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■五月八日③ 魔法學の実習 三回目 その2

  ♥♥♥服飾に呪われた魔法少女テレビシリーズ

  ♥♥♥第三話 舞踏衣装魔法少女明星(みょうじょう)様の降臨 その3


 僕は、宝生(ほうしょう)明星(みょうじょう)

 『舞踏衣装魔法少女』だ。


 僕は、着用しているチア衣装の力で、鹿鳴陸上競技場の上空に浮揚している。

 眼下で展開している物語は、いよいよ、これからが見せ場だ。


 僕は、両手のポンポンに溜め込んでいた力を解放する。

 同時に、上半身を下にして、前後開脚した脚部が円を描くようにターンする。

 イリュージョンだ。

 踊る僕の姿が、三つに分身する。


 一人は、片足を前に出し、反対の足は曲げた状態で飛翔するハードラー。


 別の一人は、後足で前足を追ってくっつけるシャッセから、脚を前後にスプリットして高く飛翔するジュッテ。


 最後の一人は、真っ直ぐ上に飛翔しながら、後ろ足を高く後ろに蹴り上げ、背中を反らして、ファイヤーバード。


 三人の僕は、並行展開して、踊り続ける。


 ★ハードラー明星(みょうじょう)


 ここは、『セーラー服魔法少女』の儚内(はかない)薄荷(はっか)ちゃんが、召喚勇者北斗(ほくと)拳斗(ケント)に対し、見得を切るべき場面だ。


 だというのに、薄荷(はっか)ちゃんは、手にした『転生勇者の(つるぎ)ネコ』で、召喚勇者ではなく、宙空に浮かんでいる、この僕――ハードラー明星(みょうじょう)――を指し示してきた。


 競技場内にいる人々の視線が、一斉に、僕へと集まってしまった。

 せっかくここまで、上空に隠れたまま、チアリーダーの応援力を行使し、事の成り行きを采配してきたのに――。


 薄荷(はっか)ちゃんが詰問してくる。

 「明星(みょうじょう)様、なんなんですか、これ?」


 「『勇者の(つるぎ)』だと、さっき、綾女(あやめ)ちゃんが言っていたではないか」


 「そうじゃなくて、この展開、明星(みょうじょう)様の仕業ですよね」


 「薄荷(はっか)ちゃん、僕は、ただの『舞踏衣装魔法少女』だよ。この『チア衣装』でできることは、味方にバフをかけ、敵にデバフをかけることだけだ」


 「僕は確かに、レンゲ(蓮華)さんに転移の力を駆使するようお願いした。表彰台上の如雨露(じょうろ)と、綾女(あやめ)ちゃんを、瞬間的に入れ替えてもらった。だけどね、『勇者の(つるぎ)』を仕込んだりはしていない。それなのに、表彰台上への出現時には、綾女(あやめ)ちゃんは、勇者の(つるぎ)』を手にしていた。それは、人間にできるようなことではないよ」


 「それでなくとも、綾女(あやめ)ちゃんに、予めセリフを覚えさせたりできないことは、薄荷(はっか)ちゃんも分かっているだろう。そんな綾女(あやめ)ちゃんが、『転生勇者の(つるぎ)』が、薄荷(はっか)ちゃんのものだというのだから、薄荷(はっか)ちゃんこそが、転生勇者なのだよ。信じられないなら、生徒徽章でロールを確認したまえ」


 薄荷(はっか)ちゃんが、唇を引き結んで、自身の生徒徽章に手を翳す。


  皇立鹿鳴館學園 魔法少女育成科 一年

  儚内(はかない)薄荷(はっか) 男の娘

  ロール:セーラー服魔法少女

      令嬢の転生メタヒロイン ← 第二皇子の第一夫人候補

      転生勇者 ← 召喚勇者パーティー候補

      生徒会会計候補

      科學戦隊お色気ピンク


 薄荷(はっか)ちゃんが、駄々っ子みたいな表情になって、宙空を睨む。

 その心中をおしはかるに、『転生勇者ってナニ! ボク、ムリだから! これ以上、設定盛られてもムリだから!』と、國津神様に抗議しているのだろう。


 「薄荷(はっか)ちゃん、さきほど焼死させられそうになったとき、何かしら、神々に願ったのではないか?」


 「『助けて』って……。ボクと、糖菓(とうか)ちゃんと、『金魚(きんぎょ)如雨露(じょうろ)先輩と、喇叭(らっぱ)拉太(らった)先輩と、水泳部の人たちを助けて』って……願った。でも、助けてほしかっただけで、勇者になりたかったわけじゃない」

 薄荷(はっか)ちゃんは、苦しそうな、表情で俯く。


 「薄荷(はっか)ちゃん、前に話したように、『801』号室の禁書庫には、貴君のトラウマイニシエーションが、物語となって保管されている。それを読んで良い立場にあるのは、祓衣(はらい)家と宝生(ほうしょう)家の者だけだ。だから、これから話すことは、きっと、僕が貴君に言ってあげねばならないことだ。聞きたくはないだろうけど、耳を塞がないで」


 「薄荷(はっか)ちゃんは、トラウマイニシエーションの時も、助けてって祈った。なのに、誰も助けに来なかった。その結果として、あの時、薄荷(はっか)ちゃんは、ただ、ただ、一方的に蹂躙された。」


 「蹂躙され続けた薄荷(はっか)ちゃんは、力を得た。それは、眼前の出来事を拒否する力だ。でもね、拒否するだけでは、ほんとうの解決はない」


 「薄荷(はっか)ちゃんは、この學園にやってきて、物語の主人公になってしまった。主人公はね、待っているだけではだめなんだ。自分で選択し、自分で道を切り開かなくてはいけない」


 「さあ、直視するんだ。薄荷(はっか)ちゃんが助けてって願ったら、薄荷(はっか)ちゃんに、助けではなく『勇者の(つるぎ)』が与えられた。その意味が分かるよね」


 「つまり、主人公らしく、自分の手で助けなさいってことだよ。僕は、チアリーダーだからね。薄荷(はっか)ちゃんが、前を向いて進むなら、応援するよ」


 薄荷(はっか)ちゃんが、くいっと顔を上げた。

 「分かった。ボク、やってみる」

 そして、ニンマリ笑う。

 「それはそれとして、明星(みょうじょう)様って、ズルイよ。いっつも、さりげなく裏方に回ってみんなを動かすくせに、自分は矢面に立たないんだから――」


 ★ジュッテ明星(みょうじょう)


 薄荷(はっか)ちゃんがハードラー明星(みょうじょう)――と会話している間、僕――ジュッテ明星(みょうじょう)――は、召喚勇者と、そのパーティー三十名の動向を追っていた。


 ☆


 召喚勇者と、そのパーティー三十名は、予め用意した『陸上部のエース 後編【修正版】』のシナリオに基づいて、この陸上競技場に出動してきている。

 そして、自分たちの出現と同時に、僕たち魔法少女が、何やらシナリオ外の行動を取り始めたことに驚いている。

 だが、魔法少女たちが何をしでかそうと、いまさら勇者側のシナリオを揺るがすことなどできようはずがない――と考えている。


 賢者がロールを強制書換した水泳部員たちや、ロールへ干渉した怪盗義賊育成科男子六百人は、自分たちを、魔王の配下だと思い込んでいる。

 ここで、自分たち召喚勇者サイドが、魔王配下六百人を駆逐しさえすれば、この物語を力尽くで終わらせられる。


 召喚勇者拳斗(ケント)は、賢者沈香(じんこう)と視線を交わす。

 二年一カ月に渡って活動を伴にしてきて、既に阿吽の仲だ。

 一瞬にして、役割分担が決まった。


 召喚勇者拳斗(ケント)は、魔法少女たちの目論見を把握して、その対処にあたる。

 現時点で魔法少女たちの意図が読めない以上、こちらは慎重を期する必要がある。


 賢者沈香(じんこう)は、召喚勇者パーティーを率いて、魔王配下六百人の殲滅にあたる。

 こちらは、魔法少女たちに介入する隙を与えないよう、迅速に対応する必要がある。


 ☆


 賢者沈香(じんこう)が、討伐開始を告げる。

 勇者パーティーメンバーたちは、勇んで魔王配下六百人のへと襲いかかった。


 勇者パーティーメンバー三十人は、揃って美少女ばかりだ。

 全員が、それぞれの物語に由来する、美しく装飾された武器を手にしている。

 ショーテル、光輪(ニンブス)、ジャマダハル、ランタンシールド、三節棍、鎖鎌……。

 そして、それらの武器を用いた、特殊な攻撃技を身につけている。


 だが、メンバーは容貌を優先して選ばれているため、総合的な戦闘能力にはバラつきがある。

 武器や技も、美しく派手ではあっても、戦闘力はさほどでない者も多い。


 迎え撃つ、魔王配下は、怪盗義賊育成科の平民男子六百人だ。

 (たばかる)たち水球部が掻き集めた、フェンシング部、ボクシング部、カバディ部、セパタクロー部、インディアカ部、アルティメット部などの部員たち。

 スポーツで鍛えた肉体を持ち、學園生として戦闘力訓練も積んでいる。


 しかしながら、装備している武器は、水球部から支給された、カトラスだけだ。

 鎧や盾などの防具はない。


 何より指揮者の有無が、明暗を分けた。


 『魔族四天王』のロールが与えられ、魔王配下を指揮すべき立場の辣人(らっと)が、茫然自失状態のままなのだ。

 そもそも、勇者側のシナリオでも、この状態につけ込んで、勇者パーティー側が、先手を取る手筈になっていた。

 つまり、シナリオ通り、攻め立てれば良いだけだった。

 勇者パーティーメンバーたちは、競うように魔王配下の命を刈り取っていく。


 僕――ジュッテ明星(みょうじょう)――は、競技場上空から状況を見て取る。

 このままでは、マズイ。


 まず、綾女(あやめ)ちゃんと、糖菓(とうか)ちゃんに、合図。

 そして、眼下の戦いへの介入を開始した。


 つま先立ちで、半回転を繰り返し、鎖を繋げるようにシェネターンを繰り返す。

 魔王配下となっている生徒たちに、右手のポンポンで、バフをかける。

 勇者パーティーメンバーに、左手のポンポンで、デバフをかける。


 ★ファイヤーバード明星(みょうじょう)


 僕――ファイヤーバード明星(みょうじょう)――は、聖火台に取って返した。

 そこに、スイレン(睡蓮)レンゲ(蓮華)さんが、転移で戻ってきている。

 瀕死の金魚(きんぎょ)如雨露(じょうろ)を抱きかかえた状態だ。


 如雨露(じょうろ)の胸には、カトラスが深く突き刺さっている。

 刺さったまま抜いていないので、出血はさほどではない。

 だが、とうに意識を手放している。


 僕は、如雨露(じょうろ)の状態を確認する。

 カトラスは、心臓を貫いているようだ。

 脈もない。


 僕たち『服飾に呪われた魔法少女』五人の中で、治癒の能力を持つのは、薄荷(はっか)ちゃんだけだ。

 でも、その能力は、裂傷や単純骨折であれば、その存在を否定できるという程度のものだ。

 部位の欠損や、瀕死状態を、否定することは不可能だ。


 瀕死の者を蘇生できるのは、聖女の天壇(てんだん)伽羅(きゃら)の治癒力だけだろう。

 だが、伽羅(きゃら)たち召喚勇者パーティーは、如雨露(じょうろ)たちを殲滅するために、ここに来ているのだ。


 僕は、ダメもとで、如雨露(じょうろ)の胸に、掌を宛がい、魔力を注ぎ込む。

 生命力にバフをかけ、傷や痛みにデバフをかける。


 如雨露(じょうろ)の身体が、ピクンと跳ねた。

 だが、それだけだった。

 繰り返し、魔力を注ぎ込んでみたが、もはやなんの反応もない。


 僕が、『陸上部のエース』の入れ替わりを、もっと早いタイミングで指示できていれば、如雨露(じょうろ)は死ななかったかもしれない。

 だけど、あのタイミングでなければ、僕たち『服飾の呪い』の物語が、『勇者の召喚』物語に、介入できなかった。

 召喚勇者側が競技場内に登場し、『勇者の召喚』物語の展開が、後戻り出来なくなった、あのタイミングでなければ、その後の展開を確定できなかったのだ。

~~~ 薄荷(はっか)ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~

■五月八日④ 魔法學の実習 三回目 その3

飛翔する明星(みょうじょう)様が、三つに分身。

三つの分身体が、それぞれに違う踊りを踊ってるんですけど!

三視点で同時に、ものごとを見聞きし、それぞれの物語を操っているみたい。

どうやったら、あんなことできるんだろう。

ボクみたいなアホの子には、ぜったいムリだね。

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