表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/130

■五月八日② 魔法學の実習 三回目 その1

  ♥♥♥服飾に呪われた魔法少女テレビシリーズ

  ♥♥♥第三話 舞踏衣装魔法少女明星(みょうじょう)様の降臨 その2


 僕は、宝生(ほうしょう)明星(みょうじょう)

 『舞踏衣装魔法少女』だよ。


 鹿鳴陸上競技場の聖火台上に、『運動部衣装魔法少女』の菖蒲(しょうぶ)綾女(あやめ)ちゃんと、『文化部衣装魔法少女』のスイレン(睡蓮)レンゲ(蓮華)さんの三人で立っている。

 ついさっき、レンゲ(蓮華)さんに、ここまで転移させてもらったところだ。


 聖火台は、観客席の最も高い位置にあるので、競技場全体の状況が、見おろせる。

 眼下の人々は、僕たち三人が、ここにいると気づいていない。


 レンゲ(蓮華)さんは、転移が可能な『体育服』、真紅のゴスロリ衣装だ。

 綾女(あやめ)ちゃんも、これからの行動に備えて、『体育服』である、鮮やかな若葉色をした陸上選手用のブラトップとレーシングブルマ姿だ。


 『服飾に呪われた魔法少女』五人の中で、僕だけが、空色ミニ袴巫女服姿の『平服』しか、まだ見せていない。

 だけど、いよいよ、この僕も、恥ずかしながら、『体育服』姿を晒さなければならない。


 聖火台脇にある、点火スペースに立つ。

 「燎原烈火」と唱える。

 聖火台から、勢いよく炬火の炎が上がった。


 両手を横に広げる。

 すると、両掌に、キラキラと空色に輝く――ポンポンが出現した。

 ポンポンって、ほら、チアリーダーが持っている丸いやつだ。

 そう、僕の『体育服』は、チアリーディング衣装なのだよ。


 トップスは、ミニ羽織から、肩を露出したホルターネックへ。

 ボトムスは、ミニ袴から、フリフリのミニプリーツスカートへ。

 足元の脚絆と草履は、三本線のハイソックスとチアリーディングシューズへと変化する。

 どれもラメが散りばめられ、キラキラ輝いている。


 僕は、幼い頃より、御社(おやしろ)の巫女服を常用してきた。

 『平服』のミニ袴巫女服を強要されたときですら、その姿は冒瀆行為だとしか思えず、着用には強い抵抗感があった。


 だけど、それでも、ミニ袴だって、キュロットみたいなものだ。

 僕は、ミニスカートなんて破廉恥なものを、自分が着るなんて、考えたこともなかった。


 巫女服の伝統的な清々しさや落ち着きと対極にあるような、チア衣装の軽薄なまでのキラキラしさは耐えがたい。

 が、とにかく、平然とした様を装う。


 この衣装は初公開だけど、チアダンスの練習だけは、きちんと重ねてある。

 チアダンスだって、僕の得意とする、舞踏の一種だ。

 習得は、難しくなかった。


 僕は、プレパレーションで後ろに引いた足を、三角形のパッセにして、その場で身体を回転させる。

 ピルエットだ。


 シェネターンで、回転しながら、聖火台の端へと進む。


 いける。

 胸中に湧きあがってくる、この高揚感があれば、飛べる。

 高く上げた足でキックし、両脚を広げたまま、トゥタッチで宙へと舞い上がる。

 そして、アームモーションを様々に変化させながら、眼下の戦いを睥睨する。


 ☆


 競技場内の此処彼処には、六百人もの怪盗義賊育成科の平民男子がいる。

 彼らは、自分たちを、魔族四天王の一角喇叭(らっぱ)辣人(らっと)の配下だと信じ込まされてる。

 魔法少女三人を贄とし、魔王様を復活させ、召喚勇者パーティーと戦う気でいる。


 対する、召喚勇者北斗(ほくと)拳斗(ケント)は、観客席に出現した舞台から、グラウンドに降りようしている。

 同じく、観客席に出現したVIP席から、勇者パーティーメンバーの三十名も、グラウンドに降りようとしている。

 勇者の右側に進み出た黒ローブは、賢者の天壇(てんだん)沈香(じんこう)

 左側に進み出た白ローブは、聖女の天壇(てんだん)伽羅(きゃら)だ。

 剣士、魔法使い、僧侶、踊り子、遊び人などのロールを持つ召喚勇者パーティーメンバーの少女たちが、その後ろに続いている。


 『陸上部のエース』物語の修正シナリオは、召喚勇者と、そのパーティーメンバーたちが、魔法少女三人を助けようとするが間に合わず、魔法少女たちの無念を晴らすべく、魔王配下のワルモノ六百人を成敗するというものだ。


 魔王配下のワルモノが六百人で、対する召喚勇者パーティーは三十人。

 二十倍の人数差があるが、召喚勇者パーティーの実力をもってすれば、余裕で成敗可能だ。


 捕らえられている魔法少女三人が、魔王を復活させるための贄となろうとしている。


 内二人――『セーラー服魔法少女』の儚内(はかない)薄荷(はっか)ちゃんと、『スクール水着魔女っ子』の金平(こんぺい)糖菓(とうか)ちゃんは、グラウンド中央に引き出された魔獣用檻の中に、閉じ込められている。

 檻の下に敷かれた薪に、火がつけられており、生きたまま鉄板焼きにされるところだ。


 贄となる三人目、『運動部衣装魔法少女』の綾女(あやめ)ちゃんは、表彰台上だ。

 そして、今まさに、その綾女(あやめ)ちゃんの胸に、魔族四天王の一角となった辣人(らっと)が、カトラスの刃を突き立てたところだ。

 これは、勇者側が用意した『陸上部のエース 後編』修正版ストーリーの、悲劇的な見せ場だ。


 でも、最初に話したように、ホンモノの綾女(あやめ)ちゃんは、僕と一緒に転移してきており、今も僕の隣にいる。

 表彰台上で胸を刺されたのは、ニセモノだ。


 ニセモノをやらされていたのは、金魚(きんぎょ)如雨露(じょうろ)って子だ。

 『金平(かねひら)水軍』の残党でありながら、両親を人質にされ、脅されてスパイをやらされてきた。

 そして、賢者沈香(じんこう)の『ロール改変』により、今ここで、『陸上部のエース』として殺されるところだ。


 陸上競技場内に、辣人(らっと)の絶叫が響き渡った。

 それは、愛する如雨露(じょうろ)の胸を、改変されたロールに強制され、自分の手で刺し貫いたしまったがゆえの絶叫だ。


 陸上競技場内にいる者たちは、魔王に与する側も、勇者側も、一瞬動きを止めた。

 なぜなら、辣人(らっと)は、賢者により、『魔人四天王』に『ロール改変』されており、改変前の如雨露(じょうろ)への思いが、表に出てくることなどないはずだからだ。


 強制されたロール通りであれば、辣人(らっと)は、ここで、声高らかに魔王の復活を願うべき場面だ。


 なのに、辣人(らっと)は、自身がカトラスを突き立てた如雨露(じょうろ)の身体を抱きしめたまま、動かない。

 この肝要なシーンで、勇者側のシナリオを逸脱した何かが、起ころうとしている。


 ☆


 僕は、チア衣装に魔力を集めながら、フライアウェイにより宙を飛翔し続けている。

 衣装に散りばめられたラメが、そして、両手のポンポンが、キラキラと輝く。


 僕の家――我が宝生(ほうしょう)家は、代々、御社(おやしろ)に舞を奉納してきた家柄だ。

 九十九年前の最初の物語『天の岩戸』において、國津神は、天津神をこの世界にお迎えになった。

 その際、『この世界』の岩戸を開くために舞ったのが、我が一族の開祖だと伝えられている。


 舞は、人と人、人と神、神と神が、意思疎通を図るうえで、最も直接的な方法だとされている。

 言語が異なる人と人、在り方の異なる人と神、異界の神と神であっても、舞を通してであれば語りあうことが可能となる。

 だからこそ、舞踏は、カストリ皇國においても、最強のコミュニケーション手段として、重要視されている。


 僕は、幼少期より、舞の修行を強要された。

 六歳となり、白虎小學校入學時に与えられたロールは、当然のごとく『舞姫』。

 ところが、なぜか、与えられたロールが、もう一つあった。

 それが、『魔法少女』だ。


 高位のロールである『舞姫』を得たことで、一族の僕への期待は高まり、課せられる舞の修行は、激しさを増した。

 九歳のとき、あまりの厳しさに挫折し、逃亡を図った。

 逃げ込んだ先が、この鹿鳴館學園だった。


 學園では、九月の定例行事である武闘体育祭が開かれていた。

 もちろん、その主役は、武術など、体育系クラブの部員たちだ。


 だが、僕の目を引いたのは、応援合戦の方だった。

 男女ともに、男子用の詰め襟學生服姿だ。

 白いカーラー、白手袋、白いズック靴。

 頭に巻いた白鉢巻は、とても長くて、膝下に届いている。

 男女の違いは、男子が長ズボンなのに対し、女子が体育用のショートパンツなことだけだ。


 凜々しい、その姿に魅せられた。

 長ズボンまで履いて男装した自分が、男子と間違われたまま、イケメン応援団員に言い寄られるさまを妄想してしまった。

 激しく、ときめいた。

 そして、その妄想を現実のものにしようとした。


 あげく、すったもんだあった。

 僕は、家へと連れ戻され、謹慎処分となった。

 体験したことのあれこれを、ここで話すつもりはない。

 とにかく、あれが、僕のトラウマイニシエーションだった。


 トラウマイニシエーションは、通常、小學校卒業後に起こる。

 僕の外見が大人びていたとはいえ、九歳での前例は、ごく僅かだ。


 年齢のことがあるから、何があったかは話さないにしても、いくつか言っておいたほうが良いかもしれない。

 あの時、僕は、被害者ではなく、加害者だった。

 何人もの純粋な學生たちの感情を弄んだ。

 その結果、自分では手を出さなかったものの、死傷者が出る事態へと至らしめた。


 あのとき、のっぴきならない状況に立ち至った僕を救い出してくれたのが、祓衣(はらい)清女(きよめ)様だった。

 清女(きよめ)様は、行き場を失った僕を、『801』号室へ迎え入れてくれた。


 清女(きよめ)様は、僕に道を示してもくれた。

 「詰め襟學生服を、自ら着用することは封印なさい。あなたには、あなたにしかできない、舞踏や、応援があるはずです」


 僕は、『801』号室の禁書庫に入り浸りつつ、自分の在り方を模索した。


 我が宝生(ほうしょう)家において、舞の基本は、情動、つまりは喜怒哀楽の操作にあるとされている。

 衣装と演舞で、喜怒哀楽を掻き立てることにこそ、自分の本領があるのではないか。


 そして、『チア』へと辿り着いた。

 『チア』とは、『応援する』ことだ。


 僕のチアダンスは、味方にバフをかけ、敵にデバフをかける。

 その力が、舞台に立つ者たちを高揚させれば、確定した物語を変容させることすら可能となる。


 ☆


 僕は、魔力を集めながら、フライアウェイにより宙を飛翔し続けている。


 『服飾の呪い』の物語力が高まっている。

 『勇者の召喚』の物語に介入するなら、今だ。


 僕は、ポンポンを振る。

 アームモーションで、レンゲ(蓮華)さんと綾女(あやめ)ちゃんへ合図した。


 レンゲ(蓮華)さんが転移を駆使し、表彰台上の如雨露(じょうろ)と、綾女(あやめ)ちゃんを、瞬間的に入れ替えた。


 入れ替わった綾女(あやめ)ちゃんは、如雨露(じょうろ)だと思って、自分を抱きしめて泣き叫んでいる辣人(らっと)の肩を、軽く叩く。


 辣人(らっと)は、自分が抱きしめている相手の異変に気がついた。

 自分が抱きしめている肉体は、さっきまで、力なく弛緩し、死にかけていた。

 ところが、唐突に全身の筋肉が力強く引き締められ、その手が動き、自分の肩を優しく叩いてきたのだ。


 ハッと、上半身を離し、相手の顔を確認する。

 度肝を抜かれた。


 それが誰なのか、死んでいないのか――とかいった認識は、まるで追いつかない。

 ただただ本能的に、恐れ慄き、腰を抜かしたまま、とびすさった。


 ホンモノの『陸上部のエース』である綾女(あやめ)ちゃんが、立ち上がった。

 競技場内にいる者全員が、驚愕に目を見開きながら、動向を見守っている。

 競技場内にいる者たちには、胸に刃を突き立てられ、瀕死であったはずの『陸上部のエース』が、突然、生返ったかのようにしか見えてない。


 『陸上部のエース』の手には、その胸元に突き刺さっていたはずの刃が、握られている。

 いつの間に、それも、どうやって、胸から引き抜いたというのか?

 いや、そもそも、『陸上部のエース』の胸元には、傷跡らしいものが見当たらない。

 そこから刃を引き抜いたはずなのに、血飛沫どころか、血痕すらない。


 『陸上部のエース』は、平然とした表情を崩すことなく、その刃を掲げてみせた。


 競技場内にいる者はみな、驚愕している。

 だって、さきほど、『陸上部のエース』に突き立てられたものと、明らかに刃の形状が違っている。


 『陸上部のエース』に突き立てられた刃は、カトラスだったはず。

 あれは、間違いなく、短い片刃の、反り返った、武骨な海賊刀だった。


 いま、『陸上部のエース』が掲げているのは、長さのある両刃の直剣だ。

 柄に美しい装飾が施され、神々しく輝いている。


 競技場内にいる者のうち、召喚勇者とパーティーメンバーには、その剣に見覚えがあった。


 パーティーメンバーの、問いかけるような視線が、一斉に召喚勇者へ集まった。

 より正確にいうと、召喚勇者の腰に吊されている剣へと集まった。


 勇者が、慌てて、パーティーメンバーへ向って、首を横に振ってみせる。

 「ちっ、違う、あれは、『勇者の(つるぎ)』なんかじゃねぇ。ホンモノの『勇者の(つるぎ)』は、こっちだ。俺っちが召喚されたととき、天津神が授けてくださったんだ。間違いねぇ」

 勇者拳斗(ケント)にとっても、あり得ないことだったらしく、慌てて、自身の腰に吊した剣を、鞘から抜いて、掲げてみせた。


 二つの(つるぎ)は、全く同じものに見えた。

 それだけではなく、どちらの(つるぎ)からも、神々しさが伝わってくる。


 『陸上部のエース』が、緊張感のない、間の抜けた声を出す。

 「ええっとさぁ、さっき死んでたときにさぁ、國津神様とお会いしたんだ。國津神様が、召喚勇者のこと、えらく怒ってたぜ。『勇者が女たらしなのは設定どおりだけど、他の物語のヒロインを、片っ端から掻っ攫うのは、いかがなものかしら。ちょっとお灸をすえなきゃね』って――この剣を、渡されたんだぜ」


 「テメエが持ってる、その剣は、なんなんだ?」と勇者が訊ねる。


 「『勇者の(つるぎ)』は二つあるって、國津神様が仰ってたぜ。そっちの(つるぎ)は、天津神様が与える『召喚勇者の(つるぎ)タチ』。こっちの(つるぎ)は、國津神様が与える『転生勇者の(つるぎ)ネコ』なんだってさ」


 「勇者の証が何本もあってたまるか! ニセモノの(つるぎ)なんぞ持ち出して、何しようってんだ?」


 「國津神様からさぁ、『あなた、生返って、この剣をあの子に渡しなさい』って、命じられたんだ」

 『陸上部のエース』は、会話を続けながら、剣を握っていない方の掌を、広げてみせた。

その掌に握られていたのは、さっきまで辣人(らっと)の頭にとめられていた水中眼鏡と、魔獣用檻の鍵だ。


 「『あの子』って、誰だよ?」 


 『陸上部のエース』は、水中眼鏡のゴムバンドで、魔獣用檻の鍵を、『転生勇者の(つるぎ)ネコ』に巻き付ける。


 「黙ってねぇで、答えろ! 剣を渡す相手が、転生した勇者だなんて、ふざけたことを言うんじゃねぇだろうな?」

 召喚勇者の声は、うわずっている。


 『陸上部のエース』は、足元の表彰台の幅を視認し、そそのまま助走に入る。

 大きく振りかぶり、表彰台の端、ギリギリの位置で、渾身の力を込めて投擲した。

 「(つるぎ)を渡す相手は、この子だよ!」


 魔獣用檻の鍵が括り付けられた(つるぎ)は、神々しい輝きを撒き散らしながら、蒼穹へと飛ぶ。

 ゆっくりと放物線を描いて落ちていく。

 その飛距離は、女子槍投げの世界記録を越え、一〇〇メートルに届こうとしていた。


 その(つるぎ)が落ちていく先には、魔獣用の檻があった。

 (つるぎ)は、鉄格子の狭間から、檻の中へと消えていった。


 魔獣用の檻は、既に、けっこうな長時間、下に敷かれた薪からの炎で炙られている。

 炎と煙で、中に閉じ込められている魔法少女二人の姿は、視認できない。

 二人が無事だとは、とうてい思えない状況だ。


 扉脇の鉄格子から、華奢な腕が差し出された。

 その手には、檻の鍵が握られている。

 鍵は、檻の外側にある鍵穴に差し込まれ、回され、ガチャリと音をたて開いた。


 扉は、勢いよく開け放たれ、そこから大量の水が溢れでてきた。

 水は、あっという間に、檻を包んでいた炎を消し去っていく。


 魔獣用の檻は、魔力を遮断する。

 だが、檻の中で、魔力を使うことは可能なのだ。

 糖菓(とうか)ちゃんが、着用しているスクール水着から大量の水を発生させ、その力で、自分と薄荷(はっか)ちゃんを護っていたのだ。


 糖菓(とうか)ちゃんと薄荷(はっか)ちゃんが、仲良く手を繋いで、外に出てきた。

 糖菓(とうか)ちゃんが、水を操りながら、勇ましく先導している。

 薄荷(はっか)ちゃんは、びしょ濡れになったセーラー服の裾を気にしながら、もじもじと付き従っている。


 僕としては、これは、さすがにどうかと思う。

 ここは、薄荷(はっか)ちゃんの方が凜々しく、糖菓(とうか)ちゃんを、エスコートすべき場面だ。


 二人とも、既に『体育服』姿だ。


 糖菓(とうか)ちゃんは、紺の旧スク水。

 片手に、『(フック)の鉤爪』と呼ばれる手甲鉤(てっこうかぎ)を装備している。


 薄荷(はっか)ちゃんは、ピンクのノースリーブミニワンピセーラー服。

 水でびしょ濡れになって、薄い絹の布地が、身体に貼り付いている。

 その手には、『陸上部のエース』こと綾女(あやめ)ちゃんが、さっき投げてよこした『転生勇者の(つるぎ)ネコ』を、ぎゅっと握りしめている。


 糖菓(とうか)ちゃんが、繋いでいた手を離す。

 薄荷(はっか)ちゃんの背中を押して、前にだす。


 薄荷(はっか)ちゃんのセーラー服は、自浄作用により、急速に乾いていく。

 薄荷(はっか)ちゃんは、服の布地が身体に密着しなくなったことで、ようやく、ふんぎりがついたらしい。

 自分の持っている(つるぎ)の先を、召喚勇者――ではなく、僕へと向けた。


 えっ、僕なの?

 どうやら、薄荷(はっか)ちゃんは、鹿鳴陸上競技場の上空に浮かんで、事の成り行きを采配している、この僕――『舞踏衣装魔法少女』宝生(ほうしょう)明星(みょうじょう)――に、何か言いたいことがあるらしい。

~~~ 薄荷(はっか)ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~

■五月八日③ 魔法學の実習 三回目 その2

明星(みょうじょう)様がね、飛翔したうえに、分身しちゃうんだ!

スゴイよね。

なんか、もう、魔法少女みたい……ってか、その魔法少女なんだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ