■四月二五日 魔法學の実習 二回目の二日目
♥♥♥服飾に呪われた魔法少女テレビシリーズ
♥♥♥第二話 運動部衣装魔法少女綾女ちゃんの激怒 その二
ボクの名前は、儚内薄荷。
『セーラー服魔法少女』さ。
「――って、あれっ、なんで、『物語』が、ボク視点に戻ってるの。冒頭タイトルからして、菖蒲綾女ちゃんの話の続きってことだよね」
ボクは、素っ頓狂な声をあげてしまった。
綾女ちゃんに密着していたはずの國営放送のテレビカメラも、いつの間にかボクと一緒にいる。
そういえば、昨夜放送された綾女ちゃん主役の『第二話』、変だったよね。
陸上部の部活後、スポーツマッサージの最中に眠り込んで、その夢の中で、回想シーンに入って、目覚めることなく終わってた。
放送を見たときは、長い回想シーンだったから、そこから先は、次回放送でってことかと思った。
でも、このタイミングで、ボクに、カメラさんが戻ったってことは――。
ボクは、部屋の電話をひっ掴んで、貴族女子寮にある綾女ちゃんの部屋に電話した。
綾女ちゃん本人ではなく、お付きの侍女が電話に出た。
確認したら、昨日は、寮に戻っていないそうだ。
悪い予感しかしない。
綾女ちゃんが、生死にかかわる事態に陥っているとしか思えない。
他の『服飾に呪われた魔法少女』三人に電話して、ボクの部屋に集まってもらう。
『スクール水着魔女っ子』の金平糖菓ちゃん。
『文化部衣装魔法少女』のスイレンレンゲさん。
そして、『舞踏衣装魔法少女』の宝生明星様、だ。
二手に分かれて、行動することにした。
明星様には、學園の管理棟に行ってもらう。
明星様と仲の良い、三年生の祓衣清女様経由で、祓衣玉枝學園長の力をお借りして、綾女ちゃんの行き先を探ってもらうよう、お願いしてもらう。
ボクと糖菓ちゃんと、レンゲさんは、陸上部の部室棟へ向う。
危険性を考慮し、三人揃って、『平服』から『体育服』へ、着替えた。
着替えといっても、魔力操作により、一瞬で衣装チェンジが完了する。
ボクは、どっちもピンクのセーラー服なんだけど、半袖セパレーツから、ノースリーブワンピへ。
糖菓ちゃんは、どちらも紺のスク水だけど、スパッツ風スカート付き新スク水から、
水抜き穴付き旧スク水へ。
レンゲさんは、どちらも真紅のフリフリだけど、メイド服からゴスロリ服への変身だ。
レンゲさんの力で、陸上部の部室棟へ転移する。
糖菓ちゃんの力で、鍵穴を水圧で破壊しながら、綾女ちゃんを捜し回る。
今日は、陸上部の練習はないらしい。
綾女ちゃんどころか、ひとっこひとりいない。
手がかりすら、見つからなかった。
一旦、學生寮のボクの部屋へと戻る。
そこへ、明星様から電話が入った。
學園長の力をお借りして、魔法少女育成棟、庭球部棟、學生寮など、綾女ちゃんが立ち寄りそうな場所を探してもらっているが、やはり、見つからないとのこと。
ただ、気になる情報として、昨夜遅く、警備を担当していた騎士団員を振り切って、學園の裏門を強行突破した木炭車トラックが一台あったという。
もし、綾女ちゃんが、學園の外に連れ出されたのだとしたら、學園長の力も及ばず、探し出すことは難しい。
明星様には、引き続き、學園の管理棟での情報収集をお願いした。
――學園の外へ連れ出されたのだとしたら、手詰まりだ。
頭を抱えて、考え込む。
――他に、ボクに、できることはないだろうか?
最初に思い浮かんだのは、萵苣智恵様に相談することだ。
智恵様には、チュートリアル以来、なにかと相談に乗っていただいている。
智恵様は、宰相家の方で、第一皇子許嫁だから、警察機構を動かす力はある。
だけど、宰相様や皇族って、勇者を召喚した教皇様に、近しいお立場じゃなかったっけ。
なんとなく、智恵様に相談するのは、やめておいた方が良い気がする。
ボクの脳裏に、とある記憶が蘇る。
「レンゲさん、科學戦隊育成科の『爆炎レッド』さんに電話連絡つけられませんか?」
☆
レンゲさんが、あちこち電話してくれて、『爆炎レッド』さんと電話が繋がった。
ボクは、自分が先日拒否したことを、取引条件に持ちだした。
「『爆炎レッド』さん、ボク、一度だけなら『お色気ピンク』になります。いっ、一度だけですからね。それ以上は、絶対にヤです。だから、ボクが一度だけ『お色気ピンク』になる代わりに、『魔動儀』を貸してください」
「どうして、僕らが『魔動儀』を持ってるって知ってる?」
「ボクが、『爆炎レッド』さんたちと、大陸縦断鉄道の特急蒸気機関車「煩悩号」に乗り合わせたあの日、『爆炎レッド』さんと『雷撃イエロー』さんで、『魔動儀』のことを話されていたじゃないですか。ボク、毛布にくるまって、眠ったふりしながら、耳をそばだてていたんですよ」
「呆れたな……。だが、僕らが発掘できた『魔動儀』は、ひとつだけだ。ひとつでは、『魔力振』の、だいたいの方向しか分からないぞ」
ボクは、學園入學後すぐに、『魔動儀』について調べてみたんだ。
『魔動儀』は、『御伽噺の時代』の物語『白雪姫と悪い魔女』において、白雪姫を救わんとする皇子が授かった『神器』だとされている。
魔女が悪行をなさんとするときに発せられる『魔力振』を検知する装置だ。
銅製甕の周囲八方向に、龍の造型物が突起している。
それぞれの龍は、口に水晶玉を含んでいる。
どこかで、『魔力振』が起こると、その方向にある龍の口から水晶玉が転落する。
水晶玉が落ちる先には、蟾蜍の造型がある。
龍の口から落ちた水晶玉は、蟾蜍の口に収まる仕組みだ。
『魔動儀』単体では、だいたいの『魔力振』発生方向が分かるだけだ。
実際の運用では、広範囲に『魔動儀』を複数配して、『魔力振』の発生場所を絞り込む。
ボクは、「ダイジョウブです。ひとつしかなくとも、やりようはあります。貸し出していただけませんか?」と、重ねてお願いする。
「やれやれ、科學が魔女を打ち倒すための神器を、こともあろうに、魔女を助けるために貸し出すはめになるとはな」
『爆炎レッド』さんは、了解こそしてくれたものの、内心、忸怩たる思いがあるようだった。
☆
ボクが考えついた『魔動儀』の利用方法はこうだ。
現時点において、最も高い魔力を有しているのは、ボクたち五人の『服飾に呪われた魔法少女』であろうというのが前提だ。
そして、捜索対象の綾女ちゃんは、魔力の高まる『体育服』を着用しっぱなしになっている。
残るボクたち四人が、魔力を抑えた状態で『魔動儀』を発動させると、その反応した方向に、綾女ちゃんがいる可能性が高い。
ここで問題となるのは、『魔動儀』が、大雑把に八方向しか指し示さないことだ。
指し示す方向に進むだけでは場所を絞り込めず、簡単には、綾女ちゃんの元へ辿り付けない。
なので、『魔動儀』の指し示す方向から敢えて横に動いて、三角測量の要領で位置を絞り込んでいく。
そのため、予め、地図と方位磁石も用意した。
移動に際しては、レンゲさんに転移してもらうしかない。
問題となるのは、レンゲさんが転移可能な先が、行ったことのある場所か、視認できる範囲内かに限定されることだ。
レンゲさんは転校してきたばかりで、學園の外にはほとんど行ったことがない。
そうなると、視認できる限界点への転移を繰り返すしかない。
従って、視認ができない、夜間の捜索は無理だ。
綾女ちゃんのことを考えると焦燥感に駆られるが、他に方法がない。
明日の夜明けを待って、捜索を開始することにした。
~~~ 薄荷ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~
■四月二六日 魔法學の実習 二回目の三日目
綾女ちゃんがアブナイ!
ボクたち魔法少女を怒らせたら、暴れちゃうぞ。