■五月一八日 第四話テレビ放送の視聴
■この物語を読み進めてくださっている方々に、感謝いたします。
最初にご案内させていただきましたように、この物語は、時間軸に従って直線的に進行していきます。
そして、主人公の成長に合わせて、三つの季節に分かれています。
第一部 揺籃の季節
第二部 汪溢の季節
第三部 爛熟の季節
前章をもちまして、第一部が完結し、本章より第二部が始まります。
作者として、読んでいただいている皆様を、確実に結末までお連れしたいと、取り組んでいます。
今後とも、ご贔屓、ご愛読のほど、よろしくお願いいたします。
また、「ブックマーク」に追加や、「ポイント」の★印や、「いいね等のリアクション」で、皆様のお力添えをいただけますよう、併せてお願いいたします。
五月一五日に、ボク――儚内薄荷――は、『服飾に呪われた魔法少女』五人への外出禁止令を破って、美容院へ出かけ、『聖女親衛隊』に拉致された。
五月一六日は、そんなボクを、『服飾に呪われた魔法少女』の仲間四人と、魔法少女育成科二年生『カードパーシヴァーさいこ』の先輩方が救出してくれた。
この拉致救出劇が、『服飾に呪われた魔法少女テレビシリーズ』第四話の前編、中編、後編として、一六日から今日まで、三日間にわたって、夕食時に放映されている。
ボクは、死刑判決を待つ大罪人のような心持ちで、本日放送の第四話後編を待っていた。
当たり前だけど、ボクの部屋に、テレビなんて高価なものは置いてない。
だから、學生寮の大食堂で、他の學生たちと一緒に見るしかない。
周囲からの視線が刺さってきて、針のむしろに座らされているように辛い。
この三日間、恐くて、學生寮の外には出ていない。
それどころか、食事どきに大食堂に行く以外、部屋から出ていない。
食事自体、ほとんど喉を通らない。
ボク、一五日に拉致監禁され、『聖女親衛隊』から私刑を加えられはじめて以降、心神喪失状態に陥ってたので、ぜんぜん記憶がないんだ。
救出された時や、その後のことについてすら、忘我状態が続いていたらしく、ほとんど思い出せない。
ただ、あのとき、自分が、絶対、他人には見られたくない状態だったことだけは確かだと分かる。
そんな状態だった自分の画像が、これから放送される第四話後編で、カストリ皇國中の人々に公開されてしまう。
恐くてたまらない。
できれば、目を背けたい。
――でも、ちゃんと見ておかなきゃ。
そうしないと、これから、自分が世間様と
どう接して良いかも、分からなくなっちゃう。
☆
番組の放送が始まった。
まず、『聖女親衛隊』の男たちに、罵られたり、殴られたり、蹴られたりしたことは、ボク的にはセーフだ。
あんなもの痛いだけで、恥ずかしくはない。
画面の中のボクは、強烈なボディーブローを受けて、気を失った。
男たちの手が、ボクの身体を拘束していた美容院のヘアカットケープを外す。
そして、ミニスカセーラー服を剥ぎ取ろうとする。
ボクは、『脱がされちゃう。やっぱり……。ボク、もう、これで社会的におしまいなの?』と、絶望しかけた。
ところが、ボクのセーラー服を剥こうとした奴らが、次々と、魔力で弾き跳ばされる。
ボク自身は、気絶しているから、これは間違いなく『呪われた服飾』の力だ。
男たちの一人が、何を思ったか、その場にあったヘアカットケープで、再びボクを拘束しようとした。
意外にも、これが効をそうし、男たちは、セーラー服から弾き跳ばされなくなる。
男たちは、『呪われた服飾』の特性に気づいてしまった。
脱がせようとすれば魔力が暴発し、逆に、重ね着させれば魔力が減衰していくのだ。
洗濯物置場から、自分たちの着用済下着、つまり、パンツや、シャツや、靴下なんかを持ってきて、それをボクに着せていく。
ボクの魔力を、枯渇させようとしているんだ。
敢えて、自分たちが着用済みの男性下着を持ってきたことに、ボクを辱めようとする悪意が感じられる。
画面の中のボクが気絶したままであることに変わりはないけど、男性下着に包まれれば包まれるほど、その肉体からどんどん魔力が減衰し、払底していくのが、見てとれる。
男たちに囲まれて、命を弄ばれるその光景は、ボクが魂の奥底に封印している記憶を刺激する。
トラウマイニシエーション時の……あの……。
テレビ画面の前のボクが悲鳴をあげてしまう直前――画面の中のボクを、仲間たちが助けにきてくれた。
画面が切り替わり、ボクの仲間たちが大暴れして、男たちを倒してくれた。
でも、スイレンレンゲさんの力で、包まれていた下着類から救出されたボクは――呼吸してない。
――えーっ!
ボク、レンゲさんに、
マウストゥマウスの人工呼吸してもらったの!
こっ、これって、キスしたって、ことだよね!
レンゲさんが、ボクのセーラー服の襟を掴んで、上半身を持ち上げ、ボクの頬に、往復ビンタを入れながら、絶叫していた。
「薄荷ちゃん、目を覚ましテ! このままじゃ、汚い男物パンツまみれで窒息死って、新聞報道されちゃうヨ。そんな死に様デ、いいノ? それに、これって、ワタシのファーストキスなのデス。生き返って、責任取るデスよ!」
――レンゲさん、大切なファーストキスの
相手が、ボクなんかでスミマセン。
ボクにできることなら、なんでも責任取ります。
レンゲさんの往復ビンタで、ボクの喉が、ゴフッと息を掃き出す。
ボクは、はふはふと浅い息を吐いたものの、また、そのまま、すーっと呼吸停止してしまいそう。
再び往復ビンタを入れようと、振り上げたレンゲさんの手を、宝生明星様が、「僕に任せて」と掴む。
ボクの身体を、レンゲさんから受け取って、再び床に横たえながら、説明する。
「衣服の重ね着は、僕たち『服飾に呪われた魔法少女』を殺す。では、瀕死の『服飾に呪われた魔法少女』を蘇生させるには、どうしたら良いか?」
自分の両手を、ボクが履いているミニスカートの中に、突っ込みながら、「脱がすんだ」と言いう。
そして、ボクがミニスカートの下に履いていたアンスコを、するりと下半身から引き抜いた。
――えーっ、明星様ったら、な、な、なんて破廉恥な!
明星様は、ちゃんとボクに配慮して、ミニスカートが捲れることのないよう、丁寧に脱がせていた。
でも、ボクって、いつも、ミニスカートの下には、アンスコだけを直履きしてるんだ。
つまり、いま、ボクのミニスカートの下は……。
心神喪失状態で、そのまま逝ってしまいそうなボクに向って、明星様が、呼びかける。
「薄荷ちゃん、目を覚ませ! 魔力を行き渡らせて、『呪われた衣装』を、自分の支配下に置くんだ! そうしないと、何かの弾みに、ミニスカが捲れてしまうよ! 薄荷ちゃんの恥ずかしいヒミツを、世界中の人にみられてしまうよ!」
画面の中のボクの胸が、ドキンと跳ねた。
ドキ……ドキ……と、ゆっくり動き始めた心臓が、急速に確かな鼓動を刻み、更には、早鐘のように、ドキドキドキドキドキと打ち鳴らさされる。
青白く凍り付いていた肌に、朱が刺し、みるみる紅潮していく。
「……は……ず……か……し……い……よ……」
明星様が、ボクを鼓舞する。
「薄荷ちゃんは、自分みたいなのが、ピンクのミニスカセーラー服なんか着ちゃいけないって恥じてるよね。でもね、その『呪われた衣装』は、そんな恥ずかしい君を、選んだ。その衣装は君だけのものだ。だからね、衣装に君が支配されてちゃ、呪い殺される未来しかない。ここで死にたくなければ、この學園での三年間を生き延びたかったら、君がその衣装を支配するんだ」
ミニスカセーラー服が、カッと光を発した。
それは、溢れ出る魔力の光だ。
画面の中のボクの鼓動に合わせて、点滅している。
光の点滅に合わせて、ボクの全身が、魔力に満ちあふれていく。
画面の中のボクの身体が、ふわりと、ほんの少しだけ、浮きあがる。
スカートの裾も、ふわりと持ち上がって――。
テレビ画面の前のボクは、テレビ画面の前に飛びだして、そこに映っているスカートの裾を抑えたくなる衝動を堪え、何とか踏みとどまる。
その代わりに、画面の中のボクの手が、すっと伸びて、自分のミニスカートを押さえ込んでいる。
ぎりぎりセーフ……だったよね?……見えてないよね?
気がついたら、画面の中のボクは、その場で、女の子座りしていた。
ワンカールパーマをかけ、毛先に内巻きのカールがつけたばかりの髪。
全身に行き渡った魔力が、その黒髪の一本一本に光を纏わせ、点滅している。
白黒画面だから断言できないけど、ピンク色に点滅してるんだと思う。
画面の中のボクは、唇を尖らせながら、明星様に、片手を差し出す。
「ボクのスコート、返して」
明星様は、ボクを抱きかかえるようにして立たせる。
ボクの足下に跪き、さっき脱がしたアンスコを広げる。
ボクの足を、片方づつ差し入れさせて、するりと引き上げる。
そのままスカートの中にまで手を差し入れるようにして、ボクにアンスコを履かせてくれた。
☆
テレビ画面を見ていたボクは、頭を抱え込むようにして、眼前のテーブルに突っ伏した。
――これって、見えてようが、見えてまいが、
アウトだよね。
なんて言ったらいいんだろう。
単純に、裸を見られるより、ずっと不道徳で、
恥ずかしいことの気がする。
魔力枯渇で頓死しかけてたボクを救う方法が、他になかったってことは、分かってる。
それに、明星様は、周囲を取り囲んでいるテレビカメラに、放送上問題のあるものが一切映り込むことのないよう、ちゃんと配慮してくれたことだって、分かってる。
――でも、明日から、もう、外を歩けないよ。
一生、引き籠ろうかな……。
かなり長いこと、大食堂のテーブルに突っ伏したまま、身動きすらできずにいた。
何とか、身を起こし、ふらふらと部屋に戻る。
着ぐるみパジャマに着替える元気も出ない。
ピンクのミニスカセーラー服のまま、ベッドに倒れ込んだ。
ボクは、この時、まったく気づいていなかった。
このテレビ放送によって、『この世界』の『物語』が変様しはじめていることに……。
~~~ 薄荷ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~
■五月一九日 世界の目覚め
ボクは、自分が拉致監禁されたときのテレビ放送を見た……見てしまった。
あまりのショックに、ベッドに崩れ落ちるようにして眠った。
翌朝、目覚めると、何かがヘンだ。
自分の精神状態が、オカシイ自覚はある。
だけど、それだけじゃなくて、自分を取り巻く世界の様相が……。