表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/130

■五月八日⑥ 魔法學の実習 三回目 その5

  ♥♥♥服飾に呪われた魔法少女テレビシリーズ

  ♥♥♥第三話 舞踏衣装魔法少女明星(みょうじょう)様の降臨 その6


 僕――『舞踏衣装魔法少女』宝生(ほうしょう)明星(みょうじょう)――は、ここまで、三つの姿に分身してチアダンスを続けてきた。


 だが、ここで、聖火台上にいた分身体ファイヤーバード明星(みょうじょう)が、後ろ足を高く後ろに蹴り上げ、背中を反らしたまま跳躍して、分身体ジュッテ明星(みょうじょう)に、一体化してきた。


 ファイヤーバードが、ジュッテの中で、激怒している。

 それは、ファイヤーバードの応援対象だった金魚(きんぎょ)如雨露(じょうろ)が、自身のゾンビ化を受け入れず、聖火台の炎に身を投じたからだ。


 ファイヤーバードは、如雨露(じょうろ)の死を看取り、その心情と純愛に感じ入った。

 だからこそ、そんな如雨露(じょうろ)が、こんな形でその命を終えたことに、激怒していた。

 そして、その怒りの矛先は、辣人(らっと)に向いていた。


 無論、ファイヤーバードだって、責められるべきは辣人(らっと)ではないと分かっている。

 如雨露(じょうろ)を脅迫し、間諜として使い潰した藪睨(やぶにらみ)(たばかる)

 (たばかる)と共謀して、如雨露(じょうろ)を、魔法少女を手に入れるための駒として利用した召喚勇者北斗(ほくと)拳斗(ケント)

 その召喚勇者のために、如雨露(じょうろ)のロールを強制書換した賢者天壇(てんだん)沈香(じんこう)

 辣人(らっと)を嵌め、如雨露(じょうろ)をゾンビ化させた、漆黒の闇に潜む何者か。

 本当に悪いのはそいつらだって、分かっている。


 辣人(らっと)にしたところで、悪役となることを、改変されたロールと物語に強要されるなか、自分は助からないとしても、何とか如雨露(じょうろ)だけは助けたいと足掻いていただけだ。


 ファイヤーバードは、そこまで分かっていても、とにかく辣人(らっと)の不甲斐なさが許せない。

 辣人(らっと)の傍らにいたジュッテと一体化し、その勢いのまま、辣人(らっと)に殴りかかった。

 とにかく、一発殴ってやりたい。


 ☆


 辣人(らっと)には、さきほどの如雨露(じょうろ)の言葉が聞こえていた。


 自分が『黙示禄の喇叭(ラッパ)吹き』になったところで、所詮、『勇者の召喚』大物語の主人公である拳斗(ケント)を倒せないことなど承知していた。

 あの漆黒の闇に潜む何者かは、召喚勇者へ、いやがらせをしたいだけなのだ。

 ちょっとばかり、お気に入りのパーティーメンバーを減らしてやろうというだけだ。


 自分や、『水泳部』の仲間たちは、いずれにせよ、ここで死ぬしかないところまで追い詰められている。

 だけど、自分が『黙示禄の喇叭(ラッパ)吹き』になることで、愛する如雨露(じょうろ)が生き返るというのなら、それに乗ろうと決断した。


 自分は、当然、如雨露(じょうろ)は、人間として生き返るものと思っていた。

まさか、ゾンビとして生き返るなんて――。


 死者を生き返らせることは、世界の摂理に反する。

 後から、思えば、漆黒の闇に潜む者なら『生ける屍』を造り出すのだろうと分かりそうなものだ。

 だけど、あの時、自分は、そんなこと、全くもって思いつきもしなかった。


 辣人(らっと)の目には、自ら聖火の中にその身を投じる、如雨露(じょうろ)の姿が見えていた。

 辣人(らっと)の耳には、「そんな邪悪な取引(メフィストフェリア)、反故にして!」という如雨露(じょうろ)の最後の言葉がこだましていた。


 身を捩って、何とか邪悪な取引(メフィストフェリア)に抗おうとする。

 だけど、辣人(らっと)のロールは、そもそも『魔族四天王』なのだ。


 辣人(らっと)は、怒りと悲しみに落涙しながらも、『黙示禄の喇叭(ラッパ)』を吹き続けることしかできない。

 「ぶぉーーーーーーーーん。ぶぉーーーーーーーーん。ぶぉーーーーーーーーん」


 ☆


 ファイヤーバード+ジュッテの僕は、『黙示禄の喇叭(ラッパ)』を吹き続ける辣人(らっと)の胸ぐらを掴み、その頬を、一発殴った。

『黙示禄の喇叭(ラッパ)』が、辣人(らっと)の手を離れ、ゴトンと転がる。


 僕の横から飛びだしてきた誰かが、辣人(らっと)に馬乗りになって押し倒し、辣人(らっと)の上半身を、ボコボコに殴り始めた。

 『スクール水着魔女っ子』の金平(こんぺい)糖菓(とうか)ちゃんだ。

 普段は引っ込み思案でオドオドしている糖菓(とうか)ちゃんが、我を忘れるほど激怒している。


 「辣人(らっと)のバカ! オタンコナス! オタンチン! うちは、『金平(かねひら)水軍』の当主を継ぐ者として、その軍師たる喇叭(らっぱ)家を継ぐ者に命じたん! いまこそ、喇叭(らっぱ)を吹くん! ハーメルンの笛吹きみたく、みんなを連れて逃げるんよ――って命じたん!」


 「なのに、なんなん、これ。無念のまま死んだ如雨露(じょうろ)さんが、なんでもう一回、自殺せなならん!」


 「如雨露(じょうろ)さんだけじゃないん。いま、ここで、他の水泳部員たちが、怪盗義賊育成科の平民たちが、次々、死んでいってるん」


 「もう一度、言うん。ロールが、変わったからなんなん。辣人(らっと)には、金平(かねひら)喇叭(らっぱ)吹きの血が流れてるん。如雨露(じょうろ)さんの無念を晴らすため、せめて、いま眼前で、勇者パーティーに蹂躙されつつある、水泳部員たちや怪盗義賊育成科の平民たちを、救うんよ。『金平(かねひら)水軍』の軍師としての才覚を見せるんよ!」


 ☆


 糖菓(とうか)姫様が、オレ-―喇叭(ラッパ)辣人(らっと)――の上に、馬乗りになって、オレの頭をポカポカ殴り続けている。

 なんだか、六歳ぐらいの子に叩かれてるみたいで、まるで痛くない。

 逆に、頭の中の黒いモヤモヤが片側に寄って、少しだけ他のことを考えられるだけの隙間ができた気がする。

 姫様が、オレに『金平(かねひら)水軍』のラッパ吹きとして、才覚を見せろ、と言っている。

 『黙示禄の喇叭(ラッパ)吹き』となったオレでも、何かできることが、あるかもしれない。


 頭の端っこで、閃くものがあった。

 そうだ、『黙示禄の喇叭(ラッパ)吹き』となったオレが、あの御方に命じられたのは、「この場にいる者たちを鼓舞し、指揮して、召喚勇者やその眷属を倒せ」ということだ。

 当然、死んでも撤退はできない。

 だが、搦め手から召喚勇者を倒すための戦略的転進ならばできる。


 オレは、傍らに転がっている『黙示禄の喇叭(ラッパ)』を拾う。

 オレの頭をポカポカ叩いている姫様を抱き抱えるようにして、そのまま立ち上がる。


 「ぶぉーーーーーーーーん。ぶぉーーーーーーーーん。ぶぉーーーーーーーーん」

 片手で姫様を抱っこしたまま、『黙示禄の喇叭(ラッパ)』を吹き鳴らしてから、残存する配下たちに命じる。

 「よし、勇者パーティーは、半減させた。奴らは、初めての大敗に、怯んでいる。ここで、攻略を次の段階へ進め、確実に勇者パーティーを全滅させよう。學園内に潜んで、ゲリラ戦に転じるぞ!」


 「うぉーーーーーーーーっ」

 残存する魔王の配下とされた者たちが、咆哮を返す。

 瞬時に身を翻し、競技場の此処彼処へ消えていく。


 無論、この戦いの総指揮官である『黙示禄の喇叭(ラッパ)吹き』であるオレは、引き続きゲリラ戦を指揮せねばならない。


 姫様を、床に降ろして黙礼。

 如雨露(じょうろ)が身投げした、聖火台にも黙礼。


 そして、駆ける。

 競技場の各所に隠れている配下の者たちと連絡を交わし、そのまま學園内へ潜伏しよう。


 この時点で、水泳部の生き残りは、三人ほど。

 六百人いた配下の怪盗義賊育成科男子生徒六百人の生き残りは、八十人ほど。

 敵対する勇者パーティーメンバー三十人は、十五人ほどに数を減らしていた。


 ☆


 ファイヤーバード+ジュッテの僕は、後足で前足を追ってくっつけるシャッセから、脚を前後にスプリットして、飛翔する。

 そして、陸上競技場上空にいるハードラーと、一体化し、本来の自分――宝生(ほうしょう)明星(みょうじょう)――に戻った。

 この場での戦いに、ケリをつけるためだ。


 眼下では、『召喚勇者の(つるぎ)タチ』を構えた召喚勇者北斗(ほくと)拳斗(ケント)と『転生勇者の(つるぎ)ネコ』を持つ薄荷(はっか)ちゃんが対峙している。

 睨み合ったまま、互いに打ち込めず、千日手状態となっている。


 僕は、チアダンスのフィニッシュを決めつつ、ゆっくりと地上に降り立つ。


 そして、殊更、にこやかに、拳斗(ケント)に話しかける。

 「召喚勇者、貴君のパーティーメンバーは、ちやほや甘やかされてきた、負け知らずのヒロイン揃いだ。ここへ来て初めて、仲間の半数、二人に一人が死亡する事態に直面した。戦いの決着がついた訳でもないのに、ほとんどの者が、死の恐怖に怖じ気づき、まともに戦闘続行できる状態ではない。それに、貴君自身、転生勇者の薄荷(はっか)ちゃんを、攻めあぐねている。負けはしないが、勝ち筋が見えず、にらめっこだ。だから、ここで痛み分けとすることと、テレビ放送予定の『勇者の召喚シリーズ 陸上部のエース 後編』について提案したい」


 「ふん、我ながら不様な有様だ。召喚勇者は、批判のやり玉にあがって、番組は炎上確定だな。おおかた、テメエは、番組タイトルを『勇者の召喚』から『勇者の転生』に変更しろとでも言いたいんだろう」


 「おやおや、どうやら貴君は、未だ、召喚前の世界の常識に囚われているようだ。いいかい、あの平和ボケした世界と、ここは違う。ここではね、現実の中で、物語のごとく、人々は闘い、死んでいく。それが、天津神と國津神の取り決めだ。だからね、金魚(きんぎょ)如雨露(じょうろ)を巡る真実さえ被い隠せば、この『勇者の召喚シリーズ 陸上部のエース 後編』は、大喝采で國中に、そして世界に、受け入れられるよ。だって、考えてごらん。二年一カ月に渡って、定番の新パーティーメンバー獲得展開のみを繰り返してきた召喚勇者の物語に、大転換が訪れたんだ。番組に、初めて宿敵の魔王と思しき人物が登場し、その配下との闘いで、パーティーメンバーの犠牲者もでた。これ以上ないぐらいの激アツ展開ではないか」


 ただし、興奮した視聴者たちは、次回以降の番組に、早々の魔王登場と、より大規模で過激な、戦闘と殺戮を求めるだろうけど、そんなことを、ここで言うつもりはない。


 「そこでだ。如雨露(じょうろ)にかかわる事実について、僕たちの番組でも触れないことと引き換えに、『勇者の召喚シリーズ 陸上部のエース 後編』と『服飾に呪われた魔法少女シリーズ 第三話』の、コラボレーションを提案したい。」


 「明日、大々的にコラボレーションの告知と、予告をやろう。そのうえで、明後日、『勇者の召喚シリーズ 陸上部のエース 後編』に前座を務めてもらう。これで衆目を集めたうえで、明明後日から『服飾に呪われた魔法少女シリーズ 第三話』の全六パートを連続放送させていただく。世界が沸き立つ一週間となりそうだね。召喚勇者も、よもや、異存などないよね?」


 拳斗(ケント)は、苦虫を噛みつぶしたような顔で、舌打ちする。

 「提案を受け入れる。好きにしろ。だがな、これだけは言っておく。この世界に、勇者は一人だけでいい。召喚されし正当な勇者である俺っちが、あの漆黒の闇に隠れている邪悪な女も成敗し、俺っちの物語を大団円で終わらせる」


 拳斗(ケント)は、僕に向けていた視線を、薄荷(はっか)ちゃんへ戻す。

 「だからな、儚内(はかない)薄荷(はっか)、テメエは、首を洗ってまってろ」

 そう言い放って、やっと、『召喚勇者の(つるぎ)タチ』を、腰の鞘に収めた。

 ぐるりと振り向いて、パーティーメンバーへの対応にあたっている、賢者や聖女たちの方へ、歩き出した。


 ちなみに、『召喚勇者の(つるぎ)ネコ』には、鞘がない。

 薄荷(はっか)ちゃんは、抜き身の(つるぎ)を握ったまま、呆然とした表情で、立ち尽くしている。

 その表情から察するに、僕と拳斗(ケント)の話の内容や、拳斗(ケント)が退いた理由について、全く理解が及んでいないようだ。


 この結末に、一番不満そうだったのは、菖蒲(しょうぶ)綾女(あやめ)ちゃんだ。

 だって、『陸上部のエース』である自分が主役の番組のはずなのに、ほとんど出番がなく、何をどうしてよいか分からないまま、表彰台上で呆然としているうちに、収録が終わってしまったからだ。


 かくして、綾女(あやめ)ちゃんだけは納得していないものの、長い長い一日が、終わりを告げた。

~~~ 薄荷(はっか)ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~

■五月一〇日 初めての奨学金支給日

今日は、最初の奨学金支給日。

言ってみれば、初任給みたいなものだよ。

ボク、貧しい家庭に育ったら、自由に使える、纏まったお金を手にするのって、初めてなんだ。

この日、ボクには、どうしても、やっておきたいことがあるんだ。

いざ、ミッションを果すべく、ショッピングモールへ。

……あれっ、なんでこんな騒ぎになっちゃうの?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ