■五月一六日② 薄荷ちゃんを捜して
ワタシは、スイレンレンゲ。
『文化部衣装魔法少女』デス。
ワタシは、『服飾に呪われた魔法少女』仲間三人と一緒に、『セーラー服魔法少女』の儚内薄荷ちゃんを捜し回っているところデス。
『服飾に呪われた魔法少女』仲間三人とは、『スクール水着魔女っ子』の金平糖菓ちゃん、『運動部衣装魔法少女』の菖蒲綾女ちゃん、それから、『舞踏衣装魔法少女』の宝生明星様、デス。
さっきまで、ワタシと、仲間三人は御影密先生による現代史特別補講を受講していたデス。
その授業で、ワタシ、自分の歴史認識不足を、思い知らされたデス。
それはともかく、その授業を欠席した薄荷ちゃんの身に、不測の事態が発生していると思われることから、慌てて捜し回っているデス。
ワタシは、三人と一緒に、薄荷ちゃんが行きそうな場所に、次々転移したデス。
三人は、行った先、行った先で、聞き込みしたり、捜し回ったりしてくれたデス。
まず、判明したのは、薄荷ちゃんが、昨夜、學生寮の自室に戻った様子がないということデス。
ワタシ、青ざめたデス。
「薄荷ちゃんみたいな、か弱い女の子が、一晩帰ってないって! 貞操の危機デス。今頃、たいへんなメにあってるかも……」
「いやいや、薄荷ちゃん、決して『か弱く』は、ないんよ。むしろ、最強なんよ」と、糖菓ちゃん。
「それに、薄荷ちゃんてば、『女の子』じゃなくて、『男の娘』だぜ。だから、『貞操の危機』っていうのも、ちょっとな――」と、綾女ちゃん。
糖菓ちゃんも、綾女ちゃんも、心配そうな表情を浮かべているので、きっと、ワタシの気持ちを和らげるために、そう言ってくれているデス。
次に、捜すべきは、美容室、ということになったデス。
しかしながら、薄荷ちゃんは、自分が美容室に行くことを糖菓ちゃんにしか教えておらず、その糖菓ちゃんも、薄荷ちゃんが、どこの美容室に行ったか聞いていないデス。
止むなく、美容室を片っ端からあたることにしたデスが、學園内には、かなりの数の美容室があるデス。
學生寮近く、魔法少女育成棟近く、ショッピングモール周辺、と確認して回ったデス。
デスが、それらしいお店も、目撃者も、ぜんぜん見つからないデス。
「変だな」と、明星様。
「テレビ番組で人気の『セーラー服魔法少女』の顔を知る者は多い。知らなかったとしても、ピンクのミニスカセーラー服なんて破廉恥な恰好の子が来店したり、その辺りをうろついてたら、覚えていないはずがない。これだけ、きれいさっぱり目撃情報がないとなると、むしろ、目撃した者たちが、記憶操作でも、受けていそうだ」
賢者の『ロール干渉』は言うに及ばず、他の召喚勇者パーティーメンバーや、騎士団には、記憶操作、もしくは記憶消去の能力を持つ者が、複数いるデス。
念のため、勇者眷属育成棟と、王侯貴族育成棟へも、転移してみることにしたデス。
すると、王侯貴族育成棟の城門前で、騒動が発生していたデス。
☆
王侯貴族育成棟は、パステルカラーに彩られた、童話の中に出てくるメルヘンチックなお城みたいな建物デス。
敷地の周囲は、石造の鋸壁に取り囲まれているデス。
鋸壁って、上部に、凸凹のある城壁デス。
中に入るには、城門を通る必要があり、そこは騎士団が護っているデス。
鹿鳴館學園全体は、皇國軍の兵士が護っているデス。
だけど、この王侯貴族育成棟の中だけは、騎士団が護っているデス。
ついでに、騎士団と皇國軍の違いを説明しておくデス。
騎士団は、王侯貴族を護る存在デス。
貴族家の者でなければ、入団できないデス。
貴族家とはいっても次男以下や、爵位継承権のない騎士爵の者がほとんど。
高い聖力と、高い選民意識を持つ者が多いデス。
魔力持ちもいるデスが、騎士団内では差別対象となっているデス。
騎士道に固執しているため、武具は、昔ながらの刀剣類デス。
御柱侯爵家の太史様が、『騎士団長』の座に就いておられるデス。
騎士団長の子息が、猛史様で、『生徒会庶務』を務めておられるデス。
一方、皇國軍は、指揮官を除けば、ロールを持たない平民ばかり。
聖力や魔力がない代わりに、強力な兵器を所持しているデス。
標準装備は銃剣で、大砲どころか、飛空船まで備えているデス。
芍薬公爵家の矍鑠様が、長年、皇國軍『元帥』の座に就いておられるデス。
元帥の長女が牡丹様で、第二皇子白金鍍金様の許嫁デス。
☆
ともあれ、ワタシたち四人が、王侯貴族育成棟の城門前に転移してきたラ、騒ぎが起こっていたデス。
騎士団員たちが護る城門に、攻め込んでいる者たちがいるデス。
しかも、攻め込んでいるのは、魔法少女たちデス。
騎士団も、魔法少女も、それぞれ三十名ホド。
騎士団は、揃いの軽装鎧。
それぞれ、剣、槍、弓等を持ち、統率された動きを見せているデス。
一方の、魔法少女たちは、手にしたカードを浮遊させ、展開させて戦っているデス。
白いカードに、丸形、波形、四角、十字、そして星形が描かれているデス。
このカードを操作し、炎や、見えない力を発生させて戦っているデス。
魔法少女たちは、個々が、てんでんばらばらに戦っているだけ。
全体を統率できていないデス。
魔法少女たちの服装は、全員揃って、なぜか、白いヘソ出しルック。
だけど、それ以外は、これも、てんでんばらばら。
トップスは、半袖だったり、ノースリーブだったり。
チューブトップだったり、タートルネックだったり、フード付きだったり。
ボトムスは、ショートパンツだったり、カボチャパンツだったり、キュロットだったり。
だぼだぼのレッグカバーを付けている者が多いデス。
騎士団と魔法少女の双方に死傷者が出る乱戦状態となっているデス。
こんなとき頼りになるのは、明星様デス。
明星様は、状況を見て取るや、衣装を、『平服』のミニ袴巫女服から、『体育服』のチア衣装に、瞬間チェンジしたデス。
そのまま、空中に躍りあがりマス。
優雅に宙を舞いながら、宣言したデス。
「鎮まれ! この場は、僕たち『服飾に呪われた魔法少女』が預かる」
その宣言が発せられたのは、騎士団の先頭に立っていた一人が、ハルバードの斧部を、振り降ろした瞬間デス。
そのハルバードの斧が振り降ろされる先には、地面に蹲っている一人の魔法少女。
ワタシ、この一撃だけは、もはや制止できないと、息を呑んだデス。
でも、そうはならなかったデス。
騎士の振り降ろすハルバードの間合いに、綾女ちゃんが割り込んでいたデス。
綾女ちゃんは、このとき、トンデモナイことをやってのけていたデス。
神槍グングニルを自分手元に呼び寄せる。
呼び寄せたグングニルを、ハルバードの前に投擲する。
投擲したグングニルに、自分を呼び寄せさせる。
――なんデスか、それ。
そもそも、槍を自分の手元に呼び寄せるのだって、あり得ないのに、
その槍に自分を呼び寄せさせるって、なんデスか!
ハルバードを握っていた騎士には、自分の眼前に、唐突に、綾女ちゃんが出現したと見えたデしょう。
綾女ちゃんは、掴んだグングニルを斜めに引き上げ、ハルバードの斧を、受け流したデス。
重たい斧が、ギギギギキッとグングニルの側面を滑り落ちていくデス。
綾女ちゃんは、滑り落ちていく斧の刃先が、グングニルを握る自分の指に差し掛かる瞬間だけ、ぱっと掌を開いて、無傷で受け流してみせたデス。
他にも、戦闘意欲を示している騎士や魔法少女が数人いたデス。
でも、そんな者たちの眼前には、水塊が発生していたデス。
自分の頭と同じくらいのサイズの水塊が、宙に浮いているのデス。
前に進めば、その水塊に、自分の顔面から突っこむことになりマス。
これは、もちろん糖菓ちゃんの仕業デス。
明星様が、ダメ押しで、この場で闘っていた全員に、強烈なデバフをかけたデス。
闘っていた者たちが、戦意を喪失し、へなへなと、その場に座り込んでしまうほどのデパフデス。
なんだか、ここ最近の短期間に、『服飾に呪われた魔法少女』全員の技が、威力も精度も増している気がするデス。
何にしても、ワタシたち『服飾に呪われた魔法少女』は、ほぼ一瞬にして、この場を制圧したデス。
明星様が、双方の代表を三人づつ呼び出して、話しを聞くことになったデス。
ワタシ、ホントは、薄荷ちゃんを捜しに行きたいのデスけど。
さすがに、この場を捨て置くことなんて、できないデスよね。
この場で闘っていた魔法少女たちは、魔法少女育成科の二年生で、物語『カードパーシヴァーさいこ』メンバーとのこと。
リーダー格三人が、やって来たデス。
騎士団側は、この王侯貴族育成棟の城門守備を担当していた正騎士部隊とのこと。
小隊の隊長と、副隊長二人が、やって来たデス。
明星様が、状況説明を求めるより早く、『カードパーシヴァーさいこ』メンバーたちが、口角泡を飛ばす勢いで、話し始めたデス。
しかも、その話しは、國家機密の暴露から始まる、とても重たい内容だったデス。
☆
十六年前、蝗害との戦いの物語、『蟲の皇』が繰り広げられた。
カストリ皇國は、蝗害対策として、造兵廠に、生命科學研究塔なる秘匿機関を造った。
生科研は、科學戦隊の創設に寄与し、皇室の支持を得た。
科學戦隊の活躍で、辛うじて蝗害は沈静化できたものの、国家間のバランスが崩れ、世界は十五年前の物語『世界大戦』へと突き進んで行った。
そんな中、生科研は、極秘で人間兵器計画を推進していた。
『カードパーシヴァーさいこ』の物語は、この人間兵器計画に起因する。
特殊な魔力配列を与えられた女児が五百人、造り出された。
その女児たちは、『魔法少女さいこ』というロールの因子を、埋め込まれていた。
昨年、そのロールを持つ少女たちが十五歳となり、この鹿鳴館學園に入學してきた。
入學時、五百人の少女たちは、魔法少女のロールこそ持っているものの、魔力覚醒すらしていない、ごく普通の女子ばかりだった。
五百人には、それぞれ、五枚のカードが与えられた。
丸形が描かれたカードは、念動を象徴。
波形が描かれたカードは、念話を象徴。
四角が描かれたカードは、透視を象徴。
十字が描かれたカードは、発火を象徴。
星形が描かれたカードは、予知を象徴。
五百人は、このカードを使って、日に一回、ゲームを行うよう命じられた。
そのゲームは、パーシヴァーと呼ばれていた。
場に裏返してカードを出しあい、相手のカードのうち、一枚を指してその図形を当てる。
カードの図形を当てられると、カードは当てた相手に奪われる。
カードを得た者は、ごく僅かながら、カードが象徴している力を得る。
最初は、みんな、気軽に遊んでいた。
そして、ある日、自身に与えられたカードを全て失う者が出た。
その子は、最後のカードを失った瞬間、コトンと倒れて、動かなくなった。
外傷も何もないのに、死んでいた。
更には、その死に様を見て、カードを捨てて、ゲームから逃げ出そうとした子まで、頓死した。
ゲームは、カード争奪による、間接的な殺し合いに変わった。
そして、十人近くがゲームから退場したあたりから、誰もが己の力を知覚しはじめた。
ある少女は、カードを透視できるようになった。
ある少女は、念じることでカードをすり替えられるようになった。
ある少女は、相手の脳内からカード配列を読み取れるようになった。
ある少女は、開かれた際のカードの図形を予知できるようになった。
能力は、どんどん発展していった。
虚偽のカードデータを相手に視せる。
カードの存在を隠したり、存在しないカードを視せる。
虚偽の思考を相手に読み取らせる。
確定されたはずの未来を改変する。
遂には、相手の肺を発火させて、死に至らしめ、力ずくでカードを奪う者が出た。
その時まで、少女たちは、カード奪取による間接的な殺し合いがこのゲームのルールであり、直接的な殺人行為は許容されたなものと考えていた。
ところが、驚いたことに、パーシヴァーゲームは、ゲームによって獲得した能力による、直接殺人を許容した。
殺人行為を行った者には、何の罰もなかった。
それどころか、殺した相手のカードを、我が物としていた。
つまり、このゲーム内において、能力を用いた殺人は、より強い能力を得るために、むしろ、推奨される行為だったのだ。
これまでにない勢いで、死者が増えていった。
少女たちは、仲間を作り、徒党を組むことで、己の生き残りをかけた。
一年が経つ頃、生徒数は、十分の一の五十人となっていた。
五人のリーダーが誕生し、それぞれの派閥を率いていた。
五人は、最も得意としている能力名を冠して呼ばれるようになった。
念動の丸山宰子。
念話の漣伝子
透視の正方呉羽。
発火の南斗華美。
予知の極光智子。
☆
ワタシたち『服飾に呪われた魔法少女』四人の前にいるのは、『カードパーシヴァーさいこ』のうちの、宰子、伝子、呉羽の三先輩だそうデス。
宰子先輩は、白目がちな四白眼で、責任感が強い委員長タイプ、デス。
率先して自分たちを紹介し、無念そうに、こう締め括ったデス。
「あたしら、『カードパーシヴァーさいこ』のメンバーたちは、人工的に造り出された魔法少女だから、能力は高くない。あんたら『服飾に呪われた魔法少女』の一人が本気になったら、あたしら全員が束になっても歯が立たない。あたしら、仲間の屍のうえに立って、この力を得たっていうのに、悔しいけど、その程度でしかないんだ」
伝子先輩は、キツネ目の、内気そうな人デス。
口惜しげに、口をパクパクさせているのに、なかなか言葉が出てこないのデス。
「うちら……見捨てられた……生科研に……」
伝子先輩は、口で喋ることを断念し、唐突に、ワタシたちへ念話を送ってきたデス。
『うちら、一年生が終わるときにね、生科研の先生方から、見放されたの。『おまえらの力は、既に頭打ちだ。伸びしろがない。その程度では、近代兵器を備えた皇國軍レベルを相手どるなど到底不可能だ。前時代的な武具に固執している騎士団にすら勝てん。何より、おまえらは、倒した仲間と、己の一生分の燃料を、一気に燃焼させているだけだ。卒業を待たずして、全員が電池切れになって、動きを止めるだろう。おまえらは、兵器として、失敗作だ。生科研は、おまえらの開発から撤退する』って、宣告されたの』
口で喋るのは苦手なのに、念話は、立て板に水デス。
呉羽先輩は、睨んでるような寄り目で、正義感が強いデス。
「あたいらのホントのリーダーは、智子って子だ。生科研との交渉でも矢面に立ってくれて、あたいら智子のお陰で、ここまで生き延びられた。なのに、その智子が、もう、衰弱し始めてるんだ。カード三五九枚持ちで、所持数が最多だから、あたいらの中で、一番、消耗が激しくて……」
宰子先輩が、自分たちがここに来た理由を説明してくれたデス。
「智子はね、このところ、昏睡状態が続いてて、訳の分からない、うわごとばかり言ってるの。……でもね、ときどき、すごくはっきりと、意味のある言葉を呟くの。その智子がね、五月八日に、こう言った。『転生勇者様が覚醒されたわ。辛うじて間に合った。きっと、わたしたちを、お救いくださるわ』。そして、一昨日、五月十四日、こう言ったの。『明日、転生勇者様が、拉致されるわ。そのまま監禁されて、明後日には死んじゃう。わたしたちが、お助けしなきゃ』って!」
伝子先輩が、意味ありげに騎士団を見据えてから、念話で伝えてきたデス。
『うちら、さいこカードの力を使いまくって、転生勇者様の所在を捜したの。転生勇者様に係わった痕跡のたる人たちの多くは、その記憶を消されてたの。だから、うちらは、その人たちの過去を読み取り、転生勇者様の所在を確定させたの。『服飾に呪われた魔法少女』たち、お願い、うちらの言葉に耳を傾けて! 転生勇者様、つまり、『セーラー服魔法少女』の儚内薄荷様は、この奥にいるの。騎士団が拉致監禁しているの! 急がないと、死んじゃうの!』
伝子先輩が、ここで念話を使ったのは、同席している騎士団員三人に、この内容を聞かせたくなかったからでもあるようデス。
伝子先輩の、念話と同じタイミングで、呉羽先輩が、騎士団員三人に詰め寄ったデス。
「あなたたち、一昨日、ここに華美って子が来たでしょ。彼女が、昨日、ここに、『薄荷様を返せ!』って怒鳴り込んで、王侯貴族育成棟に入ろうとしたはず」
呉羽先輩が、このタイミングで騎士団に詰め寄ったのは、伝子先輩がワタシたちに念話を送っていることを隠すためデスネ。
騎士団副官の一人が、額に青筋を立てて、呉羽先輩に怒鳴り返したデス。
「あのイカレ女、やっぱ、オマエらの仲間か! 興奮して暴れるものだから、拘束しようとした部下たちを、あの女、いきなり燃やし始めやがった。だから、きっちり、報いを受けさせたぜ。オレたち全員で、めった刺しにしてやった。オマエらも、全員、そうしてやる」
もう一人の副官も、怒っていたデス。
「薄荷様って、全身ピンクの女装っ子だろ? あの女装っ子は、イカレ女が乗り込んできた一昨日の時点では、ここに居もしなかったんだぞ! なのに、こっちの話しを聞きもせず、いきなり、問答無用で仲間を燃やし始めやがった。いいか、學生部隊のヒヨッコどもが、その女装っ子を、この王侯貴族育成棟に連れ込んだのは、昨日のこと――」
「バカヤロウ、オマエ、ちょっと黙ってろ!」
ただ一人冷静だった騎士団の指揮官が、慌ててその副官の口を塞いだデス。
でも、もう、手遅れデス。
いまの一言で、この奥の王侯貴族育成棟に、薄荷ちゃんがいるってことが、しかも、騎士団の學生部隊とやらに連れ込まれたってことが、明々白々デス。
明星様が、雰囲気を一変させたデス。
さっきまでは、優しく双方の言い分を聞こうとしていたのに、いまや、鬼の形相デス。
明星様だけでなく、眼前の騎士たちに、仲間の華美先輩を殺されたと知った、さいこメンバーたちも、激昂してたデス。
「華美はね、発火で、最初に仲間を殺しちゃった子なの」
『華美は、自分が起こした事件を発端に、仲間同士の殺し合いが常態化したことを、ずっと悔やんでたの』
「あれから、ずっと、情緒不安定で……。『オレ、いつか、きっと責任取るから』って、口癖になってた……」
「華美は、きっと、この事態を予知したの。でも、華美はもう、予知で視たものと、現実の事象を、区別できなくなってるの」
明星様が、両手をV字に、突き上げたデス。
その手に、金銀に輝く、特大のポンポンが、出現したデス。
身体を片脚で支え、それを軸に身体を回転させ、見事なピルエットターン。
魔法少女さいこたちにかかっていたデバフが、強力なバフへと反転したデス。
騎士団員たちへかかっていたデバフは、更に強化されたデス。
明星様が、さいこたちに、やさしく微笑んだデス。
「先輩方は、尊敬に値する魔法少女です。どうか、僕たち後輩に、その力が、決して騎士団になど遅れを取るものでないとお見せください」
魔法少女さいこたちは、己の中に新たな力が沸き起こってくるのを感じたデス。
それは、枯渇しかけていた己の力を燃やしつくすようなたぐいのものではなかったデス。
己の魂の奥底から、尽きることなく、こんこんと湧き出すような、新たな力デス。
「なに、この力! あたいのじゃないわ。誰の力?」
「あっ、そこにいるのは、望美ちゃん。ずっと、うちのそばにいてくれたんだ」
「叶江ちゃん、叶江ちゃんだ。会いたかったよ~」
「珠恵ちゃん、ごめんね。殺しちゃって、ごめんね。ずっと、こうして謝りたかったの」
魔法少女さいこたちの手脚が、発火したデス。
でも、その炎は、彼女たちにとっては、優しく温かなもの。
魔法少女さいこたちが、手脚の炎を、騎士団員たちに向って、投げつけ、蹴り跳ばしたデス。
騎士団員たちは、自身の身体が、鉛のように重く感じられ、ろくに戦えない状態となっていたデス。
そこに、飛んできた魔法少女さいこたちの炎が、絡みつき、纏わりつき、阿鼻叫喚の地獄絵図となったデス。
発火は、肉を黒焦げにし、骨をも灰と化していったデス。
ワタシは、試しに、心の中で、呼びかけてみたデス。
『伝子先輩、聞こえるデスか? 先輩方は、拉致監禁されている薄荷ちゃんが、視えてるデスか?』
思った通り、伝子先輩の念話は繋がったままになっていて、すぐに返事があったデス。
でも、返事してきたのは、伝子先輩ではなく、呉羽先輩だったデス。
「視えてるのは、あたい。急がないと、もう、息も絶え絶えだよ。でも、王侯貴族育成棟の屋内らしいって分かるだけで、どこだか特定できないんだ」
『伝子先輩、この念話が繋がってるのは誰々?』
『この場にいる『服飾に呪われた魔法少女』四人と、『魔法少女さいこ』三人なの』
『分かったデス。デは、みんな、聞いてデス。ワタシが転移させられるのは、自分自身と、自分が触れている数人だけ。ワタシが転移できる先は、行ったことがある場所だけデス。だけど、さいこのメンバーの協力があれば、これまで以上のことが、できそうな気がするデス。肌を触れあった状態で、呉羽先輩が視えてるものを、伝子先輩がアタシにも視せてくれたら、そこに、転移できると思うデス。だから、この念話が聞こえてる人は、全員、ワタシに触れて』
~~~ 薄荷ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~
■五月一六日③ 薄荷ちゃんの救出
ボクね、もうダメだって思ってた。
薄れていく意識の中で、このまま死んじゃうんだって覚悟した。
母さんや、妹の薄幸や、『服飾に呪われた魔法少女』のみんなに、ゴメンナイって謝ってた。
なのに、みんな、来てくれたんだ。
こんな、ボクなんかのために、来てくれたんだ。
ありがとう。