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■四月一三日 部活強要解禁日

 うち……。

 ちょ、ちょっと待って……うち、金平(こんぺい)糖菓(とうか)なんだけど……。

 この物語って、儚内(はかない)薄荷(はっか)ちゃんの一人称で語られてたはずなんよ。

 なして、いま、うちの視点なん?


 どしたら、いいん?

 そだ、水芭蕉の花を見に、ピクニックに行くんよ。

 もう、湿原行きの木炭車に乗る時刻なん。

 このまま、集合場所の、學生寮前に行って、みんなに相談するんよ。


 走るん、走るんよ。


 あそこ、乗用車型木炭車の横に、薄荷(はっか)ちゃんたち四人が……。

 明星(みょうじょう)様が、清女(きよめ)様から、ランチボックスと、木炭車のカギを受け取ってるん。


 ハア、ハア、息が、息がきれるん。

 「……おおい、みんな、たいへんなんよ」

 うちとしては、大声だしたつもりなん。

 でも、普段から小声だから、ぜんぜん声がとどか……。


 えっ、いきなり、うちの、横合いから、別の木炭車が……。

 こっちは、三輪トラックなん。

 はっ、跳ね飛ばされ……る、かと思ったん。


 こんなんで、跳ねられたら、うち、別世界に転生しちゃうん?

 それとも、ゾンビランドで復活しちゃうん?


 三輪トラックの荷台から、赤いジャージ姿の男子生徒が二人飛び降りてきたん。

 うち、逃げようとしたん。

 だけど、どんくさいから、すぐ、掴まってん。

 足をバタバタして抵抗たら、バスタオルポンチョが、脱げたん。

 うちはトラックの荷台へ放られ、バスタオルポンチョはトラックの下に落ちたん。

 バスタオルポンチョがないと、うちは、恥ずかしくて、声もよう出せん。


 三輪トラックの運転席にいた人が、車を急発進させたん。

 うちを掴まえた男子生徒二人も、慌てて荷台に跳び乗って来たん。


 うわっ、横合いから、ジープ型の木炭車が跳びだしてきたん。

 車体を横滑りさせて、ターン。

 この三輪トラックを、追ってくるん。

 ジープの車体には、『カストリ皇國國営テレビ』と書かれてるん。

 荷台には、テレビカメラが積まれてるん。


 うっ、うちの視界に、テロップが、割り込んできたん。


  ♥♥♥服飾に呪われた魔法少女

  ♥♥♥テレビシリーズ放送開始直前緊急特番 生放送

  ♥♥♥第(ゼロ)話 スクール水着魔女っ子は、誰のもの?


 こっ、これって、カストリ皇國中の人に見えてるん!


 薄荷(はっか)ちゃんたちが、テロップを見て、事態に気づいてくれたん。

 慌てて四人で、乗用車に跳び乗って、追跡してくるん。

 綾女あやめちゃんって、車の運転もできるんね。


 あっ、乗用車の後ろにも、『カストリ皇國國営テレビ』のジープがいるん。


 三輪トラックの荷台にいる男子生徒二人が、赤ジャージを脱ぎ捨てたん。

 ジャージの下の服装は、赤い海パン一丁。

 それも、競泳用ブーメランパンツ。

 そして、『鹿鳴館學園水泳部』と書かれた水泳帽と、水中眼鏡を装備。


 一人が、うちを、逃げれんよう掴まえる。

 もう一人が、メガホンを引っ掴んで、荷台に立ち上がったん。

 そして、大音声をあげたん。

 「スクール水着魔女っ子は、我ら水泳部が、いただいた! ロールを『マネージャー』に書き換えて、更衣室に、大切に拉致監禁する所存」


 「そんな暴挙、許せるか!」という声があがった。

 追ってきてる薄荷(はっか)ちゃんが、抗議してくれたん?

 って、思ったら、違ったん。


 十字路のところで、水泳部の三輪トラックと、魔法少女の乗用車の間に、バスが割り込んできたん。

 こっちは、青いブーメランパンツの人が、いっぱい乗ってるん。

 さっきの抗議は、バスの窓から、身を乗り出してる人の声だったん。

 その人、まだ、叫んでるん。

 「水泳部の好きにはさせん。スクール水着魔女っ子は、我ら水球部のものだ。水球部の『マスコット』として、プールで放し飼いにする所存だ。総員、投擲開始」


 バスの窓から、水球部員たちが、水球用のボールを、次々と投げてくるん。

 日頃訓練しているだけあって、スゴイ威力なん。


 意外なことに、水泳部の男子二人は、うちにボールが当たらないよう、身体を張って、護ってくれてるん。

 そして、覚悟を決めた目つきで、うちに、こう言ったん。

 「姫様、我ら水泳部は『金平(かねひら)水軍』の残党であります。そして、あれなる水球部は、にっくき『河童(かっぱ)水軍』の手の者たち。姫様の身が『河童(かっぱ)水軍』の手に落ちれば、我ら『金平(かねひら)水軍』の悲願は潰えます。我らが、姫様をお守りしようと浅慮に走ったあげく、このていたらく。糖菓(とうか)姫様には、申し開きのしようもございません。かくなくうえは、我ら、この身を挺しても、姫様だけはお護りする所存です」


 「や、やめて、うちに、あの日のトラウマを、思い出させんといて!」


 誰かが、絶叫してるん。

 あっ、絶叫してるの、うち、やん。

 うち、こんな大きな声、出せたんな。


 うちの脳裏を、封印していた記憶の断片が駆け巡る。


 ☆


 うちは、カストリ皇國最東端の街、アヤトリ市の出身なん。

 大陸横断鉄道の、東の終着駅。

 ポンポン船が行き交う港町。

 漁業、海運業、そして海賊の街。


 海賊って、『海の上で悪事を働く賊』ってだけじゃないんよ。

 皇國の國益のために、戦って、奪って、殺しているん。

 海軍みたいなものなん。


 だから、『金平(かねひら)水軍』を名乗り、アヤトリの街に、公然と邸宅を構えていたん。

 その邸宅は、要塞化されてて、うちは、そこで、一族郎党に囲まれて育ったん。


 うちは、平民ではあるけど、姫様と呼ばれて大切に育てられたん。

 六歳になって、『魔女っ子』のロールを得たときも、みんなが喜んでくれたん。

 「うちが、立派な魔法使いになって、金平(かねひら)水軍を護るん」って、胸を張ってたん。


 だけど、うち、自分が、海賊の追加ロールを得るのは無理だって、分かってたん。

 だって、だって、だって……うち、泳げないんよ。

 水が、怖いんよ。


 色々、試したけど、ダメだったん。


 そして、十四歳となった、あの日、あれが、トラウマイニシエーションが、うちをメチャクチャにした。


 あの日、うちの邸宅に、喇叭の音が響き渡ったん。

河童(かっぱ)水軍』が攻めてきたん。


 夜闇に紛れて、十隻もの海賊船が来襲し、砲撃され、接舷されたん。

 『河童(かっぱ)水軍』の狙いは、うちの一族に伝わる秘宝。

 海賊の間では、過去に鹿鳴館學園の物語となった、伝説の海賊『(フック)船長』の鉤爪が、我が『金平(かねひら)水軍』伝わってるって、言われてたん。

 その鉤爪があれば、今や、ただの犯罪者集団に落ちぶれつつある『海賊』が、誇り高きヒーローであった時代を取り戻せると言われてるん。


 うちが、泳げんかったために、家族全員が捕まったん。

 そして、うちの目の前で、一人づづ、拷問されて、殺されていったん。


 拷問は、水責めだったん。

 縄で縛られて逆さ吊りにされて、水の詰まった樽に、頭部を降ろされるん。

 溺れるかどうかのギリギリの瞬間に引き上げられるん。

 それが、本当に死ぬまで、繰り替えされるん。


 みんな、「『(フック)船長』の鉤爪なんて知らん。見たこともない」って言い張ったん。


 そして、うちの番がきたん。

 うち、逆さ吊りは「ヤだ」って、暴れたん。

 水責めは「ヤだ」って、泣き叫んだん。

 死ぬのは「ヤだ」って……たら……樽の中の水が……弾けて……爆発して……その後の記憶がないんよ。


 気がついたら、遠縁の親戚の家に匿われてたん。

 名字が、『金平(かねひら)』から『金平(こんぺい)』に変わっていてたん。


 ☆


 水球部のバスは、水泳部の三輪トラックより、馬力が大きいん。

 みるみる間に追いついてきて、併走し始めたん。


 水球のボールが、運転手を狙って、投げられ始めたん。

 窓ガラスが割れ、その破片とともに、数個のボールが、運転席に飛び込んだん。


 運転手が、とっさにボールから顔を庇い、ハンドル操作を誤ったん。

 それでなくとも、三輪トラックは、バランスが不安定なん。

 走っていた川沿いの道から、土手を転げ落ちたん。


 三輪トラックは、ひっくり返った状態で、川に落ちたん。

 『スクール水着』が、びしょびしょなん。


 あれっ、いつの間にか、着ていた『スクール水着』のデザインが変わってるん。

 あっ、同じ濃紺の水着だけど、『平服』から『体育服』に変わってるん。


 うちの『平服』は、股下がスパッツ風になっていて、スカートが付いてるタイプ。

 こっちの『体育服』は、スカートなんか付いてなくて、股間がパンツみたい切れ上がってて、前に水抜き穴が付いてる、いわゆる旧スク水なん。

 恥ずかしいから、これ、ゼッタイ着たくなかったのに……。


 恥ずかしいよ~っ。

 でも、恥ずかしさと一緒に、自分の中から、魔力が湧きあがってくる。


 バスから飛び降りた、水球部員たちが駆け寄ってくるん。

 「何としても『魔女っ子』を確保しろ!」

 「『鉤爪』の在処を、吐かせるんだ!」


 「ヤだ」、こっち来ないで。

 「ヤだ」、うち、『スクール水着』なんか着てるけど、泳げないんよ。

 「ヤだ」、うち、『スクール水着魔女っ子』なのに、水がコワイんよ。


 先頭を走ってきた水球部員が、うちにタックルしてきたんよ。

 そのまま、川の流れに押し倒されたん。

 ヤだ、息ができないんよ。


 うちは、必死で顔を水面から出して、「ヤだ!」って叫んだん。


 すると、うちを押し倒した水球部員が、もがき苦しみ始めたん。

 見ると、水が、その顔面に纏わり付いているん。


 慌てて、顔面の水を払おうとしてるけど、剥がれないん。

 水の球に手を突っ込むことはできるのに、剥がすことができないん。


 他の水球部員たちが、追いついてきたん。

 川に足を踏み入れ、うちに掴みかかってくるん。


 うちは、さっきの水球部員の様子を確かめることもせず、また、「ヤだ!」って叫んだん。

 そして、「ヤだ!」って、叫んだん。

 繰り返し、「ヤだ!」って、叫んだん。

 「ヤだ! ヤだ! ヤだ!」って、叫び続けたん。


 「ヤだ!」って、叫ぶたびに、うちの水着から、水滴が絞りだされ、水の粒々となって飛び散るん。

 水の粒々は、ペタペタと、水球部員たちの顔面に張り付いて膜となるん。

 そして、口や鼻から、肺へと入り込むん。

 水球部員たちは、もがき苦しんで、死んでいくん。


 うちには、分かるん。

 これって、水が恐い水使いであるうちが、最小限の水で、相手を水死させるための技なん。


 魔法少女らしからぬ、ほんとに地味な攻撃なん。

 水の球が撃ち出されたり、水の刃が切り裂いたりするような、派手さはぜんぜんないん。

 ただ、ただ、人が、のたうち回って死んでいくだけなん。


 気がついたら、乗用車から降りた、仲間の魔法少女たちが、駆けつけてくれてたん。

 薄荷(はっか)ちゃんが、うちを、ひしと抱きしめて、「ダイジョウブだから、もうダイジョウブだから」って、言ってるん。


 ☆


 水球部員たちは、二十人ほどいたんだけど、その半数は水死したって、後から、教えてもらったん。

 つまり、うちが、十人ほど殺したってことなん。

 あのとき、薄荷(はっか)ちゃんが、抱きしめてくれんかったら、うち、きっと全員殺してたん。


 水泳部員の三人は、無事だったん。

 「後日、姫様に直接お詫びと、事情説明をさせてください」と言い置いて帰ったらしいんよ。


 『服飾に呪われた魔法少女 テレビシリーズ放送直前緊急特番 生放送』は、タイトル通り、リアルタイムで中継されたん。

 ここ数年なかったほどの大反響だったんだって。

 過去の回想シーンも、うちちの脳内から映像を取り出して、そのまんま放映されたん。

 うちらには、プライバシーなんて、許されないんね。


 戦闘シーンも、ちゃんと放映されてたん。

 ただ、放送コードに引っかかるとかで、『うちが敵をやっつけた』とは分かっても『うちが敵を殺した』ことは分からないように編集されてたん。


 夕方のニュース番組にまで登場して、『朗報! 服飾に呪われた魔法少女に、二人目の魔法覚醒者誕生』とか報道されてたん。

 『朗報』って、なんなん。

 人を十人も殺した、うちのことを、『新ヒロイン誕生』みたく扱うのは、どうなんよ。


 學園における物語上の出来事であることが明らかなんで、水泳部も、水球部も、うちも、罪に問われることは一切ないん。

 でも、うち、大量殺人者なん。

 犯罪者扱いでないのは、ありがたいけど、社会的な常識と、この學園の常識との乖離が、ホント、コワいん。


 あと、許せないのは、翌朝の『カストリ新聞』なんよ。

 ニュース報道自体は、仕方ないんけど、『平服』と『体育服』のうちの写真を二枚並べて、水着の違いを、事細かに説明するのは、どうなん。

 旧スク水の、水抜き穴が決め手って、なんなん。

 ホント、やめて欲しいんよ。

~~~ 薄荷(はっか)ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~

■四月一四日 舞踏學の実習

ゴメンナサイ、ボク、認識不足でした。

ここって、皇立鹿鳴館學園デスカラネ。

さすがに、ダンスができないじゃ済まされませんよね。

それは、理解しました。

でも、ボク、ほんとうに踊れないんです。

それも、壊滅的に踊れないんです。


■この物語を読み進めていただいておりますことに感謝いたします。

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