは、思わず立ち上がって、発言の許可さえ得ることなく、抗議の声を上げていた。
「ボクに、『お色気ピンク』なんて、無理です! ボク、こんな、ちんちくりんの幼児体型ですよ。『男の娘』だから当たり前だけど、胸だってないし――。『お色気ピンク』のロールを押しつけられてから、撓和さんが出演されている番組の再放送を見ましたけど、あの方、ボンキュッボンで、歩くたびに、お尻を振って、胸を揺らしてらっしゃるじゃないですか。ボクには、そんな、お色気なんて、かけらもありません」
壁際に控えていた数人へ兵士が、許可なく立ち上がったボクを、取り押さえに駆け寄って来る。
暗部参謀は、片手を上げて兵士たちを制止し、ボクに向って命じた。
「鉄拳制裁を受けたくなければ、着席して、口を閉じろ」
やっぱり、この人、躊躇無く、他人を殴れる人だ。
それでなくとも、ボクは、トラウマのせいで、男たちに囲まれるのが、とにかく恐い。
震えあがりながら、着席して、口を閉じた。
「薄荷三等兵、貴様は、外見が幼かろうと、もう十五歳の成人だぞ。このカストリ皇國において、成人し徴兵された兵卒が、上官の命令に逆らえばどうなるか、知らんとは言わせん。本人の死罪は確定だが、家族にまで累が及ぶ。それでも、『お色気ピンク』となることを拒否するか?」
暗部参謀は、『どっちでも構わんぞ』と言いたげだ。
ボクは、カクカクと全身を震わせながら、頭を下げだ。
「ご、ごめんなさい。『お色気ピンク』、やります。やらせてください」
暗部参謀は、「よし」とだけ答え、その先の説明を、この企画を総合プロモーションする立場だという褒貶氏に任せた。
褒貶氏が、揉み手をしながら行った説明を纏めると、こんな内容だ。
部隊を派遣し、番組撮影を行う先は四箇所。
それぞれの討伐対象魔獣と合わせて紹介すると、次の通り。
・東のフェロモン諸島での、海の魔獣討伐。
ボクが聞き間違えて、「ソロモン諸島ですね」って言ったら、
「フェです、フェロモンですです」って、訂正された。
・南のジャングル風呂地帯での、植物系魔獣討伐。
風呂ってなんなのって思ったけど、
ジャングルの中に、温泉が湧いているんだって。
・北のツンデレ地帯での昆虫系魔獣討伐。
ツンデレって最初に聞いたときは、ツンドラの間違いじゃないって、
笑ってしまったことを覚えている。
そのあと、『氷結ブルー』さんに教えてもらったから、
今では、ちゃんと、ツンレデで正しいんだって知っている。
・西のゴミ砂漠でのアンデッド系魔獣討伐。
ゴミって何だよ、って思ったけど、これも、ゴミで正しいんだって。
兵団や、撮影部隊と一緒に、軍用列車から、軍用車両や船舶に乗り継いでの移動となる。
軍事的事由から、飛空艇は使わない。
ボクたちだけレンゲさんの転移で移動するようなことも許されない。
そのため、移動、討伐、撮影には、かなりの日数を要する。
六月から八月までの三カ月間かけで、この四箇所を巡ることになる。
この間の學園授業は出席できなくなるが、だからといって、二月の試験が免除されるようなことはない。
また、日程上、前期末舞踏会への参加は、事実上、不可能となる。
褒貶氏の説明がここまで及んだところで、暗部参謀がボクを睨んだ。
「よって、薄荷三等兵、貴様は、鍍金皇子のエスコートを、きちんとお断りしておくように」
これは、ボクにとって、嬉しいことだ。
あの厳しいダンスレッスンから解放してもらえるし、男性とダンスをしないで済む。
きっと、『令嬢の転生メタヒロイン』なんていう不本意なロールも、自然消滅してくれるに違いない。
「最後に、薄荷さんに、伝えておかねばならない事柄が、いくつかあるのですです」
「どの番組でも、シナリオ上のお約束として、三等兵の薄荷さんは、お色気担当となるです。暴漢や、魔物に襲われて、危機的な状況へと立ち至っていただきますです。これを、他の魔法少女や、科學戦隊員たちに助けられて、戦って大団円という展開です。無論、襲われると言っても、テレビ番組ですから、放送コードにひっかかるようなシーンはありませんのでご安心くださいです。」
「ただし、現在、皇國を席巻しているパンツ騒動への対策として、パンチラシーンは、必須だと、心得くださいです」
ボクは、顔を真っ赤にしながらも、抗弁する。
「ボク、五月一八日のテレビ放送以降、どこへ行っても、スカートを捲られそうになるんです。年齢性別関係なく、あたりの人たちが、わらわら寄ってきて、躊躇なく、ボクのミニスカートに手を伸ばしてくるんです。何と言うか、誰もが、他の女の子のスカート捲りは社会的に許容されていないのに、ボクについてだけは、問題ないと考えられてるみたいで……。これでもし、テレビ番組内でパンチラなんかやったら、どうなってしまうことやら。それに、どんなパンツ履いてたとしても、他のパンツ派閥の人たちが納得してくれませんよ。そのまま暴動になりかねませんよ」
褒貶氏が、にこやかな表情で、首を横に振る。
「薄荷さんは、人間心理というものが分かっていませんです。隠すから、捲りたくなるです。安全なテレビ番組内で、何度もパンツを見せつけてやりさえすれば、この事態は沈静化するです。それから、パンツの種類問題についても、皇國中の誰もが納得するパンツを用意してあるです」
褒貶氏が、造兵廠研究官の蛇行濁流少佐の方を向く。
「こちらの、濁流少佐は、皇國軍における武具、殊に、魔具、聖具、神器の開発責任者なのですです」
「少佐、例の特別兵装を――」
濁流少佐が、立ち上がる。
自分の黄ばんだヨレヨレ白衣のポケットから、布地の塊を取り出す。
三箇所に縫い込まれたゴム紐で、小さく丸まった、純白の布地だ。
少佐は、くんくんと臭いを嗅いで、自分の白衣が放っている異臭が、その布地に移っていないことを確認してから、その布地を掲げて見せる。
「これこそ、我が皇國軍造兵廠が総力をあげて開発した、薄荷ちゃん専用特殊兵装、PAN2式であります」
「薄荷ちゃんには、明日、早速、この特殊兵装に、聖力を込める儀式をやっていただくであります」
~~~ 薄荷ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~
■五月二二日 御社の神使 白鼠様
ボク、カストリ皇国軍の偉い人たちから命じられて、御社の神使であらせられる白鼠様に、とんでもなく不敬なことを、お願いするハメになっちゃった。
神使を貶めるような、こんなこと、許してもらえるはずないよね。
これって、皇国軍に命令違反で殺されるか、神使に天罰で殺されるか、どちらか選びなさいってことだよね。