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■三月二日 服飾の呪い

 翌日、『制服在中』と書かれた行李(こうり)が、小包便で届いた。

 皇立鹿鳴館學園の制服は、男子が學生服に學帽で、女子がセーラー服だ。

 どちらも落ち着きのある濃紺で、袖や襟に白いラインが入っている。


 學園の學生服は、白いプラスチック製カラーの嵌まった詰め襟が、キリリと精悍で、ボクたち男子の憧れだ。

 ボクは、魔法少女育成科だから、体育の服装は、イヤでも可愛らしいものになるのだろう。

 だけど、これでも男子なんだから、日常着用する制服だけは、当然、學生服に決まってる。


 期待感を持って、行李(こうり)を開ける。

 『呪の服飾着用者への厳命』と表書きされた封筒と、ピンクの布袋が三つ、入っていた。

 三つの布袋には、それぞれ、平服、体育服、道衣と刺繍されている。


 ――『呪の服飾』って、どういうこと?


 悪い予感がする。

 というか、悪い予感しかしない。

 少なくとも、こんなピンクの布袋に入ったものが、まともな制服であろうはずがない。


 ボクは、逡巡したのち、封筒を後回しにして、平服の布袋を手にとった。

 口紐がついた、大きな巾着袋だ。

 その紐を引いて、中身を取り出す。


 ケバケバしい蛍光ピンクの色彩が、目に飛び込んできた。

 攻撃的なまでに、どピンクの、『セーラー服』だった。


 學園の一般女生徒用の濃紺セーラー服とは、全く異なるデザインだ。

 それに、學園の制服は、男女ともに分厚い木綿のはず。

 なのに、このセーラー服の布地は、光沢のある、薄いシルクだ。


 此処彼処に、フリルやレースがあしらわれている。

 袖や襟のラインは、キラキラのピンクビーズだ。

 上着は半袖で、丈が極端に短い。

 こんなの着たら、腹部が露出してしまいそうだ。

 スカートなんて、もう、とんでもないミニ丈だ。

 そして、ピンクのローファーまで、セットになっている。


 「無理、絶対、ムリ」

 ボクは、声に出して叫んでいた。


 蓋をしたはずの記憶の奥底から、何かが這い上がってくる。

 それは、忌まわしい、トラウマイニシエーションの……。


 ボクは、グッと奥歯を噛みしめる。

 どうにかこうにか、這い上がってくる記憶を押し返し、再度、意識の奥底に封じ込める。


 残る二つの布袋――体育服と道衣――は、もはや、開ける勇気が出ない。


 ――いまは、ムリ。

   とてもじゃないけど、いまは、ムリ。


 『呪いの服飾着用者への厳命』と表書きされた封筒を開く。

 ごちゃごちゃと色々なことが書かれている中から、要点を拾い読む。


 ・皇立鹿鳴館學園のボクの學年は、大物語『服飾の呪い』の世代であること。

 ・ボクが、『服飾の呪い』を受けた、五人の生徒の一人であること。

 ・ボクが、この『呪われた服飾』を受け取ったときに、

  ボクのロールが、『魔法少女』から

  『セーラー服魔法少女』に更新されること。

 ・外出時には、『呪われた服飾』――ボクの場合は、

  この三種のセーラー服――以外、着用してはならないこと。

 ・『呪われた服飾』は、着用者の魔力を吸収し、汚損は自動修復されること。

 ・以上の制約期間は、呪い服飾を受け取って以降、

  卒業もしくは、生死を問わず退學するまでとなること。


 ――ヤ、ヤバイ。

   なにがなんだか分かんないけど、とにかくヤバイ。


 『呪われた服飾』って、なんなの?

 呪いの詳細説明が、一切ないんですけど……。


 外出時に『呪われた服飾』を着用してなかったら、どうなるの?

 『呪い』っていうくらいだから、厄災がふりかかるんだろうけど、その説明もないんですけど……。

 この書き方じゃ、禁を破ったら、いきなり、死んじゃってもおかしくないよね。


 だいたい、『外出時』って、アバウト過ぎるんですけど!

 あっ、これについては、小さな字で、添え書きがある。

 ・自宅の建屋から出ることを外出とする。

 ・宿泊施設や、學園学生寮については、自室、及び付随する入浴施設を、自宅の範疇とみなす。


 よくよく考えたら、『服飾の呪い』自体もヤバイけど、他にもヤバイことがある。

 それは、學園におけるボクの立ち位置だ。


 だって、學年全体の物語が『服飾の呪い』で、ボクは、『服飾の呪い』を受けた、五人の生徒の一人ってことだよ。

 ボク、物語の要になる立場だってことだよね。


 學園での三年間を、無事に生き延びられる可能性は、皆無な気がしてきた。

 物語の発端となる入學式で、いきなり呪い殺されたって、おかしくないよね。


 昨日と同様、生徒徽章に手をかざしてみた。


  皇立鹿鳴館學園 魔法少女育成科 一年

  儚内(はかない)薄荷(はっか) 男の娘

  ロール:セーラー服魔法少女


 ロールが、小學校入學時に与えられた『魔法少女』から、『セーラー服魔法少女』に変化している。

 それだけでも、とんでもないのに、性別まで、『男』から『男の娘』に変化している。


 ――『男の娘』って、性別じゃないよね!


 それに、ボクは、あくまで男だ。

 お國から不本意に、女装を強要されようとしているだけだ。

 この先、どんなに間違っても、自ら『男の娘』を名乗ったりはしない……と思う。


 ――ムリだって………………。


 ボクは、頭を抱えて、へたり込んだ。

~~~ 薄荷(はっか)ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~

■三月三日 テレビニュース

國営テレビの全國放送で、皇立鹿鳴館學園入學者に関するニュースが流れた。

ボクの個人情報と、その服飾の呪いが、全國へ晒されちゃった。

そのせいで、大変なことに……。

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