■四月二六日夜 魔法學の実習 二回目の三日目夜
2025.05.21 修正
♥♥♥服飾に呪われた魔法少女テレビシリーズ
♥♥♥第二話 運動部衣装魔法少女綾女ちゃんの激怒 その四
ボクの名前は、儚内薄荷。
『セーラー服魔法少女』さ。
第二話は、現在、三日目の夜に突入してる。
視点も、『綾女ちゃん→ボク→綾女ちゃん→ボク』と、目まぐるしく、入れ替わっている。
昼間、トラウマを刺激されて能力に覚醒した後の菖蒲綾女ちゃんは、明らかに常軌を逸していた。
「水泳部の奴らこそ、父上の仇、金平水軍だ。ブッ殺す!」と宣言。
壁に飾られていた神槍グングニルを呼び寄せて、引っ掴む。
「殺す、殺す、殺す、みんなブッ殺す!」と、絶叫した。
金平糖菓ちゃんが、そんな綾女ちゃんに縋り付く。
「何かの間違いなんよ! 『金平水軍』は義賊なん。水泳部が悪事を働くはずないんよ」と、懸命に宥める。
だけど、糖菓ちゃんの声は、全く綾女ちゃんに届いていない。
綾女ちゃんは、「仇討ちを、邪魔するな」と叫んで、糖菓ちゃんを振り払った。
スイレンレンゲさんは、「気を確かに持つデス!」と声を掛けつつ、綾女ちゃんの背中を羽交い締めにしようとする。
ボクも、綾女ちゃんのお腹にタックルして、押し倒そうと試みた。
だけど、綾女ちゃんの狂乱状態は、凄まじかった。
魔力が、綾女ちゃんの『呪われた衣装』から吹きだし、うねっている。
綾女ちゃんは、その魔力のうねりだけで、ボクとレンゲさん、更には、糖菓ちゃんまで、弾き飛ばした。
綾女ちゃんの顔面から表情が失われている。
目が、イッている。
ついさっきまで、綾女ちゃんは、ちゃんと、ボクたちのことを、自分を助けにきた仲間だと認識できていた。
でも、いまでは、自分の邪魔をする存在と、捉えているようだ。
ここで、更に一歩でも踏み込めば、敵と認定されてしまいそうだ。
ボクたちは、どうして良いか分からず、立ち竦む。
その瞬間、綾女ちゃんは、狂乱状態の『運動部衣装魔法少女』だけが持ちうる身体能力で跳躍し、ボクたちの眼前から消え失せた。
☆
ボクたちは、レンゲさんの転移で、學園へと取って返した。
宝生明星様を加えて、きちんと、策を講じるべきと判断したからだ。
ボク、レンゲさん、糖菓ちゃん、明星様の四人が、ボクの部屋に、再集合できたときには、もう夜になっていた。
綾女ちゃんについては、行方不明だった昨夜とは異なり、今回の行き先は、ひとつしかない。
金平水軍の残党が根城にしている、學園内の水泳部棟に決まってる。
実際、綾女ちゃんは、皇都トリス召喚勇者邸から、學園水泳部棟へ向う、直線コースを移動しているようだ。
直線上のどこかという前提であれば、『魔動儀』を一回操作すれば、綾女ちゃんの現在位置を、ほぼ特定できる。
綾女ちゃんは、信じられない速度で走り続けていたけど、日が暮れると同時に動きを止めた。
湿地帯の中にある、龍神沼と呼ばれる湖の辺りだ。
狂乱状態で走り続け、足下を視認できなくなると同時に、プツンと意識が途切れるように眠り込んだのだろう。
たぶん、夜明けとともに目覚めて、また走り出す。
そうなると、水泳部棟への到着は、明日の午後になるものと推測された。
ボクたちが、綾女ちゃんへの対応に、ここまで慎重を期しているのは、綾女ちゃんの狂乱状態を、『服飾の呪い』によるものと考えているからだ。
何としても、呪いに囚われた綾女ちゃんの精神状態を、正常に戻したい。
それは、綾女ちゃんのためだけでなく、ボクたち『服飾に呪われた魔法少女』全員に降りかかってくる問題でもある。
☆
ボクと、糖菓ちゃんと、レンゲさんから、學園に残っていた明星様に、皇都での経緯と、綾女ちゃんの状態を説明する。
明星様が、「ふむ」と頷く。
「廻り道に感じられるかもしれないが、今後のためにも、既に分かりきっている事柄から順に、推論を積み上げてみたい。いいかな?」
ボクたち三人は、頷いて、明星様の言葉の続きを待った。
まず、誰もが知っている、鹿鳴館學園の生徒の能力について、おさらい。
○鹿鳴館學園の生徒となれるのは、小學校入力時に『ロール』を得て、
更に、就労実習期間中に与えられる
『トラウマイニシエーション』を克服した者だけだ。
○『トラウマ』を克服し、學園で適切な指導を得た者は、
魔力や聖力に由来する、何らかの力を行使できるようになる。
○各人が、その行使できる力の特性や、大きさは、
各人が受けた『トラウマ』に起因する。
僕たち五人の物語は、『服飾の呪い』だ。
この『服飾の呪い』について、現時点で分かっていることは、次の通り。
○服飾に呪われた魔法少女は、
人前に出る際、呪われた服飾しか着用できない。
○呪われた服飾は、僕たちの力を高める。
○呪われた服飾は、それぞれ、『平服』、『体育服』、『道衣』の三着づつ。
そして、『平服』→『体育服』→『道衣』と、力が強まっていく。
その関係性って、こういうことだと思う。
○『トラウマ』の恥辱が、生徒の能力を引き出すように、
『服飾』に対する羞恥心が、
僕たち『服飾の呪い』を受けた五人の能力を増幅している。
○呪われた服飾の、能力増幅は凄まじく、
着用する人間に大きな力を齎すが、
それは、着用する人間の許容量を越える可能性が高い。
○つまり、強すぎるトラウマが人間の精神を壊すように、
呪われた服飾も、人間の精神を破壊する可能性がある。
僕の推測を、述べる。
○着用者が力を求めると、呪われた服飾は、
『平服』→『体育服』→『道衣』と、自動チェンジされ、
チェンジの度に、能力と危険性は、飛躍的に高まっていく。
○そして、呪われた服飾が、着用者の限界を超えた瞬間、
力が暴発し、呪われた服飾の着用者のみならず、
周囲を巻き込んでの、大惨事に至る……恐れがある。
綾女ちゃんの現状を、整理する。
○僕たち、五人の中で、『体育服』を、平時に常用したことがあるのは、
綾女ちゃんと、レンゲさんの二人。
○特に、綾女ちゃんは、毎朝の食パンランニングや、
陸上部の練習時には、必ず『体育服』を着用していた。
○そして、この『服飾に呪われた魔法少女テレビシリーズ第二話』では、
放送が開始された二日前から、夜間も含めてずっと、
『体育服』を着用したままになっている。
そして、綾女ちゃんの現状に、先の推測を適用すると、ロクでもないことになる。
○綾女ちゃんは、現在、『服飾の呪い』に囚われている。
○恐らく、『呪いの服飾』が、
綾女ちゃんの意識を乗っ取ったような状態だろう。
○衣装レベルが上がり、着用時間が長引き、
着用者がその力に身を委ねてしまうほど、呪いは進行し、
いずれどこかで、着用者の自我は失われる。
○着用者である綾女ちゃんの自我が、完全に失われたとき、
『呪いの服飾』は、迷うことなく力を暴発させるだろう。
「大惨事になるとは思うけど、それが、どんな種類の、どんな規模のものになるのか、僕には分からないな」
明星様は、陰鬱な表情で、唇を引き結んだ。
「明星様、何か、綾女ちゃんを救う手だてはありませんか? ボク、なんだってしますよ」
ボクのその一言を聞いて、明星様が、天を仰ぎ見る。
「そうだね……なんとかしなきゃ……ね」
明星様が、「あっ!」と、眼窩を見開く。
そして、ボクの顔を覗き込んで、「くふっ」と笑った。
「薄荷ちゃ~ん、綾女ちゃんを救うためなら、なんだってやるって、言ったよね」
舌舐めずりしながら、ボクに躙り寄ってくる。
――あっ、マズイ。
明星様のこの笑顔って、
『腐った』物語愛好会の趣味に、暴走しているときの顔だ。
「綾女ちゃんを救える『最終兵器』があるよ。ただし、薄荷ちゃんが、自らの犠牲をいとわなければ、だけどね」
明星様は、ボクの耳元に唇を寄せ、綾女ちゃんを救うために、ボクが、なさねばならないことを囁いた。
~~~ 薄荷ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~
■四月二七日 魔法學の実習 二回目の四日目
なんか、もうね、大参事になりそうな予感しかないんですけど……。
ちゃんと、大団円になって欲しいな。