表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/130

■五月二日 生徒会室での事情聴取 二回目

 またしても、生徒会から呼び出された。

 そして、ボクは、生徒会室のモニターで、録画映像を見させられていた。


 動画の内容は、昨日開催された、『取巻令嬢』たちとのお茶会の、最後のやり取りだ。

 國営放送に、提出を強要したそうだ。

 『口無し(クチナシ)の結界』が働いているため、画像のみの動画で、音声は入っていない。


 ・ボクが、花子(はなこ)様のテーブル上に置かれたゴブレットを指さす。

 ・花子(はなこ)様が頷いて、ゴブレットの中身を嚥下する。

 ・花子(はなこ)様が悶え苦しんで、イスごと倒れて、死亡する。


 どうみても、ボクが、花子(はなこ)様を騙すか脅すかして、毒を飲ませたようにしか見えない。

 ボクは、「冤罪です!」と、叫ぶ。


 すると、後ろから、声がかかる。

 「いまをときめく『セーラー服魔法少女』の儚内(はかない)薄荷(はっか)さんが、『取巻令嬢』の末摘(すえつも)花子(はなこ)様を殺害しただなんて、誰も思ってないよ。それに、既に二人ほど殺したことのある薄荷(はっか)さんなら、この學園では、物語の必然性があれば、人を殺しても罪を問われないってことを、いいかげん実感してるんじゃないかな」

 生徒会書記、公爵令息で三年生の萵苣(ちしゃ)強記(きょうき)様の声だ。


 別の声も、聞こえてきた。

 「むしろ、自分たち生徒会は、この画像を、夕方のニュースで流そうとしておった國営放送に圧力をかけて、握り潰しておる。こんなもの流されては、今や空前の大人気番組となっておる『魔法少女シリーズ』に、ケチがついてしまおうからな」

 こっちの声は、生徒会庶務、侯爵子息で三年生の御柱(おんばしら)太史(ふとし)様だ。

 御柱(おんばしら)猛史(たけし)騎士団長の長男で、次期騎士団長確実と目されている。


 三人目の声。

 「どうだい、薄荷(はっか)さん、生徒会の心優しい対応に感激しただろう。チャーミングなピンクフレーム眼鏡を受け取って、生徒会会計を務めたくなったのではないかな」

 これは、生徒会長、三年生の第一皇子白金(しろがね)黄金(こがね)様の声だ。


 ボクは「なりません」と答えつつ振り返る。


 ボク以外で、生徒会室にいるのは、いま声をかけてきた男性三人と、副会長、第一皇女で、二年生の白金しろがね砂金(さき)様だ。


 生徒会は、昨日の花子(はなこ)様毒殺と、先の『転生令嬢毒殺事件』との関連性をきちんと認識してくれいるみたい。

 だからこそ、ボクに、ボクが取り組んでいた『転生令嬢毒殺事件』の捜査状況と、花子(はなこ)様毒殺に至るまでの経緯を、説明して欲しいらしい。


 砂金(さき)様が、ボクに微笑みかける。

 「生徒会権限により、國営放送のテレビカメラであっても、生徒会室の中にまでは入ってこれないの。安心して、なにもかも話してね」


 ボクは、時間軸に沿って、整理・説明する。


 ○『転生令嬢毒殺事件』の現場には、芍薬(しゃくやく)百合(ゆり)様もいて、

  問題のワイングラスの受け取りを拒否していたこと。


 ○ボクが、『転生令嬢毒殺事件』について、

  萵苣(ちしゃ)智恵(ちえ)様にご相談していたら、

  百合(ゆり)様が乱入してきたこと。


 ○ボクがスイレン(睡蓮)レンゲ(蓮華)さんに、

  『転生令嬢毒殺事件』での出来事を確認していたら、

  百合(ゆり)様が乱入してきたこと。


 ○ボクが、『令嬢の転生』の『攻略対象』である白金(しろがね)鍍金(めっき)様と、

  前期末舞踏会でのダンスを約束して以降、

  『取巻令嬢』三人への『物語』からの強制力が強まったこと。


 ○芍薬(しゃくやく)百合(ゆり)様は、『取巻令嬢』三人につきまとい、

  『転生令嬢毒殺事件』の犯人として名乗り出るよう脅していたこと。


 ○突然死を遂げた末摘(すえつも)花子(はなこ)様は、

  『二次創作ヒロイン』もしくは『メタヒロイン』とでも呼ぶべきものが、

  事件の鍵であると考えていたこと。


 これを聞いた、書記の強記(きょうき)様が、「メタヒロインか……なるほどね」と、妙に納得したような声を出した。


 「強記(きょうき)様は、このへんな言葉の意味が分かるんですか?」


 強記(きょうき)様は、「『令嬢の転生』って、そもそも、メタな物語なんだよ」と言って、次のような説明をしてくれた。


 一次創作においては、『ヒロイン』令嬢が、『悪役令嬢』を退けて、逆ハーレムを造り出し、『攻略対象』を勝ち取る。


 二次創作においては、一次創作の知識を持つ者が、『悪役令嬢』や『モブ』として『転生』し、前世の知識を活かして『転成ヒロイン』となり、『攻略対象』を勝ち取る。


 更には、その二次創作を踏まえた、もっとメタな、三次創作だって、起こり得る。


 強記(きょうき)様は、以上の知識を踏まえて、末摘(すえつも)花子(はなこ)様の考えを推測してみせた。

 それは、芍薬(しゃくやく)百合(ゆり)様が、『令嬢の転生』がメタ物語であることを踏まえたうえで、何らかの介入を行ったのではないか――というものだ。


 まず、肝心なのは、物語のタイトルが『令嬢の転生』であること。

 よほどトリッキーな展開とならないかぎり、ヒロインは転生者となる。


 あの『鹿鳴館學園祝入學進學舞踏会』の開始時点で、『令嬢の転生』物語のヒロインになると目さされていたのは、成上(せいじょう)利子(りこ)様だけだった。

 なぜなら、貴腐ワインを造り出した利子(りこ)様が、転生者であることは、広く知られていたからだ。


 ところが、舞踏会開始早々、ひとつの出来事が起こる。

 ピンクのミニスカセーラー服を着た生徒が、恥ずかしげもなく大声で、「ボク、平民の貧しい家庭で育ったんで、まともに『盆踊り』だって踊ったことないんです。」と宣言したのだ。


 この時点で、『盆踊り』なるものが、『あの世界』の『お盆』という宗教行事において踊られるものだと知っている者など、ほとんど、いなかったはずだ。

 だが、その『盆踊り』を知っていると、自ら公言した者が一人いる。

 百合(ゆり)様だ。


 つまり、百合(ゆり)様だけは、この時点で、ピンクのミニスカセーラー服の生徒が、『令嬢の転生』物語の『メタヒロイン』たりえると、気がついていた。


 整理しよう。

 まず、本来は、一次創作の『令嬢もの』があり、その王道ヒロインとなるはずだったのが、芍薬(しゃくやく)牡丹(ぼたん)様。

 次に、二次創作『令嬢の転生』物語の『転生ヒロイン』となる可能性が高かったのが、成上(せいじょう)利子(りこ)様。

 ところが、物語冒頭イベント発生の土壇場で、新たなる転生者として、三次創作『令嬢の転生』物語の『メタヒロイン』たりえるピンクのミニスカセーラー服の生徒が登場した。


 なるほど、強記(きょうき)様は、証拠がないから明言しないけど、こう考えている。


 ○舞踏会の開始直後、百合(ゆり)様は、

  『ピンクのミニスカセーラー服の生徒』が転生者であり、

  『令嬢の転生』物語の『メタヒロイン』たり得ると知った。


 ○だから、百合(ゆり)様は、何らかの理由で

  舞踏会中に、『転生令嬢毒殺事件』を引き起こし、

  『令嬢の転生』物語のヒロインを強制交代させた。


 ○更には、その隠蔽のために、何らかの手段を用いて、

  百合(ゆり)様は、花子(はなこ)様まで毒殺した。


 「強記(きょうき)様、スゴイです! ほんものの名探偵みたいです。ただ、ボクのことを、繰り返し『ピンクのミニスカセーラー服の生徒』って呼ぶのは、ヤメテください」


 強記(きょうき)書記は、ボクの発言をスルーして、「となれば、百合(ゆり)様に、色々と問い質したいところなのだが……」と、困り顔になる。


 困り顔の理由を、黄金(こがね)生徒会長が教えてくれた。

 「実は、今日、薄荷(はっか)さんと一緒に、百合(ゆり)様も呼び出そうとしたんだけど、どうやら一昨日から、行方不明みたいなんだ」


 ――う~ん、百合(ゆり)様に問い質したいことって、まずは動機だよね。

   この事件って、まだまだ、この先の展開がありそうだよ。


 「ところで、薄荷(はっか)さん」と、砂金(さき)副会長が微笑む。

 「『服飾に呪われた魔法少女テレビシリーズ』の、全五パート四日間連続となった、長い『第二話』が放映された後、ご自分のロールに変化がないか、確認はされたのかしら?」


 ボクは、「えっ!」と固まった。

 確かに、『服飾に呪われた魔法少女テレビシリーズ』の『第一話』で、嫌姫(やんき)先輩からボクの生徒徽章を強制確認されて以降、ロールを確認していない。


 見るのがコワイ。

 コワイけど、見とかなきゃマズイ……よね。

 ボクは、おずおずと、自分の生徒徽章に、手を翳す。


  皇立鹿鳴館學園 魔法少女育成科 一年

  儚内(はかない)薄荷(はっか) 男の娘

  ロール:セーラー服魔法少女

      令嬢の転生メタヒロイン ← 第二皇子の第一夫人候補

      召喚勇者パーティー候補

      生徒会会計候補

      科學戦隊お色気ピンク


 「『令嬢の転生メタヒロイン』って、なんで、こうなっちゃうんですか! ボク、綾女(あやめ)ちゃんを『服飾に呪われた状態』から救い出したくて、鍍金(めっき)皇子に、一度だけダンスしますって、約束しただけなのに――」


 涙目のボクに、砂金(さき)副会長の微笑みが、優しい。

 「ご愁傷さま。完全に『令嬢の転生』物語にも取り込まれてしまったわね。敵対する『悪役令嬢』の、芍薬(しゃくやく)牡丹(ぼたん)様の派閥は、『取巻令嬢』だけじゃないわ。多くの貴族や、國軍の支持を得てらっしゃるの。薄荷(はっか)さんは、このままでは、それほど長くは生きていられないわね」


 黄金(こがね)生徒会長の微笑みも、優しい。

 「薄荷(はっか)さんが、『生徒会会計候補』のロールから、『候補』の二文字を消すことさえ決意してくれたら、この生徒会が、護ってあげられるんだけどね」


 ボクは、前回の『生徒会室での事情聴取』の際と、同じ対応を取った。

 つまり、しどろもどろになりながらも、『頭の中がいっぱいいっぱいで、どうして良いかわからないんです。しばらく考えさせてください』と懇願し、ほうほうのていで、生徒会室を辞去した。


~~~ 薄荷(はっか)ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~

■五月四日 神學の授業:魔力・聖力・神力

この世界の魔力と聖力と神力って、他の世界とは、ちょっと違うみたい。

うわっ、担当教諭の教皇様を怒らせちゃったみたい。

どうしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ