■五月一七日 『カードパーシヴァーさいこ』たちの夢
■この物語を読み進めてくださっている方々に、感謝いたします。
最初にご案内させていただきましたように、この物語は、時間軸に従って直線的に進行していきます。
そして、主人公の成長に合わせて、三つの季節に分かれています。
第一部 揺籃の季節
第二部 汪溢の季節
第三部 爛熟の季節
本章をもちまして、第一部が完結し、次章より第二部が始まります。
作者として、読んでいただいている皆様を、確実に結末までお連れしたいと、取り組んでいます。
今後とも、ご贔屓、ご愛読のほど、よろしくお願いいたします。
また、「ブックマーク」に追加や、「ポイント」の★印や、「いいね等のリアクション」で、皆様のお力添えをいただけますよう、併せてお願いいたします。
あたしは、念動の丸山宰子。
『カードパーシヴァーさいこ』の一人なの。
白目がちな四白眼で、責任感が強い委員長タイプだって、よく言われるの。
そんな性格なので、さいこメンバーの纏め役みたいな立場になっちゃっている。
今日は、念話の漣伝子と、透視の正方呉羽と一緒に、皇國軍の學園駐屯地にある医療センターにやってきたわ。
伝子は、キツネ目で、内気で無口な子なの。
ただ、口で喋ろうとすると、まともに言葉が出ないくせに、念話になると多弁で、立て板に水で喋りまくるわ。
呉羽は、睨んでるような寄り目で、正義感が強い子なの。
三人で、この医療センターにやってきたのは、この施設内で眠り続けている予知の極光智子に面会するためなの。
智子の病室には、桜の花片みたいに、五台のベッドが設置されているわ。
花弁の中心に頭部を寄せ合う配置なの。
そのヘッドボードには、それぞれ異なる図形が描かれているの。
念動を象徴する丸形。
念話を象徴する波形。
透視を象徴する四角。
発火を象徴する十字。
予知を象徴する星形。
智子は、そのうちの一台、星形が描かれたベッドに、眠り続けているわ。
あたしらが、ここの桜花の中心部分に、頭を寄せ合って眠ると、智子と夢を共有できる仕組みになっているの。
あたしが丸形、伝子が波形、呉羽が四角の図形が描かれたベッドに横になるの。
前回の面会時までは、発火の南斗華美が十字の図形のベッドに寝て、五人で夢を共有していたわ。
でも、その華美は、一昨日、死んでしまったの。
だから、十字が描かれたベッドは空けて、残された四人で頭を寄せ合うことになるわ。
眠りに落ちると、一面の星空の中で、智子が待っていたわ。
智子って、起きて活動していた頃から、伏せ目がちな子だったの。
だから、あたし、智子の瞳を、ちゃんと見た記憶がないわ。
性格まで茫洋としていて、捉えどころの無い、不思議な子なの。
あたしに続いて、伝子と呉羽も、夢の中にやってきたの。
伝:うち、智子と、ずっと五感を共有してたつもりだけど、ちゃんと視えてたかな?
智:伝子、いつも、ありがとう。事の一部始終は視せてもらったわ。
呉:じゃあ、華美が、死んじまったことも分かってるよな。
智:うん、分かってるわ。
て言うか、華美は、一昨日、死んでからずっと、ここにいるわ。
華:ちーす。
華美ちゃんどぇ~す。
華美が、生きていた頃と、そのまんまの姿で、そこに居た。
つり目で、好戦的なのに、傷つきやすい子だ。
呉:……信じらんない。
宰:軽いな~。
その軽さは、肉体を失ったからか?
あたしらが、どんな気持ちでいたと思ってるの。
智:以前の華美は、鬱屈として思い詰めるあまり、最近では、言動は支離滅裂だったし、記憶も混乱してたでしょ。
それがね、死んだことで吹っ切れたみたいなの。
一昨日から、ちゃんと会話が成り立つようになってるわ。
呉:……信じらんない。
伝:ここにいる華美って、うちらの願望が創り出したものじゃないかな。
華:きっとそうだよ。
死んじゃってるのは、間違いないからね。
呉:オマエが言うな。
宰:軽いな~。
よし、華美のことはスルーしよう。
伝:今日は、大事な話しがあるからね。
華:そんな~。
もうちょっと、いじってくれても……。
宰:智子、確認するね。
智子が昏睡状態となって以降、あたしらが智子と話そうと思ったら、この施設で、頭を寄せ合って、一緒に夢を見るしかなかった。
ところが、ここへきて二回、智子の思念が、あたしらに直接届いた。
一回目が、五月八日。
届いた思念は、『転生勇者様が覚醒されたわ。辛うじて間に合った。きっと、わたしたちを、お救いくださるわ』。
二回目が、五月十四日。
思念は、『明日、転生勇者様が、拉致されるわ。そのまま監禁されて、明後日には死んじゃう。わたしたちが、お助けしなきゃ』。
だから、華美が暴走した。
あたしらも、訳が分からないまま、とにかく動いた。
あたしらが、今日、ここに来たのは、ちゃんと、知りたいからだ。
伝:智子には、過去に起こったことや、これから起こるとこが視えてるのよね。
ちゃんと教えて欲しいの。
智:前提条件から聞いて。
わたしは、みんなより、ちょっと、たくさん視えてるだけ。
わたしたちの予知って、断片的だし、意図したことの答えが、すんなり得られたりはしないわ。
視えたものについて話しをしたり、視えたものにかかわる行動を起こすと、未来どころか、過去にまで変動が発生する。
これから、わたしが話すことは、断片的に視えたものに、憶測を加え、つぎはぎにしたもの。
そして、視えたものの全ては話せない。
いま話したとしても最小限の変動で済むと思えることだけ、話すわ。
智:まず、過去のことから話すわ。
それが、現在から未来にへと繋がるものだから。
智:みんな、ハクメイ先生のこと、覚えてるわよね?
宰:あたしらが、五~六歳の頃、生科研にいらした先生だよね。
伝:うちら、幼かったし、先生の在籍期間も短かったら、あんまり記憶にないの。
智:ホントはね、わたしたち五百人全員、戸籍もないまま、六歳になる前に廃棄処分になるはずだったの。
ほら、六歳になったら、御社で、ロール判定を受けるでしょ。
あれってね、戸籍の有無にかかわらず、六歳になったら、その子の存在が、御社側に知られちゃうんだって。
だから、生科研は、自分たちの研究の負の遺産である、わたしたちを廃棄しようとしたの。
智:でもね、性根の腐った研究者たちには、自分の手で、五百人の子供を殺す勇気がなかったわ。
それでね、皇國軍の兵器で、まとめて処分してもらおうとしたの。
その処分担当官として、皇國軍から派遣されてきたのが、ハクメイ先生。
智:ハクメイ先生は、事の経緯と実情を知って愕然としたわ。
逆に、なんとか、この子たちを救いたいと決意してくれた。
智:ハクメイ先生は、別件で皇族に、恩を売ったことがあったわ。
その恩を返せと皇族と交渉した。
約束されていた昇格も、恩給もいらないから、この子たちを救ってくれって、願い出た。
智:その結果、わたしたちは、戸籍を与えられたわ。
生科研内に、わたしたちだけが通う、白鼯小學校まで増設された。
わたしたちは、その入學式で、白鼯様から、揃って『魔法少女さいこ』のロールを与えられた。
呉:知らなかった。
あたい、お礼を言って、恩返ししなきゃ。
智:ハクメイ先生は、白鼯小學校の開校直後、暗殺されたわ。
わたしたちを処分しなかったことで恨みを買ったみたい。
宰:あたしら、ハクメイっていう名字しか知らないけど、フルネームは分かるの?
智:ハクメイは姓じゃなくて、名前なの。
フルネームは、儚内薄命っていうの。
呉:儚内って、まさか?
智:その、まさかよ。
ハクメイ先生は、『転生勇者』にして、『セーラー服魔法少女』である儚内薄荷様の、お父様なの。
あたしら三人だけじゃなく、華美まで、唖然としていた。
智:ただし、実父ではないわ……たぶん。
薄荷様は、ハクメイ先生の養子なの。
そして、薄荷様の存在は、ハクメイ先生が皇族に売った恩義と関係してる。
でも、何回もチャレンジしているけど、どうやっても、その先のことは視えなかったわ。
智:今年の三月、わたしたちは、一年間の運用試験の結果として、生科研の先生方から、またしても、見放された。
おまえらの力は、既に頭打ちだ。
伸びしろがない。
その程度では、近代兵器を備えた皇國軍レベルを相手どるなど
到底不可能だ。
前時代的な武具に固執している騎士団にすら勝てん。
何より、おまえらは、倒した仲間と、己の一生分の燃料を、
一気に燃焼させているだけだ。
卒業を待たずして、全員が電池切れになって、
動きを止めるだろう。
おまえらは、兵器として、失敗作だ。
生科研は、おまえらの開発から撤退する。
そう言われたよね。
智:わたしは、予知を使って、わたしたちが生き延びる未来を模索した。
それは、わたし程度の能力では、見いだせないはずの未来だった。
それでも、わたしは、その、ごく僅かな可能性を追い求めた。
わたしの脆弱な力では、その負荷に耐えきれなかった。
代償として、わたしは、このベッドから身動きできなくなった。
智:それでも、わたしは、光明を見いだした。
それが、転生勇者であられる薄荷様とともにあることだった。
薄荷様が生き延びる未来と、わたしたちが生き延びる未来は、交わっている。
薄荷様が、握り潰される未来においては、その父親であるハクメイ先生の存在も、ハクメイ先生の庇護を受けたわたしたちも握り潰される。
智:目指すべき、わたしたちが生き延びられる未来は、本当に可能性の低いものなの。
今回の騒動だけでも、華美他数名が亡くなった。
この先、大半の仲間が失われる。
でも、そうしなければ、わたしたちは、電池切れで死んじゃうだけ。
他に選択肢はないの。
分かってくれるかな。
全員が、頷いた。
華美まで、頷いている。
智子が、そう言うのなら、他に道はないのだと、理解できた。
呉:それじゃあ、薄荷様に、あたいらとハクメイ先生のことをお話しして、転生勇者様のもとで戦いたいって申し出ようぜ。
智:それは、ダメ。
視えたものについて話しをしたり、視えたものにかかわる行動を起こすと、未来どころか、過去にまで変動が発生する可能性があるってことを、肝に銘じて。
そのうえでの話しだけど、ハクメイ先生の秘密は、薄荷様のトラウマイニシエーションに直結してるわ。
薄荷様は、自分で、自分の記憶を封印してる。
だから、薄荷様が、自分でその封印を解くに任せるの。
下手な介入なんてしたら、薄荷様が自己崩壊しかねない。
薄荷様の魔力量で、自己崩壊なんて起こしたら、それこそ、どんなことになってしまうやら……。
呉:あたいら、ハクメイ先生に救われたことの、お礼を言うことさえ、許されないのか……。
宰:待つしかないってこと?
智:う~ん、さしあたってはね。
だけど、昨日、わたしたち『さいこ』が介入し、薄荷様が死を免れた。
そこから、すでに、物語は改変されはじめているの。
薄荷様の、ミニスカートの中から、『この世界』が変わっていくの。
見てなさい、笑ってしまうくらい、『この世界』は、面白いことになっていくから――。
華:くそ~~~っ。
おれってさ、なんでこんな、タイミングで死んじゃったんだろう。
これから、『おれの発火が火を吹くぜ』って、激アツ展開なのに……。
伝:アホの子が、手遅れになってから、何か言ってる。
宰:死ななきゃ直らないほどの、おバカだからね。
伝:それ、死んでも直らないの、間違いだよね。
~~~ 薄荷ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~
■五月一八日 第四話テレビ放送の視聴
ボク、『聖女親衛隊』に拉致監禁され、私刑されたとき、心神喪失状態に陥ってたから、ぜんぜん記憶がないんだよ。
あのとき、ボク、きっと、世間様に顔向けできないようなこと、されちゃったよね。
恐いし、目を背けたいけど、テレビ放送見て、ちゃんと確認しとかなきゃ……。