■四月二四日 魔法學の実習 二回目
♥♥♥服飾に呪われた魔法少女テレビシリーズ
♥♥♥第二話 運動部衣装魔法少女綾女ちゃんの激怒
オレは、菖蒲綾女
『運動部衣装魔法少女』なんだぜ。
今日は、陸上部の練習がある日だぜ。
オレは、『平服』のテニスウェアから、『体育服』に着替えて、『鹿鳴陸上競技場』のグラウンドへ向った。
鮮やかな若葉色をした陸上選手用のブラトップにレーシングブルマ姿だ。
素足に足袋を履いている。
今日の練習は、やけにハードだったぜ。
「綾女は、期待の新人だからな。九月の体育祭へ向けて、そして魔王との戦いに備えて、強くなってもらわなきゃならん」
陸上部キャプテンである召喚勇者の北斗拳斗様から、そう言い渡されて、オレだけ特別メニューだった。
最後には、クタクタに疲れて、全身の筋肉をピクピクさせながら、突っ伏してしまったぜ。
そしたら、召喚勇者様から、「腕のいいスポーツマッサージ師を呼んでいる。水泳部と兼任の、腕の良い女性のマッサージ師だから、安心して、筋肉を揉みほぐしてもらえ」と、指示された。
指示通り別室へ行く。
出迎えてくれたマッサージ師は、分厚いマスクを付けていて、判然としないけど、とても若い娘だ。
プロのマッサージ師じゃなく、この學園の學生なんじゃないかな。
マッサージベッドの横に、高ぶった精神を鎮める効果があるというアロマが焚かれていた。
マッサージ師は、ツボの名前を唱えながら、オレの全身を手際よく揉みほぐしていく。
百会、囟会、風池印堂、迎香、完骨、安眠、肩井、労宮、井穴、合谷、神門、少海、内関、膻中、丹田、失眠、湧泉。
心地よくって、血流が良くなり、心身が調和し、このまま、ストンと眠り込んでしまいそうだ。
「筋肉疲労が改善されるより先に、眠り込んじゃいそう……」と呟いたら、マッサージ師から、「どれも安眠のツボですからね」という答えが返ってきた。
オレは、「いや、筋肉疲労を取って欲しいだけで、こんなところで眠り込んじゃまずい……」と言いながら……眠り込んじまった……らしい。
長い夢を見ていた気がするぜ。
我が、菖蒲子爵家の、ご先祖様についての夢だ。
菖蒲子爵家は、武門の家柄なんだぜ。
三代に渡って、皇帝に仕えて、武功をあげてきた。
しかしながら、武芸バカで、人付き合いが苦手で、政治力がない。
だもんで、本来なら、侯爵位くらい得ていておかしくない武勲なんだけど、子爵位止まりなんだ。
☆
初代である曾祖父上の名は、菖蒲賭。
『寓話の時代』の大物語『源氏蛍と平家蛍の合戦』の登場人物だぜ。
『源氏蛍と平家蛍の合戦』では、皇太子の座をかけて、同學年の、源氏第一皇子と平家第二皇子が戦ったんだぜ。
賭は、大槍の技能を認められた、一代限りの騎士爵。
源氏第一皇子側で参戦していたんだ。
『源氏蛍と平家蛍の合戦』は、千曲川を挟んで、三年に及ぶ激戦となったんだぜ。
結局、両皇子の鹿鳴館學園卒業直前になっても決着がつかない。
当時の教皇と斎宮が、仲裁に入ったんだぜ。
その結果、千曲川の中央に扇の的を立てた舟を流し、先に、扇の的を射貫いた側の皇子が、皇太子の座を得ることとなった。
両軍の弓の名手が、次々と弓を射るが、当たらない。
千曲川は、千箇所に渡って曲がりくねってて、水流が安定しないんだぜ。
このままでは埒があかないとイラついた曾祖父上の賭が、自身の大槍を投げ、見事に射貫いてみせた。
って、言っただけでは、説明が足りてない気がするから、捕捉させてくれ。
大槍ってのは、長さも重量もある、持って戦うための武器だ。
投擲槍とは全く異なり、そもそも投げるようなものじゃない。
賭は、あろうことか、そんな大槍を投げた。
しかも、荒波に揺れる、小さな扇に命中させた。
賭は、この武勲により、男爵位を陞爵し、子孫へと爵位を渡すことが可能となった。
學園陸上部の創設メンバーの一人でもあり、槍投げの花形選手として活躍した。
☆
二代目である祖父上の名は、菖蒲投。
『ロマンスの時代』の大物語『好きよキャプテン』の登場人物だ。
皇太子の座をかけて、庭球部キャプテンの源氏第一皇子と、陸上部キャプテンの平家第二皇子が戦ったんだ。
投は、平家第二皇子の側近で、陸上部のホープでもあった。
投は、菖蒲流大槍術二代目を自称してたんだぜ。
「うちの奥義は、『大槍投げ』なんだぜ」と、自ら吹聴してまわっていた。
そのせいで、友人たちからは、いつも笑われてたそうだぜ。
「そもそも『奥義』って、吹聴するもんじゃないぞ」
「大槍使いが、一本しかない自らの得物を、戦場で投げてしまったら、その後、どうやって戦うんだよ。投擲槍じゃないんだぞ」って――。
その年の九月、鹿鳴館學園の定例行事である体育祭は、庭球部と陸上部による、血で血を洗う『源平合戦』となったんだぜ。
大乱闘の最中、源氏第一皇子側近の庭球部副キャプテンが、テニスラケットを振りかぶり、平家第二皇子を襲った。
競技出場のため、側近の多くが競技フィールドに出ていて、警護が手薄になったタイミングだった。
平家第二皇子は、警護担当者数人と、観客席にいた。
不意をつかれて、その警護担当者が瞬殺されたことから、平家第二皇子は、もはやこれまでと覚悟を決めた。
その時、離れた、競技フィールドにいた投が、「ちぇすと!」と叫び、己の大槍を、観客席へ向って投擲した。
その大槍は、見事に、庭球部副キャプテンの身体を貫き、第二皇子を救った。
しかしながら、大乱闘の最中に、得物を失ったことにより、投自身は、壮絶な戦死を遂げたんだぜ。
『好きよキャプテン』の『大物語』は、平家第二皇子の勝利で終わった。
第二皇子は、皇太子の座を獲得した。
皇太子は、投を悼み、菖蒲家の陞爵を皇帝に進言したが、政争に阻まれてしまった。
皇太子は、陞爵のかわりにと、菖蒲家に、国宝となっていたグングニルを贈ってくれた。
グングニルって、投げると手元に戻ってくる、神槍なんだぜ。
スゴイだろ。
☆
三代目が、オレの父上で、菖蒲決。
父上は、十四年前の『大物語』、『鉤の鉤爪』における活躍で有名なんだぜ。
主人公の鉤船長は、『義賊』ロールのひとつである、『海賊』だったんだぜ。
『義賊』は、あまたの過去の物語において、英雄だった。
ところが、近年では、非道な犯罪人のごとく扱われている。
その背景には、中央集権化を進める皇族の意向があった。
鉤船長は、『義賊軍』を取り纏め、その復権のため、皇帝に戦いを挑んだ。
決は、皇帝による鉤討伐軍に加わっていたんだぜ。
最終決戦は、カストリ皇國最東端の街、アヤトリ市沖での海戦となったんだぜ。
鉤船長は、敵味方のポンポン船を、ポンポン跳び移りながら戦うことで有名だった。
掌につけた手甲鉤を舷に引っかけて、船から船へと渡っていくんだ。
決は、鉤船長を追って、家宝の槍、グングニルを投げた。
鉤船長は、身軽にこれを避けて、次の船へと飛び移る。
手元に戻ってきたグングニルを再度投げる。
今度は、手甲鉤で弾いて、次の船へと飛び移る。
決は、グングニルを投げ続け、鉤は、船を跳び移り続けた。
ところが、鉤船長は、七艘目の『河童水軍』の船で、何かに足を取られた。
それは、カッパのロゴで有名なカップ酒の、空き瓶だった。
『河童水軍』の海賊たちは、カップ酒をあおりながら戦うものだから、その船内は、放り捨てられた空き瓶だらけだったんだ。
空き瓶に足を取られて転倒した鉤船長の身体を、決の八投目が貫いた。
それでも鉤船長は、「こなくそっ!」と身を起こし、どうにか八艘目の『金平水軍』の船へと跳び移ったものの……そこで力尽きたんだぜ。
菖蒲家は、決のこの活躍で、子爵位を陞爵したんだ。
~~~ 薄荷ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~
■四月二五日 魔法學の実習 二回目の二日目
綾女ちゃんが、誘拐されちゃった!
もしかしたら、いまごろ、あんなこととか、こんなこととか、されちゃって……。
あ、あ、あ、綾女ちゃんを捜さなきゃ!
綾女ちゃん救出のためなら、ボク、イケナイことだって、やっちゃうよ。