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■三月三日 テレビニュース

 國営テレビによる全國放送で、来年度の皇立鹿鳴館學園入學者に関するニュースが流れた。


 十年ほど前から、白黒のブラウン管を用いたテレビ放送が開始されている。

 國の施策で、商店街や公共施設には、街角テレビが設置されている。

 裕福な家には、家庭用テレビが普及しはじめているが、ボクの家に、そんな高価なものはない。

 ここに書くニュース内容は、後追いで伝聞したものだ。


 ニュース内で、アナウンサーが、一万名に及ぶ入學者リストを、延々読み上げたそうだ。

 小學校の學区別に読み上げられたんだけど、数百名もの進學者を輩出している小學校もあれば、進學者が一人もいない小學校もある。

 そして、トリモチ地方リリアン市の白鼠學区からの進學者は、ボク――儚内(はかない)薄荷(はっか)――ただ一人だった。


 白鼠小學校の同學年には、ボクの他に二人のロール持ちがいた。

 だけど、同じ學区で、名前を読み上げられたのは、ボクだけだった。


 入學者リスト読み上げに続いて、『大物語』についての解説があった。

 『大』の文字がついているのは、その年度を象徴する物語、ひとつだけだ。

 學園では、大物語と並行して、いくつもの中小の物語が、同時進行している。


 他の物語と違って、大物語だけは、前年度一二月の神逢祭で、その名称が、御神託として降りる。

 来年度に三年生となる第九八期生の物語は、『勇者の召喚』。

 来年度に二年生となる第九九期生の物語は、『令嬢の転生』。

 そして、昨年十二月に御神託が降りた、来年度に一年生となる、ボクたち第一〇〇期生の大物語、『服飾の呪い』だ。


 昨年十二月の御神託は、異例のものだったそうだ。

 というのは、来年度の『服飾の呪い』に加えて、再来年度の大物語名まで、お告げがあったからだ。

再来年度の一年生である第一〇一期生の大物語は、『混沌の浸蝕』だそうだ。


 『大物語』の解説に続いて、新一年生のなかに、『服飾に呪われた』五人の生徒がいる、ということが発表された。

 テレビニュース内では、大物語『服飾の呪い』と、『服飾に呪われた』生徒五人の関係性については、何の説明もなかった。

 だけど、誰の目にも、その関係性は明らかだ。


 『服飾に呪われた』生徒五人の詳細は、今後の物語展開に合わせて、逐次、テレビ放送内で明らかになっていく予定だそうだ。


 だが、ここで、内一名の生徒についてだけ、個人情報と、その『呪われた服飾』が、次の通り公開された。


  その生徒の氏名は、魔法少女育成科の儚内(はかない)薄荷(はっか)

  呪われた服飾は、『セーラー服』である。

  この生徒は、今後の外出時において、男子でありながら『セーラー服』を着用せねばならない。

  カストリ皇國は、事態を慮り、この生徒のために、当該情報を先行公開する。

  『セーラー服』を着用したこの生徒を、揶揄、愚弄する行為は、断固として認められない。


 ボク本人が知らないうちに、國営テレビ放送により、ボクの個人情報が、全國公開されてしまった。

 しかも、徴兵検査時に撮影された顔写真つきだ。

 で、どうなったかというと、放送直後から、わが家の黒電話が鳴りっ放しになった。


 初めて名前を聞く親族からの電話。

 同じ小學校の出身者からの電話。

 就労実習先の関係者からの電話。

 さらには、どこで電話番号を知ったのか、赤の他人からの匿名電話まで――。

 それはもう、ひっきりなしに、電話がかかってきた。


 母は働きに出ており、家にはボクと、病床の妹しかいない。

 だから、ボクが電話に出るしかない。


 そして、さっき言ったように、ボクの家にはテレビがない。

 ボクは訳も分からないまま電話に出て、応対するはめになった。


 電話の多くは、ボクの最高學府進學を祝うものだった。

 トリモチ新聞社やカストリ雑誌社からの取材依頼もあった。

 取材やコメント依頼については、しどろもどろになりながらも、どうにか丁重にお断りした。


 匿名の電話では、「男のくせにセーラー服のヘンタイだ」などと、誹謗された。

 ボクが黙り込むと、露骨に「犯すぞ」とか、「ちょん切ってやる」とか、「殺すぞ」とか、「死ねばいいのに」とか脅された。


 電話機には、何処の誰からの電話だかを報せてくれるような機能はない。

 リリリリリンとベルを鳴らして、掛かってきたことを報せるばかり。

 受話器を取って、相手が名乗らないことには、誰からの電話か分からない。


 電話の向こうの相手は本名を名乗っているかどうかも分からないのに、ボクの方は逃げ隠れできないから、ヘタな対応もできない。

 ベルが鳴った段階で誰からの電話か分かれば、受話器を取らずに済むのに、と恨めしく思えた。


 ボクは、男だけど、与えられたトラウマのせいで泣き虫だ。

 泣き声になりながらも、律儀に電話に出続けていたら、やっと母が帰ってきた。


 母によれば、家のまわりは、押し寄せてきたヤジウマだらけだそうだ。

 ヤジウマたちは、セーラー服姿のボクをひと目見せろと、母に詰め寄ってきたそうだ。


 涙ぐんでいるボクと妹を見て、母は、鳴り続ける黒電話を引っ掴んだ。

 そして、電話線を、根元から、思いっきり、ブチッと引っこ抜いた。

~~~ 薄荷(はっか)ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~

■三月七日 セーラー服でお出かけ

ボクは、母に説得されて、セーラー服での外出を決意した。

この日は、めちゃくちゃ恥ずかしい体験をすることになっちゃった。

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