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■四月二三日 水泳部からの連絡

 朝早くから、『スクール水着魔女っ子』の金平(こんぺい)糖菓(とうか)ちゃんが、學生寮のボク――儚内(はかない)薄荷(はっか)――の部屋まで、やってきた。


 糖菓(とうか)ちゃんは、深刻な表情で、挨拶の声も沈んでいる。


 ボクは、部屋に招き入れて、いたわりの言葉をかけた。

 「糖菓(とうか)ちゃん、大丈夫? 四月十三日の『服飾に呪われた魔法少女テレビシリーズ放送直前緊急特番 第(ゼロ)話 スクール水着魔女っ子は、誰のもの?』では、トラウマを抉られて、晒されて、辛かったよね。ボクも、四月十七日の『服飾に呪われた魔法少女テレビシリーズ 第一話 セーラー服魔法少女薄荷(はっか)ちゃん登場』で、同じ思いをしたから、分かるよ。ボク、実は四日も部屋に閉じこもってて、やっと、昨日から外に出れるようになったんだ」


 「うちは、一週間、外に出れんかった。」

 糖菓(とうか)ちゃんは、力なく笑ってから、おもむろに、用件を切り出してきた。


 「うち、薄荷(はっか)ちゃんに、相談と、お願いがあるん。あんな、四月十三日の事件のとき、うちを攫った水泳部の人らが、うちに会うて、直接お詫びを言いたいって、電話してきたん。うち、いまは『金平(こんぺい)』って名字やけど、これ実は親戚のなんよ。ホントの名字は、『金平(かねひら)』っていうん。うちの実家な、『金平(かねひら)水軍』っていう、それなりに有名な海賊やったん。けどな、『河童(かっぱ)水軍』ってとことの抗争で潰されてん。でな、うちを最初に攫った水泳部が『金平(かねひら)水軍』の残党で、横やりを入れてきた水球部が『河童(かっぱ)水軍』の手の者だったん。水泳部は、水球部から、うちを護ろうとして、あんなことしでかしたんやて。でもな、うちな、会いたいって言ってきた、水泳部の人らに、怖くて一人では、よう会えん。『呪われた服飾』仲間を連れて、五人で会いに行ってええか、って訊ねたん。そしたらな、貴族には、聞かせられん話しをせなならんから、同じ平民の儚内(はかない)薄荷(はっか)ちゃんだけを連れて来てくれって」


 「う~ん。その話しだけだと、罠にしか聞こえないんだけど――。糖菓(とうか)ちゃんとボクが、のこのこ出かけてったら、拉致されて、好き放題されて、殺されちゃうんじゃないかな」


 「やっぱり、薄荷(はっか)ちゃんも、そう思うん。うちも、や。せやからな、水泳部の連中に、言ってやったん。『自分を攫った奴らを、スミマセンの一言で、信じられるわけないやん。うちに話しがあるんやったら、信じるにあたいするもんを、差し出してからにしてんか。それができんなら、これきりや』、て」


 話しの内容は深刻なのに、小さな拳を握り込んで、勢い込んで話す糖菓(とうか)ちゃんを見て、ボクは思わず「くふふっ」と、笑ってしまった。


 「なんで、笑ろうとるん。うちは、真剣にはなしてんのに――」

 糖菓(とうか)ちゃんは、頬をぷくっと膨らませて、怒ってしまった。


 「ごめん。ごめんなさい。でも、糖菓(とうか)ちゃん、ちょっとだけ聞いて。ボクね、昨日、用事があって、レンゲ(蓮華)さんと逢ってたんだ。そしたら、レンゲ(蓮華)さんが言うんだ。自分では気がついてないみたいだけど、ボクが、四月十七日の事件を経て、強くなったって。でね、今の糖菓(とうか)ちゃんを見てて、糖菓(とうか)ちゃんも、同じだなって。糖菓(とうか)ちゃんも、きっと自分では分からないだろうけど、四月十三日の事件を経て、芯が通ったっていうか、強くなってるよ。糖菓(とうか)ちゃん、ただカワイイだけじゃなくて、素敵になってるよ」


 糖菓(とうか)ちゃんの頬が、真っ赤になった。

 「そうかもしれん。あっ、素敵になったとかいうんやないんよ。確かにうち、変わったかもしれん。十人も殺したのに、自分も死にたいとかじゃなくて、また自分を殺しに来る人がおるなら、また十人でも、二十人でも、きっと、うちは殺すん」


 糖菓(とうか)ちゃんは、暫しの沈黙の後、動揺を隠すかのように、平然と話しを再開した。

 「そんでな、水泳部の人らが、うちに、二つのものを差し出してきたん。ひとつはこれなん」


 糖菓(とうか)ちゃんは、被っているバスタオルポンチョの内側に隠していたものを取り出した。

 それは、四本の鉄の爪を、輪っかで繋いだもので、掌より一回り大きい。


 「これな、手甲鉤(てっこうかぎ)って言うん。忍者が使う暗器なん。ここの輪っかに掌を通して、拳を握り込んだ状態で、グサッといくん。この手甲鉤(てっこうかぎ)、ここの、手首に宛がうところに『海賊皇』って銘があるやん。これな、伝説上の武器で、『(フック)の鉤爪』って別名があるん」


 ボクは、「あっ」と、声をあげた。

 四月八日に受けた物語學の授業で、宰相の萵苣(ちしゃ)博學(はくがく)先生が説明してくださったことを思い出したんだ。


 十四年前、第八六期生の物語が『(フック)の鉤爪』だ。

 前皇帝から現皇帝への政権移譲の中で、行き場を失った平民たちの怒りを、時の義賊や海賊たちが代弁する形で、大規模な反乱が起こった。

 先生は、「この事件をもって、義賊や海賊たちの時代は終わり、いまではただの犯罪者集団と化しておる」と仰っていた。


 「この『(フック)の鉤爪』があれば、今や、ただの犯罪者集団に落ちぶれつつある『海賊』が、誇り高きヒーローであった時代を取り戻せると言われてるん。これは、『(フック)船長』から、わが『金平(かねひら)水軍』が譲り受けて、隠し持っていたん。でそれを嗅ぎつけた『河童(かっぱ)水軍』が、二年前に、うちに、夜襲をかけてきたん。その夜襲で、うちの家族は捕らわれ、拷問のうえ殺されたん。でも、この『(フック)の鉤爪』は、見つけられず、行方不明のままだったん。この事件が、うちのトラウマなん」


 「うちな、『(フック)の鉤爪』を、小さいとき、見たことがあるん。せやから、分かる。これ、間違いなく本物なん」


 「小學校の入學式の前日、父上が、これを、どこかから持ってきて、うちに見せてくれたん。そんとき、父上は、なんでうちにこれを見せてくれたのか、何も説明してくれんかったん。でも、うちには分かった。父上は、翌日の入學式で、うちに『海賊』のロールを得てほしかったん。なのに、うちは、ロールこそ得たものの、『魔女っ子』やったん。そんときの、父上の顔が、忘れられん。娘がロールを得た悦びと、それが『海賊』でなかったことの落胆が、ない交ぜになった、なんとも言えん表情やったん」


 「うちな、これを出された以上、水泳部と会わなならん。会って問い詰めなならん」


 暫し沈黙したのち、糖菓(とうか)ちゃんが、再び話しはじめた。

 「そんで、水泳部が差し出してきた、もうひとつの品なんやけど、こっちは、うにちは、まるで心当たりのない品なん。ひょっとしたら、薄荷(はっか)ちゃんにかかわるものなんやないかと思うん。これ、なんやけど……」


 糖菓(とうか)ちゃんは、被っているバスタオルポンチョの内側から、また、ひとつ、ものを取り出した。


 それは、小さな木刀だった。

 ただの、子供用の、おもちゃの刀だ。

 その木刀の柄には、拙い文字で、『らっぱらった』と書かれている。


 ……ボク、これが何だか知ってる。


 白鼠小學校で、ロールを受けた、三人の友だちのひとり、喇叭(らっぱ)拉太(らった)くんの宝物だ。

 拉太(らった)くんは、腕白小僧で、海賊船に見立てたジャンルジムのてっぺんに登っては、この木刀を振りかざし、「海賊皇にオレはなる」と宣言していた。


 「これ、ボクの友だちのものだ。ボクが通ってた小學校では、同學年でロールを受けた者が三人いた。拉太(らった)くんは、その中の一人だ。だけど、今年の三月に発表された鹿鳴館學園への進學者リストには、ボク以外の名前が、無かったんだ」


 「どうやら、ボクにも、糖菓(とうか)ちゃんと一緒に水泳部の連中に会いにいかなきゃいけない理由が、できたみたい。水泳部とは、いつ会うの?」


「最初の電話では、怪盗義賊育成科棟まで、糖菓(とうか)ちゃんと二人で来て欲しいって言ってたん。なのに、この『(フック)の鉤爪』と、木刀を届けてきたあとの二回目の電話では、言い方が変わったん」


 「『他の物語に介入されました』なんて、意味不明なこと言うん。『近々、強制イベントで、お会いすることになりそうです。何とか話し合いに持ち込みますので、いきなり殺さないでください』って言って、電話が切れたん」


 「ホントに意味不明だね」と、ボクも首を傾げる。

 「だけど、拉太(らった)くんの木刀を差し出された以上、ボクは、それこそ、水泳部から拒否されたって、逆にこっちから、問い正しにいかなきゃいけない。それは、『(フック)の鉤爪』を差し出さされた糖菓(とうか)ちゃんも、一緒だよね」


 糖菓(とうか)ちゃんが、力強く頷く。

 「『強制イベント』って何のことか分からんけど、今は会えんというなら、どこかのタイミングで、水泳部を、問い詰めなならん。だから、うちから、薄荷(はっか)ちゃんへの、お願いは、こういうことなん。まず、近日、水泳部がらみの出来事が起こるだろうけど、敵対しても、いきなり殺さないで欲しいん。そして、うちと一緒に、水泳部の言い分を、聞いてやってほしいん」


 「うん、分かった。そうするよ」

 焦燥は感じるけど、物語がかかわるなら、その展開を待つしかないよね。

~~~ 薄荷(はっか)ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~

■四月二四日 魔法學の実習 二回目

綾女(あやめ)ちゃんなら、スポーツ万能だし、危ないことにならないよね。

えっ、フラグが立ったって、なんのこと?

……うん、そうだよね、綾女(あやめ)ちゃんって、ボクや糖菓(とうか)ちゃん以上に、何にも考えてなさそうなんだもん。

やっぱ、心配だよね。

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